近年,重症低血糖への注意喚起が広まり,低血糖で救急搬送される患者が減っている.そこで重症低血糖の原因が経時的にどのように変化しているか明らかにするため,10年間の当院救急外来に低血糖で搬送された2型糖尿病患者の臨床的背景について検討した.全体の救急搬送数に対する割合は2009年度0.71 %だったが,2019年度0.27 %で有意に減少した(p<0.01).低血糖の原因となった薬物療法として,グリメピリドの用量は減少傾向だった.入院した患者の比較では,SU薬の使用率が有意に高値(p<0.01)だが,グリメピリドの用量で有意差はなかった.低血糖を起こしにくい薬剤を中心とした処方とし,治療上必要なため処方されたSU薬をできるだけ減量することで,重症低血糖患者を減らしていけると考える.しかし,高齢者糖尿病ではSU薬減量だけで重症低血糖を回避することは難しい可能性も示唆された.
東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科に入院した382名の糖尿病患者を対象に食品群別摂取量と年齢や食生活環境との関連を検討した.独居の割合は,加齢に伴って男性は減少したが,女性では逆に増加していた.外食と中食利用頻度は男女とも加齢に伴って減少していた.食品群別摂取量は,加齢に伴い摂取量が変化する食品群と変化しない食品群があり,男性では特にたんぱく質を多く含む食品で,女性では一部のたんぱく質を多く含む食品やアルコール類,野菜・海藻類で変化が大きかった.独居では男女とも野菜や海藻類が減少し,本人が調理者であると男性では穀類が,女性では大豆・大豆製品が増加していた.さらに中食利用頻度が多いと男女ともに緑黄色野菜が少なく,菓子類の摂取量が多かった.個別化された実現性・継続性の高い食事療法を実践するには,糖尿病患者の年齢や性別,食生活環境に考慮することが大切である.
2型糖尿病患者において,心房細動が予後に及ぼす影響について後ろ向き観察研究にて検討した.2型糖尿病患者370例(男203例,女167例,平均年齢69.7歳)を平均5.0年フォローし,心血管複合イベント(心血管死,非致死性心筋梗塞ないし脳卒中,心不全による入院,予期せぬ突然死)に対する心房細動の影響について検討した.心血管複合イベントは32例にみられ,単変量ロジステイック回帰分析では,年齢,estimated glomerular filtration rate,既知の心疾患,心房細動が有意な寄与因子であり,この4変数による多変量ロジステイック回帰分析では,既知の心疾患と心房細動が独立した寄与因子であった.2型糖尿病患者において,心房細動は独立した予後に影響を及ぼす因子であった.
48歳女性.22歳時に2型糖尿病と診断され,第1子妊娠(24歳)を契機に頻回インスリン療法(MDI)が導入された.48歳で第3子を自然妊娠し,妊娠5週でHbA1c 9.3 %のため当院を受診した.高齢かつ肥満合併のハイリスク2型糖尿病合併妊娠と診断し,厳格な血糖コントロールを目指したが,血糖値の変動が大きく妊娠8週に入院中の頻回の栄養指導と共にSensor-Augmented Pump(SAP)療法を導入した.SAP療法導入後,HbA1cは6.2-7.2 %を推移し,血糖変動の指標となる平均血糖変動幅(MAGE),標準偏差,M値も改善した.妊娠37週1日で予定帝王切開術により2,984 g(+0.7 SD)の男児を出産した.高齢2型糖尿病合併妊娠症例に対してSAP療法を導入し出産に至った報告はないため,その詳細な経過を診療上明らかとなった課題とともに報告する.