本論文では, two fluxモデルを用いて, 繊維集合体の幅射による熱輸送の効率を, 繊維集合体の光学的厚さ, 散乱と吸収の断面積の比, 伝導熱輸送率の最大幅射輸送率の比, 境界の放射率の関数として表す公式を導き, 幅射熱輸送の寄与を, 繊維の物性や集合体を特徴づけるパラメーターと関連づける可能性を示した.特に, 境界条件や光学的厚さの違いが幅射熱輸送に及ぼす効果を理論的に示し, これまで明確に整理されていなかった散乱と吸収の役割の違いを説明した.さらに繊維直径の異なるポリエステル繊維から構成される繊維集合体の有効熱伝導率の実験値と比較することによって, 幅射および伝導による熱輸送を分離し, 低密度領域での熱輸送機構の描像をとらえることができることを示した.繊維集合体の場合, 本論文で与えた公式を適用することによって, 構成繊維の物性値から評価できるが, 一般に, 構成繊維直径が小さいほど, 単位体積当たりの繊維数が増加するため, 集合体の有効熱伝導率が小さくなる.しかし, 構成繊維の径が, 環境の幅射の波長より短くなると, 径の減少による繊維の吸収・散乱の断面積の減少の効果の方が大きく, 幅射輸送の効率は増加する.また, 防寒材料のように, 光学的厚さが, 1以下の場合は, 幅射輸送の効率は, 境界の放射率に大きく依存し, また, 材料の熱伝導率にも影響される.
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