日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の466件中101~150を表示しています
シンポジウム19
  • Jayanthi WOLF
    セッションID: S19-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    This presentation will summarize recent advances in immunology and vaccinology which have provided new insights into the type of effective immune responses that are required to treat or prevent different diseases and the design of adjuvants to aid in developing the desired immune response. There is a need to maintain a delicate balance between vaccine immunogenicity and reactogenicity. Evaluation of vaccine immunopharmacology (the desired immune response) and vaccine immunotoxicology (unwanted/unexpected effects on the immune system) are critical components in the development of new vaccines. In addition to pharmacology and toxicology studies in animals, new tools and technologies are being developed to distinguish between the desired immunogenic response, which will result in long-lasting immune protection and the unwanted proinflammatory response, which might result in severe injection site impact and a fever or pyrogenic response. This presentation will review the current approach for vaccine immunopharmacology and immunotoxicology assessments, including a description of the studies and assays used for these assessments.

  • 石井 健
    セッションID: S19-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     The word adjuvant has its origin from the Latin "adjuvare", meaning "to help". It is a general term for substances (factors) which are co-administered with a vaccine with the aim of increasing the effect (immunogenicity) of the vaccine. The research and development of adjuvants has a history of more than 90 years, and their actual mechanism was not immunologically understood for a long time, with a famous sarcastic remark "Immunologist's dirty little secret".

     Recent advance in Immunolgy; however, allowed the development of adjuvants through an innovative scientific approach, and there is fierce competition worldwide for the development of next-generation adjuvants. On the other hand, however, adjuvants range widely in terms of origin and mode of action, and they may be the cause or underlying cause of vaccine toxicity, especially immunotoxicity. 

     Here, we have constructed a prototype of the Adjuvant Database (ADB) to classify 25 "core" adjuvants by collectively analyzing mouse and rat transcriptome datasets from different tissues. Integrated data of these adjuvant-induced murine responses enabled us to retrieve detailed characteristics of the adjuvants, predict their mechanisms of action and potential safety profiles. We believe this approach provides a flexible but standardized framework to evaluate any adjuvants comprehensively and systematically.

シンポジウム20
  • 片井 みゆき
    セッションID: S20-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     性差医学・医療は疾患の背景にある性差を考慮した新しい医学・医療です。生殖器以外の男女共通臓器の疾患も含め、背景にある性差に注目し診断、治療、予防措置へ反映するもので、1980年代から欧米を中心に提唱されました。生物学的な性差sex differenceと社会的な性差gender differenceの両方を考慮します。

     現在は、診断や治療法において臨床試験に基づいたエビデンスが求められますが、1977年以降は各国で妊娠の可能性がある女性が臨床試験の対象から除外されました。これは、妊婦へ投与された薬が出生児に悪影響を及ぼした1960年代のサリドマイド事件等の薬禍の再発防止のために取られた重要な措置でしたが、結果として、1977年以降は女性生殖器系や乳腺悪性腫瘍以外の生理的・医学的研究では、主に男性から得られた臨床試験データを女性に適用せざるをえなくなりました。しかし次第にその問題点や矛盾点が明らかになり、1990年以降、性差に関する追加研究や大規模臨床試験が行われた結果、性差は予想以上に大きく無視しきれるものではないことがわかった次第です。

     不足している女性のデータを補完するため、まずは女性における性差医療から普及しました。欧米では大規模な女性医療センターが設立され、日本ではより小規模な女性専門外来が各地にできるという形での展開となりました。2001年に日本初の女性専用外来が誕生し、2003年頃から全国の基幹病院を中心に開設が相次ぎ、2004年には180カ所、2006年には400カ所以上と急速な勢いで普及しました。2007年には日本初の性差医療部が東京女子医大東医療センターに開設され、女性の多彩な愁訴に対応するため様々な専門分野の女性医師12~13人が連携し女性専門外来を行って来ました。

     アカデミックには2004年から性差医療医学研究会、2008年から日本性差医学・医療学会が設立され、基礎から臨床各分野の研究者や医師が所属し2017年には国際性差医学学会が仙台で開催されました。特に循環器領域での性差研究が国内外で進んでいます。

  • 佐藤 洋美, 上野 光一
    セッションID: S20-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     薬物治療において薬効や副作用に男女差が現れる場合がある。実際には薬力学的および薬物動態学的な発現機構が組み合わさって臨床的性差として現われる。

     薬物の体内動態の観点では、薬物の血中濃度は主に分布容積とクリアランスにより決定されるので、分布容積に差を与える要因、すなわち脂肪含量・循環血液量・筋肉量・肺胞面積等の違いや、腎クリアランスが女性で小さいことなどから、一般に女性で血中薬物濃度が高くなりがちである。

     薬物代謝の観点では、ヒトの多くの薬物代謝反応に関与するCYP3A4の性差については女性で活性が高いとする報告が比較的多いが、肝臓と小腸で状況は異なる。一方、近年のヒトCYP3A4導入マウスを用いた検討で、雌性マウスにおいて肝臓CYP3A4発現および活性が雄性ラットよりも高いことが示されている。他のCYP分子種の性差も報告されているが、見解が一致するものは少ない。また、薬物の吸収や排泄に影響を与えるトランスポーターの性差もクリアランスに影響を与える要因であるが、薬物排出トランスポーターであるP-gpの性差も示唆されている。

     薬理作用の観点では、片方の性で強めに薬効が発現する例として、塩酸ピオグリタゾン、トリアゾラム、SSRIなどは男性に比べて女性で強く現れる。さらに、薬剤性肝障害やアレルギー性皮膚炎も女性に多い。これらの要因には、性ホルモンや免疫機能あるいはセロトニンなどの受容体の性差が関与することが明らかにされつつある。 性差は加齢によって変動する場合もある。加齢による性ホルモン分泌量や生理機能変化の影響は考慮が必要である。動物種間で性差の出方も異なる。どのような人(動物)を対象に、いつ何で観察された事象であるのかも含めて、情報を整理する必要がある。本発表では、薬物動態や代謝に性差の見られる医薬品について、最近の知見も含めて紹介する。

  • 黒川 洵子
    セッションID: S20-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     薬の効き方や副作用には男女差があることが明らかとなってきており、生物医学研究では早急な対応が求められている。NIH グラントによる研究計画書に動物実験を含む場合、動物の取扱に関しNIHの方針に準拠することが求められる。2015年6月には、ヒトおよびほ乳類を用いた全ての研究計画において、性による結果の違いの可能性を議論することをNIHグラント申請の要件とする声明(NOT-OD-15-103)が発出された。2016年施行に向けて、米国の各大学グラントオフィスは対応を迫られた。今後、その流れは、我が国にも波及すると思われるので、臨床を対象とした研究だけでなく、基礎薬学研究においても注視すべきである。

     我々の研究室では、主に循環器領域における男女差に注目した研究を遂行している。例えば、薬剤による心室再分極遅延(QT間隔延長)リスクや心臓突然死発症率は女性で高いことが知られる。この性差には心電図QT間隔が成人女性で長めであることが関連しており、思春期や性周期における変化から性ホルモンの影響が示唆されてきた。我々は、その分子メカニズムとしてNOを介した心筋細胞の性ホルモンシグナルが関与しているのではないかと提唱している。しかし、このような基礎研究の結果を如何にして生体反応における解釈に反映させるかというトランスレーションについては、いまだ明確なストラテジーは存在しない。今回のシンポジウムでは我々が行っている独自の取り組みを紹介し、今後の課題についての議論を深めたいと考えている。

  • 山田 久陽
    セッションID: S20-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    安全性分野における性差の扱いについて、企業研究の面から昨今の動向を紹介し、次に実務で直面する性差の例として、ラットの腎機能の性差について取上げる。医薬品の安全性試験は、製造販売承認申請に必要なものは、原則的にGLPおよび毒性試験法ガイドライン下で実施される。毒性試験法ガイドラインでは、一般毒性試験、がん原性試験など多くの動物を使用する試験で、通常、雌雄の使用が規定されている。一方、医薬品開発の早期のステージでは、開発候補化合物を見出すために探索的な短期安全性試験が実施される。このステージでの検討は、各々の企業がこれまでの経験等により独自に構築するもので、各社の戦略の違いによって雌雄の使われ方に違いが出てくる。これに関して、2015年に数社の企業を対象とした調査結果があり、安全性試験における各種動物の雌雄の使用比率とその理由について紹介する。結論として、開発早期ではコストやスピードが重視され、片性で評価を実施する企業が多い結果となっている。次に実務面から、安全性評価で頻繁に使用されるラットについて腎機能の性差を概説する。ここでは、腎臓の形態、トランスポーター、腎毒性薬物に対する感受性、性ホルモン受容体の局在、さらに腎毒性の評価に使用される尿中バイオマーカー等について取上げる予定である。腎毒性の検出は、非観血的測定法として、生体への負担の少ない尿分析が実施されてきている。従来から使用されてきた尿中バイオマーカー(TP、Alb、GLU、LDH、ALP、LAP、γ-GTP、NAG、β2-MG)と最近の尿中バイオマーカー(L-FABP、Cys-C、Kim-1、NGAL、Clusterin)のほとんどに性差が見られ、去勢による影響についても示した上で、ラット尿中バイオマーカーの性差が発現する要因について考察する。

シンポジウム21
  • 真木 一茂
    セッションID: S21-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     ICH S5ガイドラインは、雄の交配前投与期間について合意されたことを踏まえ2000年に改定され、本邦では「医薬品の生殖発生毒性試験についてのガイドラインの改正について」(平成12年12月27日付け医薬審第1834号)として通知されている。しかしながら、本通知発出から15年以上が経過し、その間の生殖発生毒性試験に関連した科学技術の進歩や安全性評価に関する多くの情報が蓄積したことから、2014年のICHミネアポリス会合及びリスボン会合において非公式の専門家作業部会が開催され、最新の生殖発生毒性試験に関する情報、胚・胎児発生に関する予備試験の利用可能性、in vitro、ex vivo、non-mammalian in vivo代替試験法に関する研究成果、他のICHガイドライン(ICH M3(R2)、S6(R1)及びS9)との整合性等が議論され、現行のICH S5ガイドラインを全改定することで合意された。本合意を踏まえ、2015年5月のICH福岡会合からICH S5(R3)の専門家作業部会によるガイドライン改定作業が開始され、2017年9月にステップ2ガイドラインが作成され、本邦では2017年9月から3ヵ月間のパブリックコメントが実施された。

     ステップ2ガイドラインでは、①ガイドラインの適用範囲、②緒言及び一般原則、③生殖毒性評価戦略、④試験系の選択、⑤用量設定、投与経路及び投与スケジュール、⑥ほ乳類を用いたin vivo試験のデザインと評価、⑦リスク評価の原則、⑧付属書(Annex)等から構成されており、2018年7月に予定されているICH神戸会合では、各極で収集したパブリックコメントをもとに議論を深め、2019年6月にStep4到達を目際している。本シンポジウムでは、ステップ2ガイドラインをもとに、生殖発生毒性試験ガイドライン改定のポイントについて紹介したい。

  • 関澤 信一
    セッションID: S21-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     生殖発生毒性を検討する上でどのような戦略を取るべきか、生殖発生毒性のエキスパートだけでなくそれ以外の入門者にも理解できるように、ICH S5(R3)ガイドラインの改定が実施されてきている。胚・胎児毒性の検討は、毒性があった場合には次世代に大きな影響を与える可能性があることから、妊娠する可能性のある女性が治験に組み入れられる時点でそのリスク評価は終了していなければならない。しかしながら、妊婦或いは妊娠している可能性のある女性に被験薬が曝露された場合に限定される特殊な毒性ということもあり、また医薬品の開発段階においては当該女性が投与対象になる場合・機会はそれほど多くはないことから、評価の時期や方法は多様であって然るべきである。ICH S5(R3)ガイドライン改定案では、胚・胎児発生毒性を評価する際の考慮事項として、対象患者集団、被験物質やその関連物質に関する薬理作用及び(生殖)毒性、ヒトや動物の遺伝学的な情報等を挙げているが、それ以外にハザードやリスクを特定できる信頼性の高いin vitroや非哺乳類を使用した試験法(代替試験法)からのデータも利用可能としている点が新たに加わっている。すなわち、ICH S5(R3)ガイドライン改定案では以下の3つの胚・胎児発生毒性の評価戦略が提示されている: 1)EFDリスクを評価できる十分なデータがある場合、2)通常のEFD試験を実施する場合、3)代替試験法が利用できる場合。ICH S5(R3)ガイドラインの改定において薬理活性の有無や標的特異性等についての概念が導入されることにより、上記1)及び2)のケースである既存の評価戦略もより明瞭なものとなってきている。また、3)のケースは新規の評価戦略であり、現時点では限定的な条件下における利用にはなるものの、代替試験法の継続的な活用が3Rに貢献し、また、将来的には使用条件が限定されない戦略になっていく可能性を秘めていることから、この戦略の可能性について前向きな期待を共有したい。

  • 和泉 祐子
    セッションID: S21-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     ICH M3(R2)では,妊娠可能な女性を臨床試験に組み入れる場合には胚/胎児発生に関する試験(EFD試験)を実施しておく必要が述べられている(但し,米国では第Ⅲ相試験の前までに実施しておけばよい)。しかしながら,何らかの理由で臨床開発を断念せざるを得ない開発候補品は少なくはなく,ラットやウサギを多数用いて実施したEFD試験が製造販売承認申請に利用されない場合もある。動物福祉と臨床試験における安全性の確保を勘案すると,発生毒性に関しては比較的管理された初期の臨床試験は小規模な予備試験(preliminary EFD:pEFD試験)によって,大規模な臨床試験あるいは上市後は現行の本試験(definitive EFD試験)によって,安全性が確保されることが望まれる。これに対応してM3 (R2)では、比較的短期間(最長3カ月)かつ妊娠を回避する予防措置が取られる場合,適切にデザインされた予備的な試験を実施することによって妊娠可能な女性(最大150人)の臨床試験に組み入れが可能とされた。この「予備的な発生毒性試験」は厳格な避妊措置がとられる臨床試験への女性の組み込みを前提に,“発生毒性のほとんどが検出可能な試験”という目的に沿ってデザインされている。一方ICH S5(R3)改定案の総合的試験戦略においては,M3(R2)で付された制限を設けず,第Ⅱ相試験までの発生毒性評価を可能とする「拡充型pEFD試験」が示されようとしている。

     本項では,S5(R3)改定案における総合的試験戦略で示されている拡充型pEFD試験の導入目的から試験デザインを理解し,戦略的意義を考える。

  • 三ヶ島 史人
    セッションID: S21-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    現在、医薬品の生殖発生毒性試験の考え方についてのガイドライン(ICH S5ガイドライン)の改定が進められている。ICH S5(R3)のステップ2ガイドラインは、①ガイドラインの適用範囲、②緒言及び一般原則、③生殖毒性評価戦略、④試験系の選択、⑤用量設定、投与経路及び投与スケジュール、⑥ほ乳類を用いたin vivo試験のデザインと評価、⑦リスク評価の原則、⑧付属書(Annex)等から構成されている。⑤の高用量設定の考え方として、母動物のごく軽度の毒性、投与における限界量、血漿中・組織内曝露の飽和等を基準とする従来の考え方に加えて、新しく曝露量を基準とする考え方が加えられている。この中では、ヒトでの最大推奨臨床用量(MRHD:Maximum Recommended Human Dose)における全身曝露量の25倍を超える曝露が予想される用量であれば、概して生殖発生毒性試験における高用量として適切であると記載されている。

    今回、この曝露量を基準とする新しい考え方の適切性を検討することを目的に、本邦において承認された医薬品のうち、妊婦投与が禁忌とされている26品目の胚・胎児発生毒性試験の結果を曝露量比較に着目して調査した。本発表では、当該調査結果を踏まえ、曝露量を基準とする生殖発生毒性試験の用量設定について議論したい。

  • 下村 和裕
    セッションID: S21-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     ICH S5(R3)ガイドライン改定案では、「本ガイドラインは、感染症に対する予防又は治療に用いられるワクチン(アジュバントあり・なし)にも適用される」と記載されている。ワクチンのガイドラインとして、国内には「感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドライン(薬食審査発0527第1号、平成22年5月27日)」が存在するが、生殖発生毒性試験に関しては詳細に記載されてはいない。そのため、これまではワクチンの生殖発生毒性試験を実施する場合は、FDAガイドライン「Considerations for Developmental Toxicity Studies for Preventive and Therapeutic Vaccines for Infectious Disease Indications (2006)」およびWHOガイドライン「Guidelines on the Nonclinical Evaluation of Vaccine Adjuvants and Adjuvanted Vaccines (2014)」が参考とされてきた。

     改定案では独立した項として、4.1.3 予防用及び治療用ワクチンのための動物種選択、および5.2 ワクチンの用量設定及び試験デザイン、が設けられている。小児・高齢者用ワクチンには生殖発生毒性試験は不要とされている。動物種に関しては、ワクチンに対して免疫反応を示す動物種1種を使用し、ウサギが汎用されるとしている。ヒト以外の霊長類の使用は他に適切な動物種が選択できない場合だけに限定されている。投与は臨床適用経路で、ヒトと同一投与量の単一用量を間歇投与する。母体抗体価、胚・胎児・新生児の免疫反応の最大化を図るため、交配前の初回免疫投与を推奨するとともに、器官形成期初期に少なくとも1回の投与を行うことになっている。

     当日の発表では改定案におけるワクチンの試験方法、FDA・WHOガイドラインとの比較、ならびに具体的な試験デザイン例を紹介したい。

  • 藤原 道夫
    セッションID: S21-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     医薬品の発生毒性評価に動物実験代替法(代替法)が導入されることは画期的な進展であるが,現状ではリスク評価の全てを託すには実施経験やデータの蓄積量において必ずしも充分とは言えない。このような状況からS5(R3)においては,代替法による発生毒性評価はそのスタートラインと位置づけられ,開発候補品による発生毒性評価を積み重ねることによって代替法が洗練されることが意図されている。したがって,発生毒性ハザードが特定された場合(陽性)には代替法の結果が受け入れられるが,陰性の場合には定められた動物実験による評価が要求され,陽性結果でも動物実験によって覆すことは不可能ではない。また,S5(R3)では特定の推奨される代替法を挙げる裏付けがないことから,申請者は使用する代替法の発生毒性評価に対する規定の適格性を確認し,そのデータを添付することが要求される。医薬品の発生毒性評価への代替法導入のハードルは低くはないが,医薬品開発における動物福祉および迅速性や効率性を考えた場合,ここで一歩を踏み出す必要性はICH加盟国・地域に共通した認識と受け止めている。S5(R3)で述べられている発生毒性代替法の実施について現状を概説したい。

シンポジウム22
  • 西川 秋佳
    セッションID: S22-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     現行の発がん性評価においては,2つの主要な課題といくつかの小さな課題がある.主要な課題の1つは,遺伝毒性発がん物質の閾値に関するものであり,腫瘍性病変が発現した標的器官に遺伝毒性が実際に関与しているかどうかを明らかにするためには,gpt deltaのようなレポーター遺伝子を有するトランスジェニック動物が有用であり得る.また,in vivoでの遺伝毒性が陽性であっても,多段階の発がん過程における代謝活性化,細胞増殖,アポトーシス,免疫抑制などの重要な事象のなかにはそれぞれに生物学的な閾値を想定できる可能性がある.もう1つの大きな課題は,ヒトのリスクに対する動物データの外挿に関する点であり,発生増加した腫瘍性病変の種特異性を明らかにするために,mode of action (MOA)に基づくweight of evidence (WOE)アプローチは非常に有用である.そのために,p53nrf2またはCARノックアウトマウスのようなトランスジェニック動物は発がんメカニズムを解明するのに役立つはずである.将来的には,in silicoおよびin vitroアプローチは,多数の化学物質/医薬品の遺伝毒性および発がん性をスクリーニングするための強力なツールと期待される.確実に3Rsが進む現在,OECDで進められているadverse outcome pathway (AOP)やintegrated approaches to testing and assessment (IATA)の早期の公定化が望まれるが,特に発がん性評価に関する期待は大きいと言える.今後の発がん性評価は,迅速化と精緻化(テイラーメイド化を含む)の相反する二方向に向かうものと予想される.

  • 西村 次平
    セッションID: S22-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    我々の身の回りには天然物質だけでなく、環境経由により摂取する可能性がある環境汚染物質や一般化学物質、ヒトの生活を豊かにするために開発された食品添加物や農薬、ヒトの身体の構造又は機能に影響することを目的とした医薬品など、様々な物質が存在する。中でも、医薬品は、効能・効果を目的に意図的に摂取されることから、毒性試験を実施する際には、薬理作用と毒性作用とを適切に区別し、その毒性学的影響を判断する必要がある。病理組織学的検査は、その毒性判断に重要な役割を果たしており、臨床試験では行うことができない全身臓器・組織の観察を行うことで、当該医薬品の生体影響の局在と変化を明らかにすることができる。認められた毒性については、発現頻度や程度、標的部位、回復性の有無、発現機序、安全域等が総合的に検討され、さらに臨床でのモニタリングの可否、対象疾患の重篤性等も踏まえた上で、リスクに関する情報が臨床サイドに提供される。近年、医療用医薬品の領域においては、従来の低分子化合物を治療手段とする創薬以外に、抗体やペプチド等のバイオ医薬品に加え、さらには、核酸や細胞並びに再生医療等に関する医薬品の開発も活発化している。本発表では、これまでに承認申請された上記の医療用医薬品の中から、審査時に議論された懸念すべき病理組織学的変化をいくつかピックアップし、議論の内容について、紹介したい。

  • 義澤 克彦
    セッションID: S22-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     近年、農薬評価におけるトピックとしては、現時点での最新の科学的水準で安全性を定期的に評価する制度(再評価制度)の導入やイヌの慢性毒性試験の必要性などいくつかの話題が持ち上がっている。これらの話題とは直接関連はないが、これまで評価してきた際に、毒性病理学専門家として私が気づいた点についていくつかお話ししたい。古くから使用されている農薬や海外製品を評価する場合に、試験間の病理所見用語の不統一性や現在では使用しないような古い所見用語が使用されていることをしばしば経験する。この場合は、可能な限り、試験間で統一性があり、現在推奨されている所見用語を使用することが望ましい。北米、欧州、英国及び日本毒性病理学会(JSTP)が推進している毒性病理用語・診断基準の国際統一化計画(INHAND)がげっ歯類についてはほぼ終了した。また、げっ歯類以外の動物種(イヌ・サル・ウサギ・ミニブタ・魚類)について現在進行中であり、INHAND用語あるいはJSTPが編集した新毒性病理組織学に掲載されている病理所見用語を使用すべきであろう。次に、発がん性試験に関しては医薬品評価に比べて第三者病理ピアレビューが実施されていないことが多い。病理組織学的所見のピアレビューは試験結果の解釈の質並びに信頼性を確保し、試験成績に大きな影響を与え得る重要な手法であるため、今後必要になってくると思われる。発がん性試験で陽性の場合はそのメカニズムを明らかにするために様々な試験が実施される。これに比べ、毒性変化に関してはメカニズムが不明であることも経験する。農薬評価で観察された眼球毒性(角膜炎・角膜腫瘍、網膜変性・萎縮、白内障、縮瞳など)の事例を交えて紹介したい。これらの点を解消していくためにも、今後も毒性専門家と毒性病理学専門家とのさらなる協力体制が必要になると思われる。

  • 岩田 聖, 安齋 享征, 大石 裕司
    セッションID: S22-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     FDA医薬品申請におけるSEND Data Set作成では,毒性病理用語の国際標準化が求められている.SENDデータの毒性病理用語としてはINHAND(International Harmonization of Nomenclature and Diagnostic Criteria)が推奨されている.INHANDは米国STPが2005年に提案し,欧州・英国・日本の各毒性病理学会が協力してラットマウスの増殖性および非増殖性病変の検討が開始された.現在約8割の臓器については用語と解説が公表されている.これらワーキングループは臓器ごとで活動しているため,科学的には正しいが, 臓器間で用語の違い(Pigmentation / Deposit of pigmentなど)が少なからずある.

     一方,CDISCでもSENDの用語チームが立ち上がり,SEND_CT(Controlled Terminology)としてウェブ上で用語を公開し3か月に一度更新している.INHANDとSEND_CTは相関して活動することにはなっているが,実際のSEND_CT用語を見ると,非腫瘍性病変の用語数がかなり少ない.これは,主にINHANDにある組み合わせ用語の多くが省略されてしまったためである.例えばINHANDにあるInfiltrate, inflammatory cellは省かれInfiltrateという用語しかない.Infiltrateを基礎用語としてinflammatory cellを形容詞としようと考えるITの人たちのアイディアに思える.しかし,実際には毒性評価の現場でInfiltrateだけを基礎用語として評価することはないと思われる.このようにSEND_CTはまだ完成されたものではない.一方でCDISC Implementation Guide3.1がスタートすればSEND_CT用語にない用語はStudy Data Reviewer's Guideに記載しておく必要がある.

     結局,現状では毒性病理用語は1.基本的にはINHANDを活用し,臓器間で違う用語はSEND_CTを活用する,2.CDISC IG 3.1以降のSEND Data Set作成ではSEND_CT用語にない用語はStudy Data Reviewer's Guideに記載する必要がある,3.将来SEND_CTが充実すれば優先的に辞書として活用する,これら3点が肝心である.なお,日本毒性病理学会ではINHANDとSEND_CTと組み合わせた組織用語や肉眼所見用語を含めたGlossary案を検討中である.

シンポジウム23
  • 本間 正充
    セッションID: S23-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    遺伝毒性試験国際ワークショップ(IWGT)は産官学の遺伝毒性試験に係わる研究者が、遺伝毒性試験の開発、改良、評価、及び試験結果の解釈やリスク評価への適用等を議論する国際学会である。IWGTでの議論の結果は学術雑誌であるMutation Research に特集号として掲載される他、ICH、OECD等の国際ガイドライン策定に大きな影響を与える。従ってIWGTはレギュラトリーサイエンスの実践の場とも言える。通常、IWGTは4年に1度開催される国際環境変異原学会(ICEM)と同時期に開催され、今回の第7回IWGTは2017年11月に韓国・仁川で開催されたICEMのサテライト会議として11月8-10日、東京・築地の国立がんセンターで開催された。世界17カ国から約140名の研究者が以下のテーマのワーキンググループに分かれて議論を行った。

    1. Ames試験の見直し

    2. 3D遺伝毒性試験モデル

    3. 新規in vitro哺乳類細胞遺伝子突然変異試験

    4. 異数性誘発物質のリスクアセスメント

    5. In vivo遺伝毒性試験の戦略

    本シンポジウムではこの第7回IWGTで議論された遺伝毒性試験の新たな潮流について各演者が話す。

    遺伝毒性試験の別の潮流としてインシリコ手法の発展がある。これは、ICH-M7ガイドラインの策定に刺激されたことが大きいが、今後さらに加速するIT社会や、動物実験削減の潮流を考えるとその流れは当然と言える。これまで毒性学は生物学的試験結果のみに主眼が置かれ、化学構造を基本とした物理化学的性質は無視されてきた。医薬品の薬理作用はその化学構造に100%依存することは自明であり、毒性も化学構造によって決定されるはずである。近い将来、毒性学は生物学から化学へと大きく転換すると考える。その先鞭をつけるのは遺伝毒性である。

  • 羽倉 昌志
    セッションID: S23-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     細菌を用いる復帰突然変異試験(Ames試験)は,化学物質のDNA反応性を簡便で高感度に検出できるin vitroの遺伝毒性試験であり,発がん物質のスクリーニング試験として汎用されている。Ames試験は開発されてから約45年が経ち,OECDガイドライン(471)をはじめ,様々な遺伝毒性試験のガイドラインに採用されている。最近では,高価な化学物質,不純物や代謝物など少量しか用意できない被験物質についても遺伝毒性の評価ができるよう,ミニチュアAmes試験のOECDガイドライン化を目指す動きもある。最新の科学的知見や蓄積データに基づいて,その他の遺伝毒性試験のOECDガイドラインは,最近,新規に作成あるいは改訂されているが,Ames試験のOECDガイドラインはこの20年ほど改定されておらず,他のOECD遺伝毒性試験ガイドラインと比べて記載内容が不十分であり,改訂の要望が高まっている。

     昨年11月に第7回IWGT(International Workshops on Genotoxicity Testing)の対面会議が開催され,ワークショップの一つとして「Ames試験の再評価とin silico予測」について議論された。そこでは,Ames試験に関する最新のデータ解析結果や新知見が紹介され,ガイドラインへの掲載の妥当性を含め,菌株の見直し,試験習熟度の評価,試験成立基準,試験結果の評価基準,試験実施方法についての指針について議論された。一方,最近のAmes試験のin silico予測とその支援ソフトの進歩は目覚ましく,DNA反応性不純物に関するICH M7ガイドラインでもその利用が約2年前に認められている。対面会議後も議論は現在も続いているが,本シンポジウムではIWGTで議論されたAmes試験の再評価についての内容とin silico予測の進歩とその活用法ついて紹介する。

  • 森田 健
    セッションID: S23-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    遺伝毒性評価におけるin vivo試験結果の評価は極めて重要である。結果の陰性妥当性やin vitro陽性時のフォローアップ(FU)試験としての妥当性など、特に規制観点からの話題を、IWGTで議論された内容を中心に紹介する:1) Ames陽性のFUとして、トランスジェニック遺伝子突然変異試験(TGR)に代えてのin vivoコメット試験の利用。Ames陽性発がん物質の検出性は、肝臓と消化管ではTGRとコメットで同等であったが、骨髄ではTGRが高かった。IARC発がん物質の検出性は、TGRとコメットで同等であった。TGRに代えてのコメット利用の可能性が示唆された。2) In vitro小核陽性のFUとして、骨髄小核および肝臓コメットに加えての接触部位コメットの必要性。解析対象物質の85%が骨髄小核と肝臓コメットの組合せで陽性に検出された。ルーチン評価として接触部位コメットは不要との意見が大勢を占めた。3) 経口投与での接触部位コメットにおける消化管部位の選択。解析対象物質の80%が複数の消化管部位(腺胃/十二指腸/空腸)で一致した結果を示し、複数の消化管部位での試験は必要ないと判断された。4) 腹腔内投与の適用。標的臓器曝露への懸念から腹腔内投与を当局から求められたケースがあるが、小核試験による比較検討で、腹腔内投与が経口投与よりも優れているとの証拠はない。特別な理由がない限り生理的に妥当な経路を用い、リスク評価にはそのような試験の知見に重みを置くべきとされた。5) 標的臓器の曝露証明のための血中濃度測定の妥当性。EFSA(案、2017)の見解では、血中濃度測定は骨髄曝露の“間接的証拠”とし、証拠の重みづけ評価が必要とされた。定量的曝露比較から、血中濃度測定は骨髄や他の組織の曝露証明に利用可能で、肝臓など他の全身性組織は、血液/骨髄よりも高い濃度で曝露されることが示された。

  • 濱田 修一
    セッションID: S23-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    肝臓小核試験は,薬物代謝の主要臓器である肝臓において小核誘発性を評価できる点で非常に優れた試験法である.特に不安定な代謝物が肝発がん性を示す物質は骨髄小核試験で陰性になりやすいため,肝臓小核試験による評価は極めて有用である.前回のInternational Workshops on Genotoxicity Testing (6th IWGT,2013 in Iguazu)でも,肝臓小核試験の有用性は高く評価されたが,異数性誘発物質や非発がん物質でのデータが少ないこと,細胞毒性の評価法などの課題も示された.我々は6th IWGT後の4年間に異数性誘発物質や非発がん物質でのデータを蓄積し,その他の課題にも対応して肝臓小核試験は実用段階に入った.昨年末,東京で開催された7thIWGTにおいてこれらの追加データを示し,肝臓小核試験はその評価化合物の数においてもtypeにおいてもOECDガイドライン化に充分なバリデートがなされているとの合意を得た.ただし,日本と欧米で一般毒性試験に用いる動物の週齢に差があることから,肝臓小核試験結果への加齢の影響についての評価が必要であるなどのコメントもあった.今後はこれらの課題に対応し,OECDガイドライン化を目指す予定である.消化管小核試験,肺小核試験については,OECDガイドライン化にはさらに多くのデータが必要であるとの意見が多かった.肺小核試験については開発がスタートしたところであり,今後多くのデータが必要と考えるが,消化管小核試験に関しては肝臓小核試験に匹敵する蓄積データがある.消化管を用いた小核試験は,経口投与された試験物質により高濃度で直接曝露される胃,がんの発生率の高い大腸において小核誘発性を評価できる点で優れている.また,腸内細菌により遺伝毒性物質に変換される可能性もある.これらのことを十分考慮し,今後のガイドライン化に向けた対応を考える必要がある.

  • 三島 雅之
    セッションID: S23-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    In vitro哺乳類細胞を用いる試験系は、主に染色体構造異常を検出する試験系がAmes試験を補完する目的で多用されている。遺伝子突然変異は発がんの最も重要な要因であり、哺乳類細胞を用いる遺伝子突然変異試験系は30年以上前に開発されたものの、その利用は限定的である。1970年代に開発された細菌の遺伝子突然変異を検出するAmes試験は、毒性試験としては例外的に早く安く実施できるために膨大なデータと経験が蓄積され、現在もなお遺伝毒性評価の中心的役割を担っている。その一方で、バクテリアと哺乳類の代謝やDNA修復系の違いによるAmes試験の外挿性の問題も明らかになっている。近年、様々な製品に使用されつつあるナノマテリアルはAmes菌株の細胞壁を透過しないため、Ames試験による評価は意味をなさない。こうしたことから、哺乳類細胞を用いるin vitro遺伝毒性評価の役割が再認識されている。レポーター遺伝子をシャトルベクターに組み込んで遺伝子導入したトランスジェニック動物の有用性が明確になったことで、そうした動物から樹立した細胞株や初代培養細胞を用いる、Big Blue、MutaMouse、plasmid mouse、gpt delta、ΦX174、supFなどの新しいin vitro試験系が開発されている。これらは、従来の試験系の欠点を改良し、試験遂行の労力や得られる情報の点で大きく進歩している。また、3次元培養を用いることでヒトへの外挿性を高めようとする試みも行われている。染色体の切断と分配異常のMOAを鑑別して定量的なリスク評価につなげる取り組みでは、スクリーニングとして産業応用可能な方法も開発されている。近年、in vitro哺乳類細胞試験から様々な情報を得ることが可能になっているので、進歩した試験法の性能をレビューし、それらがどんな場面で有効に機能するのか、その可能性を議論する。

  • 松田 知成
    セッションID: S23-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    レギュラトリー的には、遺伝毒性はいくつかの試験の組合せで行う必要があり、染色体の異常を検出する試験(染色体異常試験や小核試験)は良く用いられる。染色体異常はDNA損傷で誘発されるが、一方、DNA損傷を介さずに誘発されることもある。例えばカフェインはATMを阻害することで染色体異常を誘発する。その他、Chk1やPlk1の阻害剤も染色体異常を誘発する。染色体異常誘発メカニズムがDNA損傷の場合と、これらタンパク質阻害の場合では、閾値に対する考え方も違ってくる。従って、DNA損傷を介する遺伝毒性と、そうではないものを区別して評価できる遺伝毒性試験が求められる。我々の研究室では長年様々な遺伝毒性試験を開発し、その要望に応えようとしてきた。まず、DNA損傷を検出する方法として、「DNAアダクトーム法」を開発した。この方法は、LC/MS/MSを用いてDNA損傷を網羅的に直接検出しようとするものである。また、1分子リアルタイムDNAシーケンサーを用いて、極低頻度の突然変異を直接定量する方法、「SMRT変異検出法」を開発した。また、DNA損傷応答をライブセルイメージングで検出する方法である「MDC1アッセイ」も開発した。MDC1タンパク質は、DNA損傷によりヒストンH2AXのリン酸化が起きると、それに結合する。よって、MDC1に蛍光タンパクを付けておけば、DNA損傷で生じるMDC1のフォーカスを観察することができる。この系は、DNA損傷の検出に使えるばかりでなく、DNA損傷応答の阻害を評価することもできる。実際、エームス陰性、染色体異常陽性の物質について、DNA損傷応答の阻害を評価したところ、いくつかの物質でこの活性が見つかった。従って、これら物質ではDNA損傷応答の阻害により染色体異常を誘発していることが示唆された。

ワークショップ1
  • 白土 治己, 蓜島 由二
    セッションID: W1-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     現在、本邦の医療機器における生物学的安全性は、ISO10993-1、JIS T 0993-1、並びにISO10993-1をベースとした生物学的安全性評価に関する通知(「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」薬食機発0301第20号平成24年3月1日)の3つを基本として審査している。審査では、これらの規格の「星取表」に記載されている「考慮すべき試験」の実施結果に基づいて、医療機器の生物学的安全性の評価を行っている。また、それらの試験は、本邦の施行規則に基づき、GLP準拠下(GLP適合施設)での実施が求められている。

     今般、改定作業が進んでいるISO10993-1では、生物学的安全性評価に関する内容が大幅に変わることが明らかとなっている。これを受けて、国内ガイダンスの改定が行なわれると共に、今後の医療機器審査に大きく影響することが想定される。

     ISO10993-1の主な改訂ポイントは幾つかあるが、一連の生物学的安全性評価の流れの中に形状及び物理化学的評価が新たに組み込まれた。また、評価対象となる医療機器の意図する使用方法等から予見されるハザードを特定する一環として、化学情報の収集に加え、10993-17(曝露量評価)、10993-18(化学的特性評価)及びDTS21726(毒性学的懸念の閾値:TTC)等の関連規格に基づき、必要に応じて化学分析を使用した安全性・同等性評価を行うことが強調されている。化学分析を併用して安全性評価を行う場合、化学分析で担保できない生物学的安全性試験を適宜実施することとなる。

     本セッションでは、3名の講師から話題提供を受けた後、事前質問も含めた質疑応答を行う。また、産官学関係者全員で、これからの本邦における医療機器の生物学的安全性評価に関する考え方について総合的に討論する。

     当該セッションに関しては、事前質問を受付けており、適宜、総合討論の話題としたい。

    事前質問の受付先: device-seian@pmda.go.jp

  • 中岡 竜介, 坂口 圭介, 蓜島 由二
    セッションID: W1-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     現在、我が国では、未来投資戦略2017をはじめとした国家的施策により、日本発の新医療機器の実用化が推進されている。しかしながら、医療機器の実用化にはそのリスクに応じた各種評価を行うことが必須となる。例えば、生物学的安全性評価については、厚生労働省通知「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性に関する基本的考え方」を十分理解した上で、対象機器の特性を踏まえて適切な評価法を選定・新規構築する必要がある。

     医療機器の生物学的安全性評価の重要性が認知され始めた1989年、国際標準化機構においてTC 194「医療機器の生物学的評価」が設立され、世界各国の医療機器産官学関係者が参画して医療機器の生物学的評価に必要な国際標準化文書が作成されてきた。その結果、現在、当該TCで作成されているISO 10993シリーズの基本文書となるPart 1 “Evaluation and testing within a risk management process”は世界各国の規制及び業界で引用・使用されており、我が国でも上記通知に利用されている。現在、Part 1は、医療機器の適用部位や使用時間等を考慮した推奨試験パッケージの再整理、化学分析を用いたリスク評価と毒性学的閾値(TTC)の考え方の導入等を中心に改定が進んでいる。Part 1改訂版は今春頃に発行される予定であり、それに伴い上記通知も新しいPart 1に整合させるための改定が必要になる。また、TTCを医療機器のリスク評価に導入するため、医療機器からの溶出物許容量に関する文書であるPart 17、医療機器材料の化学分析に関するPart 18も、新しいPart 1に整合させる形で改定が進んでいる。しかしながら、これらの文書の改定においては、TTC等の概念に基づいたリスク評価が実践されている医薬品分野の考え方を直接転用する傾向があるとともに、化学分析のウエイトが過度となる可能性もある。また、リスク評価を行うための分析パッケージも定まっていないことから、今後の改定方向には十分留意する必要がある。本講演では、上述した文書の改定内容等を概説するとともに、それらの成立に伴い国内規制に及ぼしうる影響を紹介する。

  • 北山 智華子
    セッションID: W1-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    NAMSAは1967年に米国、オハイオ州で医療機器の生物学的安全性評価及び滅菌保証のラボとして創業し、昨年50周年を迎えた医療機器、IVD及び再生医療製品の包括的な医療機器開発受託機関である。米国、欧州、及び中国にラボを持ち、米国、欧州、中国及び日本の各拠点において、医療機器のコンサルティング、生物学的安全性試験を含む非臨床試験、及び臨床試験のサービスを提供している。この一環として、弊社Biosafetyチームは、ISO 10993-1; Biological evaluation of medical devices – Part1: Evaluation and testing within a risk management processに基づく医療機器の生物学的安全性の評価を支援する業務を遂行している。ISO 10993-1には、「医療機器の生物学的安全性評価を、知識及び経験が豊かな専門家によって、計画し、実施し、かつ、文書化する」よう規定されている。弊社では、ISO 10993に基づく医療機器のリスク評価において、機器の原材料、及び、製造工程、洗浄、包装、及び滅菌工程等からの残留物が臨床使用において有意な毒性を示すレベルの物質が浸出液中にないことを確認するため、必要に応じ、ISO 10993-18に準じた化学分析(Chemical characterization)を行い、ISO 10993-17に準じたExtractable/Leachable化学物質の毒性学的評価を行っている。本ワークショップにおいては、弊社における上述の取り組みの現状を紹介する。また、医療機器の生物学的安全性評価については、各国の規制当局により評価の考え方等に違いがある。上記に加え、弊社では欧州、米国、中国及び日本の規制対応も含めたBiological risk assessmentを行っているので、本取り組みについても言及したい。

  • 小島 幸一
    セッションID: W1-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     医療機器の生物学的安全性評価は、国内申請においては「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(薬食機発0301第20号、平成24年3月1日)に従い実施します。日米欧三極の調和が図られるようになっているとはいえ、本邦と海外のガイダンスは完全に一致しているわけではありません。海外への申請も考えると、ISO 10993-1(2009)やFDA guidance(2016)などを踏まえ、「最終製品での試験が必須か」、「試験液の調製条件は」、「用いるべき試験法は」等々、いくつかの観点について熟慮した上で、最大公約数的な方法を設定するなど、効率的な試験実施計画が必要になります。

     薬食機発0301第20号では、試験法による感度や定量性などの相違や、試験液の調製法による偽陰性を招く可能性などを指摘した上で、特に細胞毒性試験、感作性試験、遺伝毒性試験などに関して特別な留意点が示されています。

     また、いずれのガイドラインも最終製品での試験が基本ですが、最終製品へのこだわりの強さには三極で若干の相違があります。得られた試験液の試験系への適用前処理(遠心、ろ過など)にも相違が認められます。血液適合性試験の比較対照に用いる医療機器は、それぞれの国での既承認品であることが求められています。

     三極での生物学的安全性試験は、いずれもGLP基準での実施が基本です。しかし、国内で登録認証機関による認証対象の医療機器は、非GLPでの試験でも問題ないことになっています(高度管理医療機器を除く)。本邦で認証を取得後に海外申請を考えた場合、再度GLP基準での試験を実施することになることも想定されます。

     限られた時間ですが、いくつかの例を示しながら、生物学的安全性試験に関する国内外の相違について紹介します。

ワークショップ2
  • 斎藤 嘉朗, 齊藤 公亮
    セッションID: W2-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    近年の分析機器等の性能向上により、少量の採取(マイクロサンプリング)を行った血液等を用いて、薬物動態を評価する手法が発展している。トキシコキネティクス(TK)試験用のサテライト動物数を減らして動物福祉の向上に貢献すると共に、個体単位での毒性と薬物動態の同時評価が可能となることから、その適用が期待されている。

    このような状況において、2014年12月に、非臨床試験におけるトキシコキネティクス(TK)に関するS3AガイドラインのQ&Aとして、マイクロサンプリングに関する記載案を作成するICHワーキンググループが立ち上がり、議論が開始された。2016年5月にStep 2案が公表され、パブリックコメントの募集が日米欧等で行われた。その意見を反映した改訂案が2017年11月のジュネーブにおけるICH総会にて承認され、最終化した。本Q&Aは、TK評価におけるマイクロサンプリング手法の利用促進を目的したもので、7つの項目より成っており、それぞれ1) マイクロサンプリングの定義は何か?、2) マイクロサンプリングのベネフィット/利点は何か?、3) どのような種類の医薬品及びどのような種類の安全性試験にマイクロサンプリングを利用できるか?、4) TK試験にマイクロサンプリングを適用する場合の留意点は何か?、5) マイクロサンプリングでは,どのような血液採取法が使用できるか?、6) 主試験群における毒性データや動物福祉に対する採血の影響の評価方法は?、7) 液体または乾燥試料の処理に関する生体試料中薬物濃分析法開発やバリデーションにおいて考慮すべき点は何か?、である。今後、日本語訳案とパブリックコメントへの回答案を作成し、厚生労働省に提出する予定である。

    本講演では、Q&Aの紹介、欧州等での利用事例、さらに技術指針作成に関する演者らの取り組みについて述べる予定である。

  • 二橋 陽一郎, 大道 浩三, 原田 智隆, 山本 鉄斎, 中井 恵子, 斎藤 嘉朗, 家木 克典
    セッションID: W2-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    生体試料中の薬物やバイオマーカー等を分析するための試料採取を小スケールで行うマイクロサンプリングは,申請のための医薬品開発や臨床の場面で利用可能な技術として知られている.2016年に発出されたマイクロサンプリングに関する日米EU医薬品規制調和国際会議 (ICH) S3A (トキシコキネティクス) Q&A案が2017年11月にStep 4に到達して最終化されたことから,特にトキシコキネティクス (TK) 評価でマイクロサンプリング技術を利用することに国内の製薬企業や医薬品開発業務受託機関 (CRO) の関心が高まってきている.

    Q&Aでは,マイクロサンプリングは従来よりもごく微量の血液 (50 µL以下) を採取する方法と定義されており,微量の血液を扱うことに付随するTK評価に関する問題点についても言及されている.

    バイオアナリシスフォーラム (JBF) は,バイオアナリシスの発展と課題解決のために国内の産官学のバイオアナリシス関係者より構成された団体であり,その活動の一つとしてディスカッショングループ (DG) を運営し,国内の関係者にバイオアナリシスに関する諸問題を議論する場を提供している.2017年度のDG (JBF DG2017-29) は,規制下の試験にマイクロサンプリングの適用を考えている製薬企業やCROに向けて,具体的な対応例を含む情報を提供することを目的として,2015年度及び2016年度に引き続き活動を継続し,「wet (血漿) 試料をLC/MSで分析する」ことを前提に,以前からの継続議論が必要な項目あるいは意見がわかれそうな項目として,「試料の適切な希釈」「試料の保管」「マイクロサンプリングへ変更することに伴うパーシャルバリデーション」「抗凝固剤の影響」「ピペット操作による真度・精度に与える要因」に絞って議論を進めてきた.本発表においては,Q&A (案) において提示されているTK評価に関する項目及びマイクロサンプリングを実践するうえで分析者が直面する課題について,3年間のDG活動を通じて得られた知見を展開する.

  • 服部 則道
    セッションID: W2-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     分析技術の向上に伴って、微量の血液検体によるトキシコキネティクス(TK)評価が可能となりつつある。2017年11月には、「Questions and Answers: Note for Guidance on Toxicokinetics: The Assessment of Systemic Exposure in Toxicity Studies Focus on Microsampling」がICHにてステップ4合意され、マイクロサンプリング技術の毒性評価への実践的な利用が強く期待されている。

     TK評価におけるマイクロサンプリング手法の活用は、動物からの採血量を抑えることに伴う苦痛軽減、あるいはTKサテライト動物の削減といった動物実験の3Rsへの寄与に加え、発現した毒性と曝露の関連づけを容易にするという点で、試験評価上の大きな利点が見込まれる。しかしながら、マイクロサンプリングによる微量採血が毒性試験にもたらす影響について十分な検証データは存在しておらず、普及が進んでいるとは言い難い。

     平成29年度にAMED創薬基盤推進研究事業において、医薬品・医療機器の実用化促進課題に採択された「革新的医薬品等開発のための次世代安全性評価法の開発・標準化と基盤データ取得」では、マイクロサンプリングによる微量採血操作が毒性試験に与える影響に関するデータ取得及び検証が計画され、当社は食品素材あるいは医療関連素材の毒性評価への応用を企図し、本プロジェクトへ参画している。当該検証研究では、げっ歯類(ラット)を用いた4週間反復投与毒性試験を想定した試験条件において、毒性試験群の動物に対して微量採血操作を経時的及び経日的に実施し、毒性評価パラメータに及ぼす採血の影響について精査を行っている。本発表では、当社における取得データを紹介するとともに、マイクロサンプリング技術の毒性試験への活用に向けた課題の抽出と、今後の展望について述べる。

  • 岩井 淳, 赤川 唯, 村田 英治
    セッションID: W2-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    2017年11月のジュネーブにおけるICH総会にて,マイクロサンプリング法に関するQ&Aが承認,最終化されたことにより,今後,マイクロサンプリング法の普及が期待される.一方,マイクロサンプリング法については,毒性評価を行う動物から採血することによる毒性評価への影響や従来のサテライト群を設定して比較的多量のサンプルを採取した場合との薬物動態の相違などに関する報告が十分とは言えない.加えて,採血部位,採血器材,血液処理法など検討を要する様々な課題が残されているのが現状である.我々は,マイクロサンプリングに関する基礎的検討結果を第44回(2017年)および本年の日本毒性学会学術年会において報告し,現在も検討を継続している.これまでの採血部位や使用器材等に関する検討結果を踏まえ,CROの立場から現状での課題や今後の予定について報告する.合わせて,2017年よりAMEDの研究班では,統一プロトコールによる多施設間バリデーション試験が実施されている.近い将来,バリデーション試験の結果に基づいたマイクロサンプリング法の毒性試験への普及を進めることが可能と考えられるが,これまでの検討結果を基に技術的な課題や解決策を抽出するとともに,動物福祉と安全性評価を両立可能な毒性試験法の確立に向けた提案を行う.

ワークショップ3
  • 山下 晴洋
    セッションID: W3-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     網膜・視神経毒性は神経組織に対する傷害を含むため、その変化の多くは非可逆的であり、眼毒性の中でも重篤かつQOL(Quality of Life)に対する影響が大きいといえる。非臨床安全性評価において、医薬品や化学物質の曝露により網膜・視神経毒性が惹起された場合、医薬品であればその開発が中断または制限される要因となり、化学物質であればヒトへの曝露が制限されることになる。これまでにクロロキンやキノホルムによる網膜毒性、エタンブトールやメタノールによる視神経毒性が社会問題となり、現在の医薬品開発においては網膜・視神経毒性に対し細心の注意が払われている。非臨床安全性評価では、通常、眼科学的検査及び病理組織学的検査により網膜・視神経毒性の評価が行われているが、場合によっては網膜電図検査や視覚誘発電位検査などの電気生理学的検査が実施されている。また、近年では光干渉断層計検査Optical Coherence Tomography(OCT)等の画像診断技術が実験動物に応用されるようになり、臨床モニターや臨床バイオマーカーとして活用できる技術も広がりを見せている。これらの検査技術に関する知識やヒトと実験動物の種差を含めた眼科学的知識に加え、過去の事例を学ぶことは網膜・視神経毒性のリスク評価を適切に行う上で重要である。

     本講演では、過去にヒトで網膜・視神経毒性が問題となった医薬品や化学物質の実験動物における研究事例に加え、医薬品の非臨床安全性評価で報告された網膜・視神経毒性の事例についてメカニズムを含め最近の知見を紹介する。

  • 荒木 智陽
    セッションID: W3-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品の安全性試験における一般的な眼科学的検査では、細隙灯顕微鏡(スリットランプ)を用いて角膜、虹彩、中間透光体(前房、水晶体、前部硝子体)を、また、倒像検眼鏡及び非球面レンズを用いて後部硝子体及び眼底を精査する。特に網膜や視神経は、異常が生じると視覚に大きな影響を及ぼすリスクが高いため、的確な検査が求められる。しかしながら、一般状態観察では視機能の異常を捉えることが難しい。長期反復投与による安全性試験では、発現する変化が緩徐であることも少なくないため、眼科学的検査では微細な初期変化も的確に捉え記録しておかなければならない。被験物質投与時に発現する網膜毒性所見には、自然発生の病変・所見と類似しているものも多い。種々の自然発生病変からその網膜の状態を理解しておくことは、網膜や視神経毒性のリスク評価をする上で重要である。特に眼底の色調は、網膜の厚さによっても変化がみられるため、色調と網膜形状の関係性はよく理解しておく必要がある。しかしながら、一般的な眼底検査では、眼底組織の各層の位置関係を三次元的に理解するには相当な熟練が必要であり、網膜の軽微な変化については、その局在を特定することが難しい。近年、眼底組織の断層像を経時的に観察できる光干渉断層計(Optical Coherence Tomography,以下OCT)検査が、実験動物の分野においても応用されてきている。OCT検査は、異常が網膜のどの層に局在するかを明らかにできるため、一般的な眼底検査では判断が難しかった所見についても的確な評価が可能となってきている。

    本講演では、これまで新日本科学で実施したOCT検査により検出されたラット、イヌ及びサルの眼底における自然発生病変の症例をもとに眼底の色調変化が示す網膜の状態について紹介する。また、OCTでは検出できない病変も示し一般的な眼底検査で注意すべき色調の見方なども述べたい。

  • 石川 均
    セッションID: W3-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     視神経疾患は大きく視神経炎と視神経症に大別される。後者の原因に、血流障害による虚血性、腫瘍等による圧迫性、鼻腔疾患により生ずる鼻性、その他遺伝性、外傷性が続く。中毒性視神経症は本症に含まれるが、その原因薬剤として古典的にはエタンブトール、ある種の抗生剤や抗ガン剤が有名であるが、加えてSildenafil citrate(Viagra®)、TNFα製剤であるAdalimumab等新たな薬剤による視神経症も増加傾向で注意を払う必要がある。現在、中毒性視神経症はミトコンドリア視神経症(Mitochondrial Optic Neuropathies: MON)とも呼ばれている。

     一般に視神経疾患は主に視野中心部の視力低下(中心暗点)が生じ、対光反射が障害される。加えて特に中毒性視神経症は両眼性で進行は緩徐、無痛性である。視力低下に先立って色覚異常や限界フリッカ値が低下することもあり、これらの所見から本症を疑うが、診断確定に最も重要なのは、正確な現病歴、既往歴、投薬歴の把握である。しかし多くの場合患者から正確に情報を引出すことが出来ず、診断確定は非常に困難である。しかも上述したごとく視神経症の原因は多岐にわたりこの中毒性視神経症は最終的に他の疾患が除外され初めて診断確定となる。中毒性視神経症では早期発見、中止により視機能は完全に回復し、逆に中止の遅れは恒久的に視機能障害が残存するため早期診断は最も重要である。 

     講演では診断に苦慮した種々の中毒性視神経症例を提示し、確定診断に至るまでのプロセス、MRIや光干渉断層計等の眼科検査結果を提示する。多くの薬剤、特にエタンブトール等中毒性視神経症では、投与量や期間、性別、体重さらに危険因子として糖尿病や腎機能等全身状態により発症が規定されるが我々が経験したそれ以外の発症の危険因子も紹介し、中毒性視神経症について臨床的に考察したい。

ワークショップ4
  • 佐藤 陽治
    セッションID: W4-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    再生・細胞医療に用いられる細胞加工製品の非臨床開発段階では、品質・安全性確保のための様々な試験が必要とされる。ただし、複雑で動的な生細胞を含むという、ユニークな特性をもつことから、既存の試験法がそのまま適用できるとは限らない。例えば、生細胞を含むことから原料等や最終製品のウイルス安全性試験には、高い迅速性が求められる。また、多くの低分子化合物の非臨床安全性試験では、ヒトへの外挿性を担保するための安全係数を考慮した大量の検体を動物に投与し、陰性の結果に基づきヒトでの安全性を推定するが、細胞加工製品で同様の試験を実施する際には、動物や投与部位のサイズの制限、および細胞のサイズが低分子化合物よりも大きいことにより、検体投与量は通常、ヒトでの臨床投与量以下となる。この場合、形式は似ていてもプリンシプルが異なる試験となる。つまり陰性の結果によって、製品の品質としてハザードが一定量未満であることを示すことができても、ヒトでの安全性の推定は上のような低分子化合物の場合よりも難しい。なお、細胞加工製品中に含まれる細胞の造腫瘍性や体内動態といった、従来の医薬品等にはない品質・安全性上の懸念については、改めて評価法を開発しなければならない。例えば、悪性形質転換細胞の混入(発生)は造腫瘍性を惹起するハザードであり、高感度検出法が必要とされる。また、ES細胞やiPS細胞は元来の性質として造腫瘍性を持つため、特にES/iPS細胞加工製品については、最終製品中の不純物としての未分化ES/iPS細胞の混入(残存)を高感度で検出する必要がある。わが国では、こうした不純物としての造腫瘍性細胞を高感度で検出する試験法が世界に先駆けて数多く開発されており、厚生労働省は昨年、これら造腫瘍性関連試験法のガイドライン案を公表している。また、これらの試験法に関する多施設バリデーションのプロジェクトが進行中である。

  • 野中 瑞穂
    セッションID: W4-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     医薬品医療機器等法下におけるヒト細胞加工製品の非臨床安全性評価の考え方は、製品の由来(体細胞、体性幹細胞、iPS細胞、ES細胞等)により、「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針」を含めた5通知(平成24年9月7日薬食発0907第2号~第6号)に基本的な考え方が示されている。また、当該指針では、技術的に可能かつ科学的合理性のある範囲において、動物を用いた安全性評価を求められており、ヒトに投与される際に安全性上の明らかな懸念の有無や、製品が投与されるヒトにおける安全性の予測、治験で得られる有害事象との関連性の確認に役立つ情報を把握することが必要である。医薬品及び医療機器のように、参考となる試験法ガイドラインが整備されていないこと、ヒト由来細胞の場合、動物を用いた安全性評価は限定的であると考えられること、製品の由来細胞や製造方法が多種多様であること、等から、個々の製品の特性及び治験で対象とする疾患に応じて、柔軟かつ合理的にケース・バイ・ケースでの対応が求められている。

     ヒト細胞加工製品の治験を実施する場合には、一般毒性評価、造腫瘍性評価、主要な生理学的機能に対する影響の評価、製造工程由来不純物に対する安全性評価が必要と考えられる(再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンス、平成28年6月27日事務連絡)。本発表では、主に造腫瘍性評価に焦点を絞り、これまでにPMDAが実施した薬事戦略相談及び治験相談での経験や事例を踏まえて、ヒト細胞加工製品の由来細胞に応じた造腫瘍性評価の考え方、造腫瘍性試験の目的や試験デザインの要点等について概説する。

  • 坂東 博人, 山本 恵司, 奈良岡 準, 三好 荘介, 渡辺 武志, 我妻 昭彦, 坂東 清子, 鈴木 睦, 西田 仁, 糀谷 高敏, 田中 ...
    セッションID: W4-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    多能性幹細胞(iPSC)由来製品の臨床応用において、製品に含まれる未分化細胞や形質転換細胞による腫瘍形成は安全性上の重大な懸念であるが、これまで造腫瘍性評価に関する国際的に合意された標準的試験法は存在しない。本課題に取組むため産官連携による「細胞加工製品の造腫瘍性評価に関する多施設共同研究(MEASURE)」が開始された。MEASUREでは、造腫瘍性評価の現状分析結果に基づき、免疫不全マウスを用いて未分化細胞を検出するin vivo試験、未分化細胞を検出するin vitro試験2種(培養増幅法及びPCR法)、形質転換細胞を検出するin vitro試験2種(デジタル軟寒天コロニー法及び不死化細胞検出法)及びAlu-qPCRを用いた細胞体内動態試験の計6試験についてバリデーションを行う。国立医薬品食品衛生研究所及び民間企業約25社が協働し、本試験に用いる共通プロトコルを作成するための予備試験を実施中である。未分化細胞を検出するin vivo試験ではヒト線維芽細胞に、培養増幅法ではヒト間葉系幹細胞(hMSC)に、PCR法ではヒト網膜色素上皮細胞に、それぞれ0.01-10%、0.001-0.005%及び0.0003-0.1%の割合でiPSCを混入させ、また形質転換細胞検出試験2種では、いずれもHela細胞を0.0001-0.01%の割合でhMSCに混入させ、その検出可否を検討している。細胞体内動態試験ではPCR 検出法、primer/probeセット、DNA 抽出法等の最適化を図った後、検量線、特異性、真度及び精度、マトリックス効果などの検討を行っている。今後、予備試験結果に基づき、本試験の共通プロトコルを最終化し、3施設以上で本試験を実施して試験法のバリデーションを行う予定である。さらに、これらの試験方法および成績は日米欧の規制当局にも共有して試験法の国際標準化を図っていく。

  • 木下 潔
    セッションID: W4-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     現在上市されている再生医療等製品は、体細胞もしくは体性幹細胞を原料としており、いずれもヒトから採取した不均質な細胞・組織より製造されている。このようにして製造された最終製品では、有効性に係る純粋かつ均質な目的細胞成分の最大化と、安全性に係る微生物・ウイルスや製造工程に由来する有害物質の除去もしくは最小化が求められる。このため、製品開発時には最終製品の有効性及び安全性を適切に評価し、臨床適用時の人体への影響を十分に予測しておくことが重要である。未だ上市事例はないが、ES細胞及びiPS細胞より製造される製品についても、基本的な考え方は同様である。

     最終製品の有効性及び安全性の評価については、「技術的ガイダンス」1)をはじめ関連する諸種ガイダンス2)を参考に、開発者が各製品の特性を考慮しながらcase by caseで取り組んでいるのが現状である。ヒト用最終製品の由来は自己、同種、他種に分類され、また、その形状は分散細胞(血球等)と細胞塊(シート等)に大別することができる。そのため、非臨床でこれら製品の安全性を評価する際には、造腫瘍性の評価の他、異種免疫反応に加えて移植部位のサイズ・形態の差異等も念頭に置き、評価する期間/項目/基準などを考慮する必要がある。このように、人体への影響を非臨床での評価を基に予測するにあたっては、動物種の選択、動物モデルの構築、適用量の設定など、多くの課題があると考えられる。本発表では、再生医療等製品の開発時において、最終製品の造腫瘍性以外の安全性の評価を非臨床で進めるにあたり、現時点で考えておくべき課題を整理する予定である。

    1)‌独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長.再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床安全性試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンスについて. 薬機発第0614043号,平成28年6月14日.https://www.pmda.go.jp/files/000212850.pdf

    2)https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/ctp/0007.html

ワークショップ5
  • 鈴木 洋史, 苅谷 嘉顕, 本間 雅
    セッションID: W5-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     分子標的薬は優れた効果を有するが、予期せぬ重篤な副作用により薬物療法が制限される場合も多い。特に心毒性予測は、治療上、また医薬品開発上も重要な研究課題となる。演者らは、チロシンキナーゼ(TK)阻害剤(TKI)の心毒性発症機構について解析を進めている。

     進行性腎臓がん治療薬のスニチニブは、心毒性、肝毒性、血小板減少などの副作用を有する。演者らは、臨床投与後、比較的毒性の低いソラフェニブとの比較検討を行った。体内の300種以上のTKと両薬剤の間の解離定数(Kd)、および両薬剤の臨床血液中非結合型濃度を用い、TKの阻害率を算出した。その結果、スニチニブがphosphorylase kinase (PHKG)を強く阻害することが示され、PHKGが毒性発現のオフ・ターゲットとなる可能性が示唆された。パスウェイ・マップの解析により、PHKG阻害は細胞内代謝系の変動をもたらし、細胞内還元型グルタチオン(GSH)濃度が低下することが示され、マウスにても、スニチニブによりヒトと同様な毒性発現、および組織中GSH濃度の低下が観察された。さらにvitamin E投与により組織中GSH濃度は正常値まで回復し、毒性が軽減されること、また、がん移植マウスを用いた検討により、スニチニブの薬効には影響を与えないことが示された。現在、臨床応用に向けた検討を進めている。

     さらに、TK間の連関、およびアポトーシス経路を連結させて記述したマップを作成し、in silico情報に基づきTKI投与後の心毒性発現を予測したところ、予測値と実際の報告値の間には相関が存在した。更なる数理解析手法の発展が必要とされるが、システム薬理学に基づく心毒性発症予測法の確立に向けた一つのアプローチとなるものと期待される。

  • 久保 多恵子, 坪内 義, 山田 徹, 坂東 清子, 芦原 貴司
    セッションID: W5-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    現在、薬剤の心臓安全性評価は、ICHガイドラインS7B/E14に基づき、心室の再分極遅延に伴う活動電位持続時間の延長、すなわちQT延長の潜在的な可能性を指標として評価され、これまで致死性不整脈の発症による薬剤の市場撤退の回避など一定の有用性が認められてきた。しかし、実際には不整脈は無かったにも関わらずQT延長のみを理由として医薬品候補化合物の開発が中止となった可能性が指摘され、現在CiPA(Comprehensive in vitro Proarrthythmia Assay)を中心としてガイドラインの改定が議論されている。その議論の中で、非臨床では複数のヒト心筋イオンチャネルへの影響の評価とin silico評価を組み合わせることにより催不整脈リスク評価を行うこと、その結果をヒトiPS細胞由来心筋を用いた評価で検証すること、臨床においてはQT延長以外の新たなバイオマーカーを活用することなどが提唱されている。

    このような流れから、国内では日本安全性薬理研究会においてin silico情報技術交流会としてiSmartが発足し、国内研究者のヒト心筋細胞モデルを用いたin silico評価の理解を深め、薬剤による催不整脈リスク予測のためのin silico評価の検証作業を通して創薬研究に有用なモデルの構築やその活用を提案する活動が進められている。また、我々は心室の線維構造を組み込んだバイドメイン2次元心室壁モデルを作製し、心室筋活動電位及び心電図のシミュレーションを行い、心臓安全性評価において心筋細胞モデルに留まらない心筋組織モデルの活用を検討している。本発表では、現在の心臓安全性評価におけるin silico評価の動向や我々の作製したモデルによる薬剤の心電図への影響を評価したシミュレーション結果を紹介し、今後の心臓安全性評価におけるin silico評価の有用性について議論したい。

  • 諫田 泰成
    セッションID: W5-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     医薬品の心臓安全性評価は、心室の再分極遅延に伴う活動電位持続時間の延長(QT延長)を指標として評価されている。このICHガイドラインS7B/E14により、致死的不整脈による薬剤の市場撤退が回避され、一定の有用性が認められてきた。しかしながら、実際にはQT延長による評価によって、有用な医薬品候補化合物の開発が中止される可能性が指摘されており、現在、QT延長から催不整脈作用の評価へのパラダイムシフトが国際的に議論されている。

     このような背景のもと、国立衛研を中心とする日本のコンソーシアムJiCSA(Japan iPS cardiac safety assessment)や米国FDAを中心とする国際的なコンソーシアムであるCiPA(Comprehensive in vitro Proarrthythmia Assay)において、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた新たな評価系の開発と国際的な検証が進行中である。

     そこで本シンポジウムでは、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた催不整脈作用の評価系の動向に加えて、今後、心筋収縮などの評価系への応用例を紹介し、統合的な心臓安全性評価法の現状と課題について議論したい。

  • Ksenia BLINOVA, Qianyu DANG, Daniel MILLARD, Godfrey SMITH, Jennifer P ...
    セッションID: W5-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     To assess the utility of human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocytes (hiPSC-CMs) as an in vitro proarrhythmia model, we evaluated the concentration-dependence and sources of variability of electrophysiologic responses to 28 drugs linked to low, intermediate, and high torsade-de-pointes (TdP) risk categories using two commercial cell lines and standardized protocols in a blinded multisite study using multielectrode array or voltage-sensing optical approaches. Logistical and ordinal linear regression models were constructed using drug responses as predictors and TdP risk categories as outcomes. Three of 7 predictors (drug-induced arrhythmia-like events, and prolongation of repolarization at either maximum tested or maximal clinical exposures) categorized drugs with reasonable accuracy (area under the curve values of receiver operator curves ~0.8).  hiPSC-CM line, test site, and experimental platform had minimal influence on drug categorization.   These results demonstrate the utility of hiPSC-CMs to detect drug-induced proarrhythmic effects as part of the evolving Comprehensive In Vitro Proarrhythmia Assay paradigm.

ワークショップ6
  • 甲斐 清徳
    セッションID: W6-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    急性腎障害(Acute kidney injury: AKI)は入院患者の1~7%とされ、AKIのうち薬剤性腎毒性は19~33%を占める。AKIにより急激にglomerular filtration rate(GFR)が減少し、その持続により血中の尿素窒素(UN)やクレアチニン(CRE)が増加するが、それらの血中バイオマーカー(BM)が増加する状況では約50%以上の腎機能不全に陥っていると考えられている。腎臓は糸球体及び各種尿細管上皮からなるネフロンを最小機能単位としている。特に、近位尿細管上皮は生体必須物質の再吸収と異物の尿細管分泌を担う細胞であり、様々な薬剤の急性腎障害における組織傷害の多くが近位尿細管に観察され、アミノグルコシド抗生物質、シスプラチンなどの化学療法抗がん薬、シクロスポリンなど免疫抑制薬、カドミウムなどの環境汚染物質が近位尿細管上皮に組織傷害を起こす物質として知られている。腎毒性の非侵襲性バイオマーカーとして血中のUN及びCREが測定されているが、非臨床安全性試験で腎臓に組織傷害がみられるにも関わらず、これら血中BMが異常値を示さない事は少なくない。ラットを用いた検討結果を基に、安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium)は、アルブミン、kidney injury molecule-1、clusterin、neutrophil gelatinase-associated lipocalinなど9種の尿中BMがUNやCREよりも感度及び特異性が高くAKIを検出できるBMであるとして提唱し、FDA、EMEA及びPMDAはそれを支持している。非臨床安全性試験で汎用されるげっ歯類であるラット及び非げっ歯類(イヌ、カニクイサル)で種々の薬剤誘発AKIがみられるが、その病理変化、尿中BM及び関連蛋白及び遺伝子の変動は様々であり、薬剤によって変動する尿中BMが異なる事が多い。また、これらBM測定は抗原抗体反応を用いることから、非げっ歯類に適用できる測定系が限られており、個体差、日間差が大きい事もそれらBM変動意義の判断を難しいものにしている。本発表では、種々BM変動を組織学的変化及び毒性機序と関連づけて解説するとともに、腎毒性評価上の課題と今後の展望について概括する。

  • 菅谷 健
    セッションID: W6-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    腎毒性を疑う臨床事例としては尿細管間質障害を伴う急性腎障害(AKI)が最多であり、血清クレアチニンのわずかな上昇であってもその生命予後は不良である。安全性評価の観点からも真の腎予備能を反映する早期診断・モニタリングに有用な新規バイオマーカーの活用は重要と考えられる。本講演では、すでに臨床使用されている腎毒性指標である尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)を、非臨床フェーズで再評価するトランスレーショナルな試みとしての事例1)~3)を紹介する。

    ヒトL-FABPゲノム遺伝子は4つのエクソンからなる翻訳領域を含み、その上流の転写調節領域には虚血や脂質代謝に関わる核内因子の結合モチーフが確認されている。マウスでは、その転写調節領域に臓器特異的なサイレンサーが存在し腎臓における発現は抑制されている。そこで、ヒトL-FABPの転写調節領域を含むゲノム遺伝子を導入し、尿中に排出されるヒトL-FABPにより腎毒性のモニタリングを評価できるトランスジェニック(Tg)マウスを作製した。

    Tgマウスを用いて、シスプラチンやNSAIDsなどの薬剤性腎障害モデルを評価した結果、ヒト腎臓と同様の転写調節機能を獲得していることが実証された。また、尿細管周囲血流をCCDビデオ撮影により計測した結果、微小循環障害の程度に応じてL-FABPが速やかに尿中排出されることが明らかとなった。Tgマウスの腎臓に発現誘導されるヒトL-FABPは近位尿細管の細胞質に局在し、虚血や酸化ストレスに応答して尿中モニタリングが可能であると考えられる。Tgマウスの開発を通して、非臨床バイオマーカーを臨床評価に橋渡しする上での課題にも言及したい。

    1) Yamamoto T, et al., J Am Soc Nephrol.(2007)

    2) McMahon BA, Murray PT. Kidney Int. (2010)

    3) 鈴木慶幸, 毒性質問箱 (2017)

  • 青島 恵子
    セッションID: W6-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    富山県神通川流域カドミウム(Cd)汚染地域では、未だなお高年齢層を中心に多発性近位尿細管機能異常症(Cd腎症)が多発しており、その程度は尿β2-ミクログロブリン(β2-MG)を指標とするとき、0.1mg/gCrから100mg/gCr以上と非常に広範囲である。Cd腎症の進行は緩徐ではあるが、経過とともに糸球体濾過量(GFR)は減少し、末期にはGFRの著しい低下、腎性貧血の発症など重度の腎不全状態を呈する。このように軽度から重度まで広範囲に存在するCd腎症の早期指標、あるいは病態の解明に寄与する腎障害バイオマーカーを見出すことが急務である。演者らは、肝臓型脂肪酸結合タンパク(L-FABP)ならびにKidney injury molecule 1(KIM-1)に関して、従来の尿細管障害指標である尿β2-MG、NAG、および尿総タンパク、アルブミン、Cd値との関連を検討した。

    Cd汚染地域住民45人、イタイイタイ病3人、対照4人の合計52人を対象に、尿・血清L-FABP測定、L-FABP排泄率(FEL-FABP)を検討した。尿L-FABPは尿β2-MGと密接に関連し、近位尿細管における再吸収低下による排泄増加と考えられた。血清L-FABP濃度はGFRに規定されていた。FEL-FABPは1.8~226%であり、尿β2-MGを指標とした近位尿細管障害の程度が重度となるほどFEL-FABPは高値を示した。さらに、β2-MG排泄率との間に高い正相関(r=0.948、p<0.0001)を認めた。β2-MG排泄率は100%を超えることはなかったが、FEL-FABPは、重度例ではほとんどが100%を超えており、近位尿細管における再吸収低下に加えて排出亢進が示唆され、尿β2-MGとは異なる近位尿細管障害の病態を反映する指標と考えられた。

    イタイイタイ病4例を含むCd汚染地域住民43人の尿KIM-1値の範囲は0.7~13.6μg/gCrと約20倍であり、排出の多寡は極めて小さく、尿β2-MGを指標とした近位尿細管障害の重症度との関連もみられなかった。しかし、尿KIM-1値6μg/gCr以上の高値例は尿β2-MG100mg/gCr以上の重度例においてのみみられ、近位尿細管障害の進行過程を示すマーカーとしての意義を有することが示唆された。

  • 藤代 瞳, 姫野 誠一郎
    セッションID: W6-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     近年、腎臓の近位尿細管障害の指標として、様々な尿中バイオマーカーが活用されている。それらのマーカータンパク質が尿中に排泄される機構は、1.原尿中のマーカータンパク質が再吸収障害によって尿中に排泄される、2.細胞障害に応じて近位尿細管細胞でマーカータンパク質が誘導合成されて尿中に分泌される、という2種類の機構が考えられる。カドミウム(Cd)は近位尿細管障害を引き起こすことが知られている。しかし、上記の1, 2のそれぞれにどのような影響を及ぼすのか詳細は不明な点が多い。

     そこで、1. の尿細管での再吸収障害の機構をin vitroで解析するために、マウスの近位尿細管由来細胞(S1細胞)を用いて、エンドサイトーシスによるタンパク質の細胞内取り込みを測定する系を樹立した。タンパク質として、albumin, transferrin, β2-microgloblin, metallothionein, liver-type fatty acid binding protein(L-FABP)を蛍光標識した。蛍光顕微鏡によってこれらのタンパク質の細胞内への取り込みを可視化し、flow cytometryにより取り込み効率を定量的に評価した。2. の細胞傷害に応じて誘導される腎障害マーカーであるKim-1、clusterinなどの分泌型タンパク質の発現変化はmRNAレベルで解析した。Cd曝露による影響を1, 2について検討した結果、Cdは、S1細胞への多くのタンパク質の再吸収効率を低下させた。また、腎障害マーカーのKim-1 mRNAはCdによって誘導されたが、clusterinはあまり反応しなかった。本系を活用すれば、Cdのみならず様々な腎障害誘発物質による尿細管再吸収への影響をin vitroで評価することができ、その毒性発現機構の解明に役立つ可能性があり、今後応用が期待される。

  • 大林 徹也, 古倉 健嗣, 喜多村 真冶
    セッションID: W6-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

      In vitroでの薬理薬効試験や安全性試験法開発で生体組織に近い性質を持つ三次元細胞組織体の活用が期待されている。しかし一般的には幹細胞から三次元細胞組織体を構築する手順は複雑である。腎臓はその構造が複雑であるため培養細胞を用いて腎臓の機能をin vitroで評価することは困難である。

     喜多村がラット腎臓近位尿細管S3領域から樹立した腎前駆/幹細胞(KS細胞)は成長因子の存在下かつマトリゲルを用いた三次元培養によって分化し、ボーマン嚢様の袋構造と近位尿細管様の管構造を含むネフロン様構造体を形成する。そこでラットKS細胞由来のネフロン様構造体を用いたin vitro腎毒性試験法の開発を試みた。この試験法では、①再現性を高めるためにシンプルなプロトコルとする、②客観性を持たせるために定量的な評価法とすることを重要視した。

     使用する培地は2次元培養用と3次元培養用の2種類のみとする、3次元培養期間中は培地交換を必要としないといったシンプルなプロトコルを確立することにより、同時に作成した複数のネフロン様構造体で均一な形態を構築することができた。さらにこのネフロン様構造体にシスプラチンを投与したところ細胞死の誘導および近位尿細管様構造の伸長の阻害といった障害を確認することができた。

     また生体に無害な近赤外光を用いた光干渉断層画像撮影法(Optical Coherence Tomography: OCT)技術を活用して、非侵襲的にネフロン様三次元構造体の形態を解析できるシステムを構築した。このシステムを活用することにより細胞にダメージを与えることなくネフロン様構造体の形態変化を定量的に解析できるようになった。このシステムは全サンプルを非破壊(非侵襲的)検査で品質評価することが可能であり、三次元構造体を用いた毒性試験法のプロトコルの標準化に貢献すると考えている。

ワークショップ7
  • 山下 邦彦
    セッションID: W7-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Local Lymph Node Assay(LLNA)は、モルモットを用いる皮膚感作性試験に代わる手法として、2002年に最初にOECDテストガイドラインにTG429として収載された。本法は、モルモットを用いる試験に比較して、試験期間が短い、試験結果の定量性が高い、アジュバントを用いないことから動物に対する負担が少ないなど多くのメリットがあり、現在では皮膚感作性試験の標準法といえる。一方LLNAは、リンパ節の増殖反応の評価に放射性物質を使用することから、実施施設が限られるというデメリットが有る。この課題に対し、現在では、放射性同位元素を用いないLLNAの代替法が複数確立している。2010年にOECDテストガイドラインに収載された、LLNA:DA(TG442A)、LLNA:BrdU-ELISA(TG442B)及び現在OECD収載が近いと考えられるLLNA:BrdU-FCMである。これらLLNA代替法は、いずれもリンパ節の増殖を皮膚感作性の指標にしているという点ではLLNAと同じであるが、その評価方法は異なる。LLNA:DAは、リンパ節の増殖をリンパ節のATP量を測定することで行うのに対し、LLNA:BrdU-ELISA及びLLNA:BrdU-FCMは、核酸アナログである5-bromo-2-deoxyuridine(BrdU)の取り込み量を指標にして行う。また、感作性の判断に用いるカットオフ値は、LLNAが3であるのに対し、他はそれぞれ1.8(DA)、1.6(BrdU-ELISA)、及び2.7(BrdU-FCM)である。更に、DAとBrdU-ELISAには、LLNA及びBrdU-FCMにはない、borderline positive というクライテリアが設けられている。本シンポジウムでは、これらLLNA代替法の違いと課題についてまとめる。

  • 藤田 正晴
    セッションID: W7-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     皮膚感作性は、化学物質の安全性評価に重要な試験項目である。皮膚感作性の評価には、主にモルモットやマウスなどの動物が用いられてきたが、動物の権利や福祉の観点から、動物を用いない試験法の開発が進んでいる。

     皮膚感作性発症の初期段階であるハプテンと生体内タンパクの結合性を評価する試験法としてDirect Peptide Reactivity Assay(DPRA)が開発され、OECD TG442C として 2015 年 2 月 5 日に採択された。DPRAは、システインとリジンを含む2種類のペプチドを求核試薬として使用し、ペプチドと被験物質との共有結合能を、未反応のペプチド量から算出して、感作性を予測する試験法である。DPRAは、化学反応のみによるin chemico試験法であり、生体組織や培養細胞を使用しないため、簡便かつ短期間で評価が可能であり、高い予測精度が期待できる試験法として広く利用されている。

     しかし、使用するペプチドを高速液体クロマトグラムで分析する際、220nmの短波長での紫外線吸収を利用するため、共存する被験物質と共溶出する場合が多いこと、被験物質溶液の設定濃度が高いため、疎水性物質は、水分が多い反応液中で析出する場合が多い、等の問題点を抱えている。

     これらの問題点を解決するため、弊社は、システインおよびリジンのN末端に、より長波長で高い紫外線吸収率を示すナフタレン環を導入したアミノ酸誘導体(NACおよびNAL)を化学合成し、これを求核試薬として利用するAmino acid Derivative Reactivity Assay(ADRA)を開発した。NACとNALは、281nmで高感度に検出できるため、DPRAの1/100の濃度で試験できる。そのため、共溶出や被験物質の析出がほとんど生じない。

     ここでは、DPRAとADRAの原理,試験法,特徴および今後の課題について解説する。

  • 宮澤 正明
    セッションID: W7-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    化学物質を安全に取り扱う上で皮膚感作性の評価は特に重要である一方で、そのメカニズムの複雑さからin vitro代替法の開発は長い間、困難とされてきた。そうした中、花王㈱と㈱資生堂は2003年1月より企業の壁を越えて共同研究を開始し、樹状細胞の活性化に着目したhuman Cell Line Activation Test (h-CLAT) の開発研究を進めてきた。h-CLATでは、ヒト単球性白血病細胞株であるTHP-1細胞をプレートに高密度で播種し、被験物質を所定の濃度で24時間暴露する。その後、細胞表面抗原のCD86とCD54に対する蛍光標識抗体で染色し、フローサイトメトリーにて発現量を測定する。溶媒コントロールに対する相対蛍光強度を算出し、CD86が150%以上、CD54が200%以上となった場合に陽性と判定する。独立した3回の試験のうち少なくとも2回以上で、CD86および/もしくはCD54が陽性になった場合、被験物質は陽性と判断する。皮膚感作性物質と非感作性物質とを識別する正確度は85%(121/142)、感度は93%(94/101)、特異度は66%(27/41)である。h-CLATは国内外の産学官の協力を得ながら、バリデーションを経て、複雑かつ重要である「樹状細胞の活性化」という現象を再現する代替法として、2016年7月29日、世界で初めてOECDテストガイドライン442Eとして収載された。すでに収載されている他の感作成立過程の現象を再現する代替法とh-CLATを組み合わせることにより、化学物質の皮膚感作性を動物実験と同等以上の精度で評価することが可能になると期待されている。日本では、2018年1月11日(薬生薬審発0111 第1号)、医薬部外品申請において、h-CLATを含む複数の代替法を組合せた評価体系により、化学物質が非感作性であることを判定できるガイダンスが厚生労働省より発出された。また、欧州においても、すでに化粧品開発に関わる全ての動物実験が禁止されているため代替法の活用は必須要件であり、化学物質登録規制であるREACHへの活用も期待される。

  • 杉山 真理子
    セッションID: W7-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    日本化粧品工業連合会では、2011年より動物実験代替法の活用促進を目的として、医薬部外品・化粧品の製造販売承認申請の安全性評価に代替法を利用する場合のガイダンス作成活動に参画している。これまでに、マウスを用いるLLNA(Local Limph Node Assay)法や改良法であるLLNA:DA法およびLLNA:BrdU-ELISA法のガイダンスが厚労省より発出されているが、これらは3Rに基づく試験法であるものの、動物を利用していた。皮膚感作性は、複雑な発現機序に基づく反応であるため、ひとつのin vitro試験で動物実験を代替するのは不可能と考えられる。そこで、OECDでは発現機序を有害性発現経路(AOP)に分け、各々のキーイベントを検出可能なin vitro試験法を組み合わせる戦略(IATA defined approach)を提案した。このようなOECDの情報を把握し、ガイダンス検討会においては、皮膚感作性の成立に必須の3つのキーイベント(タンパク質との結合、角化細胞の活性化、樹状細胞の活性化)を検出する試験法(DPRA法、KeratinoSensTM法およびh-CLAT法)を組み合わせた評価体系を構築することとした。更に、確実な非感作性を予測するためのアプローチとして、3つの試験法で陰性であれば、陰性と判断する評価方法(ボトムアップ3 out of 3)を採用しガイダンスとしてまとめた。

    この皮膚感作性ガイダンスは、2018年1月11日付で、「医薬部外品・化粧品の安全性評価のための複数の皮膚感作性試験代替法を組合せた評価体系に関するガイダンス」として厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課より発出されている。講演では、本ガイダンス作成の背景と概要について解説する。

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