症例は62歳,男性.2型糖尿病で,経口糖尿病薬とインスリン グラルギン4単位/日を投与され,HbA1c 6.4 %(NGSP値)とコントロールは良好であった.入院1週間前より食欲不振,行動異常が出現し,誤ってインスリン グラルギン260単位の過量注射を行い,昏睡状態で搬送された.来院時検査で低血糖(PG:15 mg/d
l)と低浸透圧血症(241 mOsm/kgH2O)を伴う低ナトリウム血症(Na:118.7 mEq/
l)を認めた.血中インスリン濃度は,経時的に測定し,搬入32時間後にピーク(167
μU/m
l)を認め,低血糖は約42時間遷延した.総ブドウ糖投与量は1,695 gであった.低血糖および低Na血症補正後,嚥下障害,構音障害,左下肢の軽度不全麻痺が出現した.責任病変は脳幹が疑われたが,頭部MRAで右中大脳動脈狭窄があるもののDWIでは異常を認めなかった.当院入院中に症状は徐々に改善し,近医退院時には後遺症は認めなかった.インスリン グラルギンの過量投与による重篤な遷延性低血糖に,一過性の浸透圧性脱随症候群様症状を合併した症例を経験したので文献的考察も含めて報告する.
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