観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
4 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 「パフォーマー・観光者」への視点
    橋本 和也
    2016 年 4 巻 1 号 p. 3-17
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本論執筆の目的は、「スポーツ観光」研究の理論的な展望をパフォーマンスに注目して切り拓くことである。増補改訂版の『観光のまなざし3.0』でアーリとラースンはゴフマン流のパフォーマンスを導入して観光のまなざしのパフォーマンス論的転回を目指した。しかしながら、日常生活における自己提示という演劇のメタファーという発想では、観光者自らが本格的なマラソン大会や「YOSAKOIソーラン祭り」などのパフォーマンスに参加する動機や経験、社会的実践、そして真正化の動きなどを明らかにするための理論的な展望を提示することは出来ないと考え、本論では「さらなるパフォーマンスへの転回」を提唱する。そしてこの参加・実践する観光の研究のために、これまでの大衆観光者とは異なる「パフォーマー・観光者」という新たな概念を導入する。ツール・ド・フランスの険しい登坂道を聖地とする一般サイクリストは、自らその登坂道に挑むことで主観的・実存的な真正性を実感し、ソーシャル・メディアに配信することでサイクリスト・コミュニティにおけるアイデンティティと「サブカルチャー資本」を獲得し保持することになる。そしてこのような「パフォーマー・観光者」による行為がその聖地をさらに真正化するという再帰的循環が成立することになる。いまや「スポーツ観光」は観光にとって重要な領域を形成しはじめており、この領域に注目することが観光研究にとって新たな展望を切り拓くことになると考える。
  • ダークツーリズム論の限界とレジリエンス論からの示唆
    間中 光
    2016 年 4 巻 1 号 p. 19-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、日本社会及び国際社会にとって重要な課題となっている災害復興では、その優良事例や復興支援に関わるノウハウの蓄積が大きな課題となっている。この課題性は観光にとっても無縁ではなく、2015年4月に発生したネパール地震など、「観光を通じた災害復興」に関する知見が強く求められる事例も多い。そこで本稿では、被災地で行われる観光の現状について2004年のインド洋大津波、2011年の東日本大震災の事例を中心に整理し、災害復興における観光の可能性と課題について考察する。そして、明らかになった可能性と課題を分析する枠組みとして、ダークツーリズム論を中心に既存研究を批判的に検討し、その限界性を指摘する。その上で、「騒乱・擾乱などのショックに対し、システムが同一の機能・構成・フィードバック機能を維持するために変化し、騒乱・擾乱を吸収して再構築するシステムの能力」と定義されるレジリエンス(Resilience)概念を援用した新たな分析枠組みを提示する。
  • 阿部 純一郎
    2016 年 4 巻 1 号 p. 33-42
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、『観光のまなざし3.0』をアーリが提唱する「移動論的転回」と関連づけて理解し、それが観光研究にとってもつ理論的意義を評価することを目的とする。まず初めに、『観光のまなざし』初版の批判者に対してアーリが3.0版でどのように応答しているかについて、アーリの「行為主体(agency)」の捉え方を軸に検討する。ここで論じたいのは、アーリが観光産業やメディアが作りだした「観光のまなざし」に対する観光客の「逸脱」や地元住民の「抵抗」の可能性を認めたことに加えて、より重要な論点として、ギブソンの「アフォーダンス」概念を援用し、人間だけでなく非人間的なモノ(技術・テクスト・物理的環境)にも、ある特定のパフォーマンスを生みだす「エージェンシー」としての力を認めたことである。次に、新たな技術の登場によって我々の知覚・行動・社会関係の様式が歴史上どのような方向へ水路づけられてきたかについて、アーリが「初期近代」と「後期近代」の代表的な移動システムと呼ぶ、鉄道交通と自動車交通を例に整理する。この作業を通して、システムから独立した人間の自律的なパフォーマンスは存在せず、そのように見えるものも別種のシステムにアフォードされている点を示す。最後に、人間のパフォーマンスを同時代の物質的システムとの相関において捉えようとするアーリの理論的立場は、「近代」を対象化するはずの社会学が、「近代」の重要な特徴であるヒトとモノの「ハイブリッド化」を忘却し、自然/社会、人間/物質の領域を分断する誤った二分法を再生産してきたことへの批判に由来することを論じる。
  • 木村 至聖
    2016 年 4 巻 1 号 p. 43-55
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
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    本稿では、J. アーリの『観光のまなざし』第三版において追加された論点を中心として、「観光のまなざし」論を日本の産業遺産観光の文脈に即して捉え直し、その可能性と問題点について考察する。
    そもそも『観光のまなざし』における観光現象への注目の背景には、英国における第二次産業の衰退と、第三次産業の興隆という産業構造の転換があった。実際、こうした文脈のなかで、『観光のまなざし』の初版では、かつての産業の遺構が〈遺産〉としてデザインされ観光のまなざしの対象となる事例が数多く紹介されていた。
    しかし、初版の出版から20年が経ち、産業遺産をとりまく状況や社会の認識も大きく変化している。『観光のまなざし』第三版では、近年のグローバル化やモバイル・テクノロジーの発達といった変化をうけて、「観光の再帰性」などの新しい分析概念が導入されているが、その一方で、事例研究については十分な更新がなされているとは言い難い。
    そこで本稿では、2015年に世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つである端島炭鉱(通称「軍艦島」)の観光を事例として、こうした新しい概念の有効性と意義について検討する。
  • 釜ヶ崎のまちスタディ・ツアーを事例として
    須永 和博
    2016 年 4 巻 1 号 p. 57-69
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
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    2011年に出版されたThe Tourist Gaze 3.0は、従来の観光のまなざし論に対して投げかけられた様々な批判への応答という性格をもっている。その1つが、観光のまなざしの変容可能性に関する議論である。従来の観光のまなざし論では、観光者のまなざしはマスメディア等を通じて形成され、観光者はこうした事前に作られた枠組みで対象を見るとされてきた。その結果、観光者は制度的に構築されたまなざしを無批判に受容する受動的な存在として位置づけられてきた。こうしたアーリの観光のまなざし論の決定論的な側面については、しばしば批判的検討が加えられてきたが、The Tourist Gaze 3.0では、アーリ自身も実際の観光現場で生起する様々なパフォーマンスや偶発的経験等によって、固定的なまなざしが変容していく可能性について指摘している。
    以上の視点を踏まえ、本論文では、大阪・釜ヶ崎で行われている「釜ヶ崎のまちスタディ・ツアー」(以下、スタディ・ツアー)の考察を行う。具体的には、スタディ・ツアーへの参加によって、釜ヶ崎の人々を異質な存在として他者化するようなまなざしが融解し、<地続き>の存在として釜ヶ崎を見る新たなまなざしが立ち現れてくる過程を明らかにする。
  • 戦後日本における移動と思想の「批判的実践」 ―鶴見和子・俊輔・良行の戦後史
    谷川 嘉浩
    2016 年 4 巻 1 号 p. 71-73
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
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