日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
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ワークショップ 1
  • 斎藤 嘉朗, 出水 庸介
    セッションID: W1-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    天然型構造のみを有するペプチド医薬品は、古くから開発されてきたモダリティであるが、血中半減期が短い、経口投与ができない、などの欠点があった。近年、立体構造の安定化や細胞膜透過促進のための非天然型構造を有するペプチド医薬品が開発されており、多様な構造を短時間で化学合成可能な技術の発展と相まって、新規のモダリティとして大きな期待を集めている。近年高額な医薬品の増加による国民皆保険制度への影響に関する議論がなされているが、非天然型構造を有するペプチド医薬品は、化学合成されるため、比較的安価であることも、その期待要因の一つである。一方で、中分子という性質から免疫原性や、天然型アミノ酸の変化等に基づく類縁構造を有する不純物の扱いなど、低分子化学薬品にはない特性に関し、検討が必要との意見もある。

    2018年度よりAMED医薬品等規制調和・評価研究事業「次世代型中分子ペプチド医薬品の品質・安全性確保のための規制案件に関する研究」班(研究代表者 出水庸介)が発足し、品質・製剤、及び非臨床安全性評価の点から、それぞれ産官のメンバーにより、将来の留意点文書の作成に向けた論点のまとめと議論を続けている。いまだ議論は半ばであり、結論は出ていないものの、天然構造のみを有するペプチド医薬品との比較から、大枠の方向性は固まってきている。一方で、類縁構造を有する不純物の問題や、評価項目の適切性に関する問題が残されており、今後、さらに議論していく予定である。

ワークショップ 2
  • 渡邉 諒
    セッションID: W2-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    探索段階でみられた毒性所見が薬効標的を介したオンターゲットな作用に依るか否かは、治療コンセプトの妥当性や化合物の合成展開方針において重要な情報となる。一般的に、オン/オフターゲット毒性の見極めは、薬効標的の遺伝子機能を欠損させた動物又は培養細胞を用いた評価で行われている。すなわち、これら動物又は細胞に化合物を曝露した際に毒性がキャンセルされるか、或いは類似した毒性が惹起されるかによってオン/オフターゲット毒性の見極めを行う。毒性がオンターゲットな作用である場合は薬効と毒性の乖離は難しく、これらを標的とする化合物を開発するためには、標的下流のシグナル選択性の有無などによって毒性回避・軽減が可能か検討する必要がある。

    本シンポジウムでは、受容体を薬効標的とした低分子化合物の探索研究において我々が検討したオンターゲット毒性の回避・軽減策について紹介する。

  • 牟田 恭尭
    セッションID: W2-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    医薬品開発において認められる毒性所見は,薬効の延長上で認められるon-target毒性と薬効とは関係なく化合物構造由来の作用に基づくoff-target毒性に分けられる。認められた毒性所見がon-target作用とoff-target作用のどちらに起因するかは,開発テーマの継続判断や臨床試験でのリスクマネジメントに大きな影響を与えることから,毒性所見のプロファイリングやメカニズム解明は極めて重要である。なかでも,薬物誘発性肝障害(DILI)は医薬品開発においてしばしば遭遇する有害事象であると同時に,開発中止や市場撤退につながる大きな原因であることから,本事象のプロファイリングが要求される場面は多い。しかしながら,非臨床のin vivo毒性試験は実験動物の遺伝的背景や飼育環境が均質であり,多様な背景を有するヒトの臨床条件を十分に反映しておらず,標準的な毒性試験ではDILIの検出が難しい場合も少なくない。一方で,実験動物において認められた毒性所見の中には臨床でのDILIの可能性を示唆するアラートが存在すると考えられ,その一つに肝細胞の脂肪化があげられる。肝細胞の脂肪化は非臨床毒性試験においてしばしば認められる所見であるが,臨床肝障害を示した化合物の多くは非臨床毒性試験で肝細胞の脂肪化を呈していることから,そのメカニズムを推定することは肝障害リスクの見積もりにおいて大きな意味を持つと考えられる。本発表では,ラット反復投与毒性試験で認められた肝細胞の脂肪化所見の発現メカニズム推定を行った事例について紹介するとともに,毒性所見のプロファイリングやメカニズム解明に向けた今後の課題についても言及したい。

  • 赤井 翔
    セッションID: W2-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    抗体医薬品の非臨床安全性評価は,その標的分子に対する特異的な結合様式の特徴から,標的を介した毒性評価が重要である。これまでの抗体医薬品開発の多くでは,交差反応性を確認した後にカニクイザルがin vivo非臨床安全性試験に用いられてきたが,抗体反応には種差が存在することが多い。したがって,ヒトでの副作用リスクを考察するにはin vivo非臨床安全性試験だけでなく,細胞等を用いたin vitro評価も重要である。また,抗体は抗原に対する反応のみならず,Fc領域の結合・機能性も考慮する必要があり,分子特性を統合して毒性研究と開発を進めることが求められる。

    本発表では,医薬品開発における毒性評価への取り組みについて紹介した後に,カニクイザルを用いたin vivo非臨床安全性試験でみられた標的分子由来と考えられる毒性変化の当社事例について,その発現機序に関する考察や検討も含めて紹介する。

  • 大村 功
    セッションID: W2-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    核酸医薬品やCRISPR-Cas9を利用したゲノム編集といった新しいモダリティによる治療方法が考案され、世界で研究開発が進んでいる。従来の低分子化合物による標的分子への作用ではなく、mRNAやゲノムDNAに作用することにより、特定のたんぱく質の発現量の調節、塩基の置換、エクソンスキップ、遺伝子挿入などができることから、疾患の原因に迫った治療になるとして期待されている。これらのモダリティは標的領域に相補的な核酸配列を用いることで選択性を持つように設計されるが、用いる核酸配列によっては、相同な塩基配列を有する非標的領域にも結合し作用しうる。また、完全に塩基配列が相同でなくても作用する可能性がある。これは一般的にハイブリダイズ依存的オフターゲット効果と呼ばれ、これらのモダリティの安全性評価において重要であることが指摘されている。

    ゲノム編集や核酸医薬品のハイブリダイズ依存的オフターゲット効果の安全性評価に関する考え方は様々なところで詳細に議論されていることから、本発表では、アンチセンスオリゴやCRISPR-Cas9のguide RNAの初期評価として実施するin silico解析の実例(GGGenomeから出力される大量のオフターゲット候補遺伝子の機能情報取得、およびポテンシャルリスクの評価)を示し、非臨床安全性担当者としての視点から方法論と困難な点について議論したい。

ワークショップ 3
  • 本田 大士
    セッションID: W3-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    リスクが暴露量×ハザードで定義されるのは、ヒトや環境のリスク評価に共通しているものの、両分野に横断的に取り組んでいる研究者は少ない。本ワークショップでは、ヒト薬物動態解析や環境暴露解析に焦点をあて、シミュレーション技術の高度化やAI技術の普及が予測技術や学問領域をどのように変えようとしているのか、その最前線をレビューしたい。また事例として、著者のグループが河川中の化学物質濃度を高精度に推計するために開発している、水文学に基づく計算科学的アプローチと、地理情報を駆使したデータ科学的アプローチを融合させたハイブリッドモデルについて紹介したい。本シンポジウムをきっかけとして、ヒトと環境分野の暴露予測技術が更に進展するきっかけに繋がれればと願う。

  • 磯辺 篤彦
    セッションID: W3-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    世界の海に漂うマイクロプラスチックは、動物プランクトン以下のサイズであって、誤食を通して容易に海洋生態系に紛れ込む。実際、最近の研究によれば、クジラから魚類や動物プランクトンに至る多種多様な生物の体内から、マイクロプラスチックが検出されている。海洋生態系へのマイクロプラスチックの混入は、すでに相当程度に進行していると見てよいだろう。最近になって、POPsを吸着させたものや、あるいは未使用のプラスチックビーズを使って、これを海洋生物に摂食させ、発現した障害を報告した実験報告が数多く発表されている。ただ、今のところ、マイクロプラスチック由来のダメージが、実際の海洋で生物に見つかったとの報告はない。一つには、まだ実海域での浮遊量がそれほど多くないことによるのだろう。ありえないほど大量のプラスチックビーズを与えてしまえば、そのような実験など現実に敷衍しづらい。大切なことは、現在の浮遊量を正しく監視しつつ、将来の増加量を確からしく予測することである。ところが、マイクロプラスチックの行方を追うことは、現代海洋学でも難しい。最近の研究は、海面近くを漂うマイクロプラスチックが、海流や波に流されつつも、少しずつ姿を消す事実を捉えだした。海洋生物が誤食した一部は、フンや死骸とともに海底へと沈んでゆくだろう。漂流中に表面を生物膜で覆われ、重くなったマイクロプラスチックも沈むらしい。海岸に打ち上がって、そのまま砂中に吸収されることもある。ネット採集するマイクロプラスチックであるが、文字通り網の目をくぐり抜けるほど細かく砕けたものは、私たちの目に触れることなく、それでも大量に海を漂っているのかもしれない。海洋学が「海洋プラスチック循環」の全体像を捉えるには、まだまだ時間がかかりそうである。

  • 山崎 浩史
    セッションID: W3-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    本ワークショップでは、日本版の“Exposure Science in the 21st Century: A vision and a Strategy”を考えてみたい。一般化学物質の量と生体内濃度、すなわち、曝露評価の重要性が注目されている。演者は、簡素生理学的薬物動態 (Physiologically Based PharmacoKinetic, PBPK) モデルを構築し、物質量と生体中濃度の双方向予測を12年間試みてきた。種々医薬品、食品や化学物質のラットあるいはヒト血中濃度推移情報を文献または実測より取得し、化学物質毎の消化管からの吸収速度定数(吸収のよしあし)、肝を除く全身循環分布容積(血液から臓器へ移行する程度)、肝固有消失速度(肝酵素活性)等の推定パラメータ値に基づき、PBPKモデル出力値として仮想投与結果を得ている。調査した化合物群の集積パラメータ値をもとに、ラットまたはヒト用PBPKモデルを活用した仮想投与量を設定し、血中および肝臓中濃度推移を予測したところ、一定量を仮想単回経口投与後のラット血中濃度時間曲線下面積値は、選択した化合物のコンパートメントおよびPBPKモデルでの前向き出力が一致した。一方、ヒト集団試料のバイオモニタリング報告値を定常状態の平均濃度と見なし、環境汚染物質フタル酸エステル類やコチニンなどのPBPKモデルを用い、一日あたりの摂取量を逆算する例も提示してきた。以上、肝集積を含む経口投与後の体内動態を記述するPBPKモデルを活用し、物質量と生体中濃度を双方向に予測しうることを明かにした。これらのことから、一般化学物質の経口吸収後の臓器移行性が、肝または腎毒性などの臓器毒性発現に一部関与していることが推定された。本研究は経済産業省「省エネ型電子デバイス材料の評価技術開発事業」(機能性材料の社会実装を支える高速・高効率な安全性評価技術の開発・毒性関連ビッグデータを用いた人工知能による次世代型安全性予測手法の開発)の支援を受けた。

  • 樋坂 章博
    セッションID: W3-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    生理学的薬物速度論(Physiologically-based pharmacokinetics, PB-PK) は薬物動態を機構に基づき定量的に考察する点に優れるが、その精度には特にインビトロ情報に依存したボトムアップ法では課題が多い。そこでスケーリングファクターを求めて予測を補正するなどの方法が頻用されているが、ここでは修正の妥当性の判断が難しい点が問題となる。インビトロもインビボも情報には誤差があり、その正確さのバランスはこれまでの方法では評価できなかった。そこで我々は薬物相互作用をはじめとする薬物体内動態の予測方法として、STADAM (STAtic Drug Absorption Models)と呼ぶ新しい解析フレームワークを提案しているので紹介する。STADAMではボトムアップ法とトップダウン法を完全に融合し、インビトロとインビボの情報を同時に解析し、また多数の薬物を同時に解析するため、情報の精度と偏差が情報に基づいて自動的に調整される。具体的には、数十の薬物間の数千に及ぶ組み合わせの相互作用による暴露変化を、これまでに得られた一部の組み合わせの暴露変化のインビボ観測値、それぞれの薬物のインビトロ実験の観測値から、網羅的に予測可能である。加えて、どの組み合わせの予測精度が不十分で、それを改善するには、どの情報を追加すべきかのシミュレートが可能である点も大きな特徴である。これによりインビトロ実験を系統的に実施することで、インビボの予測の精度向上が可能となる。

  • 水口 賢司
    セッションID: W3-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品の開発中止理由として、心毒性、肝毒性は依然大きな割合を占めている。また、薬効不足や毒性を理解する基盤として、薬物の吸収・分布・代謝・排泄といった体内動態の評価が欠かせない。しかし、アカデミア創薬においては、企業が行っているように様々な薬物動態評価系や毒性評価系を常に稼働させておき、必要なデータを取得することは難しい。そこで我々は、AMEDの支援を得て、創薬研究初期において、薬物動態、心毒性、肝毒性の予測を目的としたインシリコの統合解析プラットフォーム(データベース、モデリング機能、予測機能から成るシステム)の構築(「創薬支援インフォマティクスシステム構築」プロジェクト)を推進してきた。薬物動態モデリングにおいては、関連する実験結果は公共のデータソースからある程度入手可能だが、実験条件が統一されていない、化合物の記述が不正確などの理由により、高精度の予測モデルの作成が進んでこなかった。本プロジェクトでは、化合物数30,000個規模のデータベースを構築し、マニュアルキュレーションによって質を高めた訓練データセットを利用することで、動態パラメータを予測する機械学習モデルの精度を向上させられることを示した。また、データベースのデータを閲覧し、各種の薬物動態関連パラメーターを予測するためのWebアプリケーションDruMAP (Drug Metabolism and pharmacokinetics Analysis Platform)を開発し、データを公開した(https://drumap.nibiohn.go.jp/)。さらに、企業連携や自然言語処理技術の利用により、より幅広いデータソースからデータを取得、拡充することを試みている。本講演では、薬物動態データベースと各種予測モデルの紹介を中心に、より一般的なデータ統合の問題についても議論したい。

ワークショップ 4
  • 竹田 守彦
    セッションID: W4-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品の製造管理及び品質管理に関する要件が纏められたGMP(Good Manufacturing Practice)は、2002年8月のUS-FDA 「21世紀の医薬品CGMPイニシアチブ」において提唱されたリスクベースアプローチに基づき、世界の査察当局によって根本的な改訂が進められてきた。こうした一連の改定は、2018年12月のPIC/S(EU)-GMPの改定で完結し、日本のGMP省令も、この改定と整合性を取る事が望まれており、現在、検討されている。

    GMPの基本コンセプトである交叉汚染防止要件も、こうしたリスクベースアプローチによる改定によって、大きく変貌した。従来の薬効の分類による専用設備の要求から、薬理学的並びに毒性学的データを基に交叉汚染限度値を設定し、それを指標として、交叉汚染による患者への健康障害リスクを評価することが要求されるようになった。それに呼応して、交叉汚染限度値を設定するためのガイドライン「GUIDELINE ON SETTING HEALTH BASED EXPOSURE LIMITS FOR USE IN RISK IDENTIFICATION IN THE MANUFACTURE OF DIFFERENT MEDICINAL PRODUCTS IN SHARED FACILITIES」もFDA、EMAの協力によりPIC/Sから発効された。

    製品Aに混入した別の原薬Bによって、製品Aを投与された患者が健康障害を引き起こすリスクを評価するために、その潜在的能力(交叉汚染限度値)を毒性学的に設定することは、GMP改定のコンセプトであるScientific Risk Based Approachに合致するものである。

    本講演では、こうしたGMP交叉汚染防止要件の経緯を報告し、交叉汚染限界値の設定における国内医薬品業界の現状とその課題について報告する。

  • Robert G SUSSMAN
    セッションID: W4-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    Over the past 10 years, Quality Assurance groups within the pharmaceutical industry have changed their approach to developing levels of cross-contamination in drug substances and drug products that are considered acceptable. Beginning in 2010 with the ISPE's Risk-MaPP Guidance document, and continuing in 2014 with the EMA guidance, organizations have moved to Health-Based Exposure Limits (HBELs) that need to be calculated on a case-by-case basis. This is a departure from the older, arbitrary process of dividing the therapeutic dose by 1000. This lecture will examine how companies have developed programs over the past 10 years and will also discuss issues that have been encountered along the way.

ワークショップ 5
  • 宮脇 出
    セッションID: W5-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     医療の診断において、非侵襲的あるいは低侵襲的な検査方法として、生体組織を可視化するin vivoイメージング技術が広く利用されている。X線(レントゲン)のほか、X線-CT(X-ray computed tomography : CT)、ポジトロン断層法(PET)や核磁気共鳴イメージング(MRI)、超音波(Echo)、単一光子放射断層法(SPECT)等々、様々な技術が開発・活用されている。一方、最近ではこれら生体イメージング技術を動物へ応用する試みもなされてきており、動物からヒトへのトランスレーショナルリサーチとして臨床試験での薬効・安全性への予測精度を向上させる技術として期待されている。

     本ワークショップでは医薬品開発における動物を用いた生体イメージング技術の研究について、いくつかのモダリティに焦点を当てて最新の研究成果を取り上げるとともに、今後の安全性評価への展開について議論する場としたい。

  • 高井 希望
    セッションID: W5-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    PET(ポジトロン断層撮影法)、SPECT(単一光子放射断層撮影法)、MRI(核磁気共鳴画像法)に代表される分子イメージング技術は、生体内の様々な機能や形態を可視化できる技術として注目されている。特に、PET及びSPECTによる核医学イメージングは、放射性同位元素で標識した分子の生体内での挙動を高感度かつ定量的に測定することが可能であるため、放射性標識した医薬品候補化合物を用いて組織移行性などの薬物動態学的特性をヒトで明らかにすることができる。また、生体組織内のタンパクや代謝・酵素活性等に対する特異的な分子プローブを用いることで、種々の病態変化や薬物投与による影響を分子レベルで評価することができる。このように、医薬品開発における核医学イメージングの応用は、前臨床研究や臨床試験での有効性や安全性の検証において高い効果を発揮すると期待される。

    我々はこれまで、PET及びSPECTを用いて、非アルコール性脂肪性肝炎モデル動物におけるミトコンドリア機能評価や、薬剤誘発性腎傷害モデル動物における酸化ストレス評価など、肝臓や腎臓における組織機能や傷害を評価する研究に取り組み、核医学イメージングの有用性について検証してきた。本講演では、これらの研究について紹介しながら、医薬品の安全性評価における分子イメージングの活用方法について考えたい。

  • 上総 勝之
    セッションID: W5-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     薬剤によって誘発される臓器障害には,骨格筋や骨,関節,血管のような全身に存在する組織を標的とするものがある。このような毒性の評価に当たっては,一般的には血中バイオマーカーや病理組織検査によるアプローチがとられるものの,その検出感度やプロファイリングの精度は必ずしも高いと言えない。生体イメージングは,この点を補う有用なツールとして威力を発揮することが期待される。

     例えば骨格筋の場合,障害と関連する血中バイオマーカーとしてはCK,LD,骨格筋トロポニン,アルドラーゼなどが知られ,これらを経時的にモニタリングすることによって障害を検出できる。しかし,バイオマーカーのみの情報から病変の部位・分布の推定や重篤度を診断することは難しいため,病理組織検査と併せてバイオマーカーの意味づけや毒性判断を行うことになる。ただし病理組織検査では全身の筋肉を網羅的に評価することはできず,経時的な観察も容易ではないので,通常は一時点の,代表的な部位のみでの評価が行われる。そのため,時に両者の情報には乖離が生じ,例えば「バイオマーカーの変動が見られたにも関わらず病理組織検査では変化が捉えられない」というようなことが起こりうる。超高磁場磁気共鳴イメージング(MRI)のような生体イメージングは「どの部位の組織が障害されているか」「どのように推移するか」を非侵襲的に観察できることから,バイオマーカーと病理組織検査データに空間的・時間的な情報を付加し,両者のgapを埋められる可能性がある。また,障害部位に応じた機能検査の追加を検討する際にも重要な情報となる。

     本発表では,薬剤による骨格筋障害の評価にMRIを活用した事例を紹介し,毒性評価において生体イメージングがどのような役割を果たすことができるかを議論したい。

  • 藤井 雄太, 吉野 有香, 上松 泰明, 中江 文, 圓見 純一郎, 吉岡 芳親, 宮脇 出
    セッションID: W5-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    一般毒性試験において毒性の最終判断の多くは病理評価が担っている。毒性は生体内で経時的な変化を経て顕在化するが、従来の検査項目ではこれらの変化を十分に捉えることができない。

    このような課題を解決しうる手法として、弊社では生体イメージング技術の中でも磁気共鳴画像(MRI)と磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)に着目している。MRIは生体内を非侵襲的に撮像できることから、個体別に病態の進展を経時的にモニターできる。さらにMRIの手法の一つであるMRSは物質によって共鳴周波数に違いが生じることを利用して、MRI画像にて特定した部位における組織中の微量物質を定量評価することができる。加えて、MRI/MRSは有用性とその応用範囲の広さから多くの医療現場で利用されているため、非臨床から臨床へ橋渡し可能な検査手法と期待される。

    薬剤性脂肪肝は、それ自体が重篤な毒性とは判断されないが、動物実験では病態の進展をモニターできず、脂肪肝炎への転帰を予測することが容易ではないため、医薬品開発の成功確度を下げる要因となる。薬剤性血管炎は、発生メカニズムが殆ど解明されていないことや、特異的で鋭敏なバイオマーカーが存在せず、臨床試験におけるモニタリングが困難であることから、医薬品開発での大きな問題となっている。これらの課題解決の糸口として、MRI/MRSを用いたげっ歯類を用いた検討を行ってきた。

    本発表では脂肪肝ラットモデルを用いたMRIによる脂肪肝の描出とMRSによる蓄積脂肪の定量評価及び血管炎ラットモデルを用いたMRIによる病態画像診断の結果を紹介する。また、毒性試験への適用時に想定される評価上の課題についても共有する。

    今回、毒性評価および非臨床から臨床への橋渡しにおけるMRI/MRSの有用性と課題について議論したい。

  • 深草 翔太, 沼田 洋輔, 角﨑 英志
    セッションID: W5-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    臨床現場において,CT及びMRIなどの各種イメージング機器を用いた医用画像診断(以下,イメージング)は,生体を非侵襲的に観察できる検査として日常的に行われている.画像診断なくして今日の診療は成り立たないといっても過言ではないが,非臨床安全性試験では,十分に活用されていないのが現状である.その理由の1つとして,非臨床安全性試験におけるイメージングの有用性や適用方法に関する知見が乏しいことが考えられる.そのため,各モダリティの特性を理解した上で,実際に使用して知見を蓄積していくことが重要である.

    イメージングは,その原理からX線利用の有無で大別することができる.X線は骨関連や肺の評価に適しており,特にCTは空間分解能が高く,広範囲を短時間に検査できる.X線を利用しないイメージングとしてMRIがあり,時間分解能は低いが,組織分解能が高く軟部組織の評価に優れている.具体例としてはサル急性呼吸窮迫症候群モデルにCT検査を適用した例及びMRIを用いたサル骨格筋量評価がある.

    イメージングを利用する利点は,同一個体で非侵襲的,臓器特異的及び経時的に観察できることである.そのため,非臨床安全性試験における評価精度の向上が期待される.特にサルはマウスやラットと異なり遺伝的に不均一であり個体毎の精査が必要不可欠であること,さらに臓器が大きく解像度の観点からもイメージングの適用による恩恵は大きいと考えられる.近年は抗体医薬品だけでなく核酸医薬品やペプチド医薬品などの新規モダリティの開発が加速しており,今後,サルなどの大動物にイメージングを適用した非臨床研究の拡大が予想される.

    本発表では,サルやイヌへのCT及びMRIの適用,また他のイメージングモダリティに関しても大動物における適用例を紹介し,非臨床安全性試験におけるイメージングの有用性や今後の課題について議論したい.

ワークショップ 6
  • 菅野 純
    セッションID: W6-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     古典的な毒性は「化学物質が細胞膜、蛋白質やDNAなどに直接作用し細胞死や機能障害を起こす」のに対し、シグナル毒性は「化学物質が細胞にある受容体に結合してシグナルを伝えることで現れる有害事象」であり、受容体が無ければ何も起きないという特徴がある。このシグナル毒性は、内分泌、神経、免疫系を含むすべてのシグナル系を標的とし得るものであり、発生発達期にある組織に不可逆的な影響を残す可能性があるものである。

     シグナル系には大別して、①内因性のリガンドと受容体がペアを成して機能すると、②外来性の物質を感知して機能する系があると言えよう。ただし、①でも、鍵(リガンド)と鍵穴(受容体)の関係は、抗原・抗体の関係よりも緩いことが多く、外来性の化学物質がシグナルをかく乱する事があるし、②の場合も、生体分子がリガンドとして作用する場合も有り得る。いずれも、間違った種類のタンパクを、間違ったタイミングで、間違った量を作るという間違った指令(シグナル)が出てしまう為に有害な作用が生じるのがシグナル毒性の基本である。またシグナル系は、増幅系であることが多く閾値が設定しにくい、エピジェネティクな遺伝子発現修飾を介して長期的な影響を及ぼし得る、等の特徴があると言うことになる。

     さて、金属毒性におけるシグナル毒性は、いかなるものであろうか。ここで提唱を試みるのが、センサー・エフェクター乖離(Sensor Effector Mismatch)の概念である。学生時代、酵素の「器質誘導」を教わった。現代流には、受容体が器質を感知し、そこからのシグナルが核に到達し酵素のmRNAが合成され酵素タンパクが増産されるというシナリオである。ここで受容体のタンパク構造と酵素の器質反応ポケットのタンパク構造は同じであろうか?

     この様な点を含め、金属毒性のシグナル毒性の論議の端緒を提示できれば幸いである。

  • 新開 泰弘, 熊谷 嘉人
    セッションID: W6-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     コメに含まれるカドミウム、大型の魚類に含まれるメチル水銀、および大気中に含まれる1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)などの環境中親電子物質は、いずれもその化学的性質として親電子性を有することから、タンパク質のシステイン残基等の求核置換基を化学修飾することによってその機能障害を引き起こし、それが毒性発現の一因であると考えられている。一方、低濃度の曝露条件下において、生体はそのような親電子ストレスに対して、複数のシグナル伝達経路の活性化を介して生体防御系の遺伝子発現を亢進させる応答システムを有していることが分かってきた。例えば、メチル水銀やカドミウムはセンサータンパク質であるKeap1のシステイン残基を修飾し、その応答分子である転写因子Nrf2が活性化されることで下流の解毒酵素群が誘導され、メチル水銀やカドミウムの毒性防御に働くことを我々は報告してきた。同様に、カドミウムや1,4-NQはHSP90を修飾することによってその応答分子である転写因子HSF1を活性化し、下流のシャペロンタンパク質群が誘導されて毒性防御に働くことを明らかにした。更に、生体内にはチオール基にサルフェン硫黄が付加したパースルフィドやポリスルフィドなどの活性イオウ分子が存在し、これらはチオール基と比較して高い求核性を有することから、環境中親電子物質の曝露によるシグナルの活性化(低濃度)および毒性発現(高濃度)を負に制御していることを見出した。実際、カドミウムや1,4-NQなどのイオウ付加体は各種シグナルの活性化能と毒性を殆ど示さなかった。本ワークショップでは、環境中親電子物質の毒性防御に働くシグナル伝達経路と活性イオウ分子による制御について概説・考察したい。

  • 古武 弥一郎
    セッションID: W6-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    有機スズは船底塗料としての使用は禁止されたものの、現在でも海洋圏にもっとも豊富に存在する人工化学物質である。脂溶性が高く、さまざまな生物影響が考えられているが、低濃度の毒性はあまり報告されていない。われわれは20 nMという低濃度トリブチルスズ (TBT) がグルタミン酸受容体GluA2を発現減少させることを手がかりに、GluA2の転写因子である核呼吸因子-1 (Nuclear Respiratory Factor-1: NRF-1) の発現および転写活性を低下させることを報告してきた。NRF-1はストレス応答転写因子Nrf2とは無関係の、503個のアミノ酸からなるホモ二量体として作用する転写因子であり、ミトコンドリア呼吸鎖構成タンパク質をコードする遺伝子群など広範な遺伝子の発現調節を担うと考えられている。そのため、NRF-1阻害が有機スズ毒性のカギをにぎると想定されるものの、NRF-1の詳細な機能は明らかにされていない。そこで、HEK293T細胞においてTet-onシステムを用いてNRF-1をノックダウン (KD) した際の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、LAMP-1をはじめとするリソソーム関連遺伝子のmRNA発現上昇が認められた。リソソーム活性を測定したところ、NRF-1 KDによりリソソーム活性の低下が認められた。これらの結果より、NRF-1 KDはリソソーム活性を低下させ、その後代償的にリソソーム関連遺伝子の発現上昇やリソソーム数増加が起きている可能性が考えられる。最後にこれらの現象がTBTでも起こるか検討したところ、おおよそ同様の現象が認められた。以上より、低濃度TBTはNRF-1活性を阻害し、その活性低下はリソソーム機能異常を引き起こすことが示唆された。

  • 上原 孝
    セッションID: W6-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    私たちはこれまでにメチル水銀(MeHg)による神経毒性機構を解析してきた.MeHgの標的分子を探索し,新生タンパク質成熟機構に必須であるタンパク質ジスルフィド異性化酵素(PDI)の同定に成功した.MeHgはPDI活性中心のCys残基に共有結合し, S-水銀化と呼ばれる不可逆的な酸化修飾を引き起こした. この修飾により, PDIは機能不全に陥り,小胞体内腔に変性タンパク質を蓄積することで小胞体ストレスを介した神経細胞死が惹起されることを明らかにした.この際,MeHgは小胞体ストレス応答( unfolded protein response (UPR))活性化を誘導するものの,ストレスセンサー分子にも一部作用することで,シグナルが調節されていることがわかった.これらの結果から,細胞レベルにおいてMeHgは小胞体に作用し,特にタンパク質成熟機構ならびに小胞体ストレスセンサーに作用することで神経毒性を発揮することが示唆された.

    さらに,これらの応答が動物レベルでも観察されるか否か検討した.小胞体ストレス可視化マウスを用いて調べたところ,MeHg単回あるいは長期投与のいずれによっても脳内で小胞体ストレスシグナルが認められた.興味深いことに,このシグナルは神経特異的であり,かつ,神経障害よりも先んじて検出された.また,部位特異性も認められたことより,MeHg毒性を解析する上で重要なツールとなる可能性が示された.

    以上より,MeHgは脳内神経細胞特異的に影響し,少なくとも一部は小胞体に作用することで機能不全を惹起し,細胞障害を招く可能性が推定された.現在,さらに詳細な解析を行なっているところであり,これらについて紹介する予定である.

  • 高橋 勉, 黄 基旭, 永沼 章, 藤原 泰之
    セッションID: W6-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    ヒ素は環境中に広く存在する有害物質であり、地下水が高濃度ヒ素で汚染された地域の住民の健康障害が大きな問題となっている。ヒ素の慢性的な曝露は、がん、糖尿病や心血管疾患など様々な疾患の発症リスクを上昇させることが知られている。しかしながら、ヒ素の毒性発現に関わる分子メカニズムは未だ完全には解明されていない。

    我々は遺伝子改変酵母ライブラリーやヒトゲノムワイドRNA干渉ライブラリーを用いた細胞の薬毒物に対する感受性を指標とした表現型解析を利用した網羅的遺伝子スクリーニング法によって、亜ヒ酸の毒性発現に関わる遺伝子を多数同定することに成功した。同定された遺伝子の中には、解糖系やペントースリン酸経路など糖代謝に関わる酵素をコードする遺伝子が多数含まれており、亜ヒ酸の毒性発現およびそれに対する防御応答において糖代謝経路が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。その中でも細胞生存に関わる種々の生理活性物質の合成に関わるペントースリン酸経路について検討を行い、酵母細胞およびヒトがん細胞において亜ヒ酸がペントースリン酸経路の非酸化的段階に関わる酵素群の発現を抑制することで核酸の合成に必須なリボース-5-リン酸の細胞内レベルを低下させ、細胞毒性を発現させることを見出した。また、AMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化が、糖代謝の恒常性維持に関わる転写因子の抑制を介して亜ヒ酸毒性を増強することも明らかになった。さらに、亜ヒ酸はAMPKを活性化させたことから、亜ヒ酸がAMPKによる糖代謝調節シグナルの活性化を介して自身の毒性増強に関与している可能性も考えられた。以上のように、亜ヒ酸は糖代謝経路やそれを調節するシグナル経路の破綻を介して細胞毒性を発現している可能性が考えられる。

ワークショップ 7
  • 天野 幸紀
    セッションID: W7-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    本ワークショップは、トキシコロジストの育成や価値最大化に関する話題を提供する継続的プログラムである。最近では、トキシコロジストの育成やトキシコロジストの活躍(毒性領域以外への人材登用)について、産官学の演者から経験談を頂き好評であった。今回は、トキシコロジストとは異なる視点(ファーマコビジランス担当者、早期臨床試験担当医師、病院薬剤師、ステークホルダー間をつなげる中間機関)から、医薬品開発に携わるトキシコロジストがどのように見えているのか、どのようなことを期待しているのか等について講演いただくこととした。毒性の検出、機序の解明と化学物質の管理までを含む広い範囲に及ぶ専門的な知識と技術を持っているトキシコロジストが生み出す情報を真に有用なものとするためになすべきことを共有し考える良い機会になるものと期待している。

  • 阪口 元伸
    セッションID: W7-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    非臨床毒性試験からの知見は、医薬品開発ステージにおいて被験者さんの安全性を確保するための打ち手を検討するのに重要なデータとなることは言うまでもない。その後、臨床試験からの安全性データが集積され、最後は非臨床データと臨床データから開発品の安全性を総合的に評価し、規制当局への申請・承認を経て医薬品として世に登場する。これはいわゆるトランスレーショナル・リサーチと呼ばれるスキームの流れであり、その目的としては新しい医薬品を患者さんのもとへ届けることにある。この過程においては、医薬品の承認という共通ゴールのもと非臨床のトキシコロジストが活躍する場面は自然と多い。

    ここ数年の間にようやく我が国の製薬業界においてもリアルワールドデータ(RWD)が共通言語として取り扱われるようになってきた。RWDそのものが非常に貴重なデータであることは疑う余地がないが、患者さんや公衆衛生へ貢献するためには、RWDを用いた分析から得られるリアルワールドエビデンス(RWE)を創出する必要がある。

    製薬企業では、臨床開発から市販後ステージに至るまでの多くの場面において幅広くRWD/RWEを活用し、decision-makingに資するエビデンスを構築する取り組みが行われている。これらのRWEを非臨床や臨床初期にフィードバックし、新たな医薬品の開発に繋げるアプローチとして、リバース・トランスレーショナル・リサーチがある。同様に市販後に得られる安全性のRWEを非臨床のトキシコロジストへ提供し、サイエンスの面から安全性評価の質を向上させることはこれから大いに期待されるところである。

    本講演では、トキシコロジストとRWEとのコラボレーションについて、今後の期待も含めて触れたい。

  • 熊谷 雄治
    セッションID: W7-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    早期臨床試験において被験者の安全確保のために入手可能な情報は限られている。特にFIH試験においては非臨床データのみに基づいて安全性の確保に努める必要がある。FIH試験の開始と施行にあたってはICH-M3ガイドライン、日本臨床薬理学会のチェックリスト等が存在しており、これらを参考に治験薬概要書(IB)に記載された非臨床試験のデータから安全性確保のための方策を試験計画に組み入れている。しかし、このIBは読み手にとって親切なものではないことが多い。2016年にフランスで生じたFIH試験における被験者死亡事例では、IBの非臨床部分の記載に図表の誤りや誤訳などが散見され、参考となるレベルのものではなかった等の例も知られている。多くの専門家が自らの専門分野について正しく記載することが、IBについては求められるのが当然ではあるが、専門的である故に淡々と事実が述べられるのみであり、重要なポイントの抽出が困難な場合がある。非臨床試験が外部機関で実施されたと思われる場合には、不必要なディテイルが何度も繰り返され、肝腎の所見が見つけにくいことも経験する。早期試験を実施する医師は、非臨床データをもとに、被験者への影響を推測し、安全性の向上に努力している。当初予測しなかった症状が出現したが、振り返ってみれば非臨床データにその兆しがみられたという経験談も耳にする。早期試験において非臨床データは極めて重要なものである。データを生で提示するのみでなく、人に投与する際に必要な情報としての伝達を望みたい。

  • 神崎 浩孝, 山路 和彦, 木村 隆夫, 橋爪 康知, 堤 絵利子, 山本 誠, 小川 京子, 田原 誠太郎, 瀧下 哲也, 西原 茂樹, ...
    セッションID: W7-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     ICTやIoTといったデジタル技術の発展が著しく加速する近年、「人工知能(Artificial intelligence, AI)」は様々な分野で社会実装がなされている。医療業界も例外ではなく、業務の支援技術としてAIが導入され始めており、今後さらに急速に発展していくことが予想される。薬剤師業務においては、自動分包機や自動抗癌剤調製ロボットなど多くの自動化機器が一般的に使われるようになっており、今後、このような機器及びシステムに組み込まれる形でAIが薬剤師業務に浸透していくものと考えられる。医薬品情報においても、これまでに整理や共有が難しかった膨大な情報をAIで処理することによって、業務の効率化や、これまでに見出すことのできなかった情報の特性を見出すことができるようになるものと期待される。

     岡山大学病院薬剤部では、ICTやAIによって医薬品情報の管理を効率化するため、医薬品情報管理システムの開発に取り組み、自然言語処理AIを用いた医薬品情報管理システムAI-PHARMA(アイ・ファルマ)を開発した。AI-PHARMAは、薬剤師の医薬品情報に関する問合せ事例や薬学的介入事例を管理し共有するためのシステムであり、院内の情報管理に加えて、施設間の情報共有も可能となっている。また、自然言語処理AIを用いることで、情報の整理や検索の効率化を実現している。さらには、本システムによって、これまで共有が難しかった、医薬品情報に関するニーズや使用実態といった、医療現場における薬剤師の知識と経験を共有し、伝承することが可能となった。

     本講演では、AI-PHARMAを使用することで見えてきた、医薬品の安全性や毒性に関する医療現場におけるリアルな情報ニーズについて紹介し、ディスカッションを深めたい。

  • 西村 由希子, 西村 邦裕, 江本 駿
    セッションID: W7-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    昨今各国で研究開発が盛んとなっている希少・難治性疾患領域であるが、患者数自体も少ない上に、疾患についての専門家、医師や医療機関、疾患を研究する研究者、その薬を作る製薬会社、など、様々な周囲のステークホルダーが少ない状態である。さらに社会的認知度や情報も少なく、かつ、政策や制度からも抜け落ちていることが多い。また、介護や福祉などでも理解が少ないことも多い。

    我々は、このように様々な情報や知識が少なく、さらに国際的にも接点が少なく、ステークホルダー間のつながりが足りない状態を、少しでも解消するために、間に入って繋ぐ存在が必要ではないか、という仮説をたてた。「企業は薬をつくり、国はそれを認め、患者は病気を治す(改善する)」という同じゴールにすべてのステイクホルダーは向かっているため、その間を円滑にすればよいのでは、という考えである。特定非営利活動法人ASridは、このようなステークホルダー間をつなげる中間機関として、希少・難治性疾患を対象として2014年11月に設立した。ASridは、"Advocacy Service for Rare and Intractable Diseases’ multi-stakeholders in Japan" の略であり、「希少・難治性疾患分野における全ステイクホルダーに向けたサービスの提供」を目的としている。

    ASridは広義の患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome, PRO)の利活用に向けた様々なプロジェクトを立ち上げている。本発表では、2018年度に実施した患者の臨床試験(治験)に対するイメージ調査や2016年度に実施した企業研究開発者からみたオーファンドラッグ研究開発に関する意見調査などの実例を紹介する。また、臨床・非臨床研究者への期待や今後の課題・課題について、希少・難治性疾患の患者・家族からの意見も含めて述べる。

ワークショップ8
  • Satoko KAKIUCHI-KIYOTA
    セッションID: W8-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    In the early discovery stage, oftentimes, the biology of novel drug targets is largely unknown, and toxicologists may need to support project teams with limited information about target safety. Historically, there has been a strong concordance between the phenotypes of genetically engineered rodent models (GERMs) and pharmacology of the human target, which has emphasized the applicability of GERMs in the understanding of potential on-target toxicities to humans. However, germline ablation often proves to be embryonic lethal for many targets and, consequently, only limited information from tissue-specific gene modifications is available. Moreover, therapeutic agents may result in systemic effects not well-predicted by these animal models. Herein, we discuss the value of temporally controlled conditional knockout (cKO) or knockdown (cKD) rodents, where the expression of the gene of interest is systemically deleted or reduced, respectively, from a given time by use of an inducer. In our experience, systemic cKO or cKD animals have been useful for unveiling potential safety liabilities to the intended patient population and, hence, customizing safety strategy for specific targets. Additionally, they can be utilized to investigate mechanisms of toxicity of compounds in development. In this presentation, we focus on how we have leveraged GERMs in safety de-risking and decision-making in the discovery stage as well as potential challenges and pitfalls associated with GERMs that toxicologists should be take into consideration.

  • Russell NAVEN
    セッションID: W8-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    During the early stages of the drug discovery process, the primary focus of drug design is the development of target efficacy and optimization of PK/PD properties. Consequently, the integration and application of safety data during these stages may not be prioritized. If we are to reduce the chance of drug attrition due to safety, however, it is important to proactively mitigate safety signals at this stage. In order to achieve this, it is important that any in vitro assay is validated and demonstrated to have some correlation with human safety and ‘added value’ with respect to assays that have already been established. It has been learnt that the traditional validation datasets of new assays, which often include toxicologically potent drugs such as doxorubicin, cisplatin and sunitinb, can be useful in that they provide information on the dynamic range of an assay and translation to human safety. These compounds by themselves, however, may not provide enough evidence to warrant the consideration of the assay in early drug design. In order to influence drug design, in vitro assays should be validated using test sets that are mechanistically relevant to the toxicological endpoint being modeled and are applicable to modern chemical space. Evidence that the assay can differentiate structural analogues with different toxicological profiles, thus reflecting the situation that is often encountered in early drug discovery, would be advantageous. Through the review of in vitro data for the prediction of bone marrow toxicity and hepatotoxicity, it will be shown that structure-based validation studies can provide valuable evidence that can drive the ‘Safety By Design’ concept and the development of cost-effective, risk assessment strategies. Current early safety screening strategies will also be discussed along with their application to small molecule projects.

  • Jumpei KIYOKAWA
    セッションID: W8-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    Systemic changes caused by exposure to test compounds are evaluated using data from in vivo general toxicity studies. But oftentimes, the conventional approach is not sufficient to elucidate the mechanisms of unexpected toxicity findings. Project teams must make agile and well-informed decisions for go or no-go; however, because there is only limited information about target- and structure-related biological responses especially in the discovery phase, it usually takes time to understand the mechanism of toxicity and identify a mitigation plan and screening strategies.

    In our early safety strategy, we have proactively incorporated a compound profiling approach using liver tissue/cell samples as representative systems. Our primary objective is not only to understand the perturbed signals and pathways in liver and predict potential liver liabilities but also to gain insights into molecular mechanisms involved in toxicity observed in other tissues and organs. This approach has maximized the value of in vivo general toxicity studies and saved time of project teams to revise the safety strategy.

    This presentation will introduce a case example of our approach and discuss how it can be implemented into the safety lead/candidate optimization and support the project decision-making in the discovery phase.

  • Alex N CAYLEY
    セッションID: W8-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    Artificial intelligence (AI) continues to gain prominence in many aspects of our everyday lives. From calculating our car insurance premiums to acting as an opponent in our favourite board game, AI plays an increasingly important role. The field of safety assessment is no different and opportunities to utilise AI are being actively explored. The use of AI in early drug safety assessment is showing promise, but there are several obstacles to overcome before the technology can reach its full potential.

    In this talk the current applications of AI in drug safety assessment, along with its limitations and blockers to development will be discussed. The need to expand our use cases and embrace the wider potential of AI are described. Its ability to extract evidence from large and complex data from multiple sources and convert this into useful knowledge promises to improve and accelerate our scientific understanding. Thus, AI can ultimately support better decision making regarding human safety assessment of potential drug candidates.

学会賞
  • 渋谷 淳
    セッションID: AWL1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     私は東京農工大学に赴任してから12年の間、化学物質の発達神経毒性や発がん性に関して確度の高いスクリーニングを可能とするエンドポイントや指標の探索に取り組んできた。発達神経毒性に関しては、神経発達の全ての過程を包含する神経新生現象に着目して発達神経障害評価モデルの構築を進めてきた。すなわち、生後間もなく始まる海馬の神経新生を毒性影響のエンドポイントとして、ラットやマウスを用いて現在までに20種に及ぶ神経毒性物質の発達期曝露による発達神経障害のリスク評価を実施してきた。その過程で、神経新生破綻に関わる神経前駆細胞の移動や正しい位置決めに機能するreelinシグナルやシナプス可塑性などの様々な分子機序を見出してきた。また、成熟後評価を加えることで不可逆影響や遅発影響を誘発する毒性物質も明らかにした。一方、成熟神経における軸索や樹状突起、髄鞘の維持には、神経発達過程での神経突起伸展、シナプス形成、髄鞘形成などと同一の分子機序の関与することが知られている。そこで、アクリルアミドなどの成熟神経に対する毒性物質による発達神経毒性の誘発性を検討した結果、神経新生の分化後期での傷害性が誘導されることを明らかにした。さらに、神経新生が成熟後も持続することに着目して、一般毒性試験である28日間反復投与試験の枠組みでの発達神経毒性評価の可能性を検討した。その結果、成熟神経毒性物質による神経新生傷害パターンは発達期曝露例と類似するものの、発達神経毒性物質による傷害パターンは発達期曝露例とは異なることを見出した。いずれにしても、海馬神経新生は曝露時期を問わず発達神経毒性物質と成熟神経毒性物質の両方に感受性を示すことが明らかとなった。また、不可逆的な影響を与える可能性の高いDNAのメチル化に着目して、マウスを用いて不可逆性を与える神経新生障害での網羅的な発達神経障害指標遺伝子の探索により、現在までに11遺伝子を見出した。特に、塩化マンガンの発達期曝露例において、脳の左右差を規定するMid1遺伝子が神経幹細胞の段階でメチル化異常を生じて、後の分化段階で左右差の消失による不可逆的影響を誘発する可能性を見出した。

     発がんに関しては、ラットを用いた短期間の発がん物質投与系での発がん標的臓器における発がん予測指標の網羅的探索により、細胞増殖や細胞周期のM期スピンドルチェックポイント制御破綻に関与する分子や細胞老化関連分子の発現異常を見出した。次いで、DNAのメチル化に着目して、ラットを用いた網羅的な発がん予測指標遺伝子を探索し、肝発がん物質の28日間反復投与の系で過メチル化遺伝子としてTmem70Ube2e2を見出した。これらの分子の発がん過程での解析により、ミトコンドリアの酸化的リン酸化に関わるTMEM70の発現減少は、古くから発がんにおけるWarburg効果として知られる酸化的リン酸化から解糖系へのシフトに関与する可能性を明らかにした。ユビキチン-プロテアソーム分解に関わるUBE2E2の発現減少も、そのユビキチン化標的蛋白質の安定化による細胞増殖の維持やDNA修復遅延に寄与することを示唆する結果が得られた。更には、同様のアプローチにより得たTGF-βシグナルの負の制御因子LDLRAD4と血液凝固因子阻害分子PROCは非遺伝毒性肝発がん物質による発がんにコミットしている可能性を見出した。

     以上より、28日間反復投与試験の枠組みでも発達神経毒性を検出できる可能性が開かれ、発がんに関しても発がんに向かう複数のシグナル変動を見出すことができた。今後はこの試験系において、不可逆影響を含む発達神経毒性検出系と発がん予測系として確度の高い遺伝子セットの構築が必要である。

佐藤哲男賞
  • 野村 護
    セッションID: AWL2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    私の日本毒性学会へのベーシックな貢献として1)従事者への基礎教育の実践:日本毒性学会では化学物質等の保有する生体におよぼす影響を科学的に評価できる人材の教育を系統的に実施し、評価に必要な知識や生体反応の記述に必要な専門用語の理解等を試験し合格したものをJST認定トキシコロジストと称して毒性評価を担当する資格認定制度が出来上がっている。私は学会に専門資格制度が整う以前から社内教育の一環として、従事者の基礎教育として動物実験手法、反応の記録法、動物の解剖術式、生物統計学的実験法、専門的な記述法、動物実験の投薬群の設定と割り付、採血技術と検査材料の分取保存と検査、データの生物統計解析、得られたデータの統合評価の手法について実践してきた。学会外活動として1986年に立ち上げた安全性評価研究会を毒性学初歩教育として活用しQ&A形式の「毒性質問箱」として学術集会参加の初歩とした。2)群間差検定に多用される毒性生物統計の導入と拡充:海外試験受託施設との比較において、生物統計学的な有意性を検定処理する手法に違いがあり国内で汎用されていた統計決定樹の誤用を指摘し毒性試験における正しい生物統計の手法を定着させた。恣意的な用量設定のために外れ値の処理法を毒性評価者が判定した毒性発現用量との合致を得るような毒性試験生物統計決定樹をDIA主催の国際統計学検討会議で発表しドイツのハノーヴァー大学の手法と一致し国際的な解析手法を確立した。3)国際標準としての毒性臨床化学の拡充:国内の一般毒性試験の主流は投薬後の膨大なデータを解析して毒性の有無を質的あるいは量的に対照群と投薬群との差から優位性を検討する手法であり、臨床検査は測定法の統一のみならず測定機器の校正等データのバラツキを小さくする等、毒性学会の範囲を超えた日本臨床化学会との協調が必須で動物臨床化学専門委員会を設置し協業体制を作り上げた。臨床検査機器の自動化が進み短時間で多項目を測定可能な自動分析装置が国内の検査機関に設置されるに至ったが機器の校正は統一されず個々の施設単位での標準化がなされていた。同一の動物血液を用い、全国の検査施設で一斉にサンプルサーベイランスを展開し動物臨床機器としての校正法を統一した。新たに設置した動物臨床化学専門委員会の下にラット血中アルブミン測定の際に標準品にウシアルブミン(BSA)でなくラットアルブミンを使用することでバラツキの少ないデータを得た。多項目データ同時採取により毒性発現臓器、病理組織学的変化との関連性を因子解析することが可能となりデータを統合評価しクラスター解析を応用し複合的解析の有用性を提唱できた。4)随伴するリスクの統合的安全性評価法の拡充:臨床化学等の毒性解析を担う従事者への基礎教育の一環として日本毒性学会への参加を促し学会員としての登録と年会等への発表機会を得て毒性試験の在り方を教育できた。医薬品開発は非臨床試験で問題がない場合はヒトへの適用が可能となりヒト臨床試験を経て医薬品として販売承認の申請ができる。薬事申請に必要なデータの全ては関連法的規制の下に実施される。毒性試験は適正試験施設GLPに従って一連の毒性試験評価担当者のみならず試験従事者までの全てが規制の範疇に入っているため継続的な実務教育が重要であることを踏まえて試験系以外にも重要なリスクの存在と開発者の規制の遵守が必要であることを次世代の開発者へのメッセージとして伝えたい。

奨励賞
  • 緒方 文彦
    セッションID: AWL3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
    会議録・要旨集 フリー

     2015年に「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals, SDGs)が国連サミットで採択された。採択された17のSDGsの中には、安全な水の供給に関する目標が選出されており、水環境の保全・改善によるヒトの疾病予防、健康保持・増進は、重要な課題であると認識されている。また、我々の研究グループでは、各種金属を基材とした金属複合水酸化物による吸着処理を基盤とした新規有害物質除去技術の開発、および水系環境中に存在する有害物質との相互作用の解明に関する研究を実施している。そこで、本研究では新規開発に成功したNi-Al およびMg-Feを基材とした金属複合水酸化物の物理化学的特性評価、そして水系環境中に存在する有害物質との相互作用について検討した。

     まず、NiおよびAlの含有モル比の違いによる金属複合水酸化物の結晶構造および表面特性について評価した。その結果、Alの含有モル比の増大に伴い、結晶構造は非晶質となり、比表面積および表面水酸基量が高値を示すことを明らかとした。IARCによる発がん性の分類でGroup 1に分類されており、ヒトに対する毒性発現が懸念されている6価クロムとの相互作用を評価した結果、NiおよびAlの含有モル比が1:2および1:1の金属複合水酸化物が6価クロムに対して優れた吸着能を示すことが明らかとなった。相互作用の解明のために、吸着前後における結合エネルギーおよび元素分布を測定した。その結果、吸着前には検出されなかったクロムの結合エネルギーの測定に成功し、金属複合水酸化物の表面にクロム原子が存在することを明らかとした。さらに、金属複合水酸化物のゲスト層に保持されている硫酸イオン(交換性イオン)とのイオン交換能を評価した結果、6価クロムの吸着量と硫酸イオンの溶出量に正の相関関係が認められ、Ni-Al を基材とした金属複合水酸化物による6価クロムとの相互作用には、金属複合水酸化物の基材金属によって制御される物理化学的特性およびそこに保持されている交換性イオンが重要な役割を果たしていることを明らかとした。

     また、発がん性およびメトヘモグロビン血症を引き起こす原因物質である無機態窒素とMg-Feを基材とした金属複合水酸化物との相互作用についても評価した。Mg-Alを基材とした金属複合水酸化物と比較し、Mg-Feを基材とした金属複合水酸化物は、無機態窒素である亜硝酸イオンおよび硝酸イオンに対して、選択的吸着能を有していることを明らかとした。これらは、基材金属の違いによる金属複合水酸化物の構造的な空間の制御に起因していると考えられる。

     本研究より、Ni-Al およびMg-Feを基材とした新規の金属複合水酸化物の創成に成功し、水系環境中に存在する有害物質との相互作用に関する基礎的知見を得ることに成功した。今後,これらの研究成果が水系環境の保全・改善の一助となり、ヒトの疾病予防、健康保持・増進につながることを期待する。

  • 栗田 尚佳
    セッションID: AWL4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    胎生期は環境化学物質毒性に対して感受性が高く、成人では毒性が表れないような用量でも問題になる場合がある。胎生期化学物質曝露は、次世代の発生・発達に対して、形態的のみならず、器質・機能的にも影響を及ぼす可能性があるため、重要な問題である。これまでに一貫して胎生期化学物質曝露による次世代影響の研究を行ってきたが、その中でカドミウム (Cd) とメチル水銀 (MeHg) による胎生期曝露の研究内容を取り上げる。

    【カドミウム】 これまでに疫学的な研究において、妊婦のCdレベルと出生体重との負の相関が認められるなど、妊娠期のCd曝露による胎児発達への影響が報告されている。そこで、妊娠C57BL/6Jマウスの妊娠1~19日目の間、1日1回Cd 5, 10 mg/kgを経口投与し、出生直前に胎仔を取り出し解析を行った。Cd 10 mg/kg群において胎仔体重および身長に有意な減少による胎仔成長抑制が認められた。また、胎仔成長抑制が認められないCd 5 mg/kg群の肝臓においてユビキチン前駆体をコードするUbc遺伝子発現量の低下を見出した。続いて、この肝臓において、モノユビキチン量とポリユビキチン化タンパク量を測定したところ、Cd 5, 10 mg/kg群でモノユビキチン量の減少、Cd 10 mg/kgでポリユビキチン化タンパク量の増加が確認された。以上より、Cdによる胎仔成長抑制に、モノユビキチンの供給の低下と、ポリユビキチン化タンパクの異常蓄積が関与することが示唆された。

    【メチル水銀】 現在、MeHgが蓄積した魚介類を妊婦が摂取することによる胎児への低濃度曝露影響が示唆されている。一方で近年、胎生期の胎内環境が成人後における疾患発症リスクに関連するという、「Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD) 説」が提唱されている。さらに、DOHaD説における影響は胎生期に受ける環境要因によるエピジェネティクス変化によって引き起こされることが示唆されている。胎生期・発達期は生涯において、大規模なエピジェネティクス変化が起きる時期であり、化学物質の次世代影響のメカニズムを考える上でエピジェネティクスは重要な概念である。そこで、妊娠マウスを用いたin vivo評価系、およびヒト胎児脳組織由来培養細胞であるLUHMES細胞のin vitro神経分化誘導試験系を用い、低濃度MeHgの神経発達に及ぼす影響を評価した。In vivoin vitro実験系に共通して、MeHg曝露による神経突起伸長の減少、DNAメチル化の増加、ヒストンH3アセチル化の減少ならびにHDAC3とHDAC6発現量の増加が認められた。さらに、in vitro実験系を用いて、ヒストンH3アセチル化減少のエピジェネティクス変化と、神経突起伸長減少との因果関係について、HDAC阻害剤を用いて解析を行った。MeHgによる神経突起伸長抑制がHDAC阻害剤で回復した。本研究により、低濃度MeHg曝露はHDAC発現増加を介し、ヒストンH3アセチル化を減少させ、神経突起伸長の抑制を引き起こしている可能性を見出した。

    以上の研究を基盤として、今後は、DOHaD説に注目した化学物質曝露などの胎生期環境によるエピジェネティクス攪乱による、成人後の神経変性疾患などの健康影響への関連性について、さらに研究を推進したい。将来的には、神経変性疾患の大部分を占める原因不明の孤発性の発症メカニズムの影響について、衛生学・毒性学的なアプローチで解明していきたい。

  • 平尾 雅代
    セッションID: AWL5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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     ビスフェノールA(BPA)は1891年に合成され、ポリカーボネート樹脂などの原料としてプラスチック製品に汎用されてきた。しかし、BPAが弱いながら(女性ホルモンE2の1/10000程度)エストロゲン受容体(ER)の活性化作用を示すことが示された。実際、BPAはヒト血液や羊水、臍帯血中から検出(10 nM程度)されている。特に米国では人口全体の90%以上の尿から検出されており、BPAによる悪影響が懸念されている。BPAの負の生体影響として関心の高いこととして、その乳がん促進作用が指摘されており、現在でも研究が進められているが、未だそのがん促進機構の全容の解明には至っていない。E2の作用点であるERには2つのサブタイプがあり、ERαは子宮や卵巣、乳腺などエストロゲンの標的組織に広く発現しており、エストロゲン作用の主な担い手である。一方、ERβは全身に発現しているが、その生理的役割については未だ不明な点が多い。本研究では、特にERβサブタイプに注目し、BPAによる乳がん促進作用の解明を目指した。

     BPAはin vivoではin vitroよりも強いエストロゲン活性を示すことから、活性代謝物の存在が示唆されていた。2004年に当研究室の吉原らによってBPAの活性代謝物として4-methyl-2,4-bis(4-hydroxyphenyl)pent-1-ene (MBP)が同定されていた。MBPはin vivoin vitroにおけるBPAの曝露影響の違いを説明し得る重要な因子と考え、その毒性影響の解析を進めた。我々が日常的に化学物質に曝露されている状況を考慮し、単回と反復の2つの曝露方法を用いて比較・検討した。25 nM以下のMBPはER陽性のヒト乳がんMCF-7細胞の増殖を促進し、その増殖促進作用は反復曝露により有意に増強された。また、MBPはERによるエストロゲン応答配列(ERE)の活性化を指標とした転写を活性化し、その強さはBPAの約200倍であった。さらに、ERの発現に対する影響を解析したところ、1 nMのMBPはERαの発現を有意に減少させた。一方、同濃度のBPAではこのようなERαの発現低下は見られなかった。MBPはER/EREを介した転写を活性化したにも関わらず、ERαの発現が減少していたことから、ERαではなく別のサブタイプ(ERβ)を介して転写を活性化することが考えられた。MBP誘導性の転写活性及び細胞増殖はERβの選択的アンタゴニスト(PHTPP)の共処理により完全に抑制された。以上のことから、MBPは親化合物であるBPAとは異なり、ERαの発現を減少させ、顕在化したERβの活性化を介して乳がん細胞の増殖を促進することが初めて明らかとなった。加えて、反復曝露に相当する2 nMのMBPを単回曝露してもERαの発現低下は見られず、PHTPP共処理による細胞増殖の抑制も確認されなかった。従って、化合物の曝露影響を明らかにするためには曝露濃度だけでなく曝露方法も考慮する必要があることが示唆された (Mol. Pharmacol., 2019)。

     BPAによる生体影響の懸念から数多くの代替品が開発・使用されてきたが、これらもBPAと同様に内分泌かく乱作用を示し得るという問題を抱えていた。そこで、このBPA代替品に焦点を当て、代替品の中でも近年使用量が増加しているビスフェノールAF(BPAF、次世代ビスフェノール)の曝露影響を解析した。ERα(–)/ERβ(±)のヒト乳がんMDA-MB-231細胞に対するBPAFの影響を解析した結果、25 μMのBPAF曝露により、EREを介した転写の活性化及びERβの発現増加が見られた。このことから、MDA-MB-231細胞では、BPAF曝露後、ERβを介してEREの転写が亢進すること示唆された。さらに、低濃度(nMオーダ)のBPAFがERβに与える影響を解析した。25 nM 以下のBPAFはERβの発現レベルに影響を与えず、却ってERβの転写を活性化した。このBPAF誘導性の転写活性はPHTPPにより抑制された。これらの結果から、ERβの発現を誘導しない濃度のBPAFは自身がリガンドとしてERβの転写を促進することが示唆された(J. Toxicol. Sci., 2018)。

     これまでに、乳がん細胞の悪性化に関して、一般にERαがアクセル、ERβがブレーキとして機能するとされてきたが、ERα/βの発現バランスによってERβはアクセルにもブレーキにもなり得ることが判明した。本研究を発展させ、女性ホルモンシグナルを修飾する環境化学物質による毒性影響を体系的に解明したい。

口演
  • 李 辰竜, 徳本 真紀, 佐藤 雅彦
    セッションID: O-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    【目的】カドミウム(Cd)は、様々な遺伝子の発現破綻による腎近位尿細管細胞障害を引き起こす。しかしながら、遺伝子発現を調節しているCdの標的転写因子はほとんど明らかにされていない。我々は、ヒト由来の腎近位尿細管細胞(HK-2細胞)において、CdがMEF2A(myocyte enhancer factor 2A)転写因子の活性抑制を介して細胞毒性を引き起こすことを見いだしている。MEF2Aは、グルコーストランスポーターであるGLUT4の発現に関与していることが報告されている。一方、MEF2Aを介したCd腎毒性におけるGLUT4の役割は明らかにされていない。本研究では、Cdの腎近位尿細管障害とMEF2A、GLUT4およびグルコースとの関係について検討した。

    【方法】Cdで処理したHK-2細胞およびRNA干渉法でMEF2AをノックダウンさせたHK-2細胞のGLUT4 mRNAレベルをリアルタイムRT-PCR法で測定した。Cdで処理したHK-2細胞のGLUT4タンパク質レベルをウェスタンブロット法で測定した。RNA干渉法でGLUT4遺伝子発現をノックダウンさせた後、細胞生存率を測定した。また、glucose oxidaseによる分解産物の測定により細胞内グルコースレベルを調べた。次に、グルコースはATP産生に利用されるため、luciferase反応による発光産物の測定により細胞内ATPレベルを調べた。

    【結果および考察】Cdは、HK-2細胞内GLUT4のmRNAレベルおよびタンパク質レベルを減少させた。MEF2AノックダウンによってもGLUT4 mRNAレベルは有意な低下を示した。しかも、GLUT4のノックダウンはHK-2細胞の生存率を顕著に低下させた。Cd処理およびGLUT4のノックダウンともに、有意な細胞内グルコースレベルの低下を引き起こした。さらに、培地中のグルコース除去によって細胞生存率の低下および細胞内グルコースレベルの低下が示された。また、Cd処理による細胞内ATPレベルの低下が認められるとともに、GLUT4ノックダウンでもATPレベルを有意に減少された。これらの結果より、MEF2Aの転写活性抑制を介したCd腎毒性発現機構には、GLUT4発現抑制による細胞内グルコースレベル低下およびATP産生抑制機構が関与していることが示唆された。

  • 高根沢 康一, 中村 亮介, 大城 有香, 浦口 晋平, 足立 達美, 清野 正子
    セッションID: O-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    【目的】メチル水銀は脳神経系をはじめとした様々な臓器に傷害をもたらす。体内に取り込まれたメチル水銀の一部は時間経過とともに脱メチル化され, 無機水銀に変換され体内に残存することが知られている。したがって, メチル水銀による毒性評価にはメチル水銀と無機水銀の細胞影響を評価する必要がある。しかし, 哺乳類細胞におけるメチル水銀の脱メチル化酵素は未だに同定されておらず, 脱メチル化のメカニズムは不明である。さらに, 無機水銀は細胞透過性が低く, 無機水銀を曝露させる実験系では, 微量無機水銀の細胞応答や細胞毒性を評価することが困難である。そこで我々は, 水銀耐性菌由来の有機水銀リアーゼ(脱メチル化酵素)遺伝子であるmerBをHEK293細胞に導入したMerB発現細胞を作製し, 細胞内で微量のメチル水銀から無機水銀を産生させる細胞系を確立した。本研究では, 様々な重金属に対するストレス応答が明らかにされつつあるオートファジーに焦点を当て, メチル水銀と無機水銀による細胞応答の差異についてMerB発現細胞を用いて解析を行った。

    【結果・考察】野生型とMerB細胞にメチル水銀を処理し, オートファジー関連遺伝子の発現を比較した。メチル水銀処理によりMerB発現細胞では, Atg9, Atg12, Vsp11, LC3A, LC3Cおよびp62 のmRNA発現誘導レベルとLC3-IIおよびp62のタンパク質発現量が野生型細胞よりも有意に高かった。さらに, MerB細胞におけるLC3-IIの増加がオートファジーの活性化によるものかをオートファジー阻害剤であるクロロキン(CQ)を用いたオートファジーフラックスアッセイにより評価した。メチル水銀とCQを同時に処理するとLC3-IIはCQ単独処理と比較して増加し, MerB細胞におけるメチル水銀処理によるLC3-IIの増加はオートファジーの活性化であることが明らかになった。以上の結果より, 微量無機水銀による強いオートファジーの活性化が示唆された。

  • 平田 祐介, 井上 綾, 蘆田 諒, 野口 拓也, 松沢 厚
    セッションID: O-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    トランス脂肪酸は、炭素原子間にトランス型の二重結合を有する脂肪酸の総称で、生体内では産生されず、食品を通して摂取される。疫学的知見等から、トランス脂肪酸摂取と動脈硬化症や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの加齢性疾患発症との関連が示唆されているが、具体的な疾患発症機序は不明である。そこで本研究では、上記関連疾患の発症や病態進行と密接に関連するDNA損傷に着目し、トランス脂肪酸とDNA損傷に伴って誘導される細胞老化の関連性について検証を行った。

    ヒト骨肉腫U2OS細胞にDNA損傷誘導剤(シスプラチン)を処置して細胞老化を誘導したところ、エライジン酸(食品中含有量が最も多いトランス脂肪酸)の前処置条件下では、老化マーカーSA-β-Galの陽性細胞数が著しく増加した。細胞老化時には、炎症性サイトカイン等が発現誘導・分泌される細胞老化随伴分泌現象(SASP)が起きるが、実際我々は、エライジン酸がSASP因子IL-6やIL-8のmRNAを上昇させ、細胞老化や炎症を強く促進することを見出した。一方、エライジン酸のシス異性体に相当するオレイン酸の前処置条件下では、上記のような変化は認められなかった。さらに、細胞老化誘導の主要転写因子p53の寄与について、p53欠損細胞を樹立・解析したところ、p53欠損時にはエライジン酸による細胞老化促進作用が顕著に抑制された。また、C57BL/6マウス(8週齢オス)にトランス脂肪酸を含有する高脂肪食を12週間給餌したところ、通常食あるいはトランス脂肪酸不含の高脂肪食摂取群と比較し、肝臓の脂肪蓄積およびSA-β-Gal陽性細胞数の増加が認められた。

    以上の結果から、エライジン酸をはじめとしたトランス脂肪酸は、DNA損傷時のp53依存的なシグナル経路を介して、細胞老化やSASP(炎症誘導)を促進することで、関連疾患発症に寄与することが示唆された。

  • 大久保 佑亮, 嘉本 海大, 高橋 祐次, 北嶋 聡, 太田 裕貴
    セッションID: O-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    【背景】

     覚醒下非拘束による経時的なバイタルサイン(VS)測定は、医薬品開発における安全性薬理試験で既に実現されているが、一般の化学物質を対象とした毒性試験においては実施されていない。VSに代わるものとして一般状態があげられるが、定性的な情報であるがゆえ習熟には多くの経験を要し、また、定点観測に留まっている。近年、人の医療においては、情報技術の革新によりウエアラブル測定機器(WD)が開発され、経時的なVS測定の取得が容易となり、診断の妥当性を向上させている。我々はラットを用いた毒性試験においても、人と同様のWDを用いた経時的かつ定量的データにより毒性評価の精緻化と供与動物数及び経費の削減が両立できると考えた。しかしながら、ラットはヒトに比べ非常に小型であり非観血的に装着するWDの開発が困難であること、覚醒下非拘束条件においては体動の影響が大きくデータの信頼性に課題があることなどから、その開発は現実的ではなかった。我々は、これまでの研究で開発してきた小型化技術と情報処理技術を応用することでこれら課題の解決策を見出した。

    【目的】

     ラットを対象に非観血的に装着可能なウエアラブルパルスオキシメーターを開発し、血中酸素飽和度(SpO2)、心拍数を経時的に測定する。さらに、脈波の解析により、VSの構成要素である、呼吸数を抽出するプログラムを開発する。また、覚醒下非拘束ラットからデータを取得するため、機器の小型化と無線化に取り組み、ネットワークを介して経時的なVSの取得を目指す。

    【結果】

     反射式のパルスオキシメーターをラット用に改良し、機器の小型化・Bluetoothによる無線化に成功した。雌性SDラットにイソフルラン麻酔下にて機器を装着し、覚醒後にデータの取得を試みた。その結果、覚醒下非拘条件下において、安定的にSpO2の測定が可能であり、心拍数並びに呼吸数の計測に成功した。

  • 原島 小夜子, 小川 真弘, 京谷 恭弘, 寺田 めぐみ, 川西 優喜, 八木 孝司
    セッションID: O-5
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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     ミジンコ類は通常、メスのみで単為発生を行なうが、餌不足・低酸素などの生存環境の悪化によりオス仔虫が出現し、単為発生から有性生殖へ移行して耐久卵を産生する。オス仔虫産生に先立って幼若ホルモン (JH) 合成が誘導されること、JH/JH様物質への曝露でもオス仔虫が出現することから、ミジンコ類ではJHは性決定に関与すると考えられている。JH と結合したJH受容体Methoprene-tolerant (Met) は、標的遺伝子上流のJH応答配列 (JHRE) 上で転写共役因子SRCと複合体を形成し、転写を誘導する。昆虫類では変態抑制遺伝子Krüppel homolog 1 (Kr-h1) が共通のMetの標的であり、その上流域にはJHREのコンセンサス配列が存在する。オオミジンコDaphnia magnaVrille (Vri) 遺伝子はbasic region leucine zipper (bZIP) 型転写因子をコードしており、JHシグナルの下流でオス化に必須の性決定因子Doublesex1 (Dsx1) の転写活性化を担う。しかし、Metの標的遺伝子やJHREは未だ同定されていない。

    私たちはこれまでに、酵母レポーターアッセイ法でカイコのKr-h1 JHREを介したオオミジンコDaphnia magna Metのリガンド応答が検出可能であることを示した。本研究では、Vri遺伝子上流域のE-box/E-box様配列を含む領域が、酵母細胞内でD. magna MetのJHREとして機能することを見出した。また、メス個体をファルネセン酸メチルで処理し、卵巣内の卵のVriDsx1 のmRNAの発現量変化を経時的に定量的PCR法で測定したところ、VriがJH早期応答遺伝子であることが示された。これらの結果はVriがオオミジンコMetの標的遺伝子であることを示唆している。また、酵母レポーターアッセイ法はオオミジンコ個体を用いずにMetのリガンド物質を簡便かつ短時間で検出可能なバイオアッセイ法であり、環境中に存在するオオミジンコに対するJH様物質検出における一次クリーニング系として利用できる。

  • Abigail EKUBAN, Cai ZONG, Sahoko ICHIHARA, Seiichiroh OHSAKO, Gaku ICH ...
    セッションID: O-6
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    1,2-Dichloropropane (1,2-DCP) was used in the offset colour proof printing. In 2017, IARC reclassified it from Group 3 to Group 1, due to an outbreak of cholangiocarcinoma (CCA) among workers in Japan, who used 1,2 -DCP in their work. 1,2-DCP-induced (occupational) CCA in comparison with other forms of CCA, showed an early onset, accompanied by extensive pre-cancerous lesions in bile ducts. The exact mechanisms leading to occupational CCA remains poorly understood. The study investigated the molecular mechanisms of occupational CCA using human immortalized cholangiocytes MMNK-1 cells and human leukemia-derived THP-1 monocytes.

    Following treatment of 100-800μM 1,2-DCP to either monocultured MMNK-1 cells or co-culture of MMNK-1/differentiated THP-1 macrophages for 24 hours, cell viability was assessed using MTS assay. LDH cytotoxicity assay and measurement of ROS production using DCFDA assay were performed.

    Results show increased production of ROS in the MMNK-1/THP-1 co-cultured cells compared with monocultured MMNK-1 cells. Cell proliferation was increased in monocultured MMNK-1 cells exposed to 1,2-DCP but not co-cultured MMNK-1/differentiated THP-1 macrophages. There was an increased level of LDH cytotoxicity in co-cultured MMNK-1/differentiated THP-1 macrophages exposed to 1,2-DCP but not monocultured MMNK-1 cells.

    The results demonstrated that exposure to 1,2-DCP enhances ROS production in human cholangiocytes co-cultured with macrophages, being accompanied by increase in cytotoxicity. The production of ROS might be a key mechanism involved in the 1,2-DCP-induced CCA.

  • Nurhanani RAZALI, 北條 寛典, 中川 公恵, 長谷川 潤
    セッションID: O-9
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    Thymus is a primary lymphoid organ important for cellular immune response. The size and function of thymus is rapidly shrunken by various biological and environmental stimulation, which is called as thymic atrophy or thymic involution, to increase risks of infectious diseases and tumorigenesis. In the healthy thymus, naïve T cells have some characters like Th1- or Th2-differentiated T cells. This bias of naïve T cell characters, called as polarization, is tentative and could be changed during thymic involution. Indeed, naïve T cells are more polarized to Th2 than Th1 during dietary restriction-induced thymic involution (Razali et al., in press). We here examined how the polarization of naïve T cells is affected during glucocorticoid-induced thymic involution. ICR mice were administered dexamethasone and their thymus was analyzed. The results indicated that naïve T cells were more polarized to Th2 by dexamethasone, like by the dietary restriction. However, the induction of some Th2 markers was not equivalent under these two stresses, indicating different characters of polarized naïve T cells. In contrast to the dietary restriction, the dexamethasone-administration did not up-regulate the expression of synthetic enzymes of prostanoids, suggesting that prostanoids are not critical mediators of glucocorticoid-induced thymic involution.

  • 柴田 侑裕, 佐藤 洋美, 樋坂 章博
    セッションID: O-10
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    【背景・目的】シクロホスファミド(CPM)は、活性代謝物が殺細胞効果をもつプロドラッグである。CPMの代謝活性化の50%程度をCYP2B6が担うとされる。そのため治療効果と副作用頻度はCYP2B6の遺伝子多型と関連する。一方でCPMとCYP2B6阻害薬との薬物相互作用(DI)は知られていない。そこで、CPMと相互作用を起こしうると考えられる薬物について、カクテル法によるCYP分子種の阻害プロファイルのin vitro評価と有害事象報告データベースの調査により、DIの可能性を検討した。

    【方法】ヒト肝ミクロソームとCYP8分子種(1A2, 2A6, 2B6, 2C8, 2C9, 2C19, 2D6, 3A)の基質薬9種類を混合し、代表的CYP阻害薬8種類をそれぞれ添加し常法に従い反応させ、各分子種特異的に生ずる代謝物をLC-MS/MSにて定量し、阻害薬の阻害プロファイルを得た。データベース調査では、JADER(Japanese Adverse Drug Event Report database, 2004 ~ 2019)およびFAERS (FDA Adverse Event Reporting System, 2015 ~ 2019)のデータから比例報告比(PRR)を算出した。

    【結果・考察】ボリコナゾール(VCZ)はCYP2B6に対し最も強い阻害を示した(IC50:0.12μM)。また、CPMの代表的な副作用である好中球減少のPRR(JADER:2.83、FAERS:10.7)はVCZとの併用で大きく低下していた(JADER:0.71、FAERS:4.58)。他のCPMによる副作用でもこの傾向はみられた。これらの結果はVCZがCYP2B6の阻害を介したDIにより副作用の発現頻度を下げていることを示唆しており、CPMの治療効果についても同様に低下させていることが予想された。

  • 大迫 誠一郎, 鈴木 壮登, 矢田 健太郎, 上羽 悟史, 陳 旻岑, 荻原 春, 松島 綱治, 市原 学
    セッションID: O-11
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    【目的】AhrKOマウスでは、肝線維化、妊孕性低下、免疫系異常などのフェノタイプが報告されている。一方、Ahrの内因性リガンドはトリプトファン代謝物であるFICZや腸内フローラで生成されるITEなどであり、Ahrはこれらリガンドと関連してTh17/Treg分化を制御し、自己免疫疾患に関係していることが明らかにされている。本研究ではAhrKOマウスで観察されたIBD様疾患と肝臓のエピゲノムを解析について報告する。

    【方法】Ahr+/-マウス雌雄を交配し野生型およびホモを繁殖させた。各種臓器をホルマリン固定し病理組織化学を、大腸、脾臓、腸間膜リンパ節のリンパ球に関してフローサイトメトリー、大腸内容物のメタゲノム解析、および肝臓DNAのRRBSによるDNAメチル化解析を行った。

    【結果・考察】約10週齢でAhr-/-のみに軟便と下血が観察され、その後明瞭な脱肛を呈した。野生型と比較して、Ahr-/-マウスでは脾臓と腸間膜リンパ節の肥大、大腸の肥厚と粘膜固有層の著しい炎症性細胞浸潤が認められた。脾臓、腸間膜リンパ節、大腸粘膜固有層ともにCD4+IL17+IFNγ-Th17細胞が有意に増加、CD4+Foxp3+Treg細胞に差はなかった。過去の報告でAhr欠損マウスの脾臓細胞では、Th17分化が抑制されるとの報告があり今回の所見とは異なる。また、肝線維症は明瞭な病変は発生しなかった。肝臓のRRBS解析では、肝線維症関連遺伝子に変化はなかったものの、ARNTL/BMAL1遺伝子等に低メチル化が認められた。大腸内容物のメタゲノム解析では施設特有の細菌叢が存在した。今回我々の発見したAhrKOフェノタイプは、炎症性腸疾患におけるAhr機能不全さらにはAhr内因性リガンドを産生する腸内細菌叢の変化が病態発生に関与していることを示している。

  • 大黒 亜美, 石原 康宏, 山崎 岳, 今岡 進
    セッションID: O-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    細胞の核-細胞質間の物質輸送は、真核生物において基本的な機能であるが、酸化ストレスによって一部の輸送能が低下し、これが細胞老化の原因の一つであることが明らかにされている。核内輸送システムを担う中心的なタンパク質がImportinファミリータンパク質であり、これらと結合、解離することでその機能を制御する低分子量Gタンパク質Ranは、通常核内に多く存在するが、酸化ストレスにより核内量が低下し、核-細胞質間の濃度勾配が破綻することで核内輸送システムが低下することが明らかとなっている。しかし、Ranの核内量がどのように制御されているかは明らかでない。本研究では、チオレドキシン様ドメインを有するThioredoxin-related transmembrane protein 2 (TMX2)が、核膜の外膜でImportinβ及びGTP結合型のRanと相互作用することを明らかにした。HEK293及びHela細胞において、TMX2をノックダウンすると核内のRan発現量が低下し、Importin-β依存的なタンパク質の核内輸送が抑制された。また過酸化水素により核内のRanが減少し、その低下はTMX2過剰発現により緩和されたことから、TMX2は核内におけるRanの局在に必要であることが示された。TMX2によるRanの核内量の制御にはRanの112番目のシステイン残基が関与することが示され、このシステイン残基は、過酸化水素によるRanの核内量低下にも関与していた。さらに、TMX2をノックダウンすることで老化マーカーであるp21の発現量が増加した。本研究により、酸化ストレスによる核内量低下には、Ranのシステイン残基のレドックス制御が関与する可能性が示唆され、その制御にTMX2が関わる可能性が示された。

  • 宮田 瑛仁, 佐久間 理香, 今岡 進
    セッションID: O-14
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    がんはWarburg効果によってHIF-1alpha の発現量が増加し、解糖系の亢進、クエン酸回路、電子伝達系の抑制が起こることが明らかとなっている。さらに、急激な増殖によるDNA合成をカバーするために、五炭糖の合成系であるペントース-リン酸経路が促進される。一方、コーヒーに多量に含まれるクロロゲン酸(CGA; chlorogenic acid)は糖質の吸収の抑制やがんの抑制効果が期待されている。そこで、本研究においてはCGAがHIF-1alphaやNrf2の発現量変化を介してどのように糖代謝系に影響を与えるのかを検討した。まず、ヒト肝がん細胞Hep3BにおいてCGAが低酸素応答の低下、さらには酸化ストレスを低下させることを明らかにした。この条件下において、グルコーストランスポーター(Glut-1)、解糖系酵素(HK、GPI、PFK、TPI、GAPD、PGK、PGM、enolase、PKの計9個)について検討した。また、クエン酸回路の酵素(CS、ACO、IDH、OGDH、SCDH、FH、MDHの計7個)、ペントース-リン酸回路の酵素(G6PD、PGL、RPI、L5P3E、PGD、TKTの計6個)についても発現量変化を検討した。その結果、Glut-1と解糖系内の全ての酵素(HK; Hexokinase、GPI; Glucose phosphate isomerase、PFK; Phosphofructokinase、TPI; Triosephosphate isomerase、GAPD; Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase、PGK; Phosphoglycerate kinase、PGM; Phosphoglycerate mutase、enolase、PKM; Pyruvate kinase)はHIF-1 alpha依存的に増加し、Glut-1、PGD(Phosphogluconate dehydrogenase)、TKT(Transketolase)、G6PD (Glucose-6-phosphate dehydrogenase)はNrf2依存的に増加した。一方で、CGAはNrf2のタンパク量を増加させた。HIF-1 alphaについては検討中である。

  • 水上 拓郎, 百瀬 暖佳, 佐々木 永太, 古畑 啓子, 楠 英樹, 浅沼 秀樹, 濱口 功
    セッションID: O-15
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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     新興・再興感染症の発生に際し,新規ワクチンの開発は感染症予防の観点から非常に重要である。しかし,抗原自体の免疫原性が極めて低い場合,免疫賦活化あるいは適切な抗原のデリバリーのためにアジュバントを添加することが求められる。世界的にアルミニウムアジュバントが安全性の確認されたアジュバントとして承認され,多くの感染症予防ワクチンで使用されているが,これに代わるより安全で有効性の高い新規アジュバントの開発が求められてきた。

     我々は,種々のアジュバント添加インフルエンザワクチン投与時のグローバルな遺伝子発現解析等により,ワクチン安全性を評価するバイオマーカー(BMs)を同定し,全粒子インフルエンザワクチンを指標として免疫活性および毒性を相対的に数値化することで,アジュバント活性の評価に成功してきた。またこれらのBMsをin vivoのみならず,in vitroでも評価できる系を構築してきた (水上他 2019年度 本学会)。そこで私たちは,同定したBMsを逆利用Reverse Toxicologyし,アジュバントをスクリーニングするBMsとして用いることで,新規アジュバント候補の探索に応用できるのではないかと考えた。

     対象化合物としては,すぐに医薬品として展開できるように,既承認薬や添加剤を用いた。これらの候補化合物をインフルエンザHAワクチン(HAv)と混合し,HAv単体より活性が高いものをアジュバント賦活能のある化合物とした。また,毒性参照用としてすでに安全性評価に用いられているインフルエンザ全粒子ワクチンとの相対活性を比較することで,安全性の高いアジュバントのスクリーニングが可能となるよう設計した。候補化合物に関しては,BMsに基づき網羅的遺伝子発現データベースから逆に絞り込んだ。まず,in vitroでの評価を行い,BMs発現の認められたものに関し,動物を用いてin vivoの評価を行い,BMsの誘導が認められたものに関しては,免疫実験を行い,抗体産生能を検討した。

     その結果,本BMsを用いることで,新規アジュバント候補を同定することに成功した。よってReverse Toxicologyにより新規アジュバントをスクリーニングすることが可能であることが実証された。今後は,ハイスループット系の開発を行ない,より規模を拡大して,より効率的に有効性・安全性の高いアジュバント探索が可能か試みる。

  • 田中 佑樹, 飯田 里紗子, 久保田 哲央, 山中 理子, 杉山 尚樹, 小椋 康光
    セッションID: O-16
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    フローサイトメトリーに代表される単一細胞分析は、細胞個々の生化学的な情報だけでなく、high-throughputに細胞を導入し、大規模データを得ることで細胞集団に関する情報も同時に取得可能となる。近年、高感度の元素分析計であるICP質量分析計(ICP-MS)においても、単一細胞に含まれる極微量の元素を検出する技術(single cell (SC)-ICP-MS)が確立されつつある。本研究では、ラット赤血球、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、緑藻(Chlamydomonas reinhardtii)、及び慢性骨髄性白血病由来細胞(K562)という菌類、植物、動物という幅広い生物種の一細胞を対象に、SC-ICP-MS(Agilent 8900 ICP-QQQ, Agilent Technologies)による内在性の元素の検出、定量を試みた。SC-ICP-MSによる分析でラット赤血球、出芽酵母、緑藻からマグネシウム 、亜鉛、リン、硫黄、鉄に由来する信号が検出された。信号強度から個々の細胞に含まれる元素の含有量を算出したところ、その平均値は、細胞集団の湿式灰化分析から推定される値と非常によく一致した。一方、K562細胞の分析では、P、S、Zn、Mgの信号が検出されたものの、細胞の検出効率が他の細胞と比べて極端に低下した。また、元素含有量も湿式灰化分析から求めた値との間に差異が見られた。今後、high-throughputかつ定量的な単一細胞元素分析を行う上で、直径約20μmの培養細胞においては、輸送効率やイオン化の改善が必要となると考えられる。

  • 山田 佳代子, 益川 莉帆, 黒田 逸子, 水谷 有香, 古市 貴子, 田中 利男
    セッションID: O-17
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/09
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    急激な高齢化社会によりがん患者が増加しているが、分子標的薬などによるがん治療の展開は著しく、現時点でも一部のがんは不治の病ではなく、治癒が期待できる(がんサバイバー)時代に入りつつある。一方、古くからアントラサイクリン系薬物の心毒性が有名であるが、最近特に多数の様々な分子標的薬が開発され、広範な臨床がん治療薬として使用されていることから、晩発性の循環器疾患発症リスクも注目されるようになっている。しかしながら現状では抗がん剤による循環器系合併症の正確な発症頻度や発症機序が不明であり、今後のOnco-Cardiologyにおける発展が期待されている。そこで、我々は今後も爆発的に開発されてくる分子標的薬などの最も深刻な副作用である心毒性に焦点を当て、新しいin vivoハイスループットスクリーニングシステムを構築し、大規模なスクリーニングを実施した。まず、心筋において選択的にGFPが発現する透明なゼブラフィッシュ(MieKomachi009)を、創生した。また、ゼブラフィッシュin vivoライブハイコンテンツイメージング用の96ウエルプレート(ZFplate)を、開発した。さらに、ハイコンテンツイメージャーによるスクリーニングの自動化を試みた。その結果、マニュアルスクリーニング法に比較して、約10倍のスループットを達成した。この新しいin vivo 心毒性ハイスループットスクリーニングにより、数多くの抗がん剤がヒットした。その中で肝細胞がんなどに使用されている経口マルチキナーゼ阻害薬であるsorafenibの心毒性が明らかとなった。そこで、その心毒性機構を解明するため、ゼブラフィッシュやヒトの心筋におけるトランスクリプトーム解析や遺伝子ノックダウン解析から、sorafenibによるstanniocalcin 1 遺伝子発現低下が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。

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