日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
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シンポジウム10
  • 冨岡 譲二, 一二三 亨, 大谷 典生, 中谷 宣章, 北元 健, 近藤 豊, 小林 憲太郎, 福地 斉志
    セッションID: S10-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    <Background>

    Studies examined clinical characteristics of Jelly fish known as “Habu-Kurage” (Chironex yamaguchii) stings were limited to Australia, United States, Europe, and Southeast Asia, and those in other area remains unknown.

    Also, only a few case reports of Stonefish known as “Oni-daruma-okoze” envenomation have been reported in Japan.

    The purpose of our study was to examine the clinical characteristics of jellyfish and stonefish stings in Japan, and also provide the clinical characteristics of patients.

    <Method>

    Retrospective questionnaire surveys from January 2013 to December 2017 to determine patient characteristics, treatment, and clinical outcomes.

    <Results>

    Over the 5-year study period, 204 jellyfish sting patients were identified . All patients recovered well including five patients of severe jellyfish stings. Antivenom was not administered.

    In the same period, 15 stonefish sting patients were identified from four hospitals. Over 70% of stonefish envenomation occurred in the northern part of Okinawa Main Inland. All patients recovered well, including four patients with severe stonefish envenomation. In two severe cases, length of hospital admission was more than 1 week (8days, and 9days). Antivenom was not administered.

    <Conclusions>

    Approximately 40 cases of jellyfish stings were annually occurred in Japan, and they recovered well without administration of antivenom.

    Fifteen cases of Stonefish stings during same period occurred in Japan, and they recovered well without administration of antivenom.

  • 小松 正治, 内匠 正太
    セッションID: S10-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    下痢性貝毒オカダ酸等と同様に、アオコを形成するMicrocystis属やAnabaena属のシアノバクテリアが産生するマイクロシスチンLRは、セリン・スレオニン型プロテインホスファターゼを阻害することによる急性肝毒性を示す。また、これらの化合物は、慢性曝露時に、細胞増殖を活性化することによって肝がんを誘発する発がんプロモーターとして機能することがある。我々の研究グループは、マイクロシスチンLRの肝臓選択毒性の律速分子として、肝細胞の類洞膜上に特異的に発現しているトランスポーターOATP1B1およびOATP1B3が機能し、これらのトランスポーターを介してマイクロシスチンLRが細胞内に取り込まれることを明らかにした。そして、致死濃度のマイクロシスチンLR曝露によりセリン・スレオニン型プロテインホスファターゼ活性が阻害されることにより細胞内タンパク質のリン酸化を亢進させることを報告した。また、この際にストレス応答性のp53、p38等ばかりでなく、生存シグナルのERK、AKT等も同時に活性化されることを示した。さらに最近、マイクロシスチンLRの新奇な機能として、上皮・間葉転換様の形質転換誘導能を発見した。すなわち、OATP1B3発現細胞へのMTTアッセイにおける致死濃度曝露により、培養フラスコから剥離・浮遊した細胞がアノイキス抵抗性を示し、形質転換を引き起こして再接着、伸展、増殖することを明らかにした。また、マイクロシスチンLR曝露後に培養フラスコに接着し続けた細胞も形質を変え、細胞骨格が再編され、増殖を続けることを示した。本シンポジウムでは、これらの形質転換細胞のストレス耐性について紹介し、上皮・間葉転換との関連について考察する。

シンポジウム11
  • 志摩 典明
    セッションID: S11-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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     毛髪中薬物の分析は、犯罪の立証を目的に法科学の分野で広く活用されている.毛髪は、他の生体試料(尿や血液)と比較して薬物の検出可能期間が長いことに加え、摂取歴の証明(摂取時期の特定など)が可能な唯一の試料として鑑定に供される.

     毛髪は、毛根(頭皮内に隠れている部位、約4 mm)の底部に在る毛母細胞から発生し、 1ヶ月に平均1.0~1.5 cmの速度で伸長する.一方、体内に摂取された薬物は、主に毛根から毛髪中へと取り込まれ、毛髪組織あるいは色素などと結合して定着し、毛髪の伸長と共に毛幹(頭皮外に露出した部位)側へと移行していくと考えられている.しかしながら、このような薬物の取り込みやその後の挙動に関しては、その詳細が十分に解明されておらず、摂取歴を厳密に証明するうえで大きな障壁となっていた.

     近年我々は、上記課題をクリアするために、従来必然となっていた毛髪複数本を用いた分析法を改善し、毛髪1本毎(単毛髪)での分析法を確立して、薬物の取り込みに関する知見を明らかにしながら、摂取歴推定の高度化に取り組んできた。分析手法として、LC-MS/MSによる分画分析、並びにMALDI-MSによる質量分析イメージングを併用し、複数本を用いた分析では実現できない単毛髪中の正確な薬物分布を観察した.それらの経時的な推移を観察することにより、薬物は、毛根中の2つの領域{領域①(毛球部)、領域②(毛根の上部)}から取り込まれることが明らかになり、領域①及び②のいずれを主経路とするかは、取り込まれる薬物の物性(高極性/低極性など)に依存することが示された.また、毛髪の色調(メラニン色素)も薬物分布に大きな影響を及ぼすことが明らかになり、摂取歴を推定する上で考慮すべき重要な要素である。

     本発表では、現在行っている分析手法と共に、ここ数年で明らかになった薬物の取り込みに関する知見や実際の鑑定事例などを紹介する。

  • 長峯 邦明, 松井 弘之, 時任 静士
    セッションID: S11-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    高齢化が加速する日本において、健康寿命を延伸することは労働力の確保や医療費削減のためのみならず、健康で生き生きとした楽しい人生を長く続けるうえで非常に重要である。健康寿命を延伸させる方法の1つとして、積極的な予防医療の実践が挙げられる。予防医療では、各人が自らの健康を把握し、理想的には病気になる予兆を把握して、重症化する前に治療することが求められる。一方で、健康状態の詳細な把握には、場合によっては一般健康診断のように採血して血液中の成分の変化を把握する必要がある。しかし、高齢者を含め、健康な人々が日々採血しながら健康状態を把握するということは受け入れがたく、例えば体重を測るように、採血不要で、簡単に毎日の健康状態を把握できる新しい生体センサが理想である。

    近年の分析技術の進歩により、生体試料中の成分(ゲノム、タンパク質、代謝物など)の網羅的解析が可能となり、各種病気と生体液組成の関連性に関する知見が蓄積しつつある。例えば、涙、尿、唾液、汗など、ヒトを傷つけることなく採取可能な外分泌成分も積極的に解析されることで、これらの生体液にも血液成分の一部が含まれることや、その成分と各種病気との関連性が示唆されている。一方で、例えば尿は一般健康診断でも用いられているが、任意のタイミングでいつでも採取できるものではない。汗や唾液は比較的いつでも採取可能であることから解析が活発に行われており、いくつかの成分は病気との関連性が示唆されている。心拍や脈拍などのバイタルサインからは把握できない体調の質的な変化を、これら非侵襲に採取可能な外分泌成分の変化からとらえるべく、ウエアラブル型やポータブル型など様々な形態のセンサが世界中で研究開発されている。本発表では、これら近年の研究動向と共に、当研究グループが注力している汗と唾液を対象とした電気化学バイオセンサの開発例について紹介する。

  • 尾﨑 まみこ
    セッションID: S11-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    植物は常に食植生昆虫の脅威にさらされているため、昆虫による食害に対抗して植物体内に毒を生産するものが多い。特に解毒機構を進化させてこなかった昆虫種は、植物体を食べ尽くすころには絶命することになる。しかし、昆虫の方でも毒を素早く検出して避けることができれば、生き延びる可能性が高くなることから、ヒトと同様に、毒物を苦味として知覚する味覚受容・認識機構を発達させて毒を検知している。昆虫の苦味受容については2000年ごろまではほとんどわかっておらず、私達とイタリアの研究グループがほぼ同時にハエの味覚器で苦味受容細胞を機能的に特定することに成功したが、その細胞が、経口毒の検出に関わって緊急な嘔吐反応を引き起こすきっかけとなっていることは、味覚器における匂い物質結合蛋白質(gustatory OBP)の関与に気づいた私達の研究によって初めて明らかとなった。また、同一物質の匂いを認知するための嗅覚器も毒の検出に一役買っており、嗅覚器である触角で嗅ぎ分けられた毒物の匂い情報が、昆虫の食欲を有意に低下させること、その匂いの記憶が食欲低下を一生涯維持させることなども分かってきた。この食欲不振はハエにとって、一見不健康にみえるかもしれないが、毒物を摂取して絶命することを思えば有益な反応であるとも考えられる。

    そうであれば、植物は、もはや自らを食べ尽くさせてまで致死毒を以て昆虫を殺す必要はなく、昆虫の味覚器や嗅覚器の毒検出機構にターゲットを絞って、ほんの少しの食害で、苦い味、食欲を減退させる匂いをもつ嫌悪物質を生産する方が賢明であろう。このような、防除戦略に移行した植物がいる。後半では、双方が死に至る毒に頼った防御放棄して、双方の生き残りが望める新たな防御戦略を獲得したアブラナ科植物の話をつけ加えたい。

  • 李 丞祐
    セッションID: S11-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    紀元前の古い時代から匂いを使った病気の診断が行われてきたが、その詳細が学術的に説明し始められたのはわずか約40年前のことである。特に、近年では分析機器の急速な進歩に伴って疾患(特に、がん)に関係するより詳細な化学情報が解明されつつある。最近、我々の研究グループは唾液に含まれる匂い成分から口腔がんを診断する技術を世界で初めて確立した。12種類に絞られた唾液の匂いのもととなる成分が「新生」「増減」「消失」といった3つの群に分かれることを特定し、がん患者12人と健康な人8人の唾液を分析したところ、9割以上の確率でがんの有無を判別することに成功している。今回の成果は、口腔がんの『匂い情報』が解明できたことにあるが、同様な方法でも肺がんや胃がんなどに関係する匂い成分を特定できる可能性が高く、新しいがん診断技術としての確立を急いでいる。将来的には、息を吹きかけるだけでがんの診断ができる計測機器の開発など、匂いを軸とする新しい医療産業の実現を目指している。

シンポジウム12
  • 小野 敦
    セッションID: S12-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    食品中には、食品添加物など意図的に添加される化合物、農薬や食品接触材料からの溶出物、環境汚染物質など非意図的に含まれる可能性のある化合物、さらには天然に存在する化合物など、様々な化学物質が含まれている。我々は食事を通じて、生涯にわたってそれらの化学物質を摂取する可能性があることから、リスク評価に基づく安全性の確保は重要である。食品添加物や農薬については、様々な毒性試験が要求され、その結果をもとに許容一日摂取量(ADI)が設定されているが、それら以外の数千種を超える化学物質について入手可能な毒性情報は限られている。そうした化学物質の大半は食品中濃度は非常に低く、それら全てについてのリスク評価を従来の毒性試験により行うことは現実的ではない。近年、毒性試験情報が限られている食品中微量化学物質のリスク評価において、蓄積されたナレッジをもとにした計算科学的手法すなわちインシリコ手法が用いられ始めている。毒性学的懸念の閾値(TTC:Threshold of Toxicological Concern)アプローチは、全ての化学物質もしくはある化学物質群について有害影響が無視できるヒト暴露の実用的な閾値を設定してリスク評価に用いる手法であり、JECFAにおける香料物質の評価やJMPRの農薬代謝物の評価、我が国の農薬の一律基準設定や食品香料の評価および2020年より始まる食品用器具容器包装関連化学物質のポジティブリスト制度(PL制)におけるリスク評価に取り入れられている。一方、変異原性の評価においては、構造活性相関や毒性アラートに基づくインシリコ予測モデルによる評価が取り入れられつつある。JMPRやEFSAでは、農薬代謝物の変異原性評価にインシリコ評価を活用し始めており、我が国においては、前述の食品用器具容器包装関連化学物質のPL制に伴う既存物質のリスク評価での活用が検討されている。

  • 川口 友浩
    セッションID: S12-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    我々 特定非営利活動法人国際生命科学研究機構(ILSI Japan)は、食品安全を主要な活動の柱の一つに位置づけ、アカデミアとの連携のもとに活発な活動を行っている。これまでも、食品の適切な安全性評価の推進を目的に、食品の安全性評価の際の要点を収載した「食品の安全性評価のポイント(2007年)」をまとめるなど、安全性評価に使用される新たな評価手法の理解促進に努めてきた。

    近年、欧州での化粧品における法規制を皮切りに、安全性領域における動物実験代替の取り組みが化粧品領域を中心に世界的に進行している。加えて、食品の安全性評価については、ヒトに対する予見性がより高い評価手法への転換が課題であり、従来の動物実験に依存した評価手法に代わるものとして、動物実験代替への期待が高まっている。一方、食品領域における安全性評価手法においては、公的に認められた動物実験代替法が存在しないのが現状である。

    このような状況のもと、ILSI Japanでは、食品の安全性評価に活用可能な動物実験代替技術開発の推進を目的として、食品安全領域の動物実験代替推進プロジェクトを立ち上げ、活動している。本プロジェクトには食品に関連する企業が参画し、アカデミアと連携しながら「最新技術の情報収集」、「代替加速のための研究推進」、および「コンセンサス形成のための情報発信」を柱とした活動を行っている。現在、新たな安全性評価戦略の構築を目的に、既存の毒性試験情報を有効に活用した食品成分の毒性予測のための食品成分毒性試験データベースの構築、および、食品の安全性評価に必須である腸管吸収に始まる体内動態予測技術の開発、の2つの研究テーマに取り組んでいる。本講演ではプロジェクトでのこれらの最新の取り組みについて紹介する。

  • 西浦 博
    セッションID: S12-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    A number of scientific approaches using dose-response experimental data have been used. As an alternative method to classical observational method including the use of no observable adverse effect level (NOAEL), the formality of benchmark dose (BMD) method has been elaborated. The BMD method determines the threshold dose by fitting various statistical models to the dose-response curve, which addresses the problems surrounding the use of NOAEL because it can account for the response data across different doses and can help in objectively calculating the point of departure. The benchmark dose lower bound (BMDL), which is the lower (one-sided) limit of the 95% confidence interval of BMD, can yield a point of departure that is comparable to that based on NOAEL. To employ the BMD method, it is critical to select the best performing BMDL by following the statistical fitting procedures of multiple mathematical models. Parameterized models only characterize reality, so multiple models (usually nine or more) are commonly fitted to the same experimental dataset. As a result, many BMDL values can act as the candidate of preferred reference dose. However, the reference dose should be the best performing BMDL and it must be selected, for example, as the one that gives the best fitting results. There are two additional issues in selecting or determining the BMDL. First, the BMD method uses a specified percentile point (e.g. 10% of the benchmark response, abbreviated as BMD10) as the threshold for the reference value, but the 10% percentile point is never strictly objective. Second, some fitted models (e.g. the Weibull model) yield different parameter estimates when restrictions to the range of parameters are imposed in advance of the inference procedure. In this symposium, technical issues and corresponding guidelines are comprehensively reviewed and presented.

シンポジウム13
  • 小島 肇
    セッションID: S13-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    動物実験の3Rs原則におけるReplacementは究極の目標である。その実現に向けた研究が半世紀近くに渡って進み、化学物質等のスクリーニング等に利用されてきた。昨今では動物実験の3Rs原則に準じた試験法の新規開発や改定がOECD(経済協力開発機構)やISO(国際標準化機構)などの国際機関において採択されている。

    医薬品の非臨床試験においても、ICH(医薬品規制調和国際会議)M3(R2)「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験実施についてのガイダンス」に3Rs原則の準拠が2009年に明記されて以降、非臨床試験に関する見直しが進んでいる。

    1990年代から、ICH S2「遺伝毒性試験」のガイドラインにはAmes試験や染色体異常試験などのin vitro試験が掲載されていたが、2014年には、ICH S10「医薬品の光安全性評価ガイドライン」において、化学物質の光毒性誘発能を評価するために、化学的試験法を用いた光反応性試験およびin vitro試験法を用いた光毒性試験などの利用に関する情報が記載されている。

    昨今では、化学物質の生殖毒性誘発能を評価するために、 ICH S5「医薬品の生殖発生毒性試験ガイドライン」の改訂においても動物種の一つを減らすため、動物を用いない試験法の導入が検討されている。

    以上の検討は、Replacementを念頭においてものであるが、3Rs原則に準じた試験法の見直しは引き続き進むものと推察している。

  • 渡邊 利彦
    セッションID: S13-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    3R’sの一つであるReductionはReplacementやRefinementの結果として現れることが多くReductionそのものをテーマとして論じることは難しい。

    3R’sが2005年に動物愛護管理法に明記されてから数十年が経過している。その間に製薬会社の合成技術は格段に進歩し、当時に比べて莫大な数の化合物が合成されるようになった。しかし合成数の増加に比例して動物使用数が大幅に増えているわけではない。むしろ動物使用数の推移は横ばいか減少している。このことから考えて、動物使用数の削減に全く取り組んでいないとは言えないと演者は考えている。

    例えばin vitroスクリーニング技術の進歩が結果的に動物使用数の増加に歯止めをかけてきたと考えられる。3R’sの取り組みは実験動物関係者がもっぱら積極的に努力してきており、化合物合成等を専門とする研究者が積極的に3R’sを意識したことがあっただろうか。 

    In vitroの研究者は単に化合物合成数やスクリーニング技術の効率化を目指していたのではないだろうか。もし、このような研究者に3R’sを理解し、協力してもらうことが出来れば、更に良い結果が生まれたのではないだろうか。

    そのためには、創薬開発すべてに係る人々が3R’sの取り組みを理解し参加するような仕組みが必要である。例えば、欧州で行われている3R’s awardsの取り組みや3R’sを啓発するための3R’s day等のイベントである。Awardsの中には研究資金などを提供するものもある。研究者が自身の研究を3R’sの視点から見直す良い機会を提供している。

    また、近年ではマイクロ流体ディバイスやオルガノイドといった代替技術の発展が期待される。3Dプリント技術による三次元構造培養等の技術を組み合わせれば、マイクロチップに人体そのものを再現することも夢ではないかもしれない。こういった夢の技術について動物福祉の視点を積極的に取り入れ、後押しすることで3R’sにつながる研究を促進していきたい。その為の仕組みづくりを早急に行う必要があるのではないだろうか。

  • 武井 信貴子
    セッションID: S13-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    What do you think of when you hear the word "Refinement"?

    Is it the improvement of technical skills and knowledge? Or upgrading of instruments used in experiments? Of course, these are also a kind of "Refinement". However, they are "Refinement" from the viewpoint of researchers and technicians.

    So, what is “Refinement” from an animal’s perspective?

    “Refinement” should be the minimization of the stress of the animals in areas other than procedures absolutely necessary for an experiment. This is the "purpose of Refinement" Russell and Burch wrote about in "The Principles of Humane Experimental Technique". No matter how much experimental techniques are improved, normal biological reactions are unlikely to occur when animals are stressed, making it difficult to obtain reliable experimental results.

    However, "Refinement" requires implementing a variety of changes depending on the purpose of the experiment. As Russell and Burch point out, “Refinement presents more formidable difficulties,” and researchers and technicians may often feel that this goal is more than they can attain.

    This is where laboratory animal veterinarians and IACUC members come into play.

    They have the role of proposing changes for “Refinement” according to the purpose of each experiment. They are constantly studying in order to make proposals that will obtain the desired experimental results while balancing experimental endpoints with animal welfare. If you have concerns about "Refinement" practices, please ask a laboratory animal veterinarian or IACUC member. Together, we can aim for better animal experiments!

  • 板東 武彦
    セッションID: S13-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    人類の健康は過去の絶えざる生命科学研究の努力により支えられており、現在も科学により解決すべき課題は山積されている。その中で、生命科学研究の重要な鍵の1つは動物実験であり、その充実と継続は必須である。人類が動植物を利用・消費し生き延びてきたことは周知の事実である。しかし、産業構造の変化により都市生活が主流となり、動植物を利用する現場を知らない人々が増えたこともあり、動物倫理の考え方にも変化が生じた。また、科学研究成果の活用が社会的影響力を強めるとともに、その副作用や不適正利用に対する批判も生まれた。遺伝子組換え生物の利用など国民の賛否を分断する事態が生じ、その過程で何か隠された事実があるのではないかという科学研究に対する国民の不信頼感も生じた。

    このような状況のもとで、国民の共感を得ながら動物実験を含む生命科学研究を安定的に行うためには、科学者側にも課題が求められる。その課題としては、研究者自身が実験動物に対する人道的取り扱いや動物福祉に配慮することが第一に求められるが、個人の努力では解決できない課題も多い。このため、研究者の属する研究機関が責任ある研究管理を社会に対して保証するとともに、動物実験研究に対する社会の理解を増進するための情報発信を行うことが求められる。情報発信のためには、自身の基本姿勢をはじめ、よく練った戦略や方法の検討が必要であり、研究機関内部でのコンセンサスが必要である。また研究成果が人類の健康・福祉に不可欠なことを、実例を通じて訴えることも大切である。ヨーロッパでは既にこのような対話の試みが行われ、それを基礎に、「開かれた生命科学研究の構築」に向けた努力も行われている。そのような団体の1つであるEARAの発行したマニュアルを軸に戦略、基本姿勢や方法論を紹介し、研究機関の情報発信について考える一助としたい。

シンポジウム14
  • 平田 岳史, 山下 修司, 中里 雅樹
    セッションID: S14-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    The ICP-mass spectrometry (ICP-MS) is a sensitive and rapid analytical tool for trace-elements in various materials. The ICP-MS technique is now applied to measure both the sizes and number concentrations of nanoparticles (NPs), mainly dispersed in the aqueous solutions. Another important feature of the ICP-MS is the analytical capability for the imaging analysis using a laser ablation sampling technique. Imaging analysis was conducted based on the repeated-line profiling analyses, and the resulting time-dependent signal intensity profiles were converted to the position-dependent signal intensity data using the in house “iQuantNP” software. With the technique developed here, signal intensities for small size fraction (<10 nm) were also visualized. More importantly, chemical status of the analytes, whether present as particulates or as dissolved (ionic) forms, can also be derived by the present technique (Triad Imaging : size, position, and chemical status of analytes). The Triad Imaging technique can provide key information to understand the transport, interaction, and decomposition/dissolution features of the metal NPs.

    The major drawback of the current ICP-MS system for the detection of NPs is that only single element (isotope) can be monitored, and thus, no elemental and isotopic ratio data can be made from individual NPs. Faced with this, we are currently developing new ion detection technique for the ICP-MS designed for elemental and isotopic analyses on multiple component NPs. The sensitive and rapid imaging technique for the NPs has immediate potential as a reconnaissance method and given increasing improvement in instrumentation will in the future produce benchmark data for the NPs toxicology.

  • 三原 久明
    セッションID: S14-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    カルコゲン(周期表第16族元素)に属するセレンとテルルの化合物は一般に高い生体毒性を示す。一方、様々な細菌が、水溶性カルコゲンオキシアニオンであるセレン酸、亜セレン酸およびテルル酸、亜テルル酸を還元し、不溶性の元素状セレンおよび元素状テルルのナノ粒子を細胞内外に形成することが知られている。このようなバイオジェニックカルコゲンナノ粒子の生成は、細菌による解毒あるいは嫌気呼吸のプロセスによるものであると考えられているが、その詳細な機構については不明な点が多い。これまでに、Thauera selenatisBacillus selenatarsenatisEscherichia coli等にセレン酸還元酵素が同定されており、これらはいずれも鉄硫黄クラスターとモリブデン補因子を有するComplex iron-sulfur molybdoenzyme (CISM) ファミリーに属する酵素である。亜セレン酸還元酵素としては、Bacillus selenitireducens MLS10にCISMタンパク質が見いだされている。一方、テルル酸還元酵素については未だ報告例はない。我々は、分類学上異なる門あるいは鋼に属する細菌である、E. coliBacillus subtilisGeobacter sulfurreducensCellulomonas属細菌に注目してカルコゲンオキシアニオン還元およびバイオジェニックカルコゲンナノ粒子生成について研究を行ってきた。これまでの研究により、E. coliB. subtilisにおいてテルル酸還元に関わる酵素を突き止めるとともに、G. sulfurreducensCellulomonas属細菌における亜セレン酸の還元に関わる新たな知見を得ており、細菌のカルコゲンオキシアニオン還元戦略は、細菌種により多様であることがわかってきた。本シンポジウムでは、我々の研究を中心に、細菌におけるバイオジェニックカルコゲンナノ粒子の生成機構に関する最新の知見を紹介する。

  • 保倉 明子
    セッションID: S14-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    藻類やバクテリアなど生物積能を利用して排水の浄化や重金属の回収を行う手法は,環境にやさしい技術として注目を集めている。本講演では,気生藻類の一種の単細胞藻類Pseudococcomyxa simplexにおける金やセレンの蓄積について概説する。亜セレン酸はセレン酸より藻類細胞に高蓄積されることが明らかとなり,また細胞内において,セレン(0価)のナノ粒子が生成していることが示された。SEMにより粒径は数十nmであることが確認された。

  • 小椋 康光
    セッションID: S14-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    栄養所要量を超えた必須金属や非必須金属が引き起こす毒性に対して、生物は様々なメカニズムを駆使して、その毒性を回避することが知られている。例えば、メタロチオネインやフィトケラチンといった金属結合タンパク質やペプチドを誘導し結合させたり、細胞内への流入や細胞外への排出に関わるトランスポーターの発現を調節し、細胞内濃度を制御したり、類金属であれば排泄に必要な化学形態への代謝を亢進させたりしている。このような解毒機構に加えて、最近我々は動物細胞や植物において、イオン状の金属の曝露があった際に、金属のナノ粒子を形成するという現象を見出した。また古典的な拮抗作用が知られている水銀とセレンについても、細胞内でセレン化水銀のナノ粒子形成が起こっていることを実験的に確認した。このような生物が作り出すナノ粒子、すなわちバイオジェニックナノ粒子の生成機構とその毒性学的意義について、明らかになりつつある点について考察したい。

シンポジウム15
  • 山口 照英
    セッションID: S15-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    目的とする遺伝子を特異的に切断、改変、編集できる画期的な技術としてゲノム編集技術の開発が精力的に進められており、新たな遺伝子治療法として、その実用化が期待されている。ゲノム編集は、ゲノム配列特異的に目的遺伝子の機能を失わせたり、疾患の原因となっている遺伝子異常を修正したりすることが可能な技術として究極の遺伝子治療技術となると期待されている。

    ゲノム編集技術では、DNAの特定の部位への二重鎖切断(DSB)の導入と細胞のもつ修復機構を利用することで、DSB部位での非相同末端結合(NHEJ)による目的遺伝子のノックアウトや相同組換えを利用した遺伝子修復(HDR)を行えることが可能となる。DSBを導入する人工ヌクレアーゼとして初期にはZFNやTALENが開発されたが、近年では、より簡便なゲノム編集技術であるCRISPR/Casが開発され臨床開発が進められている。ゲノム編集技術を利用した臨床開発の例としては、感染症、がん、単一遺伝子疾患等を対象にした遺伝子治療臨床試験が実施されており、数年以内にこれら遺伝子治療用製品等の製造販売承認申請が行われる可能性がある。

    ゲノム編集は目的とする遺伝子を特異的に改変できる技術して期待されているが、標的配列の類似した目的外の遺伝子を改変してしまうオフターゲット作用やDSBに伴う染色体異常などのリスクが懸念されている。そのためゲノム編集技術では、特にオがん関連遺伝子に変異が起きるリスクあることから、その検出手法の開発が進められている。さらに、近年ではゲノム編集により、標的配列に大きな欠失やベクターの挿入が起こることが第3世代のゲノム解析により明らかになりつつあり、標的配列への意図しない変異(オンターゲット変異)のリスクについても着目され始めている。本発表ではこのようなゲノム編集技術に付随するリスクついて、PMDA科学委員会で作成したコンセプトペーパーを中心に議論したい。

  • 真木 一茂
    セッションID: S15-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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     2014年11月に医薬品医療機器等法が施行されて以来、本邦では骨格筋、皮膚及びリンパ球由来の体細胞や骨髄由来間葉系幹細胞等の6つのヒト細胞加工製品が上市されているが、再生医療の経済性及び迅速性の観点から、他家の多能性幹細胞の活用が期待されている。他家の多能性幹細胞を利用する際には、免疫拒絶反応を回避することが必要となることから、これまでHLA(3座)ホモドナー由来iPS細胞の樹立等が実施されてきたが、新たな方策として、ゲノム編集技術を用いてES/iPS細胞のHLAを改変することが検討されている。

     ゲノム編集技術を用いた細胞加工製品(以下、ex vivoゲノム編集製品)を開発する場合には、ヒト細胞加工製品及び遺伝子治療用製品の観点から非臨床安全性評価が必要となる。すなわち、ヒト細胞加工製品の観点からは、「ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保に関する指針」を含む7つの通知、及び「ヒト細胞加工製品の未分化多能性幹細胞・形質転換細胞検出試験、造腫瘍性試験及び遺伝的安定性評価に関する留意点」等を踏まえて安全性評価が実施される。一方、遺伝子治療用製品の観点からは、ex vivoゲノム編集製品の製造工程において、外来遺伝子や人工ヌクレアーゼの導入によるゲノム改変が行われることから「遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保に関する指針」に準じた安全性評価が必要となる。

     本講演では、ヒト細胞加工製品及び遺伝子治療用製品の非臨床安全性評価に関する基本的な考え方を概説した上で、ex vivoゲノム編集製品について、特にゲノム編集に特有の安全性上の懸念(ゲノム欠失、染色体異常、ゲノム修復遺伝子の変異、目的外ゲノム配列への作用等)を中心に、非臨床安全性評価に関する考え方を紹介したい。

シンポジウム16
  • 古川 賢
    セッションID: S16-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    胎盤は胚子/胎児が母体の子宮内で発生・発育するための特別な組織で、胎児由来の絨毛膜と母体の子宮内膜由来の脱落膜からなる胎児母体器官である。胎盤の主要な機能は、胚子/胎児の子宮壁への定着、母体と胚子/胎児間の血液循環、代謝、ガス・栄養物質の物質輸送、老廃物除去、胎盤関門、内分泌能及び母体免疫系からの胚子/胎児への攻撃防御などである。胎盤は妊娠の進行とともに着床後、短期間で急速に増殖・発達し、非常に血流量の豊富な器官であり、その機能は多彩であることから、トキシカントの影響を受けやすい。さらに、胎盤の機能低下及び障害は、胎児の発生・発育に重篤な影響を及すことから、胎盤は胎児発生毒性を評価する上で重要な組織である。一方、胎盤の形態は動物種によって異なり、絨毛の分布及び絨毛と子宮内膜との結合様式などにより分類される。ヒトとラットは共に絨毛の分布より盤状胎盤、結合様式により血絨毛胎盤に区分されるものの、組織形態学的に両者は大きく異なり、ラットでの胎盤毒性影響をヒトに外挿する際には、十分な検討が必要である。さらに、ラットでは妊娠期間が短く、胎盤は母体/胎児由来の複数の組織が相互に関連して形成され、胎盤の形態は短期間で劇的に変化するため、トキシカントにより誘発される病変の形態は複雑であり、剖検時期及び曝露時期によっても大きく変わる。胎盤の機能低下/障害に起因した胎児毒性の機序解明には、胎盤病変の発現感受期と発現部位を同定し、経時的に病理組織学的検査を実施することが重要である。しかし、医薬/農薬の繁殖/生殖に関わる毒性試験において胎盤の毒性指標は胎盤重量のみである。本発表では胎盤の動物種差、ヒト及びラット胎盤の比較、ラット胎盤の構造とその特徴、並びにケトコナゾール、シスプラチン、タモキシフェン及びβ-ナフトフラボンなどの各種化学物質により誘発された胎盤の病理組織学的変化について述べる。

  • 登美 斉俊, 野口 幸希, 西村 友宏
    セッションID: S16-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    薬物の胎児影響評価はラットに頼る部分が大きく、ヒトへの外挿精度向上は重要な課題である。そのため、我々は薬物の胎児移行性種差に関与する因子を同定し、ヒトへの外挿精度を高めるための研究を進めてきた。第一に挙げられる因子は血漿中アルブミンの母胎間濃度差である。薬物の胎児移行性はほとんどが胎児/母体血漿中濃度比(Kp,fetal plasma)で評価されるが、妊娠満期のヒト胎児血漿中アルブミン濃度は母体血漿中の1.2倍であるのに対し、ラットでは約半分である。そのため、アルブミン結合薬物の少なくとも一部はラット胎児血においてのみタンパク非結合分率が高くなり、結果としてラットKp,fetal plasmaはヒトと比べて低値となるため、胎児移行性を見かけ上低く見積もる可能性がある。我々は、digoxinおよびindomethacinのラットKp,fetal plasmaは、いずれもヒトKp,fetal plasmaの半分以下であったが、ラットを胎児/母体血漿中非結合形濃度比(Kp,uu,fetal plasma)で評価すると、ヒトKp,fetal plasmaと同程度となることを明らかにしている。これは、ラット胎児移行性評価にKp,uu,fetal plasmaを用いることの有用性を示す結果である。第二に、胎盤関門の細胞膜に発現する薬物輸送体も重要な因子である。霊長類のみに存在する有機アニオン輸送体OAT4は、胎盤関門に発現し、げっ歯類では機能していない胎児胎盤系エストロゲン合成ユニットの一端を担う。そして、OAT4はオルメサルタンなどアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の輸送にも関与している。ARBはヒト胎児毒性により妊婦禁忌であるが、ラットでは強い胎児毒性が示されていないため、OAT4が胎児毒性における種差と関係している可能性が考えられる。今後、薬物の胎盤透過に果たす薬物輸送体のインパクトとその種差について、非結合形薬物濃度を基準とした定量的な解析に基づき評価することが、ヒト胎児毒性リスク評価の精緻化に大きく貢献すると期待される。

  • 白砂 孔明
    セッションID: S16-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    次世代を残すための様々な妊娠機構に対して免疫応答が関与する。例えば、マクロファージが卵巣機能を調節して着床・妊娠を維持する、半異物である胎児の許容には制御性T細胞が重要であるなど、その働きは多岐に渡る。一方、免疫機構の破綻や過剰な炎症性サイトカイン産生等によって着床障害、流・早産、妊娠高血圧腎症(preeclampsia、PE)等が起きる。多くの異常妊娠では病原体等の感染は関与しておらず、どのように炎症が惹起されるのかは不明である。このような炎症は『無菌性炎症』と認識され、その誘導経路の1つであるインフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体が注目されている。

    インフラマソームは、体内に蓄積した様々なdanger/damage-associated molecular patterns(DAMPs)や主に病原体由来で外因性のpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)に反応して炎症応答を誘導し、代表的な炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)1β産生を厳密に制御する免疫機構である。最も研究が進んでいるのがNLRP3インフラマソームであり、NLRP3とアダプター分子ASCが会合し、その下流でCaspase-1が活性化される。IL-1βは前駆体として存在し、活性化Caspase-1により切断されて分泌・生理活性を発揮する。NLRP3インフラマソームは、尿酸結晶、コレステロール結晶、遊離脂肪酸、細胞外DNAや細胞外小胞など、多岐に渡る内因性DAMPsに応じて活性化が起きる。

    過剰なNLRP3インフラマソーム活性化は、痛風、糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー病など様々な炎症性疾患を誘導する。また近年になって、NLRP3インフラマソームがPE、肥満妊娠、流・早産などの多くの異常妊娠に関与することが分かってきた。PE発症には胎盤の免疫異常が関与し、胎盤が慢性的な低酸素や炎症環境に暴露され、増加した抗血管新生因子やIL-1β等の炎症性サイトカインが母体に流出することで血管内皮障害を惹起し、PE病態が出現する。

    本発表では、胎盤を中心にNLRP3インフラマソームが暴走することで異常妊娠が誘導される事象について紹介したい。

  • 中西 剛
    セッションID: S16-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    胎盤は妊娠期間中の重要な内分泌組織であるが種差が大きく、ヒトと齧歯類では母体-胎盤-胎仔間のステロイドホルモン動態がかなり異なる。特に胎生期のエストロゲンレベルについては、ヒトでは高値となるが齧歯類ではヒトの1/50~1/100程度と低値である。これはヒトにおいて胎盤が主要なエストロゲン産生(アンドロゲン代謝)臓器として機能するのに対し、齧歯類の胎盤にはエストロゲン合成酵素(アロマターゼ)が存在しないため、エストロゲン産生が行われないことに起因する。このことは胎盤内分泌機能の種差に作用する化学物質の生殖発生毒性については、ヒトへの外挿が困難である可能性を示唆している。またエストロゲン様化学物質の胎生期曝露が生殖系に不可逆的な影響を及ぼす可能性が懸念されているが、エストロゲンレベルが大きく異なるにも拘わらず双方で恒常性が保たれている理由など、胎生期におけるエストロゲンシグナルの生理学的意義に関する学術的基盤は未だに脆弱であり、エストロゲンシグナルのかく乱の影響ついても不明な点が多く残されている。

    本研究では、胎生期におけるヒトとマウスのエストロゲン感受性の違いや胎盤機能修飾による影響を検討する目的で、レンチウイルスベクター(LV)による胎盤特異的遺伝子導入法を用い、胎盤にヒトアロマターゼ(Arom)を発現させたヒト型胎盤内分泌機能を有するモデルマウスを作製した。Aromを発現するLV(AromLV)を胚盤胞期胚に感染させて、偽妊娠マウスに胚移植を行ったところ、AromLV感染胚由来の胎盤、胎仔では野生型LVで処置した胚を移植した場合と比較して100倍以上のエストロゲン高値となり、ヒトのエストロゲンレベルを再現することに成功した。本講演では、このモデルマウスの表現型について紹介するとともに、ヒトと齧歯類における胎盤機能修飾やエストロゲンシグナルのかく乱による内分泌かく乱作用の種差ついても議論したい。

シンポジウム17
  • 菅野 純
    セッションID: S17-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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     従来の毒性が「外来性化学物質が標的分子に作用して機能障害や細胞死を引き起こす」のに対し、シグナル毒性は「外来性化学物質が受容体等に作用し、標的細胞・組織に間違ったシグナルを伝えた結果として生じる有害事象」と定義できよう。その中で特に不可逆的な影響が残るのは、発生発達成熟(周産期)の「臨界期」とされる時期にシグナル毒性が及んだ組織、臓器である。

     周産期の中枢神経系をシグナル毒性の立場から考察すれば、不可逆的影響を誘発し得る外来性化学物質の種類は、そこで様々な臨界期をもって使われるシグナル系の数を下回らないという事が想定される。欧州においては、様々なin vitro 試験系を組み合わせ、特に「ヒト由来」の細胞を用いる試験を取り入れることで、齧歯類との種差を勘案し、化学物質が持つ発達神経毒性を決定する決定樹を提案している。それらのin vitro試験にはcytotoxicity から細胞分化までが含まれ、必ずしもシグナル毒性に特化したシステムではない。また、最終的に残った判定はin vitro試験系で判明した毒性機構に焦点を絞ったラットin vivo試験を実施して判定するとされている。この決定樹に基づく評価系と、OECDの発達毒性試験TG426との関係は不明瞭で、TG426に例示されているin vivo試験系の実施が極めて困難で評価に耐えるデータを得難い点が問題となっている。ここでは、OECDに対してこのTG426の in vivo試験系に加える形で、少数の動物で短時間に完結する情動認知行動バッテリー試験を種村らが中心に提案している。欧州においても毒性評価に当たるRegulatorはin vivo試験の情報を尊重しており、種村案が支持される側面がある。

     本シンポジウムでは、各方面からの最新の知見による学術的基盤の更なる強化を頂き、今後の国際対応の強化に資する事が出来れば幸甚である。

  • 種村 健太郎, 齊藤 洋克, 古川 佑介, 相﨑 健一, 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: S17-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     行動異常を伴う中枢神経系の発達障害の一因として、胎児期あるいは小児期における化学物質のばく露が疑われている。しかしながら、それを未然に発見する為の神経毒性試験は化学物質のばく露対象を主に成熟動物としていること、行動異常の検出について心理学的記載に留まるものが多く、客観性および定量性に欠けるものであること、神経科学的メカニズムとの対応が不明であること、等の問題点が指摘されてきた。

     この問題に対応すべく、我々はこれまでに、マウスを用いて、(1)実際に発生-発達期マウスに対して神経作動性化学物質あるいは環境化学物質を投与した後の成熟後の行動異常を捉える試験プロトコールを確立するとともに、(2)オープンフィールド試験、明暗往来試験、高架式十字迷路試験、条件付け学習記憶試験、プレパルス驚愕反応抑制試験の5つの行動解析試験を組み合わせたバッテリー式の行動解析によって情動認知行動異常についての客観的かつ定量的な検出系を構築し、(3)遺伝子発現解析や、神経幹細胞動態解析、あるいは神経回路機能解析等により、検出された行動異常に対応する神経科学的物証の収集を重ねている。

     本シンポジウムでは、これまでの研究成果に加え、ビスフェノール類としてビスフェノールA、ゴム老化防止剤であるMBMTBPおよびBBMTBPを用いた解析例について報告する。これらのビスフェノール類を低濃度にて妊娠期から授乳期の雌マウスに慢性的に飲水投与し、得られた雄産仔マウスについて成熟後の情動認知行動解析を行った結果と、対応する脳海馬の遺伝子発現プロファイルとの関連について検討する。また、本シンポジウムでは、国際的な情動認知行動毒性評価系としての提案に関わる幾つかの問題点と、その解決にむけた取り組みについて議論したい。

  • 冨永 貴志, 冨永 洋子
    セッションID: S17-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    脳は、神経細胞でやり取りされる膜電位変化を介した複雑で精緻な情報処理を特徴とする演算器官である。神経細胞からなる神経演算は、多数のシナプスを介した樹状突起膜でのシナプス電位の生成とその統合と、その結果として活動電位の発生、さらには軸索を通した活動電位の伝導によって行われている。神経細胞同士の情報のやり取りから起こる脳の活動を知るためには、この神経細胞同士から作られる局所神経回路での情報演算、さらには局所神経回路同士の情報のやり取りについて知る必要がある。このような多数の膜要素の情報=膜電位を読み出す手法として、膜電位感受性色素(voltage sensitive dye ; VSD)による光計測法がある。この手法は、1970年代はじめに開発され、近年になってようやく多くの研究室で使われるようになってきた。このシンポジウムでは、我々の用いる単光子広視野(single photon wide-field)での光計測でできることについて紹介し、特に低用量/低濃度暴露による発達神経毒性評価系における利点について議論する。低用量/低濃度暴露による発達神経毒性は、脳の発生・発達期に介入して起こる脳機能の変調である。このような神経毒性は、発生・発達期に間違った特定の信号入力で起こる回路の再編成に起因しており、行動計測のようなアウトプットの変調では計測できる毒性である。その機能の変化を読み解く手法として、神経回路の働き方自体を計測する手法として、網羅性、即時性の上で優れているのが光計測による神経回路の機能計測である。本発表では、ビスフェノールA(BPA)類の、周産期慢性投与、急性投与による影響の光計測による海馬神経回路の機能計測例を述べる。さらに、海馬のみならず大きな神経回路で計測できる単回計測をずっと経時的に計測した時に観察可能な、たまにしか起こらない神経回路連絡、興奮振動、回路可塑性などの現象について紹介し今後の応用について展望を述べる。

  • 北嶋 聡, 種村 健太郎, 菅野 純
    セッションID: S17-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     Toxicity of volatile organic compounds (VOCs) in indoor air, such as formaldehyde (FA), xylene (Xy) and p-dichlorobenzene (pDB), at the levels of Sick House/Building Syndrome (SHS) is difficult to assess by the ordinary inhalation animal studies; histopathological endpoints are negative for toxicity at such concentration levels. Here we applied our Percellome Toxicogenomics Project that has been launched to develop a comprehensive gene network for the mechanism-based predictive toxicology using time- and dose-dependent transcriptomic responses induced by a chemical in mice. For this purpose, a normalization method designated as “Percellome” is developed (BMC Genomics 7:64, 2006) to generate mRNA expression values in “copy numbers per one cell” from microarrays and Q-PCR. Here, we report that the Percellome analysis is capable of predicting functional insults by short-term inhalation at SHS-level concentration.

     Lung, liver and hippocampus were analyzed. In contrast to the slight transcriptomic changes in lungs and livers, a remarkable finding common to the three chemicals were the strong suppression of gene expression related to neuronal activity in hippocampus, i.e. the immediate early genes (IEGs) including Arc, Dusp1 and Fos. Review of the lung and liver gene profile pointed out a candidate cytokine upstream of IEGs. Our finding may be considered as a first substantial data that would explain the indefinite or unidentified complaint in SHS patients. The analysis of emotional & cognitive behavior induced by these indoor VOCs will be presented.

  • 今吉 格
    セッションID: S17-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    従来、ニューロンの産生は発生期においてしか行われないと考えられていたが、ヒトを含めた哺乳類の成体の脳においても神経幹細胞が存在し、ニューロンの新生が一生涯続いている事が解ってきた。新生ニューロンが既存の神経回路に組み込まれる様式と、高次脳機能との関係についても、解明が進んでいる。本公演では、マウス生後脳・成体脳の嗅球におけるニューロン新生について最新の知見を紹介するとともに、毒性評価としての嗅球利用の可能性を探りたい。

  • 宮下 聡, 星野 幹雄
    セッションID: S17-6
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    小脳は、中枢神経系の全容積の10%ほどの小さい脳領域であるにも関わらず、その小脳を構成する顆粒細胞の数は極めて多い。その数は、マウスの場合、中枢神経系の全神経細胞数の約6割、ヒトの場合では約8割を占め、運動の制御のみならず、報酬反応といった高次機能にも関与していることが報告されている。この膨大な数の顆粒細胞は、顆粒細胞前駆細胞から生み出されるが、その発達過程では様々な細胞内・細胞外シグナル機構が働いている。また、発達期にそれらのシグナルに影響を与える薬剤に暴露されると、顆粒細胞の発生に異常をきたすことから、この顆粒細胞発達系は個体レベルでの薬剤影響の良い評価系となりうる。本発表では、最近我々が明らかにした小脳顆粒細胞発達の分子・シグナリング機構について紹介し、さらに薬剤暴露によるシグナル撹乱とその影響評価についてもディスカッションする。

シンポジウム18
  • 福井 英夫
    セッションID: S18-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    薬物性肝障害(DILI)の発現メカニズムとして、トランスポーター阻害、ミトコンドリア機能障害あるいは反応性代謝物などの関与が提唱されている。そのため、製薬会社は医薬品開発初期段階からトランスポーター阻害研究、ミトコンドリア機能障害研究あるいは反応性代謝物の検出をスクリーニング研究のひとつとして導入し、肝毒性を回避した化合物を選別している。

    II型糖尿病の治療薬として開発していたGPR40アゴニストfasiglifamは米国でのphase IIIの最終段階で肝障害がみられたため、武田薬品は自主的に開発を中止した。Fasiglifamを投与した約9100名の患者のうち、Hy’s Law caseを基準にして重篤な肝障害を示した患者数は3例であった。非臨床試験ではイヌを用いた反復投与毒性試験で肝毒性が検出されていたが、臨床投与量との安全マージンは十分に確保されていた。また、イヌでみられた肝毒性の発現機序はすでにphase III前には解明されており、臨床試験でみられた肝障害がイヌと同じ機作で起こったとは考えられなかった。臨床試験でみられた肝障害の発現機作を説明するために、in vitroの試験系を用いたレトロスペクティブ研究の結果が報告されている。BSEP阻害及びミトコンドリア機能障害がヒトでみられた肝障害の原因であると報告しているグループもある。最初に、in vitro試験系をスクリーニング段階で実施しておれば、fasiglifamのphase IIIでみられた3例の重篤な肝障害は回避できたかを考察する。次に、in vitro試験系を化合物スクリーニング段階から導入することの意義について考察する。最後に、in vitroスクリーニング試験系を導入することで、有用な化合物を開発初期段階で中止にしていないか、また、評価系自体も最適なものになっているのかなどを考察したい。

  • 浅山 真秀子, 安藤 雅光, 長谷川 洵
    セッションID: S18-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     Drug-Induced Liver Injury (DILI) is a main leading cause of attrition in drug development or post-marketing withdrawal. Though the importance of risk assessment of DILI is widely recognized, quantitative DILI assessment is difficult because multiple different mechanism and patient variability complicatedly contribute to human DILI. Extrapolating the animal data to human is also difficult. Consequently, our challenges are that the human risk of DILI could be detected based on the DILI mechanisms in the exploratory stage of drug development and predicted quantitatively by integrating various factors.

     In the exploratory stages, we conduct in vitro assays (e.g. reactive metabolites, mitochondrial toxicity, and bile salt transporter inhibition) and estimate physicochemical properties to profile DILI risk. Remaining issues of quantitative human DILI risk assessment are integrating multiple in vitro assay results and human variability, although in vitro studies can profile DILI mechanism. To solve these issues, we have investigated the usefulness of DILIsym® developed by DILIsym Services, Inc. in collaboration with FDA, which is cutting-edge modeling and simulation technology.

     This session will highlight in vitro/in silico risk profiling of human DILI in exploratory stages of drug development and retrospective evaluation of the drugs with the elevation of blood liver enzymes in the clinical studies.

  • 藤本 和則
    セッションID: S18-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    臨床試験や市販後のヒト肝毒性、もしくは非臨床長期反復投与毒性試験での肝毒性発現はインパクトの大きな問題である。そのため、製薬会社はスループットが高く、少量の化合物で評価できるin vitroの系を用いて、探索段階から肝毒性ポテンシャルの低い化合物の取得を目指している。一方、このin vitro評価系はあくまでin vivo、もしくはヒトでの肝毒性を「予測」しているに過ぎなく、一般的に創薬において「予測」を行う際には「確認」のステップが必要となる。ヒト肝毒性には、実験動物で再現可能であるintrinsicなものと、実験動物での再現が難しいidiosyncraticなものがある。Intrinsicな肝毒性はヒトへの投与前に実験動物である程度確認が可能となるが、idiosyncraticな肝毒性はヒトで確認せざるを得ない。しかしながら、idiosyncraticな肝毒性の発現頻度は非常に低く、また肝毒性の発現には長い投与期間を必要とする場合もあるため、臨床試験では検出できなく、市販後にはじめて問題となるケースも少なくない。これらのことを考慮して、探索段階のin vitro評価系を構築することが大事だと考えている。つまり、in vitro評価系の構築においては、何を予測するために、どんなvalidationをしなくてはいけないのか?を念頭に置く必要がある。この思考は、今後活用が期待されるin silicoでの肝毒性予測においても重要だと考えられる。本発表では、当社の探索段階での肝毒性予測のためのin vitro評価系構築の試みを紹介し、それぞれ何を予測するためにどのようなデータを収集、参照したかについて論じたい。

  • 宮本 実, 天野 雄一郎, 穴山 久志, Yvonne P DRAGAN
    セッションID: S18-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    Drug-induced liver injury (DILI) is a significant public health problem that has a critical impact on not only patients but also healthcare professionals, pharmaceutical companies and regulatory authorities. It is considered difficult to predict its occurrence due to a complex interaction between chemical properties and patient factors.

    Recent technological advances have led to the development of in vitro assays that can improve the predictability of clinical adverse events, and they are now becoming available in the early stages of drug discovery. Based on the concept of "Safety by Design", we have adopted a tiered approach that is stepwise approach from "a simple and high-throughput assay system" to "a complex assay system focused on organ toxicity".

    Recently we re-evaluated Takeda legacy compounds including lapaquistat which has been terminated in phase III due to safety concerns in the liver, by the DILI-related assays introduced in the tiered approach, as part of evaluation of the usefulness of these assays for DILI prediction.

    In this symposium, we will report the results and would like to discuss the future challenge to improve the predictability of clinical DILI.

  • 臼井 亨
    セッションID: S18-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    ヒト特異的肝毒性(iDILI, idiosyncratic Drug-Induced Liver Injury)は、動物を用いた通常の非臨床安全性試験では検出できず、臨床試験開始以降に顕在化する副作用である。当社においても2000年代にiDILIによる候補化合物の開発中止を経験し、それ以来iDILIリスクの非臨床での評価に取り組んできた。当時からリスク因子と指摘されていた反応性代謝物生成の指標として、放射標識化合物を利用してヒトin vitro試験系でタンパクへの共有結合量を測定し、それを用いてiDILI回避のための社内クライテリアを設定した。その後、同評価をより早期に実施するため、非放射標識化合物を用いて共有結合量を予測する手法を確立し運用している。反応性代謝物の他にも、レトロスペクティブな調査から、胆汁酸排泄トランスポーター阻害及びミトコンドリア毒性がiDILIのリスク因子であることが知られている。しかし、これらのin vitroパラメーターでiDILI発現メカニズムを明確に説明できるわけではなく、その評価結果は偽陽性や偽陰性を含むことを前提としたリスク回避の指標である。本発表では、この偽陽性、偽陰性を改善するために獲得免疫型のiDILI評価に取り組んだ事例を紹介する。本評価においては、Human Leukocyte Antigen(HLA)に着目した。HLAは獲得免疫におけるT細胞への抗原提示を担う本体であり、特定のハプロタイプを保有する患者でiDILIの発症頻度が高い。患者が保有するリスクHLAと同じHLAハプロタイプをもつ健常人血液を用いて、患者でのin vitroフェノタイプが再現できるT細胞実験系が報告されていることから、同様の手法でiDILI予測が可能かを検討したので、その結果を紹介する。

シンポジウム19
  • 清野 正子, 中村 亮介, 大城 有香, 浦口 晋平, 高根沢 康一
    セッションID: S19-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    メチル水銀は脳神経系をはじめとする様々な臓器に傷害をもたらす。メチル水銀は様々なタンパク質に結合し、その機能を失活させる。その結果、変性タンパク質が細胞内に蓄積する。生体はこれらの蓄積を防ぐため、細胞内分解系を働かせ、細胞を保護している。細胞内の主要な分解機構の一つとしてオートファジーがあげられる。我々は、これまでに低濃度メチル水銀がオートファジーレセプター分子sequestosome1/p62(p62)の発現を増加させることを見出した。現在、生体におけるp62を鍵分子とするオートファジーは、メチル水銀に対する防御機構の一つであると考えている。

    マウス線維芽細胞(野生型MEF)における低濃度メチル水銀の影響を調べたところ、小胞体ストレス応答の指標であるCHOPGADD34 mRNAの発現が誘導された。一方、p62欠損細胞(p62KO MEF)では野生型MEFと比べてこれらの遺伝子発現誘導が有意に上昇することを見出した。さらに、p62KO MEFにGFP-p62を外来的に発現させると、メチル水銀処理によるCHOPGADD34 mRNAの発現誘導が野生型MEFとほぼ同等となった。また、p62KO MEFにおいては、野生型MEF細胞に比べてユビキチン化タンパク質が増加した。これらの結果から、p62はメチル水銀により産生される細胞質のユビキチン化タンパク質の増加を抑制するのみならず、メチル水銀による小胞体ストレスから回復するためにも重要な役割を果たしていることが明らかになった。本シンポジウムでは、低濃度メチル水銀によるオートファジーの活性化と小胞体ストレス応答におけるp62の役割を中心に紹介する。

  • 篠田 陽, 山田 裕大, 恒岡 弥生, 高橋 勉, 吉田 映子, 鍜冶 利幸, 藤原 泰之
    セッションID: S19-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    環境汚染物質であるメチル水銀の曝露は、手足のしびれなどを伴う中枢―末梢の多発神経障害を出現させるが、末梢神経におけるメチル水銀毒性の発現メカニズムは未だ解明されていない。そこで本研究では、メチル水銀がどのような機序で末梢神経毒性を発現するかを明らかにする目的で研究を行なった。

    9週齢雄Wistarラットを用い、塩化メチル水銀水溶液 (6.7 mg/kg/day) を、胃ゾンデを用いて5日間投与2日間未投与とするサイクルを2回、計2週間行なった。投与開始直後より、体重測定と後肢交差の確認を行なうとともに、行動解析として侵害刺激、圧力刺激、温・冷感刺激に対する応答解析を1日1回、70日間行なった。また投与開始7、14日目に腰椎L4より後根神経節(DRG)を摘出し、得られたtotal RNAを用いてDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行なった。さらに、投与開始7、14日目に4% PFAを還流して組織を固定し、DRGおよび末梢感覚神経・運動神経を摘出した後、免疫組織化学的手法を用いて種々の組織学的解析を行なった。

    メチル水銀投与開始2週目より体重減少と後肢交差応答が観察された。また投与開始14日目の感覚神経にのみ軸索損傷が観察され、DRGにおいても神経細胞の脱落が観察された。行動解析の結果、異なる感覚モダリティのメチル水銀感受性および感覚傷害後の回復に時間的差異が見られた。DRGに存在する細胞群を免疫組織化学的に分類して解析したところ、神経細胞の種類によるメチル水銀毒性の差は観察されなかったが、ミクログリア/マクロファージの増殖と活性化、およびシュワン細胞の増殖が観察された。また、網羅的遺伝子発現解析によりTNF-αおよびTLRシグナル経路の関与が示唆された。以上の結果より、メチル水銀による末梢神経障害が炎症反応を介して発症している可能性が考えられた。

  • 藤村 成剛, 臼杵 扶佐子
    セッションID: S19-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    メチル水銀の成人期暴露は、脳において部位特異的な神経毒性を誘発する。本研究では、成人水俣病患者と同様に大脳皮質の深層部 (特に第IV層) に特異的な神経変性を示すメチル水銀中毒マウスモデルを用いて、神経活動に関連するシグナル伝達経路の部位特異的発現について研究を行った。まず、免疫組織学的手法を用いて、神経活動マーカーであるc-fosおよび脳由来神経栄養因子(BDNF)の脳内各部位における発現レベルの時間経過について測定を行った。その結果、両神経活動マーカーはメチル水銀暴露によって大脳皮質深層部で特異的に増加し、その増加は神経変性に先行した。さらにウェスタンブロット解析を行った結果、c-fosの発現はp44/42 MAPK, p38 MAPKおよびPKA経路が活性化した後、CREBリン酸化の亢進によって引き起こされることが明らかになった。なお、小脳と海馬では大脳と同等レベルの水銀濃度が示されるにもかかわらず、神経活動マーカーの増加および神経病変は検出されなかった。以上の結果は、メチル水銀によって引き起こされる大脳皮質深層部における神経変性が、“MAPKおよびPKA/CREB経路の活性化に引き続くc-fosおよびBDNFの発現増加による部位特異的神経活動亢進によって引き起こされる” という興味深い可能性を示唆している。

  • 熊谷 嘉人
    セッションID: S19-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    メチル水銀(MeHg)はタンパク質のシステイン残基に共有結合(S-水銀化)して、タンパク質の機能変化や毒性を発現する環境中親電子物質である。我々は、Nrf2がGSH付加体の生成を介してMeHgの解毒・排泄に関与する転写因子であることを細胞および個体レベルで明らかにした。また、cystathionine gamma-lyase(CSE)等から産生される活性イオウ分子は、MeHgを捕獲・不活性化して (MeHg)2Sというイオウ付加体を生じることを見出した。そこで、MeHg毒性軽減におけるNrf2およびCSEの役割を知る目的で、Nrf2およびCSEの単独・二重欠損マウスを用いて検討した。その結果、1)CSE欠損により、マウス初代肝細胞中CysSH、GSHおよびそれぞれのパースルフィド量は野生型より有意に減少したが、Nrf2欠損ではGSH量のみ野生型より有意に低下した。本細胞をMeHgに曝露すると、野生型に比較してNrf2およびCSEの二重欠損で顕著に細胞毒性は増加した。2)MeHgを野生型マウスに有害性が観察されないような用量(5 mg/kg/day, 12日間)を処置した条件において、CSEあるいはNrf2の単独欠損により協調運動の低下、振戦および致死効果が見られ、両者の二重欠損ではさらに悪化した。3)胎児はMeHgに対して高い感受性を呈することが知られているが、胎児期15.5日目のマウス肝臓中CSEの発現は殆ど認められず、成熟と共に増加した。一方、Nrf2の発現量は胎児期と成長期は殆ど変わらなかった。一連の結果は、Nrf2とCSEはそれぞれGSHおよびイオウ付加体の生成を介して、相補的にMeHgの毒性軽減に働いていることを示唆している。

  • 黄 基旭
    セッションID: S19-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    メチル水銀は重篤な中枢神経障害を引き起こす代表的な環境汚染物質の一種であるが、それに関わる分子機構はほとんど解明されていない。我々はこれまでに、メチル水銀を投与したマウスの脳内においてミクログリアから炎症性サイトカインの一種であるオンコスタチンM(OSM)が発現誘導されることを見出した。OSMはIL-6分子種の一つで、細胞外に放出された後に細胞膜上に存在する受容体OSMRまたはLIFRと結合して細胞内へシグナルを伝達することが知られている。メチル水銀処理によって細胞外のOSMレベルも増加し、また、リコンビナントOSMの培地中への添加によってOSM発現抑制細胞のメチル水銀感受性が上昇した。しかし、OSMRまたはLIFRの発現を同時に抑制させても細胞のメチル水銀感受性はほとんど変動しなかった。これらのことから、OSMが示すメチル水銀毒性増強作用にOSMRおよびLIFR以外の受容体が関与している可能性を示唆している。そこで、OSMが結合することによってメチル水銀毒性増強に関わる受容体を検索したところ、TNF受容体3(TNFR3)が同定された。さらに、TNFR3に対する中和抗体をマウスの脳室内に直接投与することでメチル水銀による神経細胞死が抑制されることも見出している。また、メチル水銀がOSMの105番目システイン残基をブロックすることによってTNFR3との結合を上昇させることが試験管内実験により示唆されている。以上のことから、OSM/TNFR3を介した新規シグナル伝達系がメチル水銀による中枢神経傷害に深く関与していることが強く示唆されており、本講演ではその詳細について紹介する。

シンポジウム20
  • 諫田 泰成
    セッションID: S20-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    近年、抗がん剤治療の進展により、癌患者が長期にわたって生存できるようになった。それに合わせて、分子標的薬など抗がん剤の心血管毒性がクローズアップされることとなった。がん治療において、抗がん剤の進歩により治癒率の向上がみられるが、その一方で抗がん剤による副作用、特に心血管系毒性が生命予後を左右する大きな要因となりつつある。従って、がんに対する有効な治療を継続するために、心血管系毒性を予測して、そのメカニズムを明らかにすることが重要である。これまでに我々は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて、催不整脈作用の発生リスクを評価できることを明らかにしてきた。抗がん剤の心毒性は、不整脈以外に、左心室機能障害など多岐にわたるため、さらにヒトiPS細胞由来心筋細胞の利用が期待される。今回、我々はイメージングな技術などを活用して収縮評価系を構築し、チロシンキナーゼ阻害剤などによる毒性を評価出来ることを明らかにしており、今後、多施設間での検証を進める予定である。本シンポジウムでは、抗がん剤の心血管毒性の現状と今後の展望に関して議論したい。

  • 黒川 洵子, 中川 桃夏, 五十嵐 弦, 山口 賢彦, 坂本 多穗
    セッションID: S20-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    非臨床医薬品安全性試験における心毒性評価にヒトiPS細胞を利用するために、国際的な共同研究および個人研究が推進されている。その結果、分化心筋の活動電位のばらつきなどの課題が次々と克服され、催不整脈性を評価するためのヒトモデルとしての実用化に大きな期待がかかっている。次世代の試みとして、抗がん剤などによる心不全発症を調べる評価系の構築に注目が集まっており、力学的機能における細胞の品質保証が新たな課題となっている。我々は、MFI (Motion Field Imaging)手法を用いて、ヒトiPS心筋の拍動動画から、心房・幼若マーカー(MLC2a)もしくは心室マーカー(MLC2v)でラベルされた細胞ごとの収縮機能を識別することに成功した。そこで、本研究では、細胞型ごとの薬物応答を比較解析することにより、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて心不全毒性を調べる際の課題を洗い出すことを目的とした。その結果、βアドレナリン性受容体刺激に対する応答は、収縮速度に関してはMLC2v型でのみ見られることを見出した。今回、MFI手法を活用して、心筋収縮のβアドレナリン性調節における細胞株間差を検出することに成功した。本データは、ヒトiPS細胞を用いた心不全毒性評価系の構築において考慮すべき課題を提示すると思われる。

  • 芦原 貴司
    セッションID: S20-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    近年,創薬にかかる安全性薬理・毒性試験において,経費のかかる動物実験や臨床試験の一部をヒトiPS細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)やin silico(コンピュータシミュレーション)を用いた実験で置き換えようとする動きが拡がりつつある.その一方で,hiPSC-CMの電気生理学的特性が,オリジナルの心筋細胞とは異なることが知られるようになった.実際,hiPSC-CMはヒト心室筋細胞(hVCM)に比べて,活動電位時続時間が長く,活動電位波高が低く,静止膜電位が浅く,自動能を有するという違いが指摘されている.そこで我々は,ヒト心室の電気生理学的特性を忠実に再現したin silico hVCMと,hiPSC-CMの電気生理学的特性をin silicoで忠実に再現した仮想モデル(viPS)を共通構造のもとで構築することで,その両者の違いを分子・細胞・組織レベルで把握するとともに,その溝を埋めるための方策をin silicoのみで検討することを発案した.そうした検討を続けるなかで,hiPSC-CMは幼若化細胞の特徴を有するがブラックボックスな要素が多いこと,細胞内外のイオン濃度が異なる可能性のあること,hiPSC-CMシート(組織レベル)では興奮伝播速度も組織興奮性も落ちること,その結果,頻脈性不整脈の基本メカニズムである興奮旋回(リエントリー)は性質が異なること等が分かった.hiPSC-CMを安全性薬理・毒性試験に応用する際には,そうした違いをどのように埋め,評価するのかを理解する必要があり,そうした評価にはviPSのようなアプローチが有用と考えられる.

  • 吉田 善紀
    セッションID: S20-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトiPS細胞は心筋細胞を含め様々な細胞に誘導されるため、毒性試験や疾患メカニズム研究、創薬スクリーニングなどへの応用が期待されている。しかし、多能性幹細胞由来心筋細胞は成人心臓組織の心筋細胞と比べて胎児心筋に近い未熟な細胞であることが、多能性幹細胞由来心筋細胞を用いた毒性試験系構築や創薬研究への応用において障壁となっていた。我々の研究室では心筋細胞の成熟誘導のために様々なアプローチによる研究を行っている。心筋細胞の成熟に伴って発現が変動するトロポニンI1とトロポニンI3の発現をレポーター蛍光色素の発現でモニターすることが可能なiPS細胞株をゲノム編集技術を用いて作製し、化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを行うことにより、心筋細胞の成熟を誘導する化合物を同定した。これらの化合物で処理した心筋細胞は成熟心筋細胞に近い遺伝子発現プロファイルを示し、ミトコンドリア機能や細胞形態において成熟心筋細胞に近い特性を示した。iPS細胞から誘導した心筋細胞を成熟化させることにより、薬剤への反応はより実際の心臓組織に近い反応を示すことが期待されるため、病態モデルの確立や毒性試験の構築への応用が期待される。

    さらに、我々の研究室では肥大型心筋症や遺伝性不整脈疾患などの病態モデル研究を行っている。肥大型心筋症iPS細胞から誘導した心筋細胞を用いて、心筋細胞の肥大やサルコメア構造の乱れなどを再現し、これらの変化を改善させる化合物の探索を行っている。

    本シンポジウムでは、iPS細胞から成熟した心筋細胞の作製法の開発や疾患iPS細胞を用いた病態モデル構築および毒性試験系の構築に関する研究の進捗について報告したい。

シンポジウム21
  • 萩原 正敏
    セッションID: S21-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    スプライシング変異は遺伝性疾患関連変異として報告されている既知遺伝病関連変異(約27万種類)のおよそ9%を占めるが、中でも深部イントロン変異に起因する偽エクソン型スプライシング変異が新たな制御形態として注目されている。これら深部イントロン変異は、変異によりイントロン配列内にスプライス部位やエンハンサー等を新生させることでイントロン配列の部分的なエクソン化、すなわち「偽エクソン」を生じさせ、特定の遺伝子にフレームシフトや停止コドンを導入することで病原性を示す。これまでに我々は、低分子化合物を処理することで偽エクソンを抑制する活性があることをNEMO異常症、嚢胞性線維症の既知偽エクソン変異モデルの解析から見出した。これら偽エクソン型の深部イントロン変異は原因変異未知症例、未診断疾患群の多くに潜在している可能性が指摘されるが、既存のエクソーム解析等では検出することが出来ないことから疾患関連性の知見が殆ど得られていないのが現状である。我々は全ゲノム配列情報から深部イントロン変異を検出し創薬標的として評価する方法を確立しつつある。

  • Samik GHOSH, Takeshi HASE, Ayako YACHIE, Sucheendra Kumar PALANIAPPAN
    セッションID: S21-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    The rapid advancement in new machine learning architectures in the field of artificial intelligence (AI) coupled with the availability of multi-scale data has opened novel avenues in various domains of biomedicine and healthcare - from drug discovery, clinical applications and toxicology. The talk will explore the various promises and pitfalls of AI, particularly in the context of toxicology, with use cases for success and failures, various areas of applications towards the goal of finding the right balance (optimal dose) for AI applications in biomedicine and healthcare.

  • 夏目 やよい
    セッションID: S21-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    生体分子を網羅的に測定するオミックス解析は既に広く浸透しており、様々な事象に対する生体応答を理解する上で強力な手段の一つとなっている。特に近年では、Garuda(www.garuda-alliance.org)に代表されるオープンプラットフォームや各種ウェブアプリケーションなど、プログラミング技術を必要としない多種多様な解析ツールを無料で使用可能であり、オミックスデータからの知識抽出方法に関する選択肢は急速に増加した。その一方で、それぞれの解析ツールには個性があり、その出力結果の解釈において注意が必要となる事も実際には起こり得る。

    ペンタクロロフェノール(PCP)は各国でその使用が禁止あるいは厳しく制限されている殺虫剤であり、ヒトにおいて発汗・痙攣・高熱といった症状を惹起することが知られている。その機構に関する理解を深めるため、我々はPCPを投与したマウスにおける遺伝子発現プロファイルであるPercellomeデータ[1]の解析をおこなった。本発表では、PCP投与によって発現が変動する遺伝子の解析とその毒性発現機構の推定を例として紹介しながら、解析ツールを用いた知識抽出におけるその結果解釈の精度管理について述べたい。

  • 菅野 純, 北嶋 聡, 相﨑 健一, 小野 竜一
    セッションID: S21-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     Precellome Projectの精度管理は、これに先行する医薬基盤研(現・医薬基盤・健康・栄養研究所)において2003年から開始されたThe Toxicogenomics Project (TGP)の立ち上げに端を発する。150以上の化学物質を齧歯類に順次曝露しマイクロアレイにより肝等の臓器の網羅的な遺伝子発現変動をデータベース化し、比較解析するプロジェクトを開始するにあたり、①マイクロアレイの定量性、②データ形式・条件の決定、③条件を満たす技術開発、を行った。①はLiver-Brain-Mixサンプルにより単色アレイを、更に付随条件によりAffymetrix GeneChipを選択、②Fold Changeデータの煩雑性からmRNA発現値を絶対量化する方針を選択、③枯草菌mRNAをスパイクする事で絶対量化する技術、及び、その精度管理法を確立した(2006, BMC Genomics 7(1):64参照)。GeneChipの採用は、Probeの定量性が一定の範囲に収まるように塩基配列が選択されており、Q-PCRによるデータと大きな乖離が無いことを確認して決定したものである。

     現在まで、若干の修正を経ているが基本概念の変更なく、蓄積したGeneChipデータは、実験間、臓器間で直接比較に耐える精度を維持し続けている。最近、本projectに導入した新型反復曝露実験において、遺伝子発現変動が二つの成分、即ち、曝露の都度に変化を示す「過渡反応」と、曝露を重ねるに連れ発現値の基線が徐々に移動する「基線反応」に分解できる事を示したが、特に後者の反応を的確に表示することを可能にしているのが本Projectの精度管理システムである。

     本発表では、基線反応と過渡反応の組み合わせを考慮したネットワーク解析における精度管理の重要性を報告する(厚生労働行政推進調査事業費による)

  • 小野 竜一, 相﨑 健一, 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: S21-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    我々は、網羅的な遺伝子発現ネットワーク解析に基づいて化学物質の毒性を予測および評価するために、曝露したマウスの肝等の臓器における細胞1個当たりの 平均mRNA コピー数を網羅的に測定・評価するPercellomeプロジェクトを推進している。これまでのPercellomeプロジェクトの結果より、化学物質の反復ばく露を行うことで遺伝子発現の定常状態(基線反応*)が変化する遺伝子群が存在することを明らかにした。反復ばく露影響の分子機序の解明のためには、その制御メカニズム解明が必須である(*:ばく露の都度の変化を「過渡反応」、反復曝露による定常状態の変化を「基線反応」と定義した)。

    これまでの研究において、四塩化炭素、バルプロ酸ナトリウム、クロフィブレートの14日間反復投与において、Bisulfite法による網羅的DNAメチル化解析、および、H3K4me3 (活性化)、H3K27Ac (活性化)、H3K27me3 (抑制)、及びH3K9me3 (抑制)のヒストン修飾解析を網羅的に行った。その結果、DNAメチル化状態に大きな変化は起こっていないこと、及び、ヒストン修飾状態は、反復投与を行った化学物質に依存したヒストン修飾の変化、及び、バルプロ酸ナトリウム、クロフィブレートにおいては広範囲にわたるヒストン修飾変化が認められた。

    これらのヒストン修飾の変化の詳細を報告する。

シンポジウム22
  • 佐藤 陽治
    セッションID: S22-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     細胞加工製品、特にヒト多能性幹細胞加工製品の臨床応用では、製品に混在する未分化多能性幹細胞や形質転換細胞といった造腫瘍性細胞による腫瘍形成リスクが重大な関心事となるが、細胞加工製品の造腫瘍性評価に関する国際的な標準試験法はまだ存在していない。この課題に取組むため、我が国では平成28年よりAMEDの支援の下、国立医薬品食品衛生研究所と再生医療イノベーションフォーラム多能性幹細胞安全性評価委員会(FIRM-CoNCEPT)を中心とした産業界との連携による「細胞加工製品の造腫瘍性評価に関する多施設共同研究」(MEASUREプロジェクト)が実施されてきた。MEASUREでは、造腫瘍性関連試験の現状分析結果に基づき、細胞加工製品中に混在する造腫瘍性細胞を検出する試験及び定量PCRを用いた非臨床細胞体内分布試験に関する多施設バリデーションを行った。

     また、得られた結果を国内だけでなく、海外の関係者とも共有するために、MEASUREはHealth and Environmental Sciences Institute(HESI)の細胞治療委員会(CT-TRACS)と緊密に連携し、試験法の標準化に向けた国際的コンセンサスの醸成を図ってきた。本セッションではこれらの成果について報告する。

  • 田中 直子
    セッションID: S22-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    ヒト多能性幹細胞を原材料とする細胞加工製品の臨床使用においては、製品中に残存した未分化多能性幹細胞が腫瘍を形成する可能性がある。そのため、残存した未分化多能性幹細胞を検出する試験は製品の造腫瘍性を評価する上で重要である。MEASUREでは、免疫不全マウスを用いたin vivo造腫瘍性試験の標準プロトコルを作成し、多施設で検証した。

    【方法】

    予備試験では、102 - 105のヒトiPS細胞株(ChiPSC18)をマイトマイシンC処理したヒト線維芽細胞、マトリゲルおよびROCK阻害剤と共に雄性NOGマウス(各群6匹)の側腹部に皮下投与した。投与後20週間観察を行い、投与部位に形成された腫瘤の大きさを経時的に測定した。観察終了時には腫瘤を摘出し、病理組織学的評価を行い、Spearman-Kärbor法により50% Tumor Producing Dose(TPD50)を算出した。同じプロトコルを用いて5施設で6試験を実施した。予備試験の結果から、本試験ではヒトiPS細胞の投与用量を10 - 104に変更し、雌雄NOGマウスを用いて4施設で4試験を実施した。

    【結果および考察】

    予備試験の結果、全ての投与群で投与部位に腫瘤が形成された。投与部位以外に腫瘤は認められなかった。病理組織学的検査により全ての腫瘤はテラトーマと診断された。TPD50値は10 - 680であった。本試験のTPD50は雌雄共に15 - 100となり、雌雄差は見られなかった。今回の試験方法は、雌雄差、施設間差のばらつきはあまりなく、20週の観察期間で十分に未分化iPS細胞を検出できるものと考えられた。

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