糖尿病
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55 巻, 4 号
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原著
病態・代謝異常・合併症
  • 原口 愛, 藤島 圭一郎, 松本 一成
    2012 年 55 巻 4 号 p. 237-242
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    2型糖尿病において,微量アルブミン尿と慢性腎臓病(CKD)はいずれも心血管病の危険因子と考えられている.また,総頸動脈の内膜中膜複合体(IMT)肥厚は動脈硬化の代用マーカーとして広く用いられている.我々は蛋白尿陰性の261例2型糖尿病患者の頸動脈エコーを施行し,IMTとプラークを用いて2型糖尿病患者における頸動脈硬化を測定した.そして,推定糸球体濾過量(eGFR)・微量アルブミン尿との関連について検討した.平均IMT値は腎症なし群0.95±0.18 mm,早期腎症群1.08±0.20 mmで,早期腎症群で有意に肥厚していた(p<0.01).またeGFR低下あり群(eGFR<60 ml/min/1.73 m2)のIMT(1.04±0.21 mm)は,eGFR低下なし群(eGFR≥60 ml/min/1.73 m2)のIMT(0.98±0.19 mm)と比して有意に肥厚していた(p<0.05).一方,プラーク存在率も早期腎症群で有意に高く65.9 %だった.eGFRについては低下あり群で60.4 %と有意に高かった.腎症ステージとeGFRの関連について検討すると,IMT値については早期腎症且つeGFR低下なし群で1.08±0.17 mmと最も肥厚していたが,アルブミン尿とeGFRには交互作用を認めた.一方,プラーク存在率は早期腎症且つeGFR低下あり群で78.9 %と最も高かった.平均IMT値を説明変数として重回帰分析を行った結果,年齢と微量アルブミン尿が有意に寄与していた.また,プラーク存在率に関しては,多重ロジスティック分析の結果,年齢,LDL-C, TG,微量アルブミン尿が独立した危険因子だった.以上のことから,IMT肥厚もプラーク存在率もアルブミン尿が存在する程高度であり,またeGFR低下とは交互作用を認めた.
  • 田中 正巳, 伊藤 裕
    2012 年 55 巻 4 号 p. 243-248
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    糖尿病患者における血清総ビリルビン(TB)濃度と血管障害との関連について検討した.血糖管理目的で入院した2型糖尿病患者171人(平均年齢63.2歳)のTB濃度を測定し,糖尿病性細小血管障害および大血管障害の有無で比較した.また目的変数として血清TB濃度を用い,重回帰分析を行った.さらに目的変数として細小血管あるいは大血管障害の有無を用い,ロジスティック回帰分析を行った.TBは網膜症,腎症,脳卒中,閉塞性動脈硬化症を有する症例では,合併しない症例と比べ低値であり,細小血管障害,大血管障害がTBの有意な説明変数であった.また細小血管障害発症の有意な説明変数としてTB,性,糖尿病罹病期間,収縮期血圧,喫煙が,一方,大血管障害発症の説明変数としてTBのみが選択された.TBと血管障害の間に関連がある可能性,そして高TB血症が2型糖尿病患者の細小血管,大血管障害に対し保護的に作用する可能性が示唆された.
  • 藤原 豊, 堀川 敬, 本多 敏朗
    2012 年 55 巻 4 号 p. 249-257
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    日本人2型糖尿病患者を対象に膵β細胞機能の12ヶ月間の変化と影響因子を検討した.著しい高血糖からの離脱例,高度肥満例,進行した肝障害,腎障害,インクレチン使用例,インスリンと経口血糖降下薬併用例を除外し,血糖コントロールが3ヶ月以上良好で安定している症例205名を対象とした.膵β細胞機能はグルカゴン負荷試験のCペプチドの6分間の反応量(ΔCPR)で評価した.検討する臨床指標は,年齢,性別,糖尿病罹病期間,糖尿病網膜症,高血圧,尿アルブミン,HbA1c,血清脂質を用いた.観察開始時(ベースライン)での横断的検討では,糖尿病罹病期間はΔCPRと有意(r=0.357, p<0.001)な負の相関を示した.ステップワイズ法による重回帰分析の結果,臨床指標の中で糖尿病罹病期間はΔCPRを予測する主な独立変数(F=16.951)であった.全対象例の12ヶ月間の縦断的検討で,ΔCPRは有意(p<0.001)に低下した.これらを治療法別に検討すると,非薬物療法群(39名)と経口血糖降下薬群(134名)のΔCPRはそれぞれ有意(p<0.05, p<0.001)に低下したが,インスリン治療群(32名)のΔCPRは有意な変化は認めなかった.経口血糖降下薬群での投薬内容に関するサブ解析で,ΔCPRの低下にインスリン分泌促進系経口血糖降下薬,特にスルホニル尿素薬の関与が強く示唆された.日本人2型糖尿病における膵β細胞のインスリン分泌能の経年変化には,高血糖曝露による自然史的影響ばかりでなく,種々の治療方法の影響が関与していることが示唆された.
症例報告
  • 櫨川 岩穂, 愛甲 啓, 石松 順嗣
    2012 年 55 巻 4 号 p. 258-263
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は24歳,初妊婦.身長161 cm,妊娠前体重70 kg(BMI 27.0).妊娠23週4日の75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で妊娠糖尿病(GDM)と診断され,26週5日に前医入院.切迫早産もみられたため同日塩酸リトドリンが開始され,3日後インスリンが開始された.切迫早産が改善せず29週0日に当院転院.転院後ベタメタゾン12 mg/日を2回筋注し,硫酸マグネシウムと塩酸リトドリンを併用開始,それぞれ2 g/時で36週1日まで,および200 μg/分で37週0日まで継続した.インスリン投与量は転院時70単位/日であったが,35週0日には最大203単位/日に達した.36週0日頃より減少し始め,塩酸リトドリン中止後は178単位/日から20単位/日へと著しく減少した.38週2日に2714 gの健常男児を経膣分娩し,インスリンは不要となった.分娩37日後の75 g OGTTでは正常型であった.本例はGDMであっても切迫早産治療中に約200単位のインスリンが必要となる症例があることを示しており,十分な注意が必要である.
  • 畑崎 聖弘, 下川原 立雄, 酒井 保葉, 藤田 洋平, 片岡 隆太郎, 藤木 典隆, 狭間 洋至, 橋本 宏之, 馬屋原 豊
    2012 年 55 巻 4 号 p. 264-268
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    細菌性動脈瘤は臨床上比較的稀であるが,致死率が高く注意を要する.今回,低血糖で入院後に髄膜炎を発症し,引き続き細菌性脳動脈瘤の破裂をきたした1例を経験したので報告する.症例は78歳の男性,2型糖尿病,高血圧,脳梗塞,前立腺癌などに対し加療されていたが,食思不振による遷延性低血糖のため緊急入院となった.第10病日に発熱・膿尿を認めたため抗生剤治療を開始するも解熱せず,第17病日に項部硬直および髄液検査で多核球優位の細胞数増加を認めたため,細菌性髄膜炎と診断し治療を続行した.第20病日朝に突然呼吸が停止し,頭部CT検査にて急性くも膜下出血を認め緊急開頭動脈瘤clipping術を行い,手術所見より細菌性動脈瘤の破裂と診断した.本症例のようなcompromised hostでかつ血管壁が脆弱している糖尿病患者では髄膜炎を発症した場合に,細菌性脳動脈瘤の合併を考慮する必要があると考えられた.
  • 佐藤 大介, 井田 昌吾, 本田 亘, 前川 聡, 中村 高秋
    2012 年 55 巻 4 号 p. 269-273
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.3年前に糖尿病を指摘され内服治療開始となったが清涼飲料水の過剰摂取が目立ち受診も中断していた.受診中断直後より突然の腹痛,嘔気,食欲不振が出現し,右大腿から下腿にかけて激しい疼痛を認め救急搬送されDKA(糖尿病ケトアシドーシス;以下DKAと略す)及び大腿四頭筋梗塞(以下DMIと略す)と診断した.本患者は下腸管膜動脈直下より腹部大動脈は閉塞しており,典型的なLeriche症候群を合併しており側副血行路のみで下肢の血流が保たれていた.その状況下にDKAによる脱水症が合併し,下肢筋梗塞が発症したと考えられた.患者は糖尿病合併症を認めず,頸動脈肥厚や冠動脈狭窄所見も認めなかった.本疾患はMRIやCT画像検査によりDMIやLeriche症候群が比較的容易に診断可能なことから,今後は症例数も増加することが推測され糖尿病患者の足病変の一つとして臨床で遭遇する疾患と考えられた.
  • 坂頭 節哉, 大谷 晴久, 濱西 徹, 土井 拓哉, 村田 有子, 英 肇
    2012 年 55 巻 4 号 p. 274-279
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は50歳の女性.2007年6月に劇症1型糖尿病を発症したが,強化インスリン療法で良好な血糖コントロールを得ていた.通院中の尿蛋白は陰性であったが,2009年1月に下肢浮腫と5 kgの体重増加が出現した.血液・尿化学検査よりネフローゼ症候群を診断し,腎生検にて組織学的にIgA腎症と診断した.しかし,この後2ヶ月の経過で,浮腫および低蛋白血症・高脂血症は急速に自然軽減した.また,テルミサルタンを投与し浮腫の消失,尿蛋白・血清蛋白・脂質の更なる改善を認めた.この半年後に扁桃摘出術を施行し,現在IgA腎症の活動性は寛解状態にある.劇症1型糖尿病発症後にIgA腎症を発症した症例の報告はこれまでなく,また発症から約3ヵ月間で急速に症候が自然軽減するという興味深い経過を観察した.両疾患の発症様式にはいくつかの共通性が示唆され,各々の発症要因を検討する上で重要な症例であると考えられる.
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