わが国では観光地と移動空間とをトータルで捉え,魅力的な旅をデザインする議論が乏しい.九州新幹線つばめは,デザイナー水戸岡鋭治により,地域素材や伝統工芸を取り入れた良質な車内空間が提供され,高速移動の価値と旅を楽しむ価値が融合されている.こうした取り組みは,鉄道事業者にとっては潜在需要の発掘やリピート需要の増加,企業のブランド力の強化につながると考えるが,全国的な展開に至っていない.デザインに伴う製造コストの増加が想定される一方,利用需要や収入の増加が予測しにくいことが原因と考える.このため,つばめ利用者の評価を明らかにし,設計,製造関係者へのインタビューからコスト削減策のポイントを探った.
本研究では,人間の心拍変動から読み取れるストレスに着目し,RRI データを用いて鉄道サービスにおけるストレス軽減効果を定量的に評価した.ストレス軽減効果を期待する施策として,女性専用車両の乗車時とノイズキャンセリングシステムの使用時の2 つを評価対象として研究を進めた.ストレスの定量的評価手法には,RRIの中央値を用いたストレス総量の算出とローレンツプロット面積法を用いたストレスの変動特性についての検討を行った.その結果,女性専用車両とノイズキャンセリングシステム使用時のストレス軽減効果について,生体が被るストレス総量や強度の観点より定量的に推定することができた.
本稿は,貿易統計に存在する不整合問題について検討する.貿易統計の不整合問題は,ある国が公表する輸入額と,それに対応する相手国が公表する輸出額が一致しない問題である.この問題は,様々な研究者や組織によって古くから検討が続けられているが,貿易額に関する分析が多く,貿易数量に関する分析は少ない.本稿は,貿易統計の不整合問題に関するレビューを行うと共に,アジア地域の貿易統計データを使用し,特に数量データに着目して不整合問題の特性把握を行った.その結果,数量データを活用することで,不整合問題を調整するための有益な知見が得られることを示している.
わが国の営業バス事業は,規制制度上,乗合と貸切に区分される.しかし昨今,この区分がバス事業の実態に合致せず,様々な矛盾が生まれている.ここで英国の規制制度をみると,英国では乗合と貸切の区分がなく,域内バスとそれ以外の区分である.そして域内バスでは,サービス水準等についての公的関与(調整)が見られるが,それ以外(都市間バスおよび貸切バス)については,基本的に市場競争に委ねられている.わが国においても,多くの場合営利事業としては運営が困難で地域にとって唯一の公共交通である域内バスと,営利事業として運営可能で市場競争が存在する都市間バスを規制制度上区分し,各々に相応しい施策を考えるべきであろう.