観光学評論
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5 巻, 1 号
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  • 炭鉱・鉱山の遺構に見出される価値の変容に着目して
    平井 健文
    2017 年 5 巻 1 号 p. 3-19
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、文化遺産をプロセスとして捉えるアプローチを採り、1970年代から今日に至るまでの、日本における産業遺産の観光資源化を一連のプロセスとして明らかにした。まず、上述のアプローチの中心的な概念である“heritagization”を批判的に検討し、D. スロスビーによる文化資本の概念を踏まえて理論的な枠組みを定めた。その上で、産業遺産の代表例として炭鉱・鉱山の遺構を取り上げ、複数の事例の通時的な比較研究を行った。その結果、産業遺産を観光資源として活用する方法が1990年代を境にして大きく転換したことを実証的に示した。また、この社会的背景として、産業遺産の保全活用を担う主体の社会的目標に応じて、産業遺産に見出される経済的/文化的価値の比重が変容したことを明らかにした。さらにその中での、産業遺産の観光資源化に関与する主体の多様化、産業遺産を保全する上での観光の位置づけの変化、価値構築の準拠点となる「過去」の多様化なども実証的に明らかにし、以上を総括して日本における産業遺産の観光資源化プロセスを示した。最後に、“heritagization”とは複数の主体による実践の連関の中に生じるプロセスであると結論づけ、従前の総論的な概念規定に対する新しい視座を提示した。
  • カトマンズの観光市場、タメルで売られる「ヒマラヤ産の宝石」の事例から
    渡部 瑞希
    2017 年 5 巻 1 号 p. 21-35
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    これまでの観光研究では、観光客がまなざしの対象とする真正性(オーセンティシティ)について議論を重ねてきた。それは、 客観的・本質的な真正性を想定し、観光の場における商品や出し物を虚偽だとする本質主義的な議論から、観光対象物の真正 性を構築するのは誰かというポストコロニアルな批判を含んだ構築主義的な議論、観光客個人の観光経験に焦点を当てる実存 主義的議論や、ホストとゲストのコンタクト・ゾーンで生じる観光経験の真正さに着目する議論まで多岐に渡る。
    本稿では、これらの議論を再考察し真正性の否定と探求を継続させるテキストであったことを読み解くことで、観光対象物 というモノが、その虚偽性を暴かれたとしても真/偽の判断のつかない「公然の秘密」によって成り立っていること、この真 /偽の決定不可能性ゆえに、真正なるものが、永遠に探求される魅惑的な消費対象となることを明らかにする。本稿ではこれを、 真正性のリアリティとして提示する。また、その具体的事例として、カトマンズの観光市場、タメルで売られている「ヒマラ ヤ産の宝石」を取り上げながら、真正性のリアリティについて説得的に提示する。
  • 観光が経済的に重要な役割を果たす小島嶼開発途上国を対象として
    高橋 環太郎
    2017 年 5 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では観光が経済的に重要な役割を果たす小島嶼開発途上国を対象に、「観光客数」および「観光客一人当たりの消費額」といった2つの指標が観光サービスを供給する地域側の社会経済や観光客の属性といったそれぞれの特徴と、どのような関係を有しているかを考察した。「観光客数」は大まかな需要規模を議論する際に用いられ、「観光客一人当たりの消費額」は観光客が観光サービスに対して支払う平均的な単価を議論する際に用いられる傾向がある。2つの指標はそれぞれ異なった視点で活用される統計であるが、経済的に観光の影響の強い島嶼地域においてはそれぞれの統計データに対する地域的および観光客の特徴との関連性を明らかにすることは必要なことであるといえる。
    分析の結果、「観光客数」は受け手地域の所得や宿泊施設の稼働率が、一方、「観光客一人当たりの消費額」は産業集積の高さや観光客の宿泊日数の長さ、宗主国からの観光客比率がそれぞれ影響することを確認した。分析の結果から地域側がこれら2つの指標を用いて議論する際は、それぞれの指標に対して以上に挙げた要素と関連して議論することで有意義な議論が展開できる可能性があることを示した。
  • ラースン ヨーナス, 遠藤 英樹
    2017 年 5 巻 1 号 p. 49-61
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    輸送の形態は、観光地における日常的なミクロなモビリティーズと同様に、観光者の国際的な移動に対しても様ざまなアフォーダンスを与える。モビリティーズ研究の重要な議論―それは、輸送が移送や到着といったことにとどまらず身体的かつ感覚的な経験を有し、輸送の様ざまな形態が場所に関する様ざまな具体的な地理感覚や感情的経験をもたらすという点にある(Urry, 2007)。しかし、観光者の経験に対して持っている輸送の重要性は、観光研究においてほぼ等閑視されてきた。それはただ単なる移送として、すなわち希望する目的地にまで到達するための必要悪として理解されてきたのである(Larsen, 2001; Edensor & Holloway, 2008; Butler & Hannam, 2012等の例外はあるが)。本稿では、観光のコンテクストにおいて都市のサイクリングが、いかに理解し得るかを考察するつもりである。
    その際、エスノグラフィーの場として、コペンハーゲン(私のホームタウンである)、アムステルダム、ロンドン、ニューヨークという4つを挙げる。コペンハーゲンのものは、観光のアトラクションで観察したものであり、年齢も様ざまな、海外からの「サイクリング・ツーリスト」のグループやペアに対して行った30のインタビューにもとづいている。
    これらを通じて、いかに(異なった)都市がバイクにおいて身体的にパフォームされ、知覚され、経験されるのかを明らかにしたい。「バイクのまなざし」で特徴的な点は何か?その観点からすれば、サイクリングに積極的な都市と、そうではない都市において、サイクリングの感情的・情動的な苦痛や快楽はどのようなものになるのか?どういったサービス、デザイン、「場所の神話」(Shields, 1991)が、サイクリングを促すのか(あるいは妨げるのか)?このような問いに答えつつ、私は、2つの異なる種類の研究に寄与したいと考えている。一つは、「観光のパフォーマンス」に関する研究である(Edensor, 1998; Haldrup & Larsen, 2010; Urry & Larsen, 2011)。もう一つは、「具体的な自転車によるモビリティーズ」に関する研究である(Jones, 2005, 2012; Spinney, 2006; Larsen, 2014)。どちらの研究も、いかに人びとがモバイルなパフォーマンスを行うのか、そしていかにモノ・「システム」・デザインされた場所が一定のアフォーダンスを示し、別のアフォーダンスを示さないのかに関わるものであると言えよう。
  • アートツーリズムを中心に、参加型観光における「参加」の意味を問う
    須藤 廣
    2017 年 5 巻 1 号 p. 63-78
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    J.アーリとJ.ラースンによる『観光のまなざし[増補改訂版]』(2011)によって示された<パフォーマンス転回>は、観光客が観光地のリアリティづくりへと「参加」している様に焦点を当てることにより、観光地を動的に描き出すことを可能にした。この稿では<アフォーダンス>と<パフォーマンス>の関係から、現在増えつつある「参加型」観光、特に、アートツーリズムにおける「参加」の意味について考察した。現代の文化表現における鑑賞者の「参加」は、近代化に伴う<アフォーダンス>の変容とそれに呼応する<パフォーマンス>の拡張の結果である。そして、このことは、現代芸術の鑑賞者を巻き込む表現スタイルと「参加」を特徴とする現代の観光のあり方にも通底している。このことから、アートツーリズムについて考えると、「参加」をもって消費社会、あるいは環境管理社会へと回収されるベクトルと、これを超える新しい文化や社会の創造へと向かうベクトルが見えてくる。参加型芸術の理論から、後者への道には「違和」を排除しない、コミュニケーションと「承認」のあり方が欠かせないことが分かる。
  • 寺岡 伸悟
    2017 年 5 巻 1 号 p. 79-92
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    今日の中山間地域は、都市と同じく、人々の頻繁な移動や交流によって成り立っている。しかし、これまでの中山間地域の政策は、行政統計に代表されるように定住者中心でたてられてきた。その結果、中山間地域で実際に生起している様々な活動を捉えきれなかった。
    近年登場した新しい中山間地域研究は、移動や往来、ネットワークを重視しており、「観光」についても頻繁に言及されている。それらは、アーリらによって提唱されたニュー・モビリティ・パラダイム(NMP)と親和性が高い。本稿では、徳野貞雄の家族ネットワーク研究と藤山浩の「地域の小さな拠点論」を紹介する。
    新しい中山間地研究における課題は、観光者を含めた様々なセクターの協働やそのマネジメントである。欧米の農村観光研究にはそうした議論の蓄積があり、その代表的なものが統合的農村観光論である(IRT)。 本稿は、流動性が高まる日本の農山村の課題解決に、NMPをふまえた農村観光研究が有益な知見を提供し得ることを指摘する。
  • 移動に注目したダークツーリズムの考察
    神田 孝治
    2017 年 5 巻 1 号 p. 93-110
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、2000年代以降の社会科学において注目されている「移動論的転回」にかかる議論を参照しながら、観光のための場所が、多様な移動が関係するなかでどのようにして創り出されているのか、そしてその場所自体がいかに移動しているのか、といった点について考察した。こうした動的な様相を明らかにするにあたり、対象とする場所に意味の競合が見られる傾向にあるダークツーリズムに注目した。事例として、沖縄本島における墓地を対象とした観光について検討した。
    まずⅡ章では、戦前期における沖縄本島において、様々な移動を通じて墓地を対象とする観光がいかに生じたのかについて、大阪商船の役割や辻原墓地の観光地化に焦点をあてて考察した。続くⅢ章では、観光対象としての墓地の移動について、関連する諸移動や社会・政治的状況の変化に注目しながら、戦後における辻原墓地の整理や南部戦跡観光に焦点をあてて検討した。そしてⅣ章では、ダークツーリズムという概念そのものの移動をふまえ、沖縄本島における墓地を対象とした観光の新しい変化について論じた。
  • 後期観光と集合的自己をめぐる試論
    山口 誠
    2017 年 5 巻 1 号 p. 111-125
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は、J. アーリとJ. ラースンが著した『観光のまなざし』第3版(Urry & Larsen, 2011 加太訳 2014)のうち、第1版(Urry, 1990 加太訳 1995)および第2版(Urry, 2002)と比較してみえてくる、新しく加筆された議論と変更された論点の2点に照準し、その意図と可能性を検討することで、観光研究の新たな論点を構想する。第一に、同書の第3版では「観光と写真」をめぐる議論が加筆され、その第7章では写真術のアフォーダンスが、第8章ではパフォーマンスが中心的に論じられることで、アフォーダンスとパフォーマンスの相関において具体的に現象する観光のモビリティを分析するための新たな方法論が提起されている。第二に、第3版では集合的まなざしをめぐる議論が大幅に増加し、その派生型とされるメディア化されたまなざしが注目されることで、観光のまなざしの解釈学的循環が重要なテーマとして浮上したといえる。そして、これらの加筆された論点の可能性を尽くさずに後期近代におけるリスク社会論(U. ベック)へ水準を変調させていった第3版の最終章を批判的に検証し、改めて後期近代論と観光研究を接続することで、後期観光と集合的自己という論点を提示し、観光研究の新たなテーマを模索した。そうして今日の再帰的な後期観光では、個人の外部にひろがる世界ではなく、その内部に潜む自己こそが目的地であり、集合的まなざしの共有によって集合的自己を追体験することがアトラクションの一つになっている状況を指摘した。
  • 薬師寺 浩之, 麻生 将, 濱野 健, 権 赫麟, 安田 慎
    2017 年 5 巻 1 号 p. 127-140
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
  • 場所との関係で立ち上がる「巡礼者」像
    竹中 宏子
    2017 年 5 巻 1 号 p. 141-144
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
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