Tropics
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1 巻, 1 号
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  • Peter S. ASHTON
    1991 年 1 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 1991/06/20
    公開日: 2009/09/16
    ジャーナル フリー
    Championの東南アジアの熱帯低地林の分類は第1に気候区分(最寒月の平均気温,年降水量,乾季の長さと回数). 第2に航空写真などによる広範囲の地表観測によるもので,熱帯アジアの森林の諸型を比較しての充分な検討は加えられていない.特に無季節性や弱い季節性しかない地域の森林(林冠樹種に優占種がない混交林:Champion の森林型分類の湿潤常緑林)は充分なデータで論じられているとはいえない.
    中略
    季節常緑林の境界も検討しなければならない. 常緑ー半常緑低地林の境界は降水量と緯度(最寒月の気温)で境されるとChampion はしている.さらに年降水量2500mm 以下や乾燥が数箇月に及ぶ地域にも半常緑林が成立するとした.このような気候要因だけがが落葉性に結びつくとするのは不充分である.マレ一半島北部やスリランカ北部や東部の森林は少ないが定常的な降水に恵まれた地域に成立しているが高さの低い落葉樹を交えた常緑林になる.林冠樹木の落葉性は降水の季節分布に関係してはいるが,また森林破壊の結果の二次林や遷移の途中の林にも見られるものであるし,貧栄養土壌にも結びついている.
    土地条件と植生型の関係についてはまだあまり詳しい分析はなされていない.しかしボルネオでの結果は樹種や樹木構造と土壌条件の密接な関係を明らかにしている.ボルネオではもっとも主要な森林型の相違は相対的に高いpH と高濃度の栄養塩類の土壌(udult soils) に成立する森林と低いpHで粘土含有量や栄養塩類含有量も低い土壌(humult ultisols) の間に見られ,森林を構成するフタバガキ科樹木の種類が異なっている.ボルネオではhumult ultisols に分布する種がマレーでは尾根や海岸近くの痩せ地に分布することがあるし,スリランカの湿潤森林でもhumult sols に特徴的な樹種が知られている.またインドからミャンマーの常緑林地域でも石灰岩地域には特徴的な樹種の森林が分布する.
    インド半島西部の湿潤常緑林は,特徴的な樹種を有しているし,それより内陸部に分布する半常緑林もマレー半島北部からミャンマー,チッタゴン,インドシナ半島にかけて分布する季節常緑混交フタバガキ林とは異なる樹種構成を有している.さらにこの季節常緑混交フタバガキ林よりも北に2つの森林型が存在する.一つは5ヶ月以上の乾燥期間を有する地域の森林で,タイで乾燥常緑林として知られ,多くの落葉性林冠樹種を有している.また竹類が多く,定期的な火入れ効果を示している. もう一つは北方季節常緑フタバガキ林で,東アジアの低地熱帯林ではもっとも緯度の高い地域に位置する.この林はアッサム地方から中国南部にかけてみられ,年降水量は2000mm以上あり,乾燥期間は短いが,明らかな低温期間が存在する.この植生帯の北部(中国大陸南部)は放牧と耕地化で破壊が進み多くの温帯系の草本植物が見られる.
    アジアの乾燥森林気候域はいろいろな落葉森林が分布しているが,それらの成立には火入れが生態的要因として重要である. Champion は相観学的・季節学的な特徴を植物相的な特徴の上において主要な森林型の分類を行なっている. 彼は落葉型の森林に,フタバガキ科のサルShorea robusta を有する北方型の(Dry Deciduous Dipterocarp forest) とチークTectona grandis がしばしば優占する南方型(Moist Deciduous forest) を区別している. しかもそれらには混交落葉林も含められている. しかし,インドからベトナムに広がる混交落葉樹林は特徴的な植物相を有し,地形的にも連続するものであるし,サルとチークは分布地域が別れ,同じ林を作ることはない. 両者が成育する土壌条件も異なる. またインドに分布するサル林とインドーミャンマー地域の乾燥落葉フタバガキ林とでは,後者はサルを欠き,代わりに固有のフタバガキ科樹種が見られる.なにをもって落葉型の森林を区別するのか問題が残る.
    植物相の解析なしには,森林調査や利用に有効な森林の分類を進めるのは不充分である.前ページの表に新しいアジア熱帯地域森林帯の地域区分の試論をまとめておく.
  • Soedarsono RISWAN, Kuswata KARTAWINATA
    1991 年 1 巻 1 号 p. 13-34
    発行日: 1991/06/20
    公開日: 2009/09/16
    ジャーナル フリー
    破壊のあとの植生回復のほとんどあらゆる場合が二次遷移に含まれている.そして破壊の様相が違えば遷移の仕方も違ってくる. 熱帯での選移についてはまだあまりわかってはいない. それは土壌肥沃度の変化,種子集団の違い,蔚芽,地域の物理的環境の違いなどの遷移に働く要因を相互にを区別することが,複雑な熱帯自然においては難しいからである.この熱帯での遷移についての疑問に答えるべく,カリマンタンの低地混交フタバガキ林とケランガス(ヒース)林で二次遷移の初期段階についての比較研究を行なった.
    二次遷移の初期段階では土壌の物理的・化学的性質が種の生存戦略と深くかかわっていることが明らかになった. 混交フタバガキ林(赤・黄ポドゾル的土壌)では,二次林構成種の種子からの芽生えが,遷移の初期段階における植民者として重要であった. またケランガス林(ポドゾル土)では木本植物の切り株からの萌芽が,重要であった.さらに森林が破壊されてからの土壌の物理的・化学的な性質の経時的な変化を詳細に分析した.その結果,二次遷移の初期段階では,土壌条件が遷移の仕方と深く関係していることが明らかになった.ここに「赤-黄ポドゾル的土壌では栄養塩類は比較的表層近くに集積し,そのため種子から発芽した根系が浅い植物でも良く生育できるが,ポドゾル土では栄養塩類は深くに移動して,深い根系を有している切り株からの萌芽が二次遷移の初期に優勢になる」という二次遷移に関係した土壌環境と種の生存の戦略についてのモデルを提示する.
  • Somchai THORANISORN, Pongsak SAHUNALU, 依田 恭二
    1991 年 1 巻 1 号 p. 35-47
    発行日: 1991/06/20
    公開日: 2009/09/16
    ジャーナル フリー
    熱帯地域における人工造林の是非は状況と目的に依存するものの,1)荒廃した森林を修復し、森林の絶対面積を拡大する働き, 2) 地球規模の炭素循環で二酸化炭素のシンクとなる働き, 3) 薪炭材・チップ材・用材などの材才資源の他、家畜飼料や樹脂等の多様な林産物を供給して結果的に自然林を開発の手から守る可能性など,その効用には無視しえないものが多い. しかしながら,熱帯造林には生長要因が林木に及ぼす効果を始め,技術的にも生物学的に も解明されていない点が多い. 人工林の管理は通常単位面積あたりの林木個体数である密度を基本にして行われる. 林木の生長に必要な水や無機養分などとは異なり,密度は特異な性質を持った生長要因であり,密度が増えれば増えるほど個体の生長は抑制されるが,林分全体の収量(現存量)は逆に増加する. 本研究は,熱帯造林でしばしば用いられるタイワンセンダン(Melia azedarach) とインドセンダン(Azadirachta indica) 2種の実験モデル林分で6 年間にわたって生長を追跡し,密度が林木と林分発達に及ぼす効果を調べたものである. 研究はタイで行われ,実験に用いた2 種はタイにも自生する.
    1.タイワンセンダンの実験地は東北タイのソムデット(Somdet),インドセンダンの実験地は西タイのラチャプリ(Ratchaburi)で,この2地区にはタイ林産公社と林野局の造林試験地がある. ソムデットの土壌は砂質ローム,ラチャプリの土壌はラテライト性土であり,土壌の肥沃度はソムデットの方が高いと思われた.密度のレベルはタイワンセンダンに対して6段階(625-40,000/ha),インドセンダンに対して8段階(187-40,000/ha)とした.
    2. 最大密度区(40,000/ha) における6年間の死亡率は,タイワンセンダンで54% ,インドセンダンで8% であり,土壌の肥沃度の低い条件下で栽培されたインドセンダンの生長が抑制さ れ,こみあい効果による個体の死亡が起きにくかったことを示している.
    3. 高密度区では低密度区に比べ個体の生長が抑制された.この現象は良く知られており,従来の一般的知見と矛盾しない.個体の生長を平均個体重で表し,密度と平均個体重の関係を 調べると,その関係は穂積が提案した密度~平均個体重の数学モデル(穂積モデル)に良く適合した.データをモデルに当てはめ,モデルの係数を非線形最小自乗法によって推定し, 2種間で係数を比較した.係数の諸性質を調べると, 2種の生長が篠崎の提唱する一般化ロジスチック曲線に従うことが示唆された.これらの結果は,筆者らが既に報告しているリバーレッドガム(Eucalyptus camaldulensis)の密度効果実験の結果と矛盾しなかった.
    4. 本研究で用いた2 種の生長は,ストローブマツ(Pinus stobus), スギ(Cryptomeria japonica), ヒノキ(Chamaecyparis obtusa) などの温帯造林樹種に比べ非常に速い生長を示し,植栽後6年の現存量はタイワンセンダンで49-87t/ha,インドセンダンで9-50t/haとなった.
    5. 穂積モデルは,初期密度,実現密度,個体重,時間の4変数間の関係を同時に決定することができるモデルで,熱帯で用いられている多様な造林樹種の成長特性の比較に有効である と考えられた.
  • Shôichi F. SAKAGAMI, Makoto KATO, Takao ITINO
    1991 年 1 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 1991/06/20
    公開日: 2009/09/16
    ジャーナル フリー
    アフリカから4種が知られていたDiagnozus 亜属(コハナバチ科)にスマトラから発見された1新種が加わりThrinchostoma asianum として記載された. Thrinchostoma asianum は頭部下部が異常に長いという特徴をアフリカ産の他の種と共有しているが,そのほかの形質では特殊化の程度が低い. この種は林床性のハチで,スマトラに固有のツリフネソウの一種Impatiens korthalsiiの吸蜜に特殊化したハナバチであろうと考えられる.
  • 加藤 真, 市野 隆雄, 堀田 満, 井上 民二
    1991 年 1 巻 1 号 p. 59-73
    発行日: 1991/06/20
    公開日: 2009/09/16
    ジャーナル フリー
    インドネシア国スマトラの熱帯山地多雨林において,同所的に生育するツリフネソウ属(Impatiens, ツリフネソウ科)4 種の開花様式と送粉様式を比較したImpatiens platypetalaの淡紅紫色の花は,細長く垂れ下がった距に糖分26% の花蜜を昼夜にわたって分泌し,薄暮活動性のスズメガ(Macroglossum corythus)によって送粉されていた. Impatiens korthaslsii, I. talangensis, I. eubotryaの黄色の花は,先細りの距に34-37% の糖を含有する花蜜を主に昼間に分泌し,特殊化した長舌のコシプトハナバチの2種と異常に長舌になったコハナバチの1種によって送粉されていた.花の距の形態は,送粉者が花蜜への到達できるかどうかを決定していた. ハナバチ媒の3 種のImpatiens は3種のハナバチを一部共有していたが,ハナパチの体表の花粉付着場所を違えることによって送粉者を使い分けていた. 4種のImpatiens は開花期間の延長によって,送粉者の低い訪花率を補っていた.盗蜜が東南アジアで初めてケブカハナバチ科の2 種で観察された.
  • 藤間 剛, 中村 久美, Pipat PATANAPONPAIBOON, 荻野 和彦
    1991 年 1 巻 1 号 p. 75-82
    発行日: 1991/06/20
    公開日: 2009/09/16
    ジャーナル フリー
    マングローブ林土壌は,水が停滞して還元状態を示すことが多い.ヒルギダマシ(クマツズラ科)の直立気根が土壌中の根への通気機能をもつことは実験的に確認されている.直立気根が長くなると,その頂端が空気中にある時間が長くなるため,冠水深がより深いところでも根への通気が可能になると考えられる.野外観察では,冠水類度が高く冠水深が大きいところでは冠水頻度が低く冠水深が小さいところにくらべ,直立気根が長く本数も多いという報告がある.本報告では,温室で栽培したヒルギダマシ実験群落をもちいて,冠水深と植栽密度が直立気根にどのような影響をあたえるかについて調べた.
    栽培試験は愛媛大学農学部構内の温室でおこなった. 1986年9 月22 日,砂と腐葉土を2:1 の割合で混ぜたものを培地として,タイ国産のヒルギダマシの種子を,プラスチック・ポット(縦42cm,横32cm,高さ3ocm) に密度を変えて(ポットあたり4 , 6 , 12 , 35 本) ,播きつけた. 第1 葉が展開するまでは水道水を,その後はホーグランド液を施用した. 毎週土曜日にポットの下の栓を開いて排水し,翌週の月曜日に再びホーグランド液を冠水した. 冠水深は約5cm とし,水深が低下したときは水道水を補った. 冬期は寒害を避けるため,ガラス室内のビニール・フレームを設け,最低温度が20°C以下にならぬよう加温した. 播種後2年9月経過した1989年6月28 日に各ポットの直立気根数と高さを測定したのち,冠水試験を始めた.ポットを各植栽密度を1 個づつ含むように二群にわけ,一方を冠水区,他方を対象区とした.冠水区では,ホーグランド液または水道水を補給して,常に水深9cmの停滞水があるようにした. 対象区は水深0cmで,週1 回排水,培養液の入れ替えをおこなった.毎週月,木,土曜日に冠水区の表層水と下層水,対象区の下層水を採り,溶存酸素捜度(DO),酸化還元電位(Eh) を測定した. 1989年8月28 日, 9月18 日, 10月23 日に気根数と高さの測定をおこなった.
    冠水区の表層水は, DO, Eh ともに高く酸化状態であることを示した. 下層水のそれは常に低く無酸素・還元状態にあった. 対象区の下層水はホーグランド液を入れかえた日はDO , Ehともに高い値を示したが, 2 日後にはDO は冠水区のそれと同程度まで低下した. しかし, Eh は冠水区のそれと比べると常に高く,酸化状態もしくは弱還元状態にあることを示した.これらのことから,冠水処理は培地を酸欠状態,還元状態にしたことがわかった.
    冠水処理開始時のポット当り気根数は高密度区ほど多かったが,個体当りの平均気根数は逆に高密度区ほど少なくなっており,あきらかに植栽密度が気根数に影響していた.冠水処理2カ月後の気根数を同じ植栽密度区間でくらべると,ポット当り,個体当りいずれも冠水区で多かった. 冠水区のポットあたり気根数の増加速度は,どの植栽密度においても対象区のそれより大きかった.
    冠水処理開始時の平均気根高は対象区の方が大きかった. しかし冠水処理2 ヵ月後には冠水区の平均気根高が,植栽密度にかかわらず対象区のそれより高くなった.冠水処理前の平均気根高は冠水区の水深より低かったが,処理2 カ月目には水深よりも高くなった. 冠水区の気根高頻度分布をみると処理2 ヵ月後には,冠水深よりも高いところへモードが移動し歪んだ分布となった. 対象区では冠水処理の前後で分布型にまったく変化はなかった.実験期間中に枯死した気根がほとんど無いことから,冠水区の平均気根高および気根高の頻度分布の変化は,冠水処理開始時にすでにあった気根の伸長生長によるものと推定された.
    以上のことから,個体密度は平均気根数に影響するが,水の停滞によっておこる土壌の無酸素・還元状態はストレスとして気根の生長刺激を与えるようで,ヒルギダマシは適応的に反応し直立気根の数を増加させ,高さを増大させることがわかった.
  • Sukristijono SUKARDJO
    1991 年 1 巻 1 号 p. 83-90
    発行日: 1991/06/20
    公開日: 2009/09/16
    ジャーナル フリー
    森林省の集計によると,インドネシアには425万ヘクタール以上のマングローブがある. この河口湿地に発達するマングローブは社会経済に重要な生物的・水文的役割を果たしていて,地域社会に対して色々な貢献をしているが,特に漁業にとっては最も重要な場である. しかしこの特殊な森林は人間や自然からの影響を強く受けている.そこで合理的なマングローブの保全と利用についての国家政策を確立するために,その景観文化的アセスメントを行ない,マングローブの人間による利用についての再評価をした.またこのアセスメントと再評価は,マングローブ生態系のより深い理解のための基礎も提供しようとするものである.
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