糖尿病
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60 巻, 12 号
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原著
疫学
  • 入江 陽子, 片岡 隆太郎, 大楠 崇浩, 白木 梓, 竹本 有里, 秦 誠倫, 藤井 浩平, 永田 慎平, 安田 哲行
    2017 年 60 巻 12 号 p. 783-790
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    薬物療法中の糖尿病患者を対象に,ポリファーマシーの実態および週1回の経口血糖降下薬を希望する患者の背景因子を調査した.520例中(年齢67±11歳,HbA1c7.0±0.8 %,糖尿病罹病期間14±9年)79 %がポリファーマシーに該当し,年齢(OR 1.03),糖尿病罹病期間(OR 1.05),HbA1c(OR 1.63),高血圧合併(OR 10.25),通院診療科数(OR 1.93)がポリファーマシーの独立した関連因子として抽出された.経口血糖降下薬のうち,週1回製剤への変更を22 %が「大いに希望する」,51 %が「希望する」,28 %が「希望しない」と回答.希望する群は希望しない群と比較し有意に年齢が若く,男性が多く,糖尿病治療薬の種類が多かった.本検討から糖尿病患者ではポリファーマシー率が高く,週1回製剤の希望者は少なくはなく,その特徴として若年,男性,糖尿病治療薬数が多いことが示された.

診断・治療(食事・運動・薬物)
  • 太田 充, 森田 聖, 北本 友佳, 山藤 知宏, 福島 光夫, 安田 浩一朗
    2017 年 60 巻 12 号 p. 791-799
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    インスリンデグルデクは1日1回の投与で安定した血糖降下作用を示す.我々はインスリン加療中の糖尿病患者84名を対象に,従来薬からデグルデクへの変更群(D群)と従来薬継続群(C群)で治療効果とQOLの検討を行った.投与開始24週後に,D群においてHbA1cは有意な低下を示しており(p=0.03),その傾向は特に頻回注射療法の患者で顕著であった.QOLの検討にはDTSQ(糖尿病治療満足度質問表)を用いた.投与24週後の満足度と利便性の評価スコア総計は,D群で有意に上昇し(p=0.03),それぞれで検討すると,満足度の評価スコアがD群で有意に上昇していた(p=0.03).本検討で,デグルデクの使用は治療効果だけでなく患者の治療に対するQOLの向上に寄与することが示唆された.

症例報告
  • 橋本 瑛理子, 永井 義夫, 佐々木 要輔, 石井 聡, 浅井 志高, 加藤 浩之, 田中 逸
    2017 年 60 巻 12 号 p. 800-805
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    劇症1型糖尿病は膵β細胞の急激な破壊により,数日でケトアシドーシスに至る.本疾患と診断される3週間前に偶然採血の機会があり,すでに空腹時血糖183 mg/dLであった症例を経験した.63歳の男性が口渇,多尿を自覚し,約10日後には全身倦怠感が出現した.初診時,随時血糖651 mg/dL,尿ケトン3+,pH 7.11であり,糖尿病ケトアシドーシスの診断で入院した.男性は毎年健康診断を受診していたが,高血糖を指摘されたことはなかった.補液とインスリン持続静脈内注射で全身状態は速やかに改善した.血中・尿中CPRおよびグルカゴン負荷試験でインスリン分泌は枯渇していた.本例は症状発現からケトアシドーシスに至るまで2週間要したが,劇症1型糖尿病の診断基準を満たしていた.これまで自覚症状出現前にすでに高血糖が存在したことをとらえた報告はなく,劇症1型糖尿病の多様性を考える上で示唆に富む症例である.

  • 田中 督記, 小林 有紗, 浅川 雅博, 秋久 桃子, 三宅 敦子, 川村 光信, 小川 佳宏
    2017 年 60 巻 12 号 p. 806-812
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳女性.75歳時に糖尿病と診断された.当初は経口血糖降下薬で血糖値は良好であった.しかし約半年後に血糖値が急激に上昇し,随時血糖675 mg/dL,HbA1c 11.9 %となりケトーシスにて入院となった.血糖悪化の原因検索で膵癌が発見されたが,同時に抗GAD抗体の強陽性(124,000 U/mL(RIA法))も判明し,糖尿病は緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)と診断された.SPIDDMの後期高齢者での発症は比較的稀であり,また膵癌との同時期発症・合併の報告はほとんどない.本例は1型糖尿病発症の疾患抵抗性が示唆されるHLAを認め,このことが後期高齢期に膵癌とSPIDDMの同時発症に繋がった可能性がある.糖尿病加療中に急激に血糖コントロールが悪化した際は悪性腫瘍やSPIDDMなどの検索が必要であるが,本例はこれらが同時期に発症した稀な例と思われた.

  • 黒木 茜, 本多 敏朗, 松本 諭, 藤原 豊, 八巻 稔明, 鈴木 昭
    2017 年 60 巻 12 号 p. 813-819
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    32歳,女性.20XX-5年から無月経,20XX-3年から靴のサイズが大きくなった.20XX-1年10月糖尿病と診断,治療に伴い血糖値改善,20XX年6月に治療中止,6月中旬から倦怠感,口渇,多飲,多尿を自覚,体重も10 kg減少した.6月下旬近医受診し高血糖,甲状腺中毒症を認め当科紹介入院,血糖値362 mg/dL,アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシス,尿ケトン体3+を認め,糖尿病ケトアシドーシスと診断,無痛性甲状腺炎も併発していた.入院時から頭痛持続,第4病日に突然の視野障害,眼球運動障害を呈し,腺腫内出血を伴う下垂体腫瘍を認め,GH 3.20 ng/mL及びIGF-1 373 ng/mL(3.3 SD)高値から,下垂体卒中を伴った先端巨大症と診断,第9病日に手術施行された.無痛性甲状腺炎と糖尿病ケトアシドーシスを呈し,先端巨大症と診断され,かつ下垂体卒中をきたした稀な症例だった.

  • 朴木 久恵, 薄井 勲, 上野 麻子, 北野 香織, 中嶋 歩, 渡邊 善之, 岡部 圭介, 角 朝信, 瀧川 章子, 藤坂 志帆, 小清水 ...
    2017 年 60 巻 12 号 p. 820-825
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    【症例】28歳女性【現病歴】X-11年(17歳)時にA病院で2型糖尿病と診断され内服加療を受けたが自己中断した.X-10年(18歳)からB病院でインスリン療法となったが,自己中断した.X年10月にB病院産婦人科より妊娠7週で当科に紹介受診,糖尿病合併妊娠の血糖管理・合併症評価目的に緊急入院となった.【経過】HbA1c 14.1 %,右眼眼底に増殖網膜症と右眼の黄斑浮腫をみとめた.インスリン頻回注射で血糖コントロールを行った.妊娠経過に伴い右眼の黄斑症が進行し,視力低下を認めた.妊娠11週1日に人工妊娠中絶手術を施行,黄斑浮腫の急激な進行は落ち着き,視力を保つことができた.【結語】2型糖尿病合併妊娠の経過中に網膜症の経過を詳しく観察できた症例を経験した.

委員会報告
  • 難波 光義, 岩倉 敏夫, 西村 理明, 赤澤 宏平, 松久 宗英, 渥美 義仁, 佐藤 譲, 山内 敏正, 日本糖尿病学会―糖尿病治療に関 ...
    2017 年 60 巻 12 号 p. 826-842
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    糖尿病に対する薬物治療の進歩の一方で,患者の高齢化などを背景とした低血糖リスクの増大が憂慮されている.このため,わが国の糖尿病実臨床における治療に関連した重症低血糖の調査を行った.日本糖尿病学会学術調査研究等倫理審査委員会の承認のもと,2015年7月に同学会認定教育施設631施設の研修責任者に対して調査への参加を依頼した.参加意思を表明した施設には,倫理審査の必要書類を送付し,各施設の倫理審査委員会での承認後,Web登録システム(症例データは匿名・非連結)を利用してデータ登録を依頼した.本調査研究は,同学会学術調査研究委員会の予算で行った.施設実態調査(施設データ)および,個々の症例から同意取得後に症例調査(症例データ)を実施した.重症低血糖の定義は,『自己のみでは対処できない低血糖症状があり,発症・発見・受診時の静脈血漿血糖値が60 mg/dL未満(毛細管全血50 mg/dL未満)が明らかにされていることが望ましい』とし,調査期間は2014年4月1日から2015年3月31日としたが,施設データは193施設から,症例データはそのうち113施設から総数798症例の登録があった.回答を得た193施設中,149施設(77.2 %)に救急部が併設されており,1施設あたりの同部への年間総救急搬送件数(中央値)は4962件,このうち重症低血糖は17.0件(0.34 %)をしめた.回答施設における重症低血糖による年間受診総数は2237人であり,1施設あたり6.5人であった.重症低血糖による年間入院総数は1171人で,1施設あたり4.0人であり,重症低血糖による年間受診数の52.3 %を占めていた.798例の症例データをまとめると,病型は1型240人,2型480人,その他78人,年齢は1型54.0(41.0-67.0)歳,2型77.0(68.0-83.0)歳であり,2型が有意に高齢で(P < 0.001),BMIは1型では21.3(18.9-24.0)kg/m2,2型では22.0(19.5-24.8)kg/m2で,2型の方が高値であった(P = 0.003).推算糸球体濾過量(eGFR)は1型73.3(53.5-91.1)mL/min/1.73 m2,2型50.6(31.8-71.1)mL/min/1.73 m2となり,2型の方が低値であった(P < 0.001).重症低血糖発生時点のHbA1cは全体で7.0(6.3-8.1)%,1型7.5(6.9-8.6)%,2型6.8(6.1-7.6)%であり2型で低値であった(P < 0.001).重症低血糖の前駆症状の有無に関しては全体で有35.5 %,無35.6 %,不明28.9 %,前駆症状の発現率は1型で41.0 %,2型で56.9 %となり,1型の方が前駆症状の発現率は低かった(P < 0.001).2型の治療薬はインスリン使用群(SU薬併用29人含む)292人(60.8 %),SU薬群(インスリン未使用)159人(33.1 %),インスリン・SU薬未使用群29人(6.0 %)であった.調査対象798例のうち296例(37.2 %)は,過去にも重症低血糖で救急受診した既往を有していた.以上のようにわが国の糖尿病治療に関連する重症低血糖の実態が初めて明らかになった.今後は重症低血糖の高リスク者や既往者に対し,低血糖の教育と治療の適正化による発症予防対策が急務であることが明確となった.

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