ナラ枯れの早期発見には,被害地から離れた未被害地への飛び火的な被害への予測が重要である.2022年9~10月に山梨県富士川町東部において,ブナ科樹木に対するカシノナガキクイムシ(以下,カシナガ)による穿孔の広域的な空間パターンを現地調査した.3,478本の幹のうち,コナラ122本,クヌギ3本に穿孔が確認された.穿入木は,少なくとも6×6 km2以上の広い範囲で確認され,そのうち96%は,萎凋症状を呈していなかった.コナラが穿孔を受ける確率は,胸高直径が大きいほど,同一株の幹数が多いほど,標高が低いほど,半径100 mの範囲で地形が凸型であるほど,半径250 mの周囲に寄主木の林が多いほど,調査月が遅いほど,高い傾向にあった.一方,前年の被害地からの距離は,最適な予測モデルの変数として選択されなかった.カシナガ穿入後の枯死率が比較的低いブナ科樹種の分布域では,樹冠の変色という遠目からわかる徴候が観測される以前に,カシナガが広範囲に分布を拡げていることが示唆された.
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