2型糖尿病の患者が自らの病気に対して抱いている負担感情は,自己管理の不良や血糖コントロールの悪化につながるため,日常診療の中で評価することが重要である.患者本人の自覚症状の有無が心理的負担感に影響することが予想されるが,これについて検討した報告はほとんどない.本研究では,当科外来を初回受診した2型糖尿病患者228名を対象として,患者の心理的負担感をProblem Areas in Diabetes Survey(以下PAID)を用いて評価し,特定の自覚症状の有無がPAID得点に与える影響をロジスティック回帰により検討した.性別・年齢・HbA1cを組み込んだ多変量解析では,口渇感・多尿・倦怠感・体重減少の4症状のうち2個以上有することが,PAIDとの強い関連性を示した.高血糖の症状を多く有する患者においては,通常の血糖管理に加え,糖尿病への負担感に対する心理的介入の重要性が推測される.
72歳男性.70歳時に肺癌の診断となり,ペンブロリズマブ投与開始後76週に下痢,食欲不振,体動困難のために入院となった.入院時血糖88 mg/dL,HbA1c 6.4 %だったが,入院後4日目に血糖468 mg/dL,Cペプチド0.07 ng/mLと急峻な血糖上昇,インスリン分泌枯渇から1型糖尿病と診断した.また好酸球増多,ACTH及びコルチゾール低下を認め,負荷試験の結果,ACTH単独欠損に伴う副腎不全と診断した.診断時ケトーシスなく劇症1型糖尿病の診断基準は満たさなかったが,副腎不全がケトン産生の抑制に影響した可能性も考慮された.ペンブロリズマブの副作用に1型糖尿病,副腎不全があるが,本症例は同時期発症,診断に至った初の報告である.副腎不全により血糖上昇の顕在化が遅れた可能性もあり,検査や症状の把握に関して一層の注意喚起を要すると考えられた.
思春期は精神心理的問題を抱えやすく,慢性疾患である1型糖尿病を発症し受け入れることは容易ではない.今回我々は,心理社会的課題を抱えた1型糖尿病の女児がインスリンポンプ導入を通じ,自身の課題に向き合い解決へと進むことができた1例を経験したので報告する.患児は13歳時に1型糖尿病を発症.いじめが原因で小学校時から不登校であり,親からのマネジメントを十分に受けていないなど心理社会的問題を抱えていた.幼い兄弟が多く,針による怪我を心配してインスリンポンプを自ら希望した.ポンプ導入の際に,エンパワーメントアプローチや認知行動療法などの心理社会的・行動医学的介入を行った.その結果,患児は糖尿病治療中に遭遇した様々な困難を解決する過程で自己効力感を高め,自立性を得ることができた.治療を通じて自身の心理社会的問題にも取り組み,他者との良好な関係を築けるようになり,学校生活復帰を果たすことができた.
症例は66歳女性.前日に嘔気・嘔吐出現,翌日当院を受診した.初診時血糖値719 mg/dL,HbA1c 5.9 %,動脈血ガス分析でpH 7.258,尿中ケトン(3+)を示し,糖尿病性ケトアシドーシスと判断した.尿中Cペプチドは測定限界以下であり,本症例は劇症1型糖尿病の診断基準を満たしていた.入院時の抗GAD抗体は(ELISA)185.0 U/mLで陽性と判定した.HLAタイピング(PCR-SBT法)ではハプロタイプDRB1*09:01-DQB1*03:02およびハプロタイプDRB1*08:02-DQB1*03:02を有しており,DRB1*09:01-DQB1*03:02は日本人の劇症1型糖尿病患者では珍しいHLAハプロタイプであった.
症例1:46歳 男性,3年前に2型糖尿病を指摘されるも,治療を自己中断していた.口喝と倦怠感にて当院を受診し,HbA1c 14.2 %と高値に加え発熱・炎症反応上昇を認め入院となった.血液培養より黄色ブドウ球菌が検出され,造影CTにて前立腺・肺・大腿筋に膿瘍を認めた.抗菌薬投与と前立腺膿瘍穿刺にて膿瘍腔は消失し,血糖値は強化インスリン療法で改善した.症例2:64歳 男性,罹病歴25年の糖尿病あり,強化インスリン療法で加療中もHbA1c 13.4 %と高値であった.膿尿で前医入院となり,血液培養で黄色ブドウ球菌が検出された.セファゾリン投与が開始され,継続加療目的で当院へ転院となった.造影CTにて前立腺・股関節に膿瘍を認め,抗菌薬投与のみで改善した.前立腺膿瘍は糖尿病患者にまれに生じる疾患だが特異的な症状に乏しく,菌血症から全身に播種性病変を来たすことがあり注意が必要と考えられる.