Tropics
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10 巻, 4 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 前山 智宏, 前川 清人, 松本 忠夫
    2001 年 10 巻 4 号 p. 509-517
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    アカネ科アリノスダマ亜科に属するアリノスダマ類(5属88種)は,ニューギニア島を中心に分布する着生性のアリ植物であり,共生するアリ類との間に緊密な相利共生関係をもつものから共生関係の弱いものまで,様々なな共生関係を示すことが知られている。本研究では,アリノスダマ類の系統関係を明らかにした上で,その進化プロセスの推定を行うことを目的とし,アリノスダマ類4属に属する6種のク口口プラストDNA·atpB-rbcL intergene の塩基配列を決定し,分子系統樹の構築を試みた。その結果,アリとの高度な共生関係をもつMyrmecodia属やMyrmephytum属は偽系統群となり,アリとの共生関係が弱く,また乾性適応が進んだHydnophytum属が派生的分類群である可能性が示唆された。従って,アリノスダマ類の進化を考えると,多雨林で祖先型の着生性植物が,まずアリ類との共生関係を進化させ,その後一部が乾燥地へと進出し,乾燥適応型の形態を持つ種が出てきたと考察される。
  • 古川 昭雄, 藤間 剛, 丸山 温, 松本 陽介, 上村 明, Ahmad Makmom ABDULAH, Muhamad AWANG
    2001 年 10 巻 4 号 p. 519-527
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    半島マレーシアのパソー森林保護区に設置した林冠回廊を用いてDipterocarpus sublamellatus, Neobalanocarpus heimii, Ptychopyxi caput-medusaeとXanthophyllum amoneumの地上30mから40mの林冠構成葉の光合成速度と気孔コンダクタンスの日変化を1993年7月の2日間と11月に測定した。光合成速度の日変化は測定した日と樹種によって異なっていたが,いずれの樹種の光合成速度も類似の値を示し低かった。概して,光合成速度は午前中,放射量の上昇にともなって増加したが,その後は減少した。また,光合成速度と気孔ンダクタンスの間には直線関係が見られたが,7月と11月の測定結果からは,D. sublamellatusとP. caputmedusaeとでは両者の間には有為な直線関係ほ見られなかった。さらに,水蒸気胞差が増大するに伴いD. sublamellatusの気孔コンダクタンスは減少したが,このような関係は他の種では見られなかった。
  • 大塚 俊之
    2001 年 10 巻 4 号 p. 529-537
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    ボルネオ島キナバル山の裾野の高原地域では1980年代から大規模な開発が始まり,低地帯から下部山地帯の自然林はほとんど姿を消した。そこで本研究ではこのような大規模模開発地域での耕作後10年程度までの初期遷移の組成とバイオマス変化を記載し,他の熱帯地域でのバイオマス変化と比較しながら,植生の発達に大規模開発がどのような影響を与えるかについて検討した。初期遷移の速度は非常に速く,1年草が優占する放棄後1年目のプロットでもすでに低木種の侵入が見られた。3年目のプロットではEupatorium odoratumのような低木種が主に優占したが,高木種が林 冠 層をまばらに形成した。Treme orientalisは3年目ですでに最大直径6.5cm,最大樹高4.4mまで達し,10年目には群落高は13mにも達する森林が形成された。このような生活形組成の急速な変化に伴い,植生の地上部バイオマスも,4ケ月目237 gm-2,1年目650 gm-2,3年目1573 gm-2,10 年目には3463 gm-2 まで急速に増如した。しかしその他の熱帯地域での初期二次遷移のバイオマス変化と比較すると,イネ科草本と低木が優占する3 年目までほほぼ同じような割合て増加しているが,森林群落となった10 年目のバイオマスはかなり低い値となった。本調査地は標高が高いためにパイオニア樹 種が少ないと思われるが,本来の下部山地帯性植物の侵入や定着が見られないことからも,森林の大規模開発によるバイオマス変化への影響も考えられた。
  • Kwame Osafredu ASUBONTENG, 久保田 大輔, 林 慶一, 増永 二之, 若月 利之, Ekow Issiw ANDA ...
    2001 年 10 巻 4 号 p. 539-553
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    持続的農業生産のためのガーナ内陸各地の効果的 な利用と環境保全を目指す努力の一部として,トランセクト法を用いて半乾燥樹林帯のべンチマークサイトの生物物理的特徴付けを行った。第1,第2,第3番とした異なった各地形が認められた。高地及び低地土壌とも,表土は弱酸性(pH 4.8-5.9)で下層土は強酸性(pH 4.0-4.3)あった。可給態リン酸 (Bray I)は高地及び低地土壌とも低かった。有効陽イオン交換容量(CEC)と交換性Ca, Mg, Kのレベルは谷地底地で高地よりも高かった。しかし高地及び低地の土壌とも全窒素レベルは,表土で高く下層土で低かった(0.02-0.84%)。全般的に低地土壌の肥沃度状態は高地土壌よりも高かった。高地土壌は排水がよく,一方低地土壌は排水が悪かった。地下水面は雨期に浅く,乾期に深い循環型の動態を示した。各地低地は主に雨期の稲作と乾期の野菜作に利用されており,一方高地は主に短い休閑の後に混作とカカオ畑に利用されている。一次及び二次林に被われている土地は全体の20%以下と推定された。内陸谷地利用の主な制約は、高地の土壌荒廃と谷地低地の水制御と土壌肥沃度維持である。
  • Kwame Osafredu ASUBONTENG, 久保田 大輔, 林 慶一, 増永 二之, 若月 利之, Ernest OTOO
    2001 年 10 巻 4 号 p. 555-564
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    ガーナの半落葉樹林帯に位置するアシャンテ地域の内陸谷地低地において,sawah(水田)システム(畦作り,均平化,代かきによる潅概稲作)の効果を伝統的な焼畑による天水田と比較して研究した。異なる栽培システムのもとにいくつかの有機と無機肥料の施肥試験を行った。sawahシステムは農民の天水低地栽培法と比べ有効分けつ数,ワラ生産量,籾収穫量が大きかった。肥料の中で,地較的NとPに富む鶏糞たい肥と無肥料N 90, P2O5 60, K2O 60 kgha-1の推奨量施肥が,両稲作システムにおいて籾収穫量に同様の効果を示し,このことは土壌中の可給態NとPが欠乏気味であることを示した。各地低地においてsawahシステムは稲籾とワラのN九州に大きな効果を示し,また無機·有機態ともに施肥Nの吸収N利用効率とN利用効率ほ,谷地低地sawahシステムで高くなった。現在のア シャンテ地域の各地低地における天水低地の条件では,無機·有機態ともに施肥N の利用効率は非常に低かった。本研究結果は,内陸谷地低地において稲生産量増加のための肥料の効率的な使用にはsawahシステムの導入が必要であることを示した。
  • Sabaruddin KADIR, 石塚 悟史, 櫻井 克年, 田中 壮太, 久保田 しのぶ, 廣田 円佳, Satria Jaya PRI ...
    2001 年 10 巻 4 号 p. 565-580
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    インドネシアの熱帯雨林にとって火災は大きな脅威である。しかし,土壌への野火の影響を定量化した情報はきわめて限られている。そこで,インドネシアに分布するアルティソル土壌の性質に,森林火災がもたらす残 効 について検討した。木研究では,異なる野火履歴をもつ種 みの生態系下にある土壌の物理化学性を評価した。7つの調査地点は,火災履歴のない地点: 保全林(TP),松林(PF),アカシア植林地(AM) , ホームガーデン(HG)と,被火災地点: 1995,1997,1998年に火災の被害を受けたアカシア植林地(それぞれ,AM-b95,AM-b97, AMb-98),に大別される。CF, PF, AMでは表層の有機物層が認められたが,その他の地点には存在しなかった・土壌形態学的特徴としては,火災履歴のない地点の土壌は,より暗色Aの層を残していた。仮比重は地点間で大きな違いはないものの,火災後の時間経過に伴い減少する傾向にあった。土壌硬度は被火災地点の表層で若干大きくなるものの,植物生育の制限要因となるほどではなかった。火災履歴のない地点では被火災地点より,酸性が強く有機物の蓄積量も多かった。交換性Ca量はPF, AM-b98, HGで他の地点より高かった。いずれの地点も粘土含量が極めて高いにも関わらず,陽イオン交換容量(CEC)が 低かった。有効態リン酸含量は低く,交換性アルミニウムの含量と有意な負の相関が認められた。Al,Si,Fe酸化物(水酸化物)含量ほ非晶質のものより結晶質のものが多く,荷電ゼ口点の値は4 前後と低かった。火災履歴のない地点はある地点より化学的肥沃度がやや高いものの,調査地のアルティソル土壌は強風化を受けており,自然肥沃度そのものが低いことが明らかであった。
  • 針山 孝彦, Rajinder Kumar SAINI
    2001 年 10 巻 4 号 p. 581-589
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    熱帯地域に住む生活者達にとって,地域固有の病害を媒介する動物を除去することは生活向上にとって不可欠なことである。ツェツエバエは「眠り病」を媒介する昆虫であり,それをコントロールし個体数を削減することにより,実効的に発症数を押さえることは,ヒトの健康と,家畜を中心とした経済活動を守るために急務である。しかし,個体数削減のために,殺虫剤を用いることは簡便であるが,広大な地域に施すとなると技術的に難しくまた莫大な費用が掛かる。さらに深刻な問題として生態系のバランスを大きく乱す結果を 招く恐れがある。ツェツ エバエをコ ントロールする最適な方法は,彼らの特徴的な生得的行動様式を知り,そのを生かして棲息総数を減少させることである。光に対し集まる特徴のなかでも本研究では色特性に注目し,野外において種なの色で作ったトラップに捕獲される個体数を調べた。臭い刺激が無いときは「青色」に,臭い刺激があるときより「緑 がかった青色」に集まることが観察された。色覚情報処理の視点から,臭い刺激が加わった時の「緑がかった青色」の刺激は,ツエツエバエにとってよりホスト動物に近い色であると弁別されているのではないかと推論される。この地域に生活する人みにとって,低コストでかつ簡便に使用できるトラップの改良ほ生態学的·経済学的視点からもサポートされるものと考える。
  • 赤嶺 淳
    2001 年 10 巻 4 号 p. 591-607
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    ナマコは,遅くとも 18世紀から,東南アジアより 清国へさかんに輸出されてきた商品である。植民地期における漁民像を再考するにあたって,中国世界を市場とするナマコやフカヒレなどの海産物の生産と貿易の重要性が指摘されてきた。しかし,ナマコ産業そのものの具体的な様相は ,明らかにされていない。本研究は,東南アジア島嶼部 に「伝統」的であると考えられるナマコ産業に着目して,植民地期から現任にいたるまでの東南アジア社会を描写しようとする作業の端緒として,19世紀から20世紀初頭における流通種と現在の流通種とを比較し,伝統的産業の連続部分と断絶部分を指摘するものである。そして,現行の流通種の特徴を,低価格性にもとめたうえで,高級種から低級種へと捕獲対象が変化したことによって,漁村にどのような変化が生じたかについてパラワン州南部のマンシ島の事例を検討する。
  • Adi Djoko GURITNO, 村尾 行一
    2001 年 10 巻 4 号 p. 609-623
    発行日: 2001年
    公開日: 2009/01/31
    ジャーナル フリー
    インドネシアにおける森林減少問題の原因を, インドネシア林産業の今後の原料需要と関係付けて明らかにしようとした。研究の結果は , インドネシアの森林減少の主要な原因は外領(インドネシアの中のジャワ島以 外の地域) への移民政策, 林地の他地目への変換, 粗雑な焼畑, 森林火災, そして過伐乱伐さらにほ盗伐といった林木の不法伐採であることを示している。こうした不法伐採が行われ続けている根本的な原因は木材加工施設が過剰に設立·操業されていることにある。現状のままて推移すれば,早くも2000年に木材需要量は 木材供給の許容量を超える。事態を打開するために講じられるべき施策の主なものは,(1)林木伐採と均衡する再造林事業の遂行,(2)過伐乱伐や不法伐採を規制するための法的規制と森林監守体制の強化, (3)持続可能な経営を実現するための森林経営のあり方の是正, である。
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