2型糖尿病患者(過去の治療中断の既往あり:78例,既往なし:516例)を5年間前向きに観察し,治療中断の発生率を比較した.対象全体における治療中断に関係する因子は年齢と中断の既往(ハザード比:2.17)であった.中断の既往の有無別には,中断の既往あり群でHbA1c(ハザード比:2.12),中断の既往なし群で年齢とBMIが治療中断と有意に関係していた.5年後の治療中断率は中断の既往あり群で23 %と,既往なし群の11 %に比して有意に高頻度であった.5年間の通院を継続した例におけるHbA1cは,観察開始時点で中断あり群で高値であったが,1年目以降は中断の既往なし群と同様に推移した.網膜症,腎症はいずれも中断の既往あり群で高頻度のまま推移した.治療中断の既往は再中断の危険因子であり,治療を継続した場合でも血管合併症の減少が充分に得られないため,治療開始の段階から中断阻止への取り組みが重要である.
症例は45歳女性.腹部膨満感と食思不振を自覚したため近医を受診し,胃粘膜保護薬を処方された.6日後に症状の増悪ならびに嘔吐を認めたため再度近医を受診したところ,血糖578 mg/dL,尿ケトン陽性を認め当院救急搬送となった.代謝性アシドーシス(pH 7.085,HCO3- 8.5 mmol/L)を呈しており,糖尿病ケトアシドーシスの診断にて緊急入院となった.血糖高値にもかかわらずHbA1cは6.5 %と軽度高値にとどまり,尿中Cペプチド5.5 μg/日と内因性インスリン分泌の著明な低下を認めたことから劇症1型糖尿病と診断した.入院時BMI 40.1と高度の肥満を認めており,GAD抗体は22.8 U/mLと陽性であった.劇症1型糖尿病において膵島関連自己抗体が陽性になることならびに高度肥満を伴うことは稀である.検索しえた範囲では両者を伴った症例はこれまでに存在しないため報告する.
症例は65歳女性.HbA1c 11.3 %の2型糖尿病と,TSH不適合分泌症候群を指摘された.下垂体ミクロアデノーマを認め,TSH産生腫瘍が疑われた.入院の上,メトホルミンとSGLT2阻害薬を併用,強化インスリン療法を施行していたが,SITSH鑑別のためのT3抑制試験終了翌日に突然の激しい嘔吐と発熱が出現,頻脈,高血糖,高ケトン体・高乳酸血症,代謝性アシドーシスを認めた.甲状腺クリーゼと糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の合併と診断し,輸液,インスリン等の加療を行い回復した.本例においてはメトホルミン及びSGLT2阻害薬投与下でのT3投与が契機となりこれらの病態が誘発されたことから,T3抑制試験含め甲状腺機能中毒症状態の際にはシックディと同様,経口糖尿病薬の調整とインスリンを中心とした血糖管理を行い,甲状腺クリーゼとDKAに十分注意する必要がある.
1型糖尿病診断マーカーとしてのグルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic Acid Decarboxylase:GAD)抗体は,数か月という短期間で陰性化することは稀である.我々はCOVID-19罹患とGAD抗体の消長が関連したと考えられる症例を経験した.43歳,男性.COVID-19に罹患した際GAD抗体陽性と判明し,インスリン治療を開始したが,7か月後GAD抗体は陰性化した.HLAの遺伝子型は,DRB1*09:01-DQB1*03:03であり,日本人1型糖尿病発症の疾患感受性ハプロタイプを有していた.COVID-19に罹患した糖尿病では,後にGAD抗体が陰性化することがあり糖尿病の病型診断には慎重であるべきと思われた.新型コロナウイルス感染と糖尿病の関連性を考えるうえで,同様の症例があった場合はインスリン分泌能とGAD抗体価をフォローしHLAハプロタイプまで確認しておくことが望ましい.