樹木医学研究
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26 巻, 4 号
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総説
  • 岩田 隆太郎
    2022 年 26 巻 4 号 p. 147-181
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2024/12/13
    ジャーナル フリー

    生きた樹木のシロアリ類による被害とされるものを,全世界の地域別事例の網羅,生態および防除の観点からレビューした.シロアリと樹木の相互関係の現象を正しく理解するには,両者が生存に向けた進化的に最適な戦略をとることを考慮することが必要である.シロアリの行動生態学および樹木生理学をもとに現象を検討すると,世界中の樹木生木のシロアリによる被害のほとんどが,(1)両者間の共生の結果生じたもので樹木の適応度を下げることがない現象,または(2)他の原因により樹木が衰弱することでシロアリが日和見的に加害している現象,のいずれかであるという仮説が導き出される.建築物とその周辺の樹木を同時に加害するシロアリを防除するにはIPM理論に則った試みが必要で,多くの場合ベイト剤が適切である.また日本国内では,屋内と屋外の殺虫剤施用に関する別々の登録システムの問題を改善する施策が求められる.

論文
  • 岩永 史子, 片山 卓弥, 谷口 武士, 山本 福壽, 山中 典和
    2022 年 26 巻 4 号 p. 182-188
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2024/12/13
    ジャーナル フリー

    鳥取大学乾燥地研究センターのビニルハウス内に植栽したニセアカシア苗木の開芽前後において,環状剥皮と植物ホルモン剤を組み合わせて処理し,ニセアカシアの萌芽性におよぼす影響を検討した.樹幹に環状剥皮の有無のいずれかをオーキシン輸送阻害処理として,またその下部に外生のオーキシン(NAA),サイトカイニン(BAP),あるいは塗布溶媒であるラノリンのみ(無添加)のいずれかを植物ホルモン処理として組み合わせ,計6処理を行った.処理を行った時期に関わらず,環状剥皮によって萌芽発生数が増加した.また,同じ処理区間で比較すると,開芽前よりも開芽後の処理で萌芽発生数が多くなった.開芽後の環状剥皮区では無添加区で萌芽発生数が最も多くなり,BAPと併用した処理区も同程度の萌芽発生を示した.一方,環状剝皮+NAA区では萌芽発生数が低下した.これらのことから,ニセアカシアの萌芽発生は環状剥皮処理によって促進されるものの,オーキシンとの混合処理によって抑制されることが示唆され,また促進効果は開芽前に低くなることが示された.しかし,発生した萌芽の成長量は開芽前後で大きな差は認められなかった.

  • 酒井 康子, 伊藤 俊輔, 秋庭 満輝, 太田 祐子, 佐橋 憲生
    2022 年 26 巻 4 号 p. 189-195
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2024/12/13
    ジャーナル フリー

    南根腐病はシマサルノコシカケ(Phellinus noxius)が引き起こす樹木病害で,熱帯・亜熱帯地域で深刻な問題となっている.本病による被害が発生した場合,罹病木とその根等の残渣を含む土壌を撤去する以外に防除方法はなく,低コストで簡便な防除法の開発が望まれている.そこで,クロルピクリンとダゾメットの2つの土壌くん蒸剤が本菌に与える影響について調査した.シマサルノコシカケ(南根腐病菌)を蔓延させた3樹種の枝を土壌中に埋め込み,くん蒸処理後に掘り出して菌を組織分離したところ,クロルピクリン処理区では本菌は分離されず,ダゾメット処理区では無処理区に比べて分離率が有意に低かった.さらに,施工時の作業性と安全性を確認するために,公園内の緑地でクロルピクリンと被覆資材としてガスバリア性フィルムを用いた土壌くん蒸処理を行ったところ,試験地(6.5 m×12 m)のくん蒸作業には5人の作業員で7時間を要した.また,くん蒸作業終了後から試験期間を通してフィルムの外側にクロルピクリンガスの漏出は認められず,処理11日後には土壌中およびフィルム内の空気からもガスは検出されなかった.ガスバリア性フィルムを使用して用法を正しく実施することで,事業規模でもガスの漏出なくクロルピクリンによる土壌くん蒸処理を行うことができることが分かった.

臨症事例
シリーズ:マツ材線虫病をめぐる今昔物語
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