思春期・青年期1型糖尿病患者と保護者のトランジションにおけるレディネス(準備状態)の認識を明らかにした.12~20歳の患者と保護者27組に対し,患者へはトランジションにおけるレディネス,内科への転科の意志とその理由,保護者へは保護者が認識する患者のレディネス,転科の意志とその理由を調査した.その結果,レディネスの知識の総得点の中央値(範囲)は患者34(16-44)点,保護者33(25-41)点,行動は患者29(19-45)点,保護者30(21-42)点で両者に有意差は認められず,各項目得点でも有意差は認められなかった.よって,保護者は患者のレディネスを適切に把握していると考えられた.しかし,レディネスが形成されている患者は5名(18.5 %),内科への転科の意志がある患者は6名(22.2 %),保護者は8名(29.6 %)のみのため,早期から移行の準備を進める支援が必要である.
発症早期に緊急帝王切開となり,母子ともに経過良好な妊娠関連発症劇症1型糖尿病の1例を経験したので報告する.症例は31歳女性.糖尿病の既往歴,家族歴は無く,妊婦検診の血糖値も正常だった.妊娠36週で口渇,食欲不振,嘔吐を生じ産婦人科を受診.胎児徐脈を生じていたため緊急帝王切開で出産した.翌日に胸痛,呼吸苦が出現し,翌々日に過呼吸・幻覚・妄想が出現したため当院救急外来に搬送された.血糖値676 mg/dL,尿ケトン4+,pH 6.948と糖尿病ケトアシドーシスの診断で入院となり,補液とインスリン持続静注で速やかに改善した.HbA1c 5.6 %,抗GAD抗体,抗IA-2抗体共に陰性,尿中CPR 0.4 μg/日であり劇症1型糖尿病と診断した.児はNICUで管理され経過良好であった.近年,胎児の救命のために帝王切開が選択される妊娠関連発症1型糖尿病の症例報告もあり,文献的考察を加え報告する.
30歳女性.16歳時にTurner症候群(TS)と診断され原発性卵巣機能不全症に対しホルモン補充療法を開始した.30歳時に婦人科の定期検査で高血糖を指摘され当科を紹介受診した.空腹時血糖212 mg/dL,HbA1c 10.9 %と糖尿病を認め,抗GAD抗体は陰性で,尿中CPR 76.3 μg/dayであった.血糖は生活指導とメトホルミン,デュラグルチドで改善した.血糖改善後のHOMA-IRは3.1で,インスリン抵抗性を示した.またLH 18.2 mIU/mL,FSH 58.3 mIU/mL,E2感度以下であり原発性卵巣機能不全を認め,核型は46X,del(X)(q22.3)であった.TSではX染色体短腕のSHOX遺伝子欠失により低身長を呈することが多いが,本例は長腕部分欠失であるため低身長を呈さなかった.非典型的な臨床像を示すX染色体長腕部分欠失のTSで,糖尿病を合併した1例を経験したので報告する.
59歳男性.慢性膵炎,膵性糖尿病を指摘されインスリン頻回注射療法で加療されていた.意識障害で救急搬送となり,血糖値29 mg/dLの著明な低血糖が判明した.ブドウ糖の静脈投与により低血糖は改善したが意識障害は遷延し,第39日目に誤嚥性肺炎で永眠された.低血糖脳症は治療が遅れると不可逆的な意識障害や高次機能障害,麻痺などの神経学的後遺症を残し,死に至ることもある緊急症であり,注意する必要がある.
(I)20年通院した118名の糖尿病患者の継時的血糖コントロール状態を調査した.MMSEまたはMini-Cogを従来法とし,DASC-8を最新法とし,その2法を用いて認知障害を調査した.20年経過後の認知障害と血糖コントロールとの関連性をみると,コントロール不良群の認知機能が低下している傾向があった.(II)罹病20年,10年以上通院している206名で,重症網膜症の有無と認知機能の関連性を調査したところ,重症網膜症の有る群が網膜症の無い群に比較し認知機能が低下している傾向があった.(III)206名全員の全投薬歴を調べ,認知機能が低下しているDASC-8のカテゴリーに,低血糖が危惧される薬物を使用した患者がどのように分布しているかを調べると,43名存在した.MMSEと比較し,短時間で実施可能なDASC-8は高齢者血糖コントロール目標のカテゴリー分類に有効なツールであった.