目的 自治体保健師の健康危機管理実践能力 (以下、危機実践能力) の実態を調査し, 災害対応の経験の有無と災害看護や健康危機管理 (以下、災害看護等) を学習する機会の有無が, 危機実践能力の習得にどのように影響しているかを明らかにし, 保健師教育への示唆を得ることを目的とした。
方法 A県内の35市町保健センターに所属する自治体保健師525名を対象とし, 郵送法による自記式質問紙調査を実施した。調査項目は, 全国保健師教育機関協議会が作成した, 卒業時までに必ず習得する最低限の技術として作成した, 保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ1) (以下、MR) の5つの実践能力のうち, 「実践能力Ⅲ」の地域の健康危機管理能力〈個人・家族〉に着目し調査票を作成した。実践能力の3つの中項目に含まれる41の行動目標の到達度を「ほとんど難しい」「やや難しい」「だいたいできる」「とても良くできる」の4件法で回答を求めた。分析は, 危機実践能力に関する自己の到達度評価と「保健師組験年数」「災害対応の経験の有無」「災害看護等の学習経験の有無」との関連について実施した。本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を得て実施した。
結果 回答を得た253名 (回収率48.2%) のうち, 無回答又はデータの欠損の多かった2名を除く251名 (有効回答率99.2%) を分析対象とした。自治体保健師が「到達できている」と回答した危機実践能力の3中項目「1. 健康危機管理の体制を整え予防策を講じる判断能力」では, 11の行動目標のうち5項目 (45%), 「2. 健康危機発生時に対応する能力」では, 21行動目標のうち13項目 (61%), 「3. 健康危機発生後からの回復に対応する能力」では, 9行動目標のうち7項目 (77.7%) に「災害対応の経験」の有無との有意な関連が確認された。「災害看護等の学習経験の有無」は, 保健師学生時は41行動目標中3項目に, 保健師就業後は, 41項目中17項目に有意な関連を示した。
結論 自治体保健師の危機実践能力に関する自己の到達度評価の高さは, 災害対応の経験あるいは災害看護等の学習経験を有することと有意な関連を示した。
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