熱帯地域における人工造林の是非は状況と目的に依存するものの,1)荒廃した森林を修復し、森林の絶対面積を拡大する働き, 2) 地球規模の炭素循環で二酸化炭素のシンクとなる働き, 3) 薪炭材・チップ材・用材などの材才資源の他、家畜飼料や樹脂等の多様な林産物を供給して結果的に自然林を開発の手から守る可能性など,その効用には無視しえないものが多い. しかしながら,熱帯造林には生長要因が林木に及ぼす効果を始め,技術的にも生物学的に
も解明されていない点が多い. 人工林の管理は通常単位面積あたりの林木個体数である密度を基本にして行われる. 林木の生長に必要な水や無機養分などとは異なり,密度は特異な性質を持った生長要因であり,密度が増えれば増えるほど個体の生長は抑制されるが,林分全体の収量(現存量)は逆に増加する. 本研究は,熱帯造林でしばしば用いられるタイワンセンダン(Melia azedarach) とインドセンダン(Azadirachta indica) 2種の実験モデル林分で6 年間にわたって生長を追跡し,密度が林木と林分発達に及ぼす効果を調べたものである. 研究はタイで行われ,実験に用いた2 種はタイにも自生する.
1.タイワンセンダンの実験地は東北タイのソムデット(Somdet),インドセンダンの実験地は西タイのラチャプリ(Ratchaburi)で,この2地区にはタイ林産公社と林野局の造林試験地がある. ソムデットの土壌は砂質ローム,ラチャプリの土壌はラテライト性土であり,土壌の肥沃度はソムデットの方が高いと思われた.密度のレベルはタイワンセンダンに対して6段階(625-40,000/ha),インドセンダンに対して8段階(187-40,000/ha)とした.
2. 最大密度区(40,000/ha) における6年間の死亡率は,タイワンセンダンで54% ,インドセンダンで8% であり,土壌の肥沃度の低い条件下で栽培されたインドセンダンの生長が抑制さ
れ,こみあい効果による個体の死亡が起きにくかったことを示している.
3. 高密度区では低密度区に比べ個体の生長が抑制された.この現象は良く知られており,従来の一般的知見と矛盾しない.個体の生長を平均個体重で表し,密度と平均個体重の関係を
調べると,その関係は穂積が提案した密度~平均個体重の数学モデル(穂積モデル)に良く適合した.データをモデルに当てはめ,モデルの係数を非線形最小自乗法によって推定し, 2種間で係数を比較した.係数の諸性質を調べると, 2種の生長が篠崎の提唱する一般化ロジスチック曲線に従うことが示唆された.これらの結果は,筆者らが既に報告しているリバーレッドガム(Eucalyptus camaldulensis)の密度効果実験の結果と矛盾しなかった.
4. 本研究で用いた2 種の生長は,ストローブマツ(Pinus stobus), スギ(Cryptomeria japonica), ヒノキ(Chamaecyparis obtusa) などの温帯造林樹種に比べ非常に速い生長を示し,植栽後6年の現存量はタイワンセンダンで49-87t/ha,インドセンダンで9-50t/haとなった.
5. 穂積モデルは,初期密度,実現密度,個体重,時間の4変数間の関係を同時に決定することができるモデルで,熱帯で用いられている多様な造林樹種の成長特性の比較に有効である
と考えられた.
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