「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、世界遺産登録を目指す過程の2016年に、イコモスから「日本国におけるキリスト教の歩みは、禁教(潜伏)期にこそ顕著な普遍的価値」が認められ、現状での登録は困難と指摘された。日本政府は、構成資産候補の変更や遺産全体の名称の変更といった対応を迫られ、すなわち、信徒への迫害や弾圧、反乱や鎮圧、改宗をめぐる軋轢といった、いわゆる負の歴史を中心とした物語性の確立が、登録への大きな関門に浮上した。
よって、構成資産を訪れる観光も必然的に本視点からの展開がみられるだろう。その際、ダークツーリズムの手法は、前面に負の歴史を悼み祈る旅との認識が中心に据えられるため、観光客にはそれらの物語性を扱うことへの事前了解が得られる有用性がある。一方、復活期の教会建築中心の遺産登録に理解を示してきた地域コミュニティに、その手法の受容は細心の配慮が求められる。とりわけ、観光教育がホストとゲストを媒介する存在として重要となろう。その上で、科学コミュニケーションとしてのダークツーリズムの言辞の浸透と、敢えて「ダークツーリズム」を掲げなくともその実質化が図られることとの両者における相互啓発が不可欠である。
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