人膵B細胞において, 基礎状態より, さらに, マイナス方向への分泌調節機構が存在するか否か, また, かりにこのような機構が存在した場合, 糖尿病においてこの機構がいかに障害されているかを明らかにする目的で以下の実験を行った.
正常者, 糖尿病患者それぞれ19名を対象に選び, それらに早朝空腹時actrapid insulinを静注前および注射後各時点における血糖および血中C-peptide immunoreactivity (CPR) の変動を観察した. インスリン投与量は正常者には0.1U/kgを, また糖尿病患者にはFBS 150mg/100m
l以下0.2U/kg, それ以上0.3U/kgとした. 両群とも肥満者は対象より除外した.
正常群, 糖尿病群ともインスリン投与10分後, 既に血中CPRは減少し, それぞれ前値に対し79.6%, 86.4%となった. その後も血中CPRは低下し続け, 正常群では90分に糖尿病群では実験終了時の120分に最低となった.
一方, 血糖値は正常群で20分に前値の34.4%, 糖尿病群で45分に29.7%と最低に達し, 以後上昇した. 糖尿病群の血中CPR減少率はインスリン負荷後45分間正常群に比し明らかに低値であった. ただ, 血糖値の減少率も前者がやゝ僅少であった.
以上の成績より, インスリン投与により膵B細胞の分泌機能が抑制されることが明らかとなり, さらに糖尿病においてかかる抑制機構に障害のあることが示唆された. 本機構の発現機序, 生理的意義についても若干の考察を加える.
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