日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
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薬物性肝障害―最新知見を基に
  • 大久保 慎吾
    セッションID: S9-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    新薬の安全性評価において用いられる従来のバイオマーカーの多くは、臓器特異性が低く、より精度良く安全性を評価するために、高い臓器特異性を有した新たなマーカーの開発が望まれている。近年、末梢血中の肝臓特異的mRNAあるいはmicroRNAが、既存のマーカーに比べて肝臓特異性が高く、高感度なマーカーとして注目されている。これら肝臓特異的RNAは、1)臓器特異性が高い、2)PCRで検出可能なため測定系の構築が容易、3)塩基配列が既知であれば動物種差に関わらず測定できる、というメリットがある。我々はこれまでに、末梢血中の肝臓特異的mRNAの安全性バイオマーカーとしての可能性を検証してきた。まず、各種遺伝子発現データベースから肝臓特異的mRNAとしてalbumin (Alb)およびα1-microglobulin/bikunin precursor (Ambp)遺伝子のmRNAを選定した。続いて、これらのmRNAが、既知肝毒性物質であるD-galactosamine HCl (D-gal)あるいはacetaminophenを投与したラットの末梢血においてRT-PCR assayにより検出されることを確認した。さらに、Alb mRNAはD-gal投与2時間後において、既存の肝障害マーカーであるALTが上昇する以前に末梢血中で検出された。一方、塩酸ブピバカインによるラット骨格筋障害モデルにおいては、ASTおよびALTの高値が認められたにも関わらず、Alb及びAmbp mRNAは末梢血中で検出されなかった。以上より、肝障害時に末梢血中で検出される肝臓特異的mRNAは、従来マーカーに比べて臓器特異性の高い肝障害バイオマーカーとして利用できる可能性が示された。さらに、上記2種のmRNAに加え、apolipoprotein h、group specific component、plasminogen及びsolute carrier organic anion transporter 1b2 mRNAの4種類の肝臓特異的mRNAをこれまでに選定し、血漿中の6種のmRNAの絶対定量法を構築した。本シンポジウムでは、我々の最近の検討結果並びに末梢血中mRNAあるいはmicroRNAをマーカーとして利用する研究の最新動向を紹介する。
  • 水口 裕之
    セッションID: S9-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    肝毒性は医薬品候補化合物の開発中止原因の主要なものであり、正常肝細胞を用いて将来起こりえる高い潜在的毒性発現を研究開発の初期段階に予測できれば、より安全性の高い医薬品を効率良く開発することにつながると考えられる。現在は、主に初代培養ヒト肝細胞を用いて、毒性試験が施行されている。しかしながら、コストや高機能なヒト肝細胞ロットの安定供給の問題等から、ヒトES/iPS細胞由来分化誘導肝細胞を用いた毒性評価系の開発が期待されている。
     ヒトES/iPS細胞由来分化誘導肝細胞を毒性評価系に応用するためには、高機能な分化誘導肝細胞を作製することが最重要である。従来の方法は、細胞分化の各ステップにおいて、最適な液性因子(増殖因子やサイトカイン等)を付加することで分化を誘導するものであるが、ヒトES/iPS細胞から肝細胞への分化効率が低いこと、さらに得られた細胞も薬物代謝酵素の活性が低い未成熟な肝細胞であることが課題となっている。我々は、一過性に効率良く目的遺伝子を発現させることが可能なアデノウイルスベクターの特徴を最大限に生かして、ヒトES/iPS 細胞から肝細胞への分化過程において、肝臓の発生に重要な遺伝子を、分化の適切な時期に導入することにより、肝細胞への分化効率を飛躍的に高めることに成功した。本講演では、我々が取り組んでいるヒトES/iPS細胞から肝細胞への分化誘導法の開発に関する最近の研究について紹介する。
  • 藤村 昭夫
    セッションID: S9-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    生命科学の進歩に伴って多くの優れた薬物が創られ、患者の予後は著しく改善した。しかし、投与した薬物によって重篤な有害反応が生じ、時には患者が死に至ることもある。このような事態を防ぐために、臨床医は薬物の適正使用を心掛けているにも係わらず、薬物有害反応を根絶することが出来ない。本シンポジウムのテーマである薬物性肝障害については、全国の医療機関から毎年1000件を超える報告が医薬品医療機器総合機構に寄せられている。薬物性肝障害を防ぐ方策の一つとして、有害反応出現予測バイオマーカーを見出し、これを臨床の場に導入することが考えられる。しかし現状では、UGT1A1の遺伝子多型の有無によって抗がん薬であるイリノテカンの有害反応(肝障害、骨髄抑制等)を予測することが日常臨床で行なわれているのみである。そこで演者らは前立腺癌治療薬であるフルタミドを用いて、薬物投与前に肝障害を予測するために有用なバイオマーカーを探索した。その結果、肝障害が出現した患者と出現しなかった患者間で、薬物投与前の末梢血細胞におけるmRNA発現量に有意差のある遺伝子を3種類同定した(learning case)。さらに新たな患者集団を対象にして検証した結果、そのうち1つの遺伝子発現が両群間で有意差を認めることを確認した(validation case)。現在、この遺伝子と肝障害発現機序の関連性について解析中である。本シンポジウムでは、日常臨床における薬物性肝障害の現状および肝障害出現予測バイオマーカーに関して述べたい。
シンポジウム10
重金属の毒性とその防御の分子メカニズム
  • 藤代 瞳, 姫野 誠一郎
    セッションID: S10-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    カドミウム(Cd)は腎障害とそれに起因するイタイイタイ病、マンガン(Mn)はパーキンソン病様の神経症状の原因である。しかし、CdやMnの輸送機構はまだ十分に分かっていない。われわれは、これまでにCdあるいはMn耐性細胞を作成し、その性状を解析することにより、CdおよびMn輸送に亜鉛輸送体であるZIP8, ZIP14, および鉄輸送体の DMT1が関与することを明らかにしてきた。本研究では、①Cd毒性の標的組織である腎臓におけるCd輸送、②Mn毒性の標的組織である脳神経細胞におけるMn輸送について解析し、それぞれの標的臓器におけるZIP8, ZIP14, DMT1の役割について検討した。
     腎臓近位尿細管由来細胞を用いてsiRNAによりZIP8、およびZIP14の発現を抑制すると、管腔側からのCd、Mn取り込み効率が約50%に低下した。また、in situ hybridizationにより腎臓近位尿細管のS1, S2領域よりもS3領域でZIP8, ZIP14の発現が高いことを見出した。したがって近位尿細管のS3領域の管腔側からのCd, Mn取り込みにZIP8, ZIP14が関与していることが示唆された。
     一部の原発性パーキンソン病患者において、金属が脳内へ異常蓄積することが報告されている。また、パーキンソン病におけるIL-6などの炎症性サイトカインの役割が示唆されている。そこで、神経細胞における金属輸送機構およびIL-6による影響を解析した。脳神経系の細胞では、DMT1のみならず、ZIP14がMn輸送に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。また、IL-6がZIP14の発現上昇を介してMnの神経細胞への取り込みを促進する可能性を明らかにした。
  • 木村 朋紀
    セッションID: S10-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    カドミウム結合タンパク質として馬の腎臓皮質で発見されたメタロチオネイン(MT)には、MT-I~IVまで4つのサブファミリーがあり、このうちMT-IおよびIIが広範な臓器で発現している。また、MT-IおよびII遺伝子の転写は、必須微量元素である亜鉛や銅、有害重金属であるカドミウムや水銀などにより活性化され、合成されたMTタンパク質がこれら重金属と結合することで亜鉛や銅の恒常性維持、有害重金属の毒性軽減に関わっていることが知られている。このような重金属に応答したMT誘導メカニズムの解明は、重金属解毒機構を理解する上で不可欠あることから精力的に研究が行われ、1990年代前半には、重金属依存的なMT誘導に関わるシスエレメントとしてmetal response element (MRE)、転写因子としてMRE-binding transcription factor-1 (MTF-1)が同定された。しかしながら、その詳細な重金属依存的転写活性化機構については、MTF-1の発見から20年近くたった今もなお、完全には解明されていない。特に、in vitroにおいてMTF-1のMREへの結合を促進する重金属は亜鉛だけであることから、亜鉛以外の重金属によるMT遺伝子の転写活性化機構は亜鉛による誘導に比べて複雑であると予想されてはいるが、その詳細は不明である。本シンポジウムでは、種々MTF-1変異体を用いた解析結果をもとに、亜鉛応答ドメインとMTF-1タンパク質が亜鉛を感知するメカニズムを紹介する。また、亜鉛以外の重金属によるMT遺伝子の転写活性化機構として、亜鉛シグナルへの置換、各種リン酸化カスケードの関与の可能性を含め、いくつかの仮説を紹介する。さらに、MTF-1と複合体を形成するタンパク質群を紹介し、重金属応答との関連性について考察する。
  • 新開 泰弘
    セッションID: S10-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    メチル水銀やカドミウムのような重金属は親電子性を有し、タンパク質の反応性システイン残基と共有結合を形成してその機能障害に関わることが知られている。一方、生体はそのような反応性の高い化学物質から身を守る感知・応答の適応システムを有しており、最も代表的なシステムとしてKeap1-Nrf2系が明らかにされている。すなわち、生体はセンサータンパク質であるKeap1の反応性システイン残基によって親電子物質を感知し、それが引き金となって普段は負に制御されている転写因子Nrf2の活性化を引き起こす。Nrf2は第二相異物代謝酵素群および第三相トランスポーター群の発現を一括制御していることから、細胞は反応性化学物質の解毒および細胞外への排泄を促進できる。最近我々は、このKeap1-Nrf2系が有機化合物だけでなく、重金属の毒性防御機構においても重要な役割を担っていることを明らかにした。言い換えれば、重金属の曝露によって観察される毒性の表現型は、毒性発現系がKeap1-Nrf2システムのような生体防御系の閾値を上回ったことによって恒常性が破綻した結果であると理解できる。加えて、薬剤や植物由来成分によるKeap1-Nrf2システムの効率的な活性化は、ホルミシス効果を介した化学防御への応用が期待されている。実際、我々はブロッコリー含有成分であるスルフォラファンやワサビ含有成分である6-HITCが、Nrf2の活性化を介してメチル水銀の生体内(細胞内)蓄積量を低下させ、その中毒症状を軽減できる働きを持つことを明らかにした。
     本シンポジウムでは、我々が明らかにしてきた重金属毒性に対するKeap1-Nrf2システムの防御的役割を紹介し、当該システムを介した重金属の化学防御について考察する。
  • 中西 剛
    セッションID: S10-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    重金属は強い毒性を示すものが多いが、一般的にこのような低分子化合物の分子レベルでの毒性発現機構の解明は困難である。近年、内分泌かく乱化学物質問題で話題となったトリブチルスズ(TBT)やトリフェニルスズ(TPT)は、貝類などの生物種に特徴的な生殖毒性を誘引するが、我々はこれらの有機スズ化合物が核内受容体であるretinoid X receptor(RXR)とperoxisome proliferator-activated receptor (PPAR)γの強力なデュアルアゴニストとして働くことで、ヒトを初めとする様々な生物種に対して内分泌かく乱作用を発揮する可能性を明らかにした。一方で、これらの受容体に対するリガンドの結合様式は、X線結晶構造解析法によりホロ構造解析が行われており、リガンド結合ポケットの各部位に収まる官能基がある程度予測されている。しかしながらTBTやTPTは、既知のリガンドとは大きく構造が異なることから、その結合様式は不明な点が多く、また大きく異なることが予測される。さらにTBTやTPTと類似構造を有する化合物についても、リガンド活性を有するものが存在するかもしれない。本講演では、有機金属化合物の毒性と核内受容体リガンド作用について、その構造面から議論したい。
  • 黄 基旭
    セッションID: S10-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    中枢神経障害を主症状とする水俣病は、メチル水銀による環境汚染が原因となって引き起こされた公害病として世界的に良く知られている。近年、「魚介類を介してメチル水銀を比較的多く摂取した女性から生まれた子供に運動や精神の発達障害が認められる」との疫学調査結果が発表されるなど、メチル水銀による健康影響が世界的に懸念されている。しかし、メチル水銀による毒性発現機構およびそれに対する生体の防御機構は未だほとんど解明されていない。
     これまでに我々は、メチル水銀による毒性発現機構を解明するために、ヒトと同じ真核細胞生物であり遺伝子産物の多くが機能的にヒトと共通している酵母を用いて、メチル水銀に対する細胞の感受性に影響を与える遺伝子群の検索を行った。その結果、multivesicular body (MVB)ソーティングシステムに関わる複数の蛋白質がメチル水銀の細胞毒性を増強する作用を有することを見出した。MVBソーティングシステムは、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれた膜蛋白質(受容体やトランスポーター)などを、液胞(リソソーム)に運んで分解するか細胞膜に戻して再利用するかを選別する重要な細胞内機構の一つと考えられている。これまでの検討により、MVBソーティングシステムを介してエンドソーム内に取り込まれた後に液胞まで輸送される蛋白質の中にメチル水銀毒性増強に関わる因子が含まれている可能性が示唆されている。MVBソーティングシステムとメチル水銀毒性との関係について検討された例はなく、我々が見出した「エンドソームを介した液胞での蛋白質分解系に関わる因子がメチル水銀の細胞毒性を増強する」という知見は、これまでに知られていない蛋白質分解を介した全く新しいメチル水銀毒性発現機構の存在を示唆するものである。今回は、MVBソーティングシステムを介して液胞に運ばれ、かつ、メチル水銀毒性を増強させる蛋白質の同定、およびメチル水銀毒性発現におけるMVBソーティングシステムの役割に関する我々の最近の知見を紹介する。
  • 山本 千夏, 鍜冶 利幸
    セッションID: S10-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    血管はあらゆる組織に普遍的に存在しているので,血管毒性は重金属の器官毒性の理解に重要である。内皮細胞はすべての血管に存在する唯一のcell typeであり,血管の内腔を一層で被い,血液と内皮下組織を隔てる障壁となっている。したがって,器官毒性には内皮細胞に対する毒性の2次的影響が多様な程度と様式で反映されると考えられる。カドミウムは強い毒性を示す重金属であるが,その器官毒性の表現型もまた内皮細胞に対する毒性に修飾されるであろう。カドミウムの細胞毒性の発現には,カドミウムの細胞内への侵入,カドミウムと標的分子の相互作用,カドミウムに対する防御機構の破綻,などが総合的に表現されるが,細胞内への侵入は最初の段階として特に重要であると思われる。実際,演者らは内皮細胞に対するカドミウムの細胞毒性の亜鉛による防御には防御機構を担うメタロチオネインの誘導は関与せず,亜鉛がカドミウムの細胞内への蓄積を低減することが重要であることを明らかにしている。近年,カドミウムの細胞内への取り込みに亜鉛トランスポーターが関与していることが分かってきた。カドミウムの精巣毒性に対して高い感受性を示すマウスの系統では,精巣血管内皮細胞のSLC39A8と呼ばれる亜鉛トランスポーターが高く発現していることも報告されており,亜鉛トランスポーターの発現・発現調節とそれに依存するカドミウムの細胞内蓄積が毒性発現の分子機構として重要であることが示唆される。この作業仮説に基づき,亜鉛トランスポーターの発現に及ぼすカドミウムの作用と細胞毒性の発現および亜鉛トランスポーターの発現を調節する因子によるカドミウムの細胞毒性の修飾について,血管内皮細胞を用いて検討した最近の研究を紹介する。
シンポジウム11
臨床副作用と非臨床毒性の相関 -種差を乗り越えて-
  • 王鞍 孝子, 永山 隆, 米田 保雄, 服部 健一, 荻野 大和, 田牧 千裕, 高島 吉治, 安木 大策, 橋場 雅道, 久田 茂, 中村 ...
    セッションID: S11-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    臨床副作用と非臨床毒性所見の相関性については、医薬業界に携わる多くの者が興味を抱いているところであり、過去にもいくつかの調査がある。国内においては、1992年から1994年にかけて、製薬協で開発中止薬のアンケート調査や市販薬の文献調査1-3)などが実施されている。これらの調査は、主に非臨床試験ガイドラインの作成に当たり、その妥当性を確認することを目的として実施されたものである。海外においてはOlsonら4)の報告がある。
     過去の製薬協の調査から20年近く経過し、多数の生物製剤や治療ワクチンの登場など、状況も大きく変わっていることから、現在販売されている医薬品(調査対象:平成13年~22年承認の新有効成分含有医薬品)を中心に、臨床副作用と非臨床毒性の相関性を添付文書・審査報告書・承認申請資料などの公開資料を情報源として調査した。特に、本調査では、相関性が認められない副作用の種類を確認することに主眼を置いて、多方面から解析を行った(例えば、薬剤の薬効群、投与法、副作用発現頻度及び相関のある副作用に関しての動物の種類、暴露量や投与期間等)。これらの結果から、非臨床毒性試験における限界と今後の課題を考えたい。
    1) 製薬協、医薬品評価委員会、基礎研究部会資料52, 1992年, 毒性試験結果と臨床副作用の関連性
    2) 製薬協、医薬品評価委員会、基礎研究部会資料61, 1993年, 臨床副作用と動物試験データの関連性に関するアンケート調査
    3) 製薬協、医薬品評価委員会、基礎研究部会資料65, 1994年, 臨床副作用と動物試験結果の関連性に関する文献調査
    4) Olson H et al. Concordance of the toxicity of pharmaceuticals in humans and in animals. Regul. Toxicol. Pharmacol. 2000, 32, 56-67
  • 田辺 和俊, 鈴木 孝弘
    セッションID: S11-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    化学物質の毒性の評価には通常、動物を用いた試験が行われ、きわめて長い期間、莫大な費用と多数の動物が必要である。近年では動物愛護の観点から毒性試験が問題になっており、特に欧州では動物実験に対して厳しい法規制がとられている。したがって、化学物質の毒性を動物実験により評価することが困難になりつつある。そこで、毒性評価の動物実験に代わる手段として、コンピュータを用いる毒性の予測技術が注目されている。化学物質の毒性予測の原理は、類似の構造をもつ化学物質(同族体)は類似の毒性を示すという「構造活性相関」である。特に、同族体群について化学構造を反映する記述子と毒性データとの相関を解析する「定量的構造活性相関(QSAR)」に基づき、化学物質の構造から毒性を予測することが可能となる。これにより、多数の動物を用いる毒性試験が不要になり、化学物質の安全管理の観点から大きな意義がある。また、新規の化学物質を合成、製造する前にその毒性を事前に評価することも可能になり、新規化学物質の開発にとっても意義が高い。このような観点から、化学物質の毒性を構造から予測する手法の研究開発が欧米では活発に行われている。しかし、任意の構造の化学物質の毒性を十分な精度で予測できる手法は未だない。その原因の1つは、毒性予測システムを開発するために必要な信頼性の高いデータの不足である。予測の精度が高く、かつ適用範囲の広い予測システムを開発するためには、できるだけ多数の化学物質について信頼性の高い毒性データを集積した大規模DBの構築が必要である。QSARに基づき化学物質の構造から毒性を予測するシステムはこれまでに多数開発されている。しかし、それらの予測精度は動物実験代替の予測手法としては満足できる性能でない。本講演では、QSARに基づき化学物質の構造から毒性、特に発ガン性を中心に、予測技術の現状を概観する。
  • 山田 弘
    セッションID: S11-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発の効率化(成功確率の向上)、開発期間の短縮およびヒトへの外挿性の向上などを目的に、製薬企業は医薬品開発プロセスに新しいテクノロジーの導入を精力的に進めている。医薬品の安全性評価領域においても、安全性評価能力の向上を目的として、Mechanistic Tool Boxを充実させる研究が盛んに行われている。その開発の進展は目覚ましく、ハイスループット且つ網羅的な毒性データの取得を実現するテクノロジーが登場している。ここでは、Mechanistic Tool Boxについて、研究を進める上において必要となる様々な試験法、情報、機器、モデル動物、技術などの総称と定義する。それらの中には、近年、基盤科学が革新的に進歩したオミクス技術も含まれる。化合物の安全性評価においては、試験系あるいは種の間での精度の高い外挿が課題となっている。多くの場合、ヒトと実験モデルの間には用量―反応相関において定量的な違いが存在し、極端な例では生物学的反応が質的に異なる場合も想定される。このことから、種間の毒性反応の関連付けに用いる「ブリッジングバイオマーカー」の開発の重要性が認識されており、当マーカーの開発においてもオミクス技術は重要な位置付けにある。Mechanistic Tool Boxの充実は、医薬品の安全性評価戦略に大きな変革をもたらすと共に、特に探索段階における安全性評価能力の向上に寄与している。将来は、systems biologyに係る研究の進展に伴い、生命の挙動を解析し、自動的に生命現象をシュミレーションするような優れたin silicoシステムも登場するであろう。
    本講演では、医薬品開発おける安全性評価能力の向上を目指して導入されているin vitroin silico評価系、オミクス技術を応用したバイオマーカー探索の事例などについて紹介する。
  • 山添 康
    セッションID: S11-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    臨床適用において出現する可能性のある有害作用を、開発を目指す候補薬物の段階で予測できれば、開発効率の向上と治療適用時の副作用の出現抑制に役立つと期待されてきた。実験動物を用いた投与試験から得られる情報には限界があるため、細胞系試験等を組み合わせて精度を向上させる方法が採用されてきた。しかしながらこれまでの歩みは目覚ましいとは言えないのが現実である。現在バイオマーカーが注目されているが、薬効だけでなく安全性においても実験動物とヒトをつなぐマーカー(指標)が必要であり、これに動態や種特異的な機能情報を組み合わせて精度の向上が図られると思われる。
    演者らはヒト代謝酵素(CYP)の基質特異性を、基質構造情報から予測するシステムを開発している。現在5CYP分子種について95%以上の精度で代謝部位を予測できている。このシステムの開発過程で、P450分子種が示す基質代謝部位の種差が特定部位の相互作用に由来することがわかってきた。このシステムはヒト特有代謝物の予測にも有用である。
シンポジウム12
In vitro 毒性試験法の探索毒性試験への展開
  • 小島 肇
    セッションID: S12-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    製薬業界において、医薬品の探索試験としてのin vitro試験の活用が増えつつある。これらの試験法を用い、多くの創薬候補物質のスクリーニングを進めることは、新規医薬品の開発を短期かつ安価に促すことになり、国際的な新薬開発競争が激化する昨今、極めて有用であると思われる。この試験法にはもちろんin vitro毒性試験も該当する。市場から撤退を余儀なくされる医薬品のほとんどが動物実験では検出できなかったものや、個人差の大きい副作用によるものであることもあり、ヒト細胞を用いた探索毒性試験に掛ける期待は大きい。
     これら試験は探索毒性試験法であることもあり、行政的な公定化はもちろん不要であり、JaCVAM(日本動物実験代替法評価センター)の出番はない。しかし、新規に開発された技術やキットを利用する場合は、専門家による第三者評価が十分になされていないこともあり、科学的妥当性はあるのか、偽陽性の判断で有用な候補物質を見殺しにすることはないのか、偽陰性の判断で余分な追加実験を科すことにならなかいという利用者の不安を払拭できないことも確かである。このような試験法を導入する場合、学会や業界などにおける有志の協力を得て、共同研究を行うことにより、試験法の意義やプロトコルを見直すことが無難である。これにより、試験法が揉まれ、より有用性の高い試験法に磨かれていくと感じている。
     このような試験法の開発に、協力者を呼び掛け、少ないながらも金銭的な支援をする、バリデーションのノウハウを用いて技術的な協力をすることも、国立医薬品食品衛生研究所にある新規試験法評価室の使命でもあると考えている。
  • 大林 徹也, 押村 光雄
    セッションID: S12-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    実験動物を用いた反復投与毒性試験は、一般毒性に関する知見を得る方法として広く用いられてきている。しかし、この試験法は多くの実験動物を犠牲にするため動物愛護を取りまく社会的かつ倫理的な問題がある。また経済・産業的な面からも、経費や時間がかかるといった課題がある。そのため、この試験法を代替した新たな試験法を開発することが重要である。実験動物を細胞で代替するin vitro試験法には常に「動物ではなくて、培養細胞で毒性を評価して本当に大丈夫(安全・安心)なのか?」という疑問がある。なぜこのような疑問が生じるのか?それは、体内(in vivo)で機能している細胞の働きを試験管内(in vitro)で再現できているか比較して評価するための科学的な証拠や説明(エビデンス)が不足しているため生じているためではないかと考えた。
     これらの疑問や課題を克服するためには、鳥取大学で開発してきた「人工染色体ベクター」を用いた最先端の遺伝子改変・導入細胞作製技術が極めて有効である。この人工染色体ベクターを用いると、従来では困難であった複数の遺伝子の導入した細胞の樹立が可能になる。そのため導入する遺伝子にあらかじめ指令をプログラミングしておけば、細胞や動物を自在にコントロールすることが可能になる。現在、発光や蛍光タンパク質を用いることで、毒性評価を可能にするプローブ遺伝子の開発が進んでいる。このようなプローブ遺伝子を人工染色体ベクターに導入することで、新しい毒性試験法を開発することが可能になる。
     また細胞を用いたin vitro評価系が本質的に抱える問題「細胞 (in vitro)と実験動物 (in vivo )を用いた実験の比較をどのように行うか?」とともに考ええるべき課題、「ヒトと動物の種差のどのように解決するか?」に関しても、我々の最先端技術を用いたシステムでできることを発表する。
  • 関野 祐子
    セッションID: S12-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    非臨床試験に利用される動物モデルは、被験薬に対する反応性のヒトと動物の種差の影響が極力少なくなるように慎重に選択されてはいるものの、ヒトに対する被験薬の有効性・安全性評価には限界がある。臨床試験や市場においてヒトへの有害作用が初めて判明し、開発または販売が中止になるとその経済的損失は大きい。さらに近年、ヒト特異的タンパク質を標的とするバイオテクノロジー応用医薬品が登場し、化学薬品を対象としてきた従来の試験法の有害反応予測性の限界はさらに深刻な問題となる。そこで、これまでにも増して被験薬のヒト特異的な有害反応を予測する試験法の開発が望まれてきており、従来の非臨床試験に加えて、ヒト型タンパクを発現する遺伝子改変動物の利用、ヒト細胞を用いたin vitro試験法などによる追加情報が求められるようになってきた。
     ヒト由来人工多能性幹(iPS)細胞作製技術の開発には、医薬品の承認申請に必要とされる種々の試験系にヒト細胞を利用することを可能にすることが期待される。しかしヒトiPS細胞の実用化に関しては、再生医療への応用に重きが置かれており、医薬品開発への利用研究は遅れている。我々は現在、ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋やニューロンを用いたin vitro非臨床試験への応用可能性を検証している。ヒトiPS細胞由来の心筋やニューロンを非臨床試験法に利用するには、標本や実験プロトコールの標準化に関する研究をレギュラトリーサイエンスとして戦略的に推進して、関連情報の共有化を行うことが重要である。そして、多施設間で実験データの再現性を確認できる環境をいち早く整備すること即ち、多くの試験施設で同じ細胞特性を示す分化細胞を利用できる環境整備が必須である。今後、分化細胞の配給システムの構築、多施設間バリデーションを実現できる試験プロトコール整備を急ぐ必要がある。
  • 相場 節也
    セッションID: S12-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    日常生活において使用されている数万種にも及ぶといわれる化学物質の免疫毒性を評価するためには,動物を用いないhigh throughput screening (HTS)系の確立が不可欠である.そこで2003年開催ECVAMワークショップにおいて,in vitro免疫毒性評価法の一つとして新たにサイトカイン産生抑制の項目が加えられた.しかし,この中でとりあげられ,唯一ECVAMによるprevalidationが終了している検査法であるwhole blood cytokine release assay (Langezaal et al Alt Lab Animal, 2002)にしても,毒性評価に健常人からの採血を必要とするためHTS化が困難であること,個体差により試験結果が変動しやすいことなどの問題点を有している.一方,現在唯一報告されているサイトカイン産生を指標としたHTS系であるFluorescent cell chip (Wagner W et al. Toxicol Lett, 2006)は,ヒトではなくマウス細胞を用いている.我々は,平成18−22年NEDOプロジェクトにおいて,産業総合研究所が開発した3色発光細胞の技術を応用し, Jurkat細胞におけるINF-γ,IL-2, G3PDHプロモーター活性, THP-1細胞におけるIL-8,IL-1β, G3PDHプロモーター活性をhigh throughputに評価できる多色発光細胞を樹立し,化学物質の免疫毒性評価システム(Multi-ImmunoTox assay; MITA)を構築した(特願2010-131362; PCT/JP2011/65090).このシステムでは,化学物質の4種類ヒトサイトカイン転写活性に及ぼす影響を2種類の細胞を用いて6時間でhigh throughputに評価が可能である.本講演においては,MITAの概略を説明するとともに,MITAにより現在臨床に用いられている免疫調節性薬剤を評価した際の感度,特異度,さらにはそれらをもとに考えられる有用性について報告する.
  • 太田 之弘, 王鞍 孝子, 長井 大地, 岩井 久和, 片木 淳
    セッションID: S12-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品の開発において化合物及びその代謝物のin vitro肝毒性評価が,肝細胞や組織等を用いた種々の方法により試みられてきた。しかし,従来法では代謝能を長期間維持することが難しく,より生体に近い状態が維持された肝細胞培養系による毒性評価法の確立が望まれてきた。安全性評価研究会スフェロイド分科会では,肝細胞の長期培養が可能で,より生体に近いと考えられる三次元(スフェロイド)培養法の有用性について代謝および毒性の側面からヒト肝細胞を用い多施設で検討したので,その結果について紹介したい。
     代謝物の安全性を評価する上ではヒト代謝物をできるだけ早い段階で検討することが望まれている。従来の浮遊あるいは単層培養法でのin vitro代謝試験では,臨床で確認されている代謝物の5~6割程度の検出に止まり,その中でも第2相の代謝物生成は低いと報告されている。スフェロイド培養法を用いることで抱合体の検出に限らず,CYPと抱合代謝など多段階で産生する代謝物も検出された。曝露時間の違いによる代謝物産生プロファイルの変化を観察することも可能であった。毒性評価面では従来の単層培養法では長期維持評価が困難であり,毒性検出のために高濃度の化合物曝露が必要,あるいは,代謝活性化による毒性検出が不十分,など必ずしも生体の反応を反映できていない問題点があった。スフェロイド培養法を用いることで低用量域からalbumin分泌量の低下やAST逸脱量の増加が観察され,肉眼的なスフェロイドの形態変化も毒性の指標として有用であった。
     今回のスフェロイド培養による研究では、施設間の差が比較的少なく評価系として有用であることも確認された。今後、スフェロイド培養法により代謝物を含めた化合物のin vitro毒性評価系の構築が期待される。
シンポジウム13
環境化学物質による毒性メカニズムの分子基盤
  • 古武 弥一郎
    セッションID: S13-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    パーキンソン病 (PD) は老年期に発症する神経変性疾患であり、遺伝的素因と環境因子の両者が発症に関与していると考えられている。環境因子として毒性物質の関与が指摘されているが、その詳細は明らかとなっていない。我々は光親和性標識の手法を用いることにより、以前にPD患者脳脊髄液で増加傾向にあることを見出した1-benzyl-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline (1BnTIQ) という物質が細胞骨格タンパク質チューブリンに結合することを見出した。チューブリンは遺伝性PDの原因遺伝子産物であるユビキチン (Ub) 転移酵素parkin の基質であり、家族性PDで認められる変異によりチューブリンのポリUb化が減少することが報告されている。そこで、1BnTIQによるチューブリンのUb化阻害についてSH-SY5Y細胞を用いて検討を行ったところ、PD患者脳脊髄液に存在する濃度付近の1BnTIQによってもチューブリンのUb化阻害が認められた。次に、PDモデル細胞作成に汎用されるMPP+の低濃度によるparkinやその基質チューブリンに対する影響を調べたところ、10 µM MPP+はparkin活性を阻害し、その基質チューブリンのユビキチン化阻害を惹起することが、parkinやチューブリンの不溶性画分における増加に繋がる可能性が考えられた。また、別のPD関連物質ではparkinに共有結合することによりparkin活性を阻害し、不溶性画分のチューブリンを増加させた。つまり、PD関連毒性物質は共通して、チューブリンのユビキチン化阻害とその不溶化を惹起することが明らかとなった。一方、10 µM MPP+はSH-SY5Y細胞にオートファジー空胞を増加させ、オートファジーマーカーであるLC3-IIを増加させることから、オートファジーとの関連が示唆される。現在、PD関連毒性物質により惹起されるこれらの現象を統合的に理解すべく研究を遂行しており、本発表では、化学物質の毒性と疾患との関連について考察したいと考えている。
  • 今岡 進
    セッションID: S13-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    内分泌攪乱化学物質と考えられているビスフェノールA(BPA)やPCBの代謝物である水酸化PCBがプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)に結合することが明らかになっている。PDIは新生タンパク質やミスフォールドしたタンパク質のジチオールージスルフィド形成または変換(イソメラーゼ)を触媒する酵素である。BPA誘導体、PCB代謝物である水酸化PCB、難燃剤として使用されるPBDEさらにはその代謝物を用いてPDIとの結合性を検討した結果、PDIとの結合には、フェノール構造が必要であること、またベンゼン環の水素がハロゲンに置換されるとその結合性が変化することが明らかとなった。さらに、これらの化合物の結合はPDIのイソメラーゼ活性を阻害した。一方、PDIはa,a’, b,b’の4つのドメインから構成される。様々なドメイン変異体を用いてPDIとの結合性を検討した結果、aとb’ドメインにBPAが結合し、b’ドメインへの結合が活性を阻害することが明らかとなった。一方。PDIには甲状腺ホルモン(T3)が結合することが知られており、PDIはT3のリザーバーとしての機能も提案されている。実際にラット脳下垂体細胞(GH3)にPDIを過剰発現させるとT3による(甲状腺ホルモン受容体を介した)、成長ホルモン(GH)の発現が抑制されることを明らかにしている。この機構についても検討した。T3が結合する部位であるa,またはb’ドメイン欠損体または活性部位変異体を作成した。WTおよびこれらの変異体をGH3細胞に過剰発現して、GHの発現を検討した結果、活性部位変異体でのみT3によるGHの発現が抑制されなかった。このことはPDIのイソメラーゼ活性が甲状腺ホルモン受容体の働きを調節していることを示すものである。様々な検討の結果、PDIがRef-1を介して甲状腺ホルモン受容体のシステイン残基の酸化・還元状態を変化させてその活性を調節していることが明らかになった。BPAなどの環境化学物質がこれらの機能に影響を与えているかどうか明らかでないが、Ref-1は低酸素感受性因子HIFの機能も調節していることが報告されており、BPAは低酸素応答も阻害することを明らかにしている。これらの結果はBPAのような環境化学物質がホルモン受容体に直接的に作用するのではなくPDIの機能を介して作用する新たな機構を示唆するものである。
  • 上原 孝
    セッションID: S13-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    一酸化窒素(NO)に代表される生体内酵素によって産生されるガス状分子に関する研究は精力的に行われているが,毒性や強度の酸化ストレスとしての側面を探るものが主である.このような条件下では複数のシグナルが同時に,かつ強力に変化するために,本質を捉えることが難しい.しかしながら,近年,NO結合性タンパク質特異的検出法(ビオチンスイッチ法)や蛍光プローブが開発されたことによって,組織・細胞内における産生場所/量とともに修飾部位/様式も比較的簡便に証明することが可能となり,病態・生理的役割も明らかになりつつある.
     これまでに私たちはNOと神経細胞死との関係を研究し,新規毒性発揮機構を提唱してきた.とくにアルツハイマー病に代表される孤発性神経変性疾患発症にニトロソ化ストレスが関与し,その標的としてE3リガーゼParkinや小胞体内腔に存在するタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを同定した.これらは比較的高濃度で持続的なNO暴露によって酵素活性が変化し,最終的に変性タンパク質を蓄積させることで神経細胞死を惹起することを明らかにした.
     低濃度のNOはアポトーシスを抑制することが報告されてきたが,その詳細な機構は不明であった.私たちは低濃度NOに特異的に反応するタンパク質を抗体アレイを用いて網羅的に解析し,その一つとして,脱リン酸化酵素PTENの同定に成功した.非常に低濃度のNOはPTENをS-ニトロシル化し,アロステリックに活性を調節していることが明らかとなった.このとき,下流に位置するAktの活性がonとなり,抗アポトーシスシグナルが亢進していた.一方,高濃度のNOはPTENを抑制するが,Akt活性もS-ニトロシル化を介して抑制した.したがって,NOはAktシグナルのon/offに関わるスイッチ分子として作用することが示唆された.このように, NO濃度によって一つのシグナル経路が巧妙に制御されていることが明らかとなり,この機構が神経細胞死/防御に深く関与することが示唆された.
  • 熊谷 嘉人
    セッションID: S13-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    細胞内には多種多様なシグナル伝達経路が存在し、それらが恒常性の維持(ホメオスタシス)に重要であることは論を待たない。細胞内ではリン酸化シグナル以外にも、センサータンパク質のシステイン残基の酸化還元で制御されているレドックスシグナルがある。興味深いことに、酸化ストレスや炎症時に環状ヌクレオチド、脂肪酸、プラスタノイドや神経伝達物質から内因性親電子物質が産生され、これらはセンサータンパク質のシステイン残基に共有結合することから、“親電子シグナル”の存在が注目されている。一方、大気中で化石燃料の光酸化で生じる1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)および生物濃縮を介してマグロ等の食用大型魚類に含まれているメチル水銀(MeHg)は同様の化学的特性を有することから、典型的な外因性親電子物質として知られている。1,2-NQおよびMeHgに関する毒性学的研究は広範に検討されてきたが、我々は「このような外因性親電子物質の毒性発現の一因は、内因性親電子物質によるシグナル伝達の制御に起因するホメオスタシスを撹乱することで、量—反応に依存して細胞増殖やアポトーシスを引き起こすことではないか」と考えた。親電子物質によるタンパク質の化学修飾に対する制御系としてグルタチオンによる抱合反応が示唆されてきたが、内在性ガス状物質と知られている硫化水素(H2S)のpKa値が6.76であることから、我々は「生理的条件下ではH2S の大半がHSアニオンという求核分子で存在し、親電子物質の不活性化に働いている」と予想した。
     本シンポジウムでは、我々が明らかにしてきた環境中親電子物質によるセンサータンパク質の化学修飾に由来するシグナル伝達とその新奇制御系としてのH2Sを紹介し、当該物質の毒性発現との関係を考察する。
  • 松田 知成
    セッションID: S13-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    内因性、外因性の発がん物質によって、DNAに付加体ができると、突然変異や発がんの原因となる。ごく微量なため、生体内DNA付加体の測定は非常に難しかったが、10年ほど前からLC/MS/MSによって様々なDNA付加体を直接測定できるようになってきた。この方法は定量性と感度に優れるため、今や付加体分析法の主流となっている。DNA付加体を測定する際には細胞や組織からDNAを精製し、DNAを酵素でデオキシヌクレオシドまで分解し、LC/MS/MS分析に供する。様々なDNA付加体のマススペクトルを観察すると、多くのDNA付加体で塩基とデオキシリボースの間が開裂することがわかり、この性質を利用してDNA付加体を網羅的に検出する方法、-DNAアダクトーム法-を開発した。様々なヒト臓器のDNAでアダクトーム解析を行った結果、過酸化脂質によって生成する4-oxo-nonenalという有毒アルデヒドが作るDNA付加体が多く蓄積していることが明らかとなった。また、DNAアダクトーム法をin vitroおよびin vivoの遺伝毒性試験としても利用可能であり、DNA損傷性を直接評価できる優れた方法であると考えている。
シンポジウム14
創薬スクリーニングにおける毒性評価
  • 堀井 郁夫
    セッションID: S14-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発過程における安全性評価は、これまでIND/NDA申請・承認に必要とされる毒性試験に焦点が当てられ、ヒトへの最初の臨床適用・臨床第一相試験における薬物の安全性評価と新薬申請・承認時の検証・承認のための安全性評価・管理を主目的として展開されてきた。最近では、それらに先んじた創薬初期段階における毒性スクリーニングとしてのリード化合物の適正化、臨床適用候補化合物の選定に安全性評価が求められ、試験法そのものもハイスループット・トキシコロジーとしての研究体制が整えられつつある。安全性評価において、発現毒性の特定とそのエンドポイントとしての毒性学的バイオマーカーの設定は重要であり、得られた知見は毒作用発現機序の解明の一助となる。従来の毒性評価は、毒性学的バイオマーカーとしての臨床検査的、組織化学的指標などを基とした伝統的なパラメーターが用いられ、病理組織学的評価と合わせて評価されてきた。この伝統的な毒性評価に加え、分子毒性学的手法・解析やイメージング技術などの新しい科学・技術を基とした多様性科学が積極的に取り入れられ、毒性発現機序の多面的な解析が進み,厳格なリスクアセスメントと賢明なリスクマネジメントの面から毒作用を捉える必要性も増してきている。
     最近、毒作用機序解明と意義のある毒性学的バイオマーカー設定のため、多様性科学的アプローチから得られたデータを駆使し、システムズ・トキシコロジー展開への足がかりが出来つつある。分子毒性学的科学・技術の進展は目覚ましいものがあり、遺伝子発現に関しても従来の分子生物学的思考に加えてNon-Coding RNAやEpigeneticsの毒作用発現への関与を視野に入れる必要が生じてきている。
     本シンポジウムでは、毒性スクリーニングに関する過去・現在の状況を解説し、将来展望について述べると共にRegulatory Scienceとしての位置づけについても言及する。
  • 西矢 剛淑, 藤本 和則, 森 和彦, 神藤 敏正, 矢本 敬, 三分一所 厚司
    セッションID: S14-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発において、肝障害が原因で開発が中止されるケースは少なくなく、上市後に重大な肝障害で販売中止あるいは使用制限される医薬品も減少していない。社会要請に応じた安全性の厳格化や医療モニターの整備も一因であるが、医薬品開発における肝障害評価の予測精度が未だ十分ではないことは明らかである。予測が困難な特異体質性肝障害(IDILI) では、danger 仮説に従い、ヒト肝細胞での共有結合生成量とヒト肝障害の関連性がレトロスベクティブに解析され、臨床投与量を加味したときに両者が比較的良い相関を示すことが報告されている。現在では、創薬スクリーニングの段階で共有結合試験が広く実施されている。しかし、本試験系の予測精度は十分ではなく、肝障害メカニズムに共有結合以外の関与も考えられることから、新たな評価系および作業仮説が求められている。すなわち、肝障害に至る過程で薬物が生体 、細胞および分子レベルでどのような影響を示すか、それを如何に解釈するかが重要である。我々は、グルタチオン合成酵素阻害剤を前処置したラット肝臓 (in vivo) あるいはラット培養肝細胞が、ヒトで肝障害を誘起する薬物に対して高い感受性を示すことを報告している。また、ヒト初代培養肝細胞を用いたhigh content analysisにおいてIDILIを惹起する多くの薬物がミトコンドリア毒性を示すこと、ラットin vivo薬剤性肝障害モデルにおいてIL-17などのサイトカインが関与することが報告されている。したがって、グルタチオン低下や酸化ストレス、ミトコンドリア毒性および免疫応答は肝障害の因子と考えられる。ただし、最新の知見に基づいても、これらの因子でヒト肝障害をすべて説明することはできない。発表では、他の因子の可能性にも触れ、薬剤性肝障害評価の展望を創薬に関わる非臨床安全性研究者の立場から述べたい。
  • 澤田 光平
    セッションID: S14-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    「患者様に安全で確実に効く薬を届ける」、この目標の達成確率向上のためには、薬効探索と平行して安全性薬理評価を早期から実施することが非常に有益である。このような試みは、「ICH S7B:ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性に関する非臨床的評価」の発行以後、QT延長リスクを回避するために、hERGチャネル評価において一般的に進められてきた。しかし、他の安全性関連項目に関しては、候補化合物が薬効およびADMEを中心に選ばれた後に検討され、大動物に投与して初めて副作用として観察されことも多い。このような場合、プロジェクトの中止あるいは探索初期への後戻りなど、時間、コストいずれにおいても大きな損失となる。
    探索初期の安全性研究では、薬効評価と足並みをそろえる必要があり、スピード・化合物量・コストが重要な因子となる。しかし、安全性の項目は、go/no goの決定に重要な要因となるため、精度・ヒトでの予見性いずれも十分に信頼に足るものでなくてはいけない。これらの条件を満たすために、安全性薬理評価においても2つのパラダイムチェンジを進めていくことが重要である。1つ目は「化合物を作ってから考える」から「化合物を作る前から考える」である。このためにはin silico technologyが不可欠であり、hERGをはじめとして、これまでに得られた膨大な安全性薬理に関するデータを利用して予測ソフトを作れば、かなりの確率で副作用の予測が可能であろう。2つ目は「ヒトの副作用を動物から推測する」から「ヒトの副作用はできるだけヒトの標本から予想する」である。ヒト幹細胞技術の進展により心筋を始め、神経や種々臓器の細胞が今後安全性研究に利用可能になるであろう。心筋細胞に関しては、既にQTリスクの評価に用いることができるレベルに達していると思われる。本シンポジウムではhES心筋における取り組みの紹介も含め、創薬初期での安全性薬理スクリーニングの将来について考え方を紹介したい。
  • 宮田 久嗣
    セッションID: S14-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    演者は臨床医であり、医薬品の神経毒性は副作用として体験する立場にある。このような副作用は多く、1)副腎皮質ステロイドによる躁うつ病、幻覚・妄想、2)インターフェロンや心循環器薬によるうつ病、3)鎮痛薬、鎮咳薬、BZD、メチルフェニデートによる依存などの従来のタイプから、最近の医薬品で問題となる4)SSRIやD2部分作動薬のアリピプラゾール(非定型抗精神病薬)によるアクティベーション症候群(不安、パニック発作、不眠、イライラなど)、5)D3作動薬のプラミペキソールによる衝動制御障害(ギャンブル依存など)、6)SSRI、バレニクリン(α4β2ニコチン受容体部分作動薬)、リモナバン(CB1受容体遮断薬)による自殺関連事象、7)SSRIによる中断症候群などであり、ほかにも、水中毒、せん妄、運動失調、過鎮静など、治療とは副作用(神経毒性)との戦いといっても過言ではない。このような副作用のなかには、1)セロトニン神経の刺激とアクティベーション症候群や衝動性の亢進(一部、自殺関連事象に関係)、2)D3受容体刺激と衝動制御障害(ギャンブル依存など)、3)アセチルコリン神経の低下と過活動型のせん妄(幻覚、妄想、興奮)、同神経の亢進と低活動型のせん妄(無関心、無感情、寡動)、4)ドパミン神経刺激と依存や幻覚・妄想など、症状と原因となる神経の対応がある程度想定されているものもある。しかし、多くの場合、神経毒性は複数の神経系を介した脳機能全体の失調として生じる。一般的なスクリーニング検査で、このような神経毒性を検出するにはどうしたらよいのであろうか。少なくとも、現在の副作用(神経毒性)と想定される機序のデータを集積するとともに、神経毒性を評価する系を立ち上げ、構造活性相関からある神経毒性の発現が想定される場合には積極的に検査する必要がある。前臨床試験の専門家ではなく、臨床医の立場から考察を試みる。
シンポジウム15
放射線被曝と毒性学における課題・・福島原発問題を契機として
  • 甲斐 倫明
    セッションID: S15-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    放射線防護では放射線による健康影響を確定的影響と確率的影響に分類する。確定的影響は、組織の細胞集団の傷害でしきい値のある生物影響である。線量の増加とともに影響の重篤度が大きく変化する。しきい値が存在し、その値は集団の1%の人々に現れるときの線量として定義される。確率的影響とはがんと遺伝的影響を指し、個人レベルでは放射線起因の疾患を特定することが困難であり、線量の増加と共に集団レベルで統計的な確率の増加として検出できる疾患とされている。1個の細胞の損傷に起因すると考え、しきい値がないと仮定するLNTモデルでリスク評価が行われている。このモデルは、100mSv以下の低線量において、実際にその増加が疫学的にも実験的にも観察できないため、低線量・低線量率においては線量の蓄積性があると仮定する保守的なモデルとなっている。確率的影響のがんは多くの疫学調査によって増加が確認されている。とくに、広島・長崎の原爆被ばく生存者の調査は10万人に及ぶ集団を60年以上にわたって追跡している重要なデータである。その調査結果によると、がん罹患率が線量と共に増加し、1Svで被ばくしない集団に比べて白血病を除くすべてのがんで1.5倍に増加することが明らかになっている。しかし、統計的に有意な増加が観察されているのは100mSv-200mSv以上の線量においてである。低線量・低線量率のリスク評価には数理モデルを用いて、生涯過剰死亡確率は100mSvで固形がんが0.36~0.77%、白血病で0.03~0.05%と推定されている(UNSCEAR 2010)。内部被ばくや長期にわたって低線量率で被ばくした場合のリスクは原爆データと有意に異なっていないことがチェルノブイリ事故やテチャ川流域住民の疫学調査から示唆されているが、インドや中国の高自然放射線地域の調査からはがんの増加が検出されていない。低線量率においては生物データと疫学データにはギャップがあることからリスク評価の新たな展開が必要である。
  • 井上 登美夫
    セッションID: S15-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    放射線ひばくによる人体への影響は、確定的影響と確率的影響に分類されている。一定のひばく線量を超えると線量の大きさと障害の程度が相関するタイプの影響は確定的影響と分類され、被ばく線量にしきい値はなく、影響が起こる確率と被ばく線量が直線的に相関する影響(LNTモデル)は確率的影響と分類されている。放射線被ばく後、10年近くたって発症する発がんがこれに該当する。これらの放射線被ばくによる負の影響があるにも関わらず、医療の現場では、日常的に放射線被ばくを伴う検査が行われ、その検査件数はとどまることなく増加している。現在ICRPの放射線防護の考え方として、被ばくを受ける社会的状況によって、①公衆の被ばく、②職業被ばく、③医療(患者)被ばくの3つのカテゴリーに分けており、公衆のひばくと職業ひばくについては対象となる方々に対する放射線による影響を防ぐ目的で、遵守されるべき被ばく線量が法的なレベルで定められている。一方で、医療被ばくに関しては放射線を受ける患者の利益と不利益(リスク)のバランスを判断する上で、一律に線量を規定できないため上限は設けられていない。放射線の被ばくを受けて診療することの妥当性は、ベネフィットがリスクを明らかに上回るという患者を診療する医師の判断にゆだねられている。防護上の観点からは、公衆ひばく、職業ひばく、医療ひばくはおのおの独立したものであり、積算しないことになっている。しかし、これは防護上の施策であり、個人にとっては、どの被ばくも同じ被ばくである。近年、陽電子放出核種を用いるPET検査を薬物動態の開発支援ツールとして利用する上で、患者ではない健常人の生物研究志願者に対する被ばくをどのように整理して考えるべきかが話題となり、日本核医学会の防護委員会は昨年11月に「生物医学研究志願者の放射線防護に関する提言」を公表し、志願者参加条件などになどの考え方を示している。
  • 柿沼 志津子, 甘崎 佳子, 平野 しのぶ, 澤井 知子, 西村 まゆみ, 島田 義也
    セッションID: S15-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、東京電力福島第一原子力発電所において稼働していた原子炉が停止した。その後、電源喪失により冷却不能となり放射性物質が放出された。この日を契機に、私たちの多くが、はじめて放射線の健康リスクについて考えることになった。事故当初は、呼吸による吸入や食物、水、そして牛乳の摂取による放射性ヨウ素131やセシウム134、137などの物質の体内取り込みが心配された。しかし、1年以上が経過した現在は、物理的半減期の長い放射性セシウムの一部食品からの取り込みによる内部被ばくと、環境からの低線量・低線量率の長期外部被ばくが問題となる。この様なレベルの放射線影響として心配されるのは発がんであり、原爆被ばく者の疫学調査をもとに被ばく線量と発がんリスクの関係について解説する。また、低線量率の被ばく影響については、動物実験のデータや高バックグラウンド地域の疫学調査から、被ばくのタイプと発がんリスクの関係を考察する。
     一方、私たちの生活環境には放射線以外にもたくさんの発がん物質が存在している。日本人のがん罹患率は約50%、死亡率は20~30%であり、発がん原因の7割は食べ物とタバコであることが報告されている。従って、放射線の発がんリスクを考えるときは、放射線単独ではなく生活環境に存在する他の発がん物質との複合影響として考える必要がある。本発表では、動物発がんモデルを用いた放射線と化学物質の複合曝露による発がん影響についての研究結果を紹介する。また、環境中に含まれる毒性物質や放射線のリスクを、研究者がどの様に発信していくべきかを一緒に考えたい。
  • 山口 一郎
    セッションID: S15-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    住んでいる地域や周辺の環境や個人差にもよるかもしれないが、福島第一原発事故後、私たちは放射線リスクとの付き合いに対してより意識的にならざるを得なくなってしまった。リスクとどう付き合うかは、どうバランスを取るかに他ならない。バランスを取って考えるというのはスローガンとしては単純かもしれない。しかし、それを適用するのは容易ではない。ごくわずかではあっても、もしかしたらもたらされるかもしれない子供への放射線リスクと地場産業の復興をどう考えるがよいだろうか?子供への放射線リスクを小さくするための被災地での様々な制約は子供の成長にとって何らかの不利益をもたらさないだろうかという懸念にどう答えるのがよいだろうか?
     このようなジレンマは、原発事故後の対応を巡る不信も相まって解決は容易ではないと思われる。このため、リスク管理は客観的な妥当性だけでなく、人々の気持ちに添うことが求められよう。そもそも、何らかの価値判断に基づく意志決定では、主観的な価値判断が避けられない。主観的健康度を重視すると、各人が人生で求める価値や避けるべき不利益として、何を優先させるのかを考慮することが求められることになるだろう。さらに、人々の価値判断の多様性を考慮し、最適化されたと考えられる分析結果が示されても、人々がそれに納得するとは限らない。決定の経過が納得されることも必要である。このように、リスク科学的なアプローチで最適化を目指す場合でも、客観的なデータに基づく意志決定だけではなく、人々の合意が得られるような社会的な要因の考慮が求められる。いずれにしても、人々の気持ちに添った対策を考える上でも、合意形成が重要であり、この困難を解決するために毒性学関係者の貢献が求められるのではないだろうか。
  • 菅野 純
    セッションID: S15-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    大量ではほぼ全員が肝不全により死亡、微量では用量依存的に肝がんが増加する、というのは遺伝子障害性発がん物質のアフラトキシンの毒性である。この用量作用関係は電離放射線のそれと類似している。これも最終的にラジカルなどの化学反応が生体分子を修飾して毒性を表すので共通性は当然存在する。1mGy程の低線量を前照射する(Tickle dose)と、その後の放射線障害を緩和する。化学物質でも、少量を前投与するとその後の投与の影響が変わる事は、紀元前2世紀の王様が毒物による暗殺に備えて少量の毒物を摂取するなど、太古から知られている。
     しかし、放射線には化学物質には無い「魔術性」がある。例えば、抗がん剤のメトトレキセートが慢性関節リウマチに効くことから、現在「リュウマトレックス」と名を変えて処方されている。他方、放射線も効果を示すと報告されており、それを引用して低線量の放射線が体に良いという宣伝がなされている。さらに「だから、普通の健康な人にも良い」と言う者がいて、それをマスコミが取り上げる。しかし、抗がん剤であるメトトレキセートを健康な一般人に勧めることはないし、マスコミもその様な報道をしない。
     既存の科学的データからリスクを評価する。データ不足は適切な仮説で補われる。閾値設定の適否もこれに含まれる。その結果に基づいて施策を決め措置を取るのがリスク管理である。本来、リスク評価は毒性専門研究者が、リスク管理は行政担当者が扱う。しばしば両者が共同で管理を実施したための弊害が指摘され改善が叫ばれているが、放射線はこれに逆行した様である。放射線の魔術性という特殊性はここにも影響していると思われる。
     この魔術性を打破する事は国民の放射線影響に対する理解を深める為に必要であると考える。その為には「放射線毒性学」に於いて、化学物質と放射線の毒性を対等に扱う毒性学問領域の存在意義を広め、その研究を進めることを提案する。
シンポジウム16
ファーマコビジランス -JAPhMed後援・SEF/PV-WG
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    セッションID: S16
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品のライフサイクルを通して、ヒトでの副作用リスク低減化を考えて行く上で、サイエンスに基づき、非臨床と臨床が密接にコミュニケーションできるような環境作りが重要である。ICHE2F/DSURがステップ4に達しその国内通知も近い中、市販前からの医薬品リスクマネジメントにおいて、非臨床毒性専門家もこれまで以上にヒトでの副作用リスク評価に深く関わりリスク低減化に貢献することが求められている。しかし、これまでに構築された非臨床安全性評価の視点からだけでは、臨床副作用リスクを検討する上で重要な課題の一つとなる”多様なリスク因子を抱える個々の治療の安全性確保に対峙する医療現場のニーズに応える”ことは難しいとの声もある。このような臨床-非臨床間の視界のギャップを埋めて行くためには、非臨床担当者と臨床担当者が一同に会し、“副作用発現に寄与する多様なリスク因子を考慮した安全性評価系構築”を目指しサイエンスをもとに議論(ジョイントディスカッション)できる場が必要である。しかしながら、双方の専門家がこういった目的のためにサイエンスに基づき議論できる場を設けることは難しいのが実情である。本シンポジムの特徴は、日本製薬医学会(JAPhMed)の協力により、ヒトでの副作用リスク低減化をキーワードに、非臨床担当者と臨床担当者(医師)が双方の視点から見解を示し両者が直接議論できることである。この議論においては、医薬品の開発終結事例もしくは成功事例を題材として取り上げてきた。また、国内規制当局からもオーガナイザーを迎え、国内規制当局の視点も交えた形での議論を継続中である。さらに、一昨年のLate-onset DILIの事例紹介を起点に、副作用発現に寄与するリスク因子の解析のためのツールとして非臨床側から新たな評価方法の提案、臨床サンプルを用いたメタボノミクス解析事例および国内規制当局における副作用低減のための取り組みなど最先端のサイエンスに基づいた様々な研究事例を紹介予定である。このような議論を重ねることにより、①開発から市販後まで医薬品のライフサイクルを通したリスクマネジメントにおけるトキシコロジストの役割の明確化と、②臨床担当者(特に安全性評価を担当する医師)とトキシコロジストとの連携強化が図られるものと期待される。また、このような議論が臨床副作用研究の具体事例を集積・共有化するシステムの構築へ繋がることも期待される。本年同時開催の第6回AsiaTOX2012「Advanced Clinical Toxicology」では、臨床副作用研究においては医療現場の視点を学ぶことの重要性も議論の対象として取り上げられる予定であり本シンポジウムでの議論と合わせて臨床副作用研究における課題の解決に向けた新たな方向性を提示したい。
  • Lining GUO
    セッションID: S16-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    Global metabolomics is a new and powerful technology that can provide a relatively complete picture of metabolism in biological systems. We have developed an unbiased global metabolomics platform based on a combination of three independent systems: ultrahigh performance liquid chromatography/tandem mass spectrometry (UHLC/MS/MS2) optimized for basic species, UHLC/MS/MS2 optimized for acidic species, and gas chromatography/mass spectrometry (GC/MS). Rapid identification of metabolites in the experimental samples with high-confidence is achieved by automated comparison of the ion features in the experimental samples to a comprehensive chemical reference library. This platform can provide a very comprehensive coverage of all major cellular pathways. After data generation, integrated tools including statistical analysis, pathway mapping, and data visualization can rapidly provide powerful insights for understanding biological systems. We applied this technology in both preclinical and clinical toxicology (preclinical and clinical safety). Case studies both relying on traditional study design and genome wide association to understand mechanisms of toxicity and identify predicative biomarkers will be discussed.
  • 小林 章男
    セッションID: S16-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    臨床における医薬品の薬剤性肝障害(DILI)は,大きなインパクトがある副作用である。開発化合物のDILI誘発性の適切な評価は,医薬品開発メーカーにとって重要な課題であるとともに,安全で有効な医薬品の開発において欠かすことができないものである。医薬品開発においては,臨床での副作用を予測するために非臨床毒性試験を行う。非臨床毒性試験は,通常,遺伝的に均一な実験動物を用い,均一な試験条件下で行われている。一方,ヒトは遺伝的にも生活環境の面でも多種多様である。また,臨床におけるDILIの発現には,患者の遺伝的要因の他に環境要因が関与することが知られている。よって,通常の非臨床毒性試験をもとに臨床でのDILI誘発性を予測することは容易なことではない。
     鎮痛・解熱剤として広く使用されているアセトアミノフェン(APAP)は,反応性代謝物NAPQIにより肝機能障害が発現することが知られている。APAPは大量に投薬されればヒト,動物とも肝機能障害が誘発される。一方,臨床におけるAPAP長期投与時の肝機能障害は,その感受性に個人間差があり,高感受性者では臨床用量でも肝機能障害が誘発される。この様な臨床用量長期投与時に高感受性者で認められる肝機能障害を通常の非臨床毒性試験で再現させるためには,臨床における肝機能障害のリスク因子を加味したモデル動物が必要である。
     APAPによる肝機能障害のリスク因子としては,栄養状態,飲酒などが報告されていることから,我々は栄養状態を修飾したモデル動物を用いてAPAPによる慢性肝障害を評価してきた。本シンポジウムでは,臨床用量長期投与時に発現するAPAP誘発性肝機能障害を説明する上で有用と考えられるモデル動物及びAPAP誘発性肝機能障害における高感受性者を識別する上で有用と考えられるバイオマーカーについて,最近の知見と我々の研究結果を概説したい。
  • 千葉 修一
    セッションID: S16-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品候補化合物の臨床試験における薬剤性肝障害は、開発の過程で頻繁に遭遇する副作用の一つであり、被験者の安全性を確保するためには肝逸脱酵素活性値の異常をモニターすることが重要であると考えられている。候補化合物の薬剤性肝障害への潜在的なリスクを把握するために、臨床試験開始前に実施される動物を使用した非臨床安全性試験では、臨床試験でモニターされる酵素活性値に加えて、病理組織学的検査など臨床では実施できない詳細な検査が行なわれる。しかしながら、ヒトと動物の間の生物学的な反応性の差である「種差」は、医薬品候補化合物を初めてヒトに投与する際には、依然としてリスク予測面での大きなハードルとなっている。
    このギャップを乗り越えるために、安全性に重点を置いたデータの収集が行なわれる臨床第1相試験と非臨床安全性試験成績との比較データが集積されていけば、初めてヒトに候補化合物を投与する際の副作用予測の精度は向上し、被験者の安全確保への貢献は大きいと考えられる。しかしながら、こうした臨床第1相試験の副作用に関する成績は、企業の様々な事情から非臨床成績と比較可能な形で公表される例は非常に少ない。
    本発表では、弊社で経験した肝逸脱酵素活性値上昇を認めた臨床第1相試験の事例について、非臨床安全性試験と比較する形で事例紹介を行なう。
  • 斎藤 嘉朗, 鹿庭 なほ子, 杉山 永見子, 黒瀬 光一, 前川 京子
    セッションID: S16-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発や市販後において、医薬品の有効性および安全性の指標となるバイオマーカーの利用が進んでいる。我々は、安全性の確保による医薬品適正使用の推進を目指して、副作用を事前にまたは早期に予測するバイオマーカーの探索を行っている。特に市販後に問題となる重篤副作用に関しては、厚生労働省、医薬品医療機器総合機構、日本製薬団体連合会の協力の下、全国の病院より、重症薬疹であるスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)・中毒性表皮壊死症(TEN)、横紋筋融解症、間質性肺障害の患者DNA試料を、さらに拠点病院より薬物性肝障害の試料を、各々収集し、ゲノム網羅的遺伝子多型解析およびヒト白血球抗原HLAを含む候補遺伝子多型解析により、ゲノムバイオマーカーの探索を行っている。SJS/TENについては、日本人において、アロプリノール誘因性の症例に関しHLA-B*5801との関連を、カルバマゼピン誘因性の症例に関しHLA-B*1511との関連を、それぞれ見出した。このようなHLAタイプとの関連は、医薬品特異的、民族特異的であることが明らかになりつつある。一方で、世界的にみるとゲノムバイオマーカーが同定されない医薬品と副作用の組み合わせも多いとされる。オミックスはゲノムを最上流として、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームと下り、メタボロームが最下流として表現型の発現を担っている。そこで最近、メタボローム、特に生理活性物質が多い脂質のメタボローム測定系を立ち上げた。現在では、プロスタグランジン類等の酸化脂肪酸を始め、リン脂質、スフィンゴ脂質、トリグリセリド、カルジオリピン等の脂質分子種を測定しうる系を確立し、疾患モデル動物等に適用している。今後は、副作用モデル動物の臓器・血液、および副作用発現患者の血液等を試料として解析を行い、副作用バイオマーカーの同定を行う予定である。
  • 鳥谷部 貴祥
    セッションID: S16-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    通常、医薬品の承認前に実施される臨床試験では、症例数、患者背景、投与期間等の限界があるため、医薬品によるリスクの全容を把握することは困難である。さらに、近年、国際共同治験が増加する中では、日本人の治験症例数が限られていたり、世界同時開発のため、日本での承認時にはまだ海外市販後データがないなど、評価対象となるデータの内容が変化している。そのため、継続的な医薬品安全性監視(ファーマコビジランス)の重要性が高まっており、PMDAは開発時から製造販売後まで継続して医薬品のリスクに関するデータの収集、分析、評価及びそれに対する安全対策の立案を実施している。また、「医薬品安全性監視計画」及び「リスク最小化計画」から構成された「医薬品リスク管理計画(RMP)ガイダンス(案)」が昨年4月に公表され、パブリックコメントを経て本年4月に当ガイダンスが通知される予定である。
     医薬品のベネフィット・リスクに関連する情報の一つとして、近年、ゲノム薬理学が注目されており、薬物応答の個人差とDNA及びRNA等の特性の変異との関連が検討され、有効性の向上、重篤な副作用の回避等に有用な知見が得られるようになってきた。それらの知見に基づく情報については、科学的な妥当性を評価した上で、添付文書への追記が行われており、添付文書にゲノム薬理学関連情報の記載がある医薬品の数は増加傾向にある。PMDAでは、ゲノム薬理学及びバイオマーカーに関連するデータの収集、分析、評価を行い、添付文書への掲載等の方策を講じるとともに、医薬品開発におけるゲノム薬理学の利用を推進するために、2009年4月よりファーマコゲノミクス・バイオマーカー相談を実施している。今回のシンポジウムでは、ゲノム薬理学及びバイオマーカー関連の事案について検討を行うPMDA Omics Project Team (POP)を紹介するとともに、ゲノム薬理学関連情報を添付文書に追記した具体的事例を紹介する。
ミニシンポジウム
ミニシンポジウム1
就職希望の学生を対象とした安全性研究所等の紹介
  • 岡井 佳子
    セッションID: MS1-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発において、非臨床安全性研究は、開発品の望ましくない作用を動物や細胞を用いて明らかする研究であり、合成・製剤研究、薬効・薬理研究、薬物動態研究などの非臨床研究や臨床試験とともに不可欠なものである。
     非臨床安全性研究の主な目的は、被験薬の薬理学的及び毒性学的作用の種類及びその用量依存性に関する情報を得るとともに安全量を求めることであり、それらの情報をもとに、臨床試験における被験者の安全性を担保する。また、開発品の薬効用量と毒性発現用量との差が小さい場合には、毒性の重篤性、回復性及び毒性発現のメカニズムを解明することにより、ヒトへの外挿性を検討することも非臨床安全性研究の役割である。
     さらに、非臨床安全性研究では、研究を科学的に行うことに加えて、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準(Good Laboratory Practice, GLP)に準拠して実施することが求められ、それにより試験の質とデータの信頼性を保証する。実施する試験項目や方法は、医薬品毒性試験法ガイドラインに定められており、急性毒性及び反復投与毒性などの一般毒性試験に加えて、生殖発生毒性、遺伝毒性、がん原性、光毒性、安全性薬理など種々の特殊毒性試験があり、免疫毒性、依存性、局所刺激性試験なども必要に応じて実施される。
     本ミニシンポジウムでは、非臨床安全性研究を今後担当するあるいは志す若手研究者を対象として、医薬品の開発における非臨床安全性研究の目的、業務内容及びトキシコロジストとして必要な能力について紹介したい。
  • 有松 牧恵
    セッションID: MS1-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    化粧品は、薬事法の定義により「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は肌若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものを言う。」と定められています。少しでも有用で、より安全性の高い商品を提供するために、化粧品にはこれまでに使用経験のない新規原料が用いられることがあります。この新規原料は、有用性と安全性の双方を満足したものではなくてはなりません。
     「新規原料を配合した化粧品の製造又は輸入申請に添付すべき安全性資料の範囲について」が1987 年に厚生省から発表されて以来、化粧品の安全性試験(9項目)は主として動物を用いる試験でヒトの安全性を予測するのが公的な指針となっていました。2001年4 月に規制が緩和され本公的指針は廃止され、化粧品の安全性評価は原則、企業の自己責任に基づいて行うことになり、安全性と信頼性が従来にも増して求められるようになりました。
     また、1980年代の動物愛護運動に端を発し、欧州においては、化粧品指令第7次改正において、2013/3に動物実験を実施した原料を配合した化粧品のEU域内での販売を禁止することが規定されているため、代替法開発の大規模なプロジェクトが進行しています。
     このような背景の中、化粧品の安全性評価について現在国内外で実施されている動物実験代替法の開発研究を中心にご紹介いたします。
  • 田中 直子
    セッションID: MS1-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医療機器は、主にプラスチックを原材料とするシリンジや血液バックなどの単純な構造を有するものから、様々な素材で構成され複雑な構造を有する人工心臓に至るまで、その製品の原材料や構造には幅広い多様性がある。このように多様性を持つ医療機器の生物学的安全性については、どのように評価するのだろうか?
     医療機器の生物学的安全性評価にあたっては、まず、医療機器を「体のどの部分に接触するか」そして「その接触時間はどれくらいか」で分類する。そして、分類したカテゴリーによって、どのような試験を実施すべきかを検討する。例えば、体温計は健常な皮膚に一時的に接触(24時間以内)する医療機器に分類され、この様な医療機器は、細胞毒性試験、感作性試験、刺激性試験の実施を検討する。一方、血管内に留置されるステントは体内埋込機器として、組織や血液に長期間(30日を越えて)接触する医療機器に分類され、前述の3試験以外に、急性全身毒性試験、亜急性・慢性毒性試験、遺伝毒性試験、発熱性試験、埋植試験、血液適合性試験の実施も検討しなければならない。これらの試験に医療機器そのものを使用することができない場合は、医療機器を生理食塩液や有機溶媒で抽出し、その抽出物や抽出液を用いて評価する。一方で、血液適合性や急性・亜急性毒性などは、医療機器そのものを大動物で評価する有効性試験などと同時に実施する場合もある。このような評価方法は医薬品・化粧品には無い医療機器特有のものである。なお、厚生労働省への承認申請に必要な生物学的安全性試験は、全て医療機器GLP基準で実施することが求められている。
     当社では、獣医師、薬剤師、臨床検査技師の他、材料工学の専門家も加わってこのような評価を行っている。今後は更に複雑化したハイリスクの医療機器が開発されて来ることから、医療機器の生物学的安全性を担保するためには、さらに多様な専門的知識や技術を持った人材が求められる。
  • 黒沢 亨
    セッションID: MS1-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発のために実施される一般毒性試験とは、医薬品の候補化合物(被験物質という)を哺乳動物に単回または繰り返し(反復)投与し、被験物質の作用によって生じる毒性変化を様々な検査を行い評価する試験である。一般毒性試験で実施する検査には、いわゆる私たちが健康診断の時に実施する臨床検査(体重測定、血液生化学検査、血液学的検査、尿検査、心電図検査、眼検査)と実験動物を用いた試験でしか行えない病理解剖学検査がある。一般毒性試験を実施する目的は、被験物質の持つ作用により生じる変化を用量と時間との関連で把握し、臨床開発段階において治験が行われる際に、ヒトで起こりうる副作用を予測し、それを情報として医師、薬剤師及び被験者へ提供することにより、治験が安全に進められるようにすることにある。したがって、ヒトに初めて投与される前に実施しておくべき重要な試験である。実験動物を用いた一般毒性試験では、臨床検査で認められた変化について、病理解剖学検査により被験物質の標的となる臓器・組織を特定し、その作用を質的に特徴付けることができる点が有用であり、それを正確に評価する事が安全な治験の実施につながる。特に、一般毒性試験で認められた毒性変化が、ヒトに投与される臨床の現場においてモニター可能か否か、回復性のある変化か否かについて考察することが重要である。
     しかしながら、ヒトでの安全性を実験動物を用いた一般毒性試験の結果から予測することは容易ではなく、実験動物とヒトとの反応性の差が大きな障壁となる。そのため、世界的な基準(ICHガイドラインという)により一般毒性試験はげっ歯類(主にラット)と非げっ歯類(主にイヌ又はサル)の2種の実験動物を用いて実施し、被験物質の作用に種差が存在するかを慎重に評価することが要求されている。本演題ではいくつかの被験物質の試験結果を例示し、一般毒性試験の概要を紹介する。
  • 下村 和裕
    セッションID: MS1-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    製薬企業では新薬の開発にあたり生殖発生毒性試験として、3種類の動物実験を実施し、妊娠と授乳に及ぼす影響を評価している。生殖発生毒性試験のガイドラインは1961年のサリドマイド事件を契機に、1963年に通知されたのが始まりである。1975年には3節試験ガイドラインに改訂が行われ、さらに、1994年には国際協調されたICHガイドラインへと発展した。試験の結果として、母動物の一般毒性学的影響、母動物の生殖に及ぼす影響、次世代の発生に及ぼす影響の3つのカテゴリーごとに無毒性量が評価される。
     受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験は交配前から交尾、着床に至るまでの被験物質の投与に起因する毒性および障害を検索する試験である。雌では性周期、受精、卵管内輸送、着床および着床前段階の胚発生に及ぼす影響を検索する。雄では生殖器の病理組織学的検査では検出されない機能的影響(例えば性的衝動,精巣上体内の精子成熟)を検索する。
     出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験は着床から離乳までの間、雌動物に被験物質を投与し、妊娠および授乳期の雌動物、受胎産物(胎盤を含む胚・胎児)および出生児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。この試験で誘発される影響は遅れて発現する可能性があるので、観察は出生児が性成熟期に達するまで継続する。出生前および出生後の児(胚、胎児および出生児)の死亡、成長および発達の変化、行動、成熟(性成熟を含む)および生殖を含む出生児の機能障害を検索する。
     胚・胎児発生に関する試験は着床から硬口蓋の閉鎖までの期間中雌動物に被験物質を投与し、妊娠動物および胚・胎児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。着床から硬口蓋の閉鎖までの期間は胎児の器官が形成される時期であり、妊娠期間中で最も奇形が起こりやすい期間である。胚・胎児の死亡、成長の変化および形態学的変化を検索する。
  • 小平 輝朋
    セッションID: MS1-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品の開発の中で、遺伝毒性試験は、ヒトにおける発がんや催奇形性に繋がる重大な不可逆的毒性を予測する目的で実施することから、医薬品開発の安全性試験の中で最も重要な評価項目のひとつである。
     化学物質には、DNAと結合しやすい特徴を持つものがある。このような物質(遺伝毒性物質)はDNAと反応することにより、DNA鎖切断・付加体形成、染色体異常、遺伝子突然変異など様々な傷害を引き起こす。これが修復されず固定化されてしまうと、発がんや催奇形性につながる。つまり遺伝毒性試験とは、化学物質がこのような重篤な遺伝子傷害を引き起こす物質であるかを予測する試験である。そのため、初めてヒトに投与される前に基本的な評価を終了していなくてはならない。
     DNAへの作用や、染色体への影響を評価する試験方法について具体的に紹介し、遺伝毒性試験の全体像への理解への一助としたい。
     [参考文献]
     1.Guidance on Genotoxicity Testing and Data Interpretation for Pharmaceuticals Intended for Human Use (ICH S2(R1))
     2.Casarett and Doull’s Toxicology, The Basic Science of Poisons, 7th Edition, 381-413
     3.日本トキシコロジー学会教育委員会, [新版]トキシコロジー, 155-168
  • 葛西 智恵子
    セッションID: MS1-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    毒性試験が主として「器質的変化」を評価するのに対し,安全性薬理試験では主に「機能的変化」に基づく影響を評価するものである。安全性薬理という言葉は比較的新しく,従来は一般薬理試験として主効果以外の薬理作用を検討するものであったが,毒性試験あるいは臨床試験でみられた有害な作用機序を評価し明らかにし,副作用を予見することを目的としている。安全性薬理試験は生命維持機能に重要な影響を及ぼす器官系に対する影響を中心に評価するものであるが,特に心血管系評価には重点が置かれている。この背景には抗アレルギー薬のterfenadine等によるTorsade de Pointes (TdP)という致死性不整脈発現による死亡事故が大きく影響している。米国ではこの事故により1980年代後半から1990年代前半で125例の死亡が報告され,terfenadineは1998年に市場からの撤退することになった。TdPの発現には心電図QT間隔の延長が関与していることが明らかになり,この副作用を検出するための試験法の開発が相次いだ。安全性薬理試験ガイドライン(ICH S7A)を補完する目的で「ヒト医薬品のQT間隔延長の潜在的可能性に関する非臨床評価」(ICH S7B)ガイドラインが,そしてヒトでのリスク評価のために「非抗不整脈薬のQT/QTc間隔の延長及び催不整脈作用の潜在的可能性の臨床評価」(ICH E14)ガイドラインが日米欧三極で合意されている。この大きな流れは,創薬段階のスクリーニング試験から臨床試験のあり方まで影響を及ぼすことになった。より有効な薬をより安全に,より早く患者さんに届けるために,安全性薬理試験は不可欠となっている。
ミニシンポジウム2
若手研究者セミナー
  • 矢野 梓, 深見 達基, 中島 美紀, 横井 毅
    セッションID: MS2-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】薬物性肝障害は医薬品開発および疾病治療における安全性上の重大な問題である。その殆どは実験動物で再現できないため、非臨床試験において肝毒性を予測することが困難であると考えられている。薬物性肝障害の発症機序に関しては、薬物の代謝的活性化や免疫反応が関与することが示唆されているが、in vivoで実験的に示した報告は未だ少なく、不明な部分が多い。本検討では、現在までに報告されている薬物性肝障害動物モデルを用いて、薬物性肝障害の発症メカニズムを解明することを目的とする。
    【実験方法】8週齢のBALB/cマウスに対しアセトアミノフェン、ハロタン、ジクロフェナク、フルタミドおよびジクロキサシリンなどの肝障害性が知られる薬物、または各薬物に対する同効薬を投与した後、経時的に解剖を行い、薬物性肝障害のマウスモデルを作製した。その後、ALT値、AST値およびTotal-bilirubin (T-Bil) 値を測定し、肝障害の程度を評価した。Real-time RT-PCRによる肝mRNA発現量とELISAによるタンパク質量の測定を行い、各薬物性肝障害モデルにおける炎症性因子および酸化ストレス関連因子の発現変動について評価した。
    【結果および考察】薬物投与後のマウス肝臓において、多くの酸化ストレス関連因子および炎症性因子の発現上昇が認められた。その中でもreceptor for advanced glycation end prodcuts (RAGE)などの数種類の因子が肝障害性薬物において共通して発現上昇が認められ、発症に関わる重要な因子である可能性が示唆された。これらの因子について、薬物性肝障害発症との関連性および肝毒性評価系マーカーとしての可能性についての検討を行った。本研究の結果は、薬物療法や新薬の開発において有用な情報を提供するものと考えられる。
  • 網谷 岳朗, 倉島 洋介, 藤澤 久美子, 國澤 純, 清野 宏
    セッションID: MS2-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    免疫系は通常、生体にとって有害な異物を排除するための生体防御システムとして機能しているが、稀に生体にとって有益な異物に対する過剰な反応を示すことがある。その代表的な免疫反応が免疫毒性とも呼ばれるアレルギー反応である。我々はこうしたアレルギー疾患のうち食物アレルギーに焦点を絞り、その発症メカニズムの解析を通じた食物アレルギーの予防・治療法の確立を目指している。
     食物アレルギーの病態形成部位である腸管には粘膜免疫システムと呼ばれる精密な免疫システムが構築されており、食餌性成分や腸内細菌など生体にとって有益な異物に対しては抑制型の免疫システムを示すことで、恒常性を維持したまま有益な異物の摂取を可能にしている。腸管免疫システムの恒常性維持機構の破綻により引き起こされる食物アレルギーは近年、乳幼児を中心に患者数が増加しているが、現時点での対処法は原因アレルゲンを含む食物を摂取しないという方法であり、Quality of Lifeの観点からも予防・治療法の開発が待望されている。我々は卵白アルブミンをアレルゲンとして用いた食物アレルギーモデルマウスを樹立し、免疫学的解析を進めている。本アレルギーモデルにおいては、卵白アルブミンで感作したマウスに卵白アルブミンを頻回経口投与することでアレルギー性の下痢が観察される。この下痢症状は一過性の症状であり、感作に用いたアレルゲンと同一のアレルゲンの経口投与が必要なアレルゲン特異的反応であり、その反応には2型ヘルパーT細胞により誘導されるアレルゲン特異的IgEが必須である。さらにはアレルギー性下痢を呈したマウスの腸管組織、特に粘膜固有層には活性化したT細胞やマスト細胞の増加が観察され、その増加を抑制することによりアレルギー性下痢の発症が抑制出来ることも示している。これらの結果から、本アレルギーモデルはヒトの食物アレルギーと非常に近い1型アレルギー疾患モデルとして広く使用されている。
     本シンポジウムでは我々がこれまで蓄積してきた食物アレルギーを用いた免疫学的解析について、特にマスト細胞の役割について紹介すると共に、マスト細胞特異的な疾患治療の可能性について報告したい。
  • 三上 統久, 深田 宗一朗, 山元 弘, 辻川 和丈
    セッションID: MS2-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】神経系と免疫系は共通のリガンドや受容体を介して相互作用し, 生体の恒常性を維持している. CGRP (calcitonin gene-related peptide) は, そのような相互作用を介在する神経ペプチドの一つであり, 神経系において痛覚伝達や血管平滑筋の弛緩といった作用を有する一方, 免疫系においてもT細胞の増殖阻害など様々な作用が報告されている. そこでわれわれはCGRP受容体構成タンパク質であるRAMP1 (receptor activity–modifying protein 1)を欠損させたマウスを作製し, CGRPが2,4,6-trinitrochlorobenzene (TNCB)誘発接触過敏反応を抑制すること, fluorescein isothiocyanate (FITC)誘発接触過敏反応を亢進することを明らかにしている. そこで今回, その制御機構を解明した.さらに神経系の異常に伴うCGRP量の変化が皮膚アレルギー応答性を変化させることも示した.
    【方法】RAMP1欠損マウスや精神的ストレス暴露マウス,化学物質暴露マウスにTNCBまたはFITCを塗布して感作を行い, 皮膚炎症を誘導した. さらにそのメカニズムを抗原提示細胞やT細胞に着目して検討した.
    【結果】CGRPは抗原提示細胞におけるCCR7の発現を抑制することで, リンパ節への遊走を抑制していることが示された. さらにT細胞分化をTh2側に偏らせることで皮膚免疫を制御していることも示された. 加えて,新生児期に化学物質を塗布することでCGRP含有知覚神経の伸長が見られ,この神経系の異常がCGRP産生量の変化を介して皮膚炎症を制御することも明らかとなった.これらの結果から, CGRPは生体内の皮膚免疫における重要なレギュレーターと考えられる.
  • 森本 隆史
    セッションID: MS2-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    皮膚感作性とは、免疫反応の中でも抗原曝露から数日後に発症する「IV型(遅延型過敏症)」の一つで、化学物質を複数回暴露することで、その化学物質を抗原として免疫反応がおこり、皮膚に紅班、浮腫といった症状を呈するものである。皮膚感作性を引き起こす化学物質は、皮膚を透過した後、皮膚中でタンパク質やペプチドと反応することでハプテン(抗原)を形成する。そのハプテンは抗原提示細胞に取り込まれ、リンパ節へと運ばれる。リンパ節では、ハプテン特異的なT細胞の増殖が起こり、この増殖したT細胞が再び侵入してきた化学物質に対して反応することで、皮膚に症状を引き起こす。
     化学物質を安全に取り扱うためには、その皮膚感作性ポテンシャルを使用前に適切に評価することが必要であり、長年、モルモットを用いた動物試験で評価が行われてきた。近年、動物数削減や試験期間の短縮などのメリットを持ち、なおかつ、モルモットの試験と同程度の評価が可能な試験であるマウスを用いた試験が、感作性評価の主流になりつつある。また、最近では、動物愛護の観点から、動物を用いない試験法(動物実験代替法;代替法)の開発が強く求められるようになり、数多くの動物実験代替法が開発・検討されている。当社では、皮膚感作性発症メカニズムにおける初期のstepであるハプテン形成に着目し、グルタチオンを用いたタンパク結合試験を開発検討してきた。
     これまで、当社では、皮膚感作性を評価するにあたって、世間動向および試験目的に合わせ、新規評価法の導入、改良および開発を進めてきた。今回、マウスを用いた動物試験での新規媒体の検討および皮膚感作性代替法の一つであるタンパク結合試験について進捗を紹介する。また、当社での皮膚感作性の評価系について紹介する。
  • 竹内 くみこ, 笠松 真吾, 牧野 恵里華, 西田 基宏, 赤池 孝章, 居原 秀
    セッションID: MS2-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)はパーキンソン様症状を引き起こす神経毒であり,神経型一酸化窒素合成酵素 (nNOS)によりその毒性が増強される.これまでに毒性発現メカニズムの詳細は明らかにされていない.近年,NOと活性酸素種 (ROS)に依存して産生される新規のセカンドメッセンジャー,8-ニトロcGMPが発見され,新しいシグナル伝達機構としてNO-ROSシグナルについての解析が進められている.本研究では,パーキンソン病における神経毒性メカニズムを解明することを目的とし,MPTPの活性代謝物である1-methyl-4-phenylpyridinium ion (MPP+)による神経細胞毒性とNO-ROSシグナルの関与について検討した.
     nNOS恒常発現PC12細胞を作製し,MPP+で処理したときの細胞毒性,ROS及び8-ニトロcGMPの産生を調べた.さらに,細胞毒性メカニズムを解明するため,活性化Ras/Erkシグナル伝達経路の関与をWestern blottingで解析した.
     MPP+による細胞毒性はnNOS非発現細胞と比較してnNOS発現細胞でより強く認められ,ROS及び8-ニトロcGMPの産生量が増加していた.nNOS依存性細胞毒性の増強効果は活性酸素捕捉剤により消失したことから,増強効果にnNOS由来の活性酸素が関与していることが示された.また,nNOS発現細胞においてRas及びErkの活性化が認められた.以上のことから,MPP+による神経細胞毒性には,nNOS由来のROSが関与することが明らかとなり,さらにNO-ROSシグナルの下流分子である8-ニトロcGMPが活性化Ras/Erkシグナル伝達経路を介して細胞死をもたらすことが示唆された.
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