千葉県における糖尿病網膜症の診療実態を調査した.総症例数は内科的な糖尿病診療を行っているかかりつけ医(以下,内科系担当医)受診例3619例,眼科受診例367例であった.内科系担当医受診中の患者では66.6 %が眼科に継続受診中であり,糖尿病専門医では70.9 %,糖尿病非専門医では56.5 %だった.眼科通院を中断もしくは未受診の症例では年齢が若く,罹病期間が短かった.多変量解析の結果,眼科継続受診と関連する因子として年齢,罹病期間,1型糖尿病があげられた.眼科通院中の患者では94.8 %が内科へ継続受診していた.眼科通院中の患者の77.4 %に網膜症を認め,40.9 %に汎網膜光凝固療法が施行されていた.5.7 %に硝子体手術の既往があった.本調査により,千葉県における現在の糖尿病網膜症診療の一端が明らかとなった.糖尿病網膜症の発症・進展予防のためには眼科受診状況をさらに改善させる必要がある.
糖尿病(DM)患者の筋力や筋肉の質(MQ)の低下が指摘されているが,患者背景や身体機能との関連は不明である.本研究の目的は,2型DM患者の下肢筋力および下肢MQの維持・低下に関連する因子を調査し,評価特性の違いを明らかにすることである.対象は当院入院・通院中の2型DM患者のうち,取込み基準を満たす95例(男性67例,女性28例,年齢59.0±14.4歳,罹患歴6.9±8.6年,HbA1c 8.8±2.8 %)とした.下肢筋力及びMQ各々について,維持群と低下群における基本属性・体組成・身体機能を比較し,さらにロジスティック回帰分析にて,維持・低下の関連要因を検討した.下肢筋力には体脂肪率が,下肢MQには10 m最大歩行速度が,それぞれの維持・低下に独立して影響していた.2型DM患者ではMQの方が,年齢や体格の影響を受けにくく,歩行能力を鋭敏に反映する指標であることが示唆された.
JDDM参加施設に通院中の60歳以上の2型糖尿病(35,655症例)の臨床像と治療内容をI群(60歳代)・II群(70歳代)・III群(80歳代)・IV群(90歳代)に層別し比較した.BMIは高年代群ほど低下したがIV群でも22.8±3.4であった.平均HbA1cはI群で7.0±0.9 %,II群で6.9±0.8 %,III群・IV群は6.9±0.9 %であった.LDL-C・HDL-C・TGは高年代群ほど低値であった.腎機能ではeGFRは高年代群ほど低値であり,尿中アルブミンは年齢が進むにつれ上昇傾向にあった.合併症有病率は腎症・神経障害は高年代群ほど高率であったが,網膜症はこの傾向は認めなかった.治療法は高年代群ほど食事療法のみが増加し,経口薬療法は減少した.経口薬療法では高年代群ほど処方種類数減少し,DPP-4阻害薬単剤法の割合が増加していた.経口薬併用を含めた注射療法の割合は4群とも約20 %程度であった.
症例は83歳,男性.高血圧,狭心症で通院中,メキシレチン塩酸塩を内服6週後より掻痒を伴う皮疹が出現,同薬を中止後も増悪し全身性紅斑となり1週後に入院となる.入院翌日から口渇,多飲,多尿が出現し,入院第3病日の検査で血糖1069 mg/dL,HbA1c 6.1 %,著明な血中ケトン体の増加,インスリン分泌能の枯渇等から薬剤性過敏症症候群(DIHS)に伴って発症した劇症1型糖尿病(FT1D)の診断に至る.経過を通してヒトヘルペスウイルス(HHV)-6抗体陰性,早期から血中サイトメガロウイルス(CMV)-DNAを検出しCMV IgG抗体が高値であり,複数の膵島関連自己抗体が弱陽性であった.HLAクラスIIハプロタイプではDRB1*09:01-DQB1*03:03を認めた.本症例の病態にCMVが関与したと考えられ,DIHSにFT1Dを合併した場合はCMVの再活性化についても考慮すべきと考えられた.
JDCP studyベースライン時の糖尿病患者6,099名(1型6 %,2型94 %,61.1±8.1歳)の病態と口腔所見の関係を検討した.現在歯数は平均19.8本,2型糖尿病で男性より女性の方が少なかった.1年間の歯の喪失者,歯肉腫脹既往者,口腔清掃回数2回以上,歯間清掃用具使用者,歯科定期健診者の割合は,それぞれ17 %,32 %,69 %,37 %,43 %であった.関連9因子を説明変数,現在歯数(20歯未満,20歯以上)を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析では,1型糖尿病でHbA1c 7.0 %以上になると20歯未満となるオッズ比(OR)は2.38(95 %CI 1.25-4.78),2型糖尿病でHbA1c 8.0 %以上になると20歯未満となるOR は1.16(95 %CI 1.00-1.34)となった.糖尿病患者では,現在歯数が少なく血糖コントロール状態の悪化に伴い歯の喪失リスクが高くなった.