症例は58歳,男性.40歳時に2型糖尿病と診断され食事療法と経口血糖降下剤にて加療開始.2002年9月,血糖コントロール不良のためイソフェンインスリンを開始.2003年2月頃よりインスリン注射部位に発赤,掻痒感を認めたため,インスリンリスプロへ変更し皮膚症状は軽快.冠動脈造影にて2枝病変を認め3月CABGを施行.術後にジゴキシン,クエン酸第一鉄ナトリウム,アスピリン,フロセミド,スピロノラクトンの投与を開始された.7月下旬より急に全身浮腫が出現し増悪したためフロセミドを増量したが,掻痒感を伴う紅色皮疹が全身に出現したため当科紹介入院.この時点で,浸潤のある紅斑,丘疹が全身に散在,融合しており,下腿と前腕に硬性浮腫,右胸水,少量の腹水を認めた.末梢血中好酸球1,716/μ
l, IgE 345 U/m
lと増加していたため薬剤アレルギーを疑い,入院時点でインスリンリスプロのみ継続としその他の薬剤を中止したが,好酸球増多と硬性浮腫,胸水は全く改善しなかった.8月15日よりインスリンリスプロをインスリンアスパルトに変更したところ,好酸球は急速に低下し(8/25 576/μ
l, 9/1 456/μ
l), 硬性浮腫,胸水は改善,8月29日よりアゾセミド60 mg投与開始にてさらに改善傾向を示した.ヒト中性インスリン,インスリンリスプロ,インスリンアスパルトについてDLSTを行い,インスリンリスプロのみが陽性反応を示したことから,本例はインスリンリスプロに対するアレルギーにより好酸球増多,硬性浮腫,胸水をきたしたと考えられたが,硬性浮腫,胸水については心不全の関与も考えられた.インスリンアナログによるインスリンアレルギーの報告は少なく,そのなかでも胸水まできたした重症例の報告はなく,稀な症例と考え報告する.
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