有機水銀化合物, ヨード酢酸アミドなどが膵B細胞膜上のSH基と反応してglucose刺激に際して, インスリン分泌増大を惹起する. D-, L-methionine methyl sulfonium chloride (MMSC) がinvivo, in vitr. においてSH基反応性のアルキル化剤としての機能をもちうるか否かについて検討し, あわせて尿素, エチレン尿素, ニコチン酸アミドの作用について, ラット膵灌流法をもちいて検討した.
200mg/mlのMMSC溶液0.2mlをマウスに静脈注射した後, 24時間飽食群, 絶食群のマウスの血糖値には対照に比しいずれも高値を示し, 耐糖能の低下を認めた. ラットに9体重あたりMMSC2mgを静脈注射した際にも, 血糖値, インスリン値の一時的上昇がみられた.
ラット膵灌流により, 10mMMMSCは16.7mMglucoseの併用刺激で一過性のインスリン分泌増大を惹起し, また10mMMMSC前灌流により, 16.7mMglucose刺激によるインスリン分泌は抑制された. 10mM MMSC前灌流後, 20mM尿素, エチレン尿素の灌流により, 16.7mMglucose刺激によるインスリン分泌の回復がみられ, また10mMMMSC+20mMニコチン酸アミドの前灌流後の16.7mM glucose刺激によるインスリン分泌の初期相よりみて, ニコチソ酸アミドの防禦的効果などがみられた. さらに, P-chloromercuric benzenesulfonic acidは10mM MMSCにより前灌流した膵に対してインスリン分泌増大効果を示した.
以上より, MMSCは膵B細胞膜にSH基に反応するアルキル化試薬の性質をもち, 尿素などのインスリン分泌回復効果もまた, SH基のインスリン分泌への関与を示唆している.
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