超速効型インスリン(UR)の食後血糖値低下作用と低血糖減少効果を比較した.2型糖尿病患者30人を無作為に3グループ(Gr)に割り付けた.入院にて研究期間中強化インスリン療法で毎食前+就寝前血糖値(4検値)を80 mg/dL台に安定させた.Gr1:4検値を安定させた;次に同量のインスリングルリジン(G)を投与した;次に患者はフラッシュグルコースモニター(FGM)を装着し3,4日目に評価した;5日目にGを同量のインスリンリスプロ(L)に切り替え8,9日目に評価した;10日目にLを同量のインスリンアスパルト(A)に切り替え13,14日目に評価した.Gr2は同じレジメンでL,A,Gの順に投与し,Gr3は同じレジメンでA,G,Lの順に投与した.毎食後の最高血糖値と血糖上昇の傾き,日中の変動係数,低血糖面積はG群,L群,A群の順に有意に低かった.Gは血糖変動を減少させる最適なURであるかもしれない.
当院では糖尿病患者の入院時に看護師が足の観察を行い,病変の早期発見と予防のための療養支援を行っている.今回,糖尿病神経障害の診断に有用とされる簡易神経伝導測定機器DPNチェックから得られた結果と,看護師の行う足病変のリスク評価の関係を検討した.2型糖尿病患者111例(平均年齢:64±14歳,糖尿病罹病年数:10±9年)を対象とし,足の観察16項目のうち2項目以上に異常のみられた場合を異常群とした.異常群は54例(49 %)と高頻度で,異常群では活動電位振幅(SNAP)が7.1±4.2 μVと正常群(9.5±5.1 μV)より有意に低値であった.また,観察異常項目の総数とSNAPは有意な負の相関を示し,なかでも皮膚や血流の観察異常を呈した例でSNAPは有意に低下していた.以上よりDPNチェックはフットケアの教育指導・療養支援を重点的に行うべき患者を抽出するために有用と考えられる.
Sodium-glucose cotransporter 2(以下SGLT2と略す)阻害薬は血糖降下作用と様々な代謝改善効果が報告されているが,ごく最近,本剤の投与により糖尿病腎症1~2期の患者において,その推算糸球体濾過率(以下eGFRと略す)の改善が報告された.そこで,3年以上SGLT2阻害薬を服用している当院通院中の2型糖尿病患者111名(腎症1期68 %,2期27 %,3期5 %)の各パラメーターの推移を後ろ向きに検討した結果,SGLT2阻害薬服用者では3年後の体重,血圧,HbA1c,AST,ALT,γ-GT,LDL-C,尿酸はいずれも有意に低下しており,HDL-C,Hctは有意に増加していた.さらにeGFRは2年後より有意な増加が続くことが認められたことから,本剤は腎機能が比較的保たれている患者において腎機能改善効果を有している可能性があることが示唆された.
44歳男性.健康診断で耐糖能異常は指摘されなかった.入院2週間前に近医で糖尿病と診断され,カナグリフロジン100 mg,メトホルミン塩酸塩500 mgが開始され,同時に自己流の低炭水化物食も開始した.内服4日後に強い倦怠感を訴え当院に紹介され初診,随時血糖183 mg/dL,HbA1c 12.1 %,HCO3- 11.7 mmol/L,尿ケトン体3+であり,正常血糖糖尿病ケトアシドーシス(euDKA)の診断で入院した.輸液とインスリンを投与し症状や検査所見は改善,第10病日に退院した.SGLT2阻害薬の内服に加え極度の低炭水化物食がeuDKAの誘因になったと考えられた.国内外から報告されている同様の症例のうち,約6割で炭水化物摂取量の減少との関連が考えられた.SGLT2阻害薬投与時は,極端な炭水化物制限を回避するなど,euDKAの予防を意識した指導をより積極的に行う必要がある.
症例は39歳女性,20歳で2型糖尿病と診断され加療開始したが,血糖管理不良が続いた.腎症4期のため,避妊を指導していたが自然妊娠が成立.妊娠判明時HbA1c 6.8 %,血清クレアチニン値(Cr)1.66 mg/dL,eGFR 29 mL/min/1.73 m2であり,周産期合併症のリスクを十分に説明したうえで妊娠継続を強く希望し,入院および外来にて慎重に血糖・血圧管理を行った.妊娠34週に血清Cr値2.35 mg/dLまで上昇,また黄斑浮腫による視力低下,エコーで胎児発育不全を疑う所見も呈したため,帝王切開となった.児は1712 g,Apgar score 7/8点(1/5分値)の男児,新生児低血糖を認めたが形成異常は無く,児の経過は良好.わが国にて腎症4期で妊娠し分娩に至った症例の報告はほとんど無く,貴重な症例と考え報告する.