観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
5 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • ツーリズム研究の一層の発展のために
    大橋 昭一
    2017 年 5 巻 2 号 p. 165-180
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    1990年代以降、記号論的研究の発展とともに、改めてツーリズム論分野でも記号論に立脚した研究が進展している。こうした記号論的研究は、全体的かつ大略的にみると、通常のツーリズム研究、すなわち非記号論的研究とは別の形で進行し、ツー リズム研究ではこれら2つの方向がいわば二者分裂的に進んでいる。これは他方では、ツーリズムはじめすべての人間行為は記 号に立脚するから、ツーリズム研究を含むすべての社会科学的研究は記号論が土台となるという記号論帝国主義的な主張となって現われている。これらを克服し、真に統合的なツーリズム論の確立のためには、記号論に立脚したツーリズム研究の特性を明らかにすることが必要である。本稿の結論的主張は、単に記号論立脚的研究と非記号論的研究の統合のみに志向したものではなく、それを含み、かつそれを超えた真に統合的なツーリズム論の方法論が必要とされるというところにある。
  • 今後の方向性
    シャープリー リチャード
    2017 年 5 巻 2 号 p. 181-183
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
  • ゲストとホストの邂逅の視点から
    深見 聡
    2017 年 5 巻 2 号 p. 185-196
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、世界遺産登録を目指す過程の2016年に、イコモスから「日本国におけるキリスト教の歩みは、禁教(潜伏)期にこそ顕著な普遍的価値」が認められ、現状での登録は困難と指摘された。日本政府は、構成資産候補の変更や遺産全体の名称の変更といった対応を迫られ、すなわち、信徒への迫害や弾圧、反乱や鎮圧、改宗をめぐる軋轢といった、いわゆる負の歴史を中心とした物語性の確立が、登録への大きな関門に浮上した。
    よって、構成資産を訪れる観光も必然的に本視点からの展開がみられるだろう。その際、ダークツーリズムの手法は、前面に負の歴史を悼み祈る旅との認識が中心に据えられるため、観光客にはそれらの物語性を扱うことへの事前了解が得られる有用性がある。一方、復活期の教会建築中心の遺産登録に理解を示してきた地域コミュニティに、その手法の受容は細心の配慮が求められる。とりわけ、観光教育がホストとゲストを媒介する存在として重要となろう。その上で、科学コミュニケーションとしてのダークツーリズムの言辞の浸透と、敢えて「ダークツーリズム」を掲げなくともその実質化が図られることとの両者における相互啓発が不可欠である。
  • 薬師寺 浩之
    2017 年 5 巻 2 号 p. 197-213
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、カンボジア・シェムリアップ市における孤児院で行われている日本人が参加するボランティアツアーを事例として、孤児院ボランティアツアーにおける演出とパフォーマンスについて考察を試みる。孤児院ボランティアツアーとは、ツアー参加者がボランティアという行為を通して孤児の貧困や不幸という「ダークネス」にまなざしを向け、さらに自身のリアリティを充足する、という一連の行為である。本来なら福祉施設の一形態である孤児院は観光資源の対極に位置付けられるべきものであるが、市場化・観光資源化されて観光者に開放されている孤児院も見られる。ボランティアツアーを受け入れている孤児院では、ツアー参加者がリアリティを充足したり自分の存在意義を再確認したりできるように、様々な演出がツアー催行業者や孤児院運営者によって行われ、さらにツアー催行業者や孤児院運営者の指示のもと孤児はパフォーマンスをしている。さらにツアー参加者自身も孤児院でのボランティア活動中、利他的・博愛的なボランティア活動実践者として相応しい振る舞いをするように自らを演出している。
  • インドネシア・ムラピ山噴火災害を事例としたダークツーリズムの再定位
    間中 光
    2017 年 5 巻 2 号 p. 215-230
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、被災を起因とした観光展開の分析を通じ、観光を通じた災害復興の可能性と課題を明らかにすることにある。具体的には2010年のインドネシア・ムラピ山噴火災害によって全戸焼失の被害を受けた山村を対象とする。近年、災害復興における観光の可能性への期待が国内外の被災地において示されている。しかし、ダークツーリズム論を中心とする既存研究は、記憶や教訓の継承など災害復興と観光が取り結ぶ関係性のごく一部を明らかにしてきたに過ぎなかった。そこで本稿では、復興過程を時系列的に分類し、各段階における観光事象の展開とその影響について明らかにしていくことを通じて、被災後の社会変動とその対応において、観光が果たしうる役割とその課題について考察した。結果、観光はボランティアツーリズムによる直接的な生活再建への貢献、及び被災地観光の生み出す収益による経済的貢献の2点について復興に寄与できる可能性を有していること、同時に、生み出された観光収益の限定性という課題が存在することを明らかにし、その上で、観光という営みが、災害復興という名の急激な社会変動の中で地域産業の回復を下支えする特質を有している点を指摘した。そして、それらの考察を通じ、被災地の観光とは、被災後の急激な社会変動の中で、観光の諸相・要素がせめぎあい・交じり合ながら形成される動態的なものであること、被災地のダークネスもその形成要素の一つに過ぎず、表出する内容・方法も復興過程の中で変動しえることを示した。
feedback
Top