Tropics
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2 巻, 1 号
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  • Erizal MUKHTAR, 鈴木 英治, 甲山 隆司, Marlis RAHMAN
    1992 年 2 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 1992年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    スマトラ島のパダン近郊にある熱帯多雨林の継続調査区で,革質の葉と1種子性の核果を持つCalophyllum cf. soulattri (オトギリソウ科)の更新過程を調査した。その結果,次のような性質を持つことが分った。
    1. 成熟林分が多い1haの調査区(Pinang-pinang) では,樹高27-38 m の母樹4 本と9m 未満の実生・幼木2,722 本があった。種別の胸高断面積合計では7 番目に位置するに過ぎないが,実生・幼木密度はもっとも高い。大きな幼木が母樹から離れた所に多かったが,全体として実生・幼木は母樹の周囲に集中分布し,極相林に適応した種と考えられる。
    2. 母樹周辺の実生と幼木の平均成長速度は2-2.5 cm / 年と推定された。現存する母樹が仮に100 年前から果実生産を開始したとすれば,成長の早い幼木で9cm /年の速度で成長したとしても, 9m 未満の実生幼木は現存する母樹の子孫と考えることができる。また実生・幼木の分布が,現在の母樹の近くほど多いことも,それらの子孫であると推定させる。
    3. 1981-1989 年の調査期間中に1 度しか結実を観察できなかったので,まれにしか結実しないが,結実後の実生発生数は多い。また果実は動物散布で, 100 m 程度の遠距離までは運ばれると考えられる。
    4. ギャップの多い0.86ha の調査区(Gajabuih) では, Pinang-pinang と異なり,実生と母樹がなくて0.7-17m の若木だけが31 本あった。
    このように極相種でありながら,ギャップ依存種に類似したサイズ分布を持ち,不連続に更新しているようにみえる樹種の更新機構を説明するために,次のような性質を持つ植物を想定した。
    1. 老齢個体だけが繁殖でき,広範囲に種子散布を行う。
    2. 散布された種子は母樹のそばでも定着成長できる。
    3. 繁殖開始後の母樹の寿命は短く,次世代が繁殖を開始する以前に死亡する。
    この植物は,種子散布域程度の面積ごとに,母樹と幼木がある林分と,中間の若木だけの林分とが成立することになる。したがって,その林分の中でサイズ構成を調べると,不連続に更新しているようにみえる。しかし,この植物は不連続に繁殖するが,同じ林分に連続して生存する点でギャップ依存種とは異なる。
    まだ寿命・繁殖年齢などの資料が不足しているが,Calophyllum cf. soulattriがこのような性質を持った種であると考えると,得られた結果を最もよく説明できる。従来の更新機構に関する議論やモデルでは繁殖期間を考慮することがほとんどなかったが,繁殖期間が更新様式に大きく影響する可能性がある。
  • Vipak JINTANA, 二宮 生夫, 荻野 和彦
    1992 年 2 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 1992年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    マングロープは高塩分濃度,強酸性,低酸素濃度などのストレスの下に生育している。これらのストレスは互いに密接に関係しマングローブの生長に影響を与えているが,これまでマングローブのストレスに関する研究は高塩分濃度に集中していた。本研究は土壌中の低酸素濃度の影響を明らかにする目的で, Rhizophora apiculata 実生苗を極端な低酸素濃度の土壌と通常の酸素濃度の土壌で栽培し,それぞれの条件下での根系発達を比較した。
    2 つの異なる樹齢の幼苗を愛媛大学農学部構内の温室において,直径10.7 cm,深さ42 cm の円筒状のポットに植えつけた。10 個体は胚軸を新しく植えつけ,別の10 個体は植栽後80 日間経過した幼苗である。ポットの縁までホーグランド培養液を満たした土壌に,低酸素濃度条件と高酸素濃度条件を与えるため,各樹齢のポット5 個づつにエアポンプで空気を送った。空気の流入速度は土壌の撹乱を避けるために7 ml s-1 以下に抑えた。他の5 つのポット(2 樹齢グループあわせて10 ポット)は低酸素濃度条件にするために無通気状態に保った。養分溶液は常にポットを満たすように補充した。ポット内の深さ15 cm における溶存酸素濃度を測定したところ,無通気条件では0.6 mg l-1 以下,通気条件で2.2-2.5 mg l-1 を保っていた。各処理区で日中の純光合成速度と葉の水ポテンシャルおよび夜間の暗呼吸速度を1991 年7 月9 日に測定した。実験開始後85日目と115 日目に幼苗を掘り取り現存量を測定した。掘り取った幼苗は丁寧に洗い,主根と側根の数を数えた。根を土壌表面から深さ5cm ごとに分け,直径階別に重量を測定した。根の横断面を顕微鏡で観察し,皮層の細胞および細胞間空隙の断面積を測定した。
    無通気条件の栽培では,通気条件に比べて地上部,根とも乾重が減少した。根の乾重の減少割合が5~30% であったのに対し,地上部の減少割合は26~38% であった。しかし両者のT/R 率には有意差は見られなかった。純光合成速度は無通気条件で高い値を示したが,暗呼吸速度には有意差が認められなかった。
    無通気条件では通気条件に比べて,側根の数が増加したが,根の全長は短くなった。無通気条件では根が比較的酸素濃度の高い土壌表層付近に多く分布し,直径2mm 以下の細根の占める割合が多くなった。この細根の増加は側根の数の増加と密接に関係している。無通気条件では皮層中の細胞間空隙率が増加した。低酸素濃度条件下で細胞間の空隙率が増加することは,根系への酸素拡散にとって有利にはたらし通気条件では無通気件にくらべて根の伸張速度が速く,根が深くまで貫入した。
    以上のように土壌が極端な低酸素濃度におかれるとRhizophora apiculata 実生苗の根および地上部の生長は抑制される。しかし根系発達過程において,比較的酸素濃度の高い表層付近に根を分布させ,側根や細根の割合が増加し,根の全長を短くし,さらに皮層中の細胞間空隙率を増加させ,土壌中の低酸素条件に対する適応を獲得していることがわかった。
  • Ken OYAMA, Rodolfo DIRZO, Guillermo IBARRA-MANRIQUEZ
    1992 年 2 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 1992年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    メキシコの低地多雨林(Los Tuxtlas) において,最も一般的な5 種のヤシ類-Astrocaryum mexicanum, Bactris tricophylla, Chamaedorea oblongata, C. tepejilote とGeonema oxycarpa ーについて集団構成の分析がなされた。ヤシ類で1.5 m 以上の高さの個体とそのカバーが600m2 コドラート3個について測定された。密度の高い種はC. tepejilote とA. mexicanum であった。カバー面積が最も広いのはA. mexicanum であった。Chamaedorea tepejilote が最も密度の高いヤシであったが,カバー面積も大きかった。ほとんどすべてのヤシの種のアーキテェクチャーはComer モデルを示したが, B. tricophylla はTomlinson モデルであった。Los Tuxtlas の林内植生の,個体の50% 以上がヤシ類で占められているが,ヤシの種類数は他の熱帯森林に比較するとすくない。Chamaedorea 属は最も多くて5 種あったが,他の属はそれぞれ1 種しかなかった。
  • 福原 晴夫, Gerald Eustaquio TORRES, Sonia Maria CLARO MONTEIRO
    1992 年 2 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 1992年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    アフリカ熱帯湖沼の底生動物について,ライトトラップによる採集結果より,新月の夜に羽化する種の存在が予想されていたが,ライトトラップによる採集結果は,特に夜間の照度に大きく影響されるため,羽化時期の直接的な証明にはなり難かった。そこで,本研究ではエマーゼンストラップを湖に連続的に設置し,羽化した成虫を採集することにより,ブラジルの熱帯湖においてフサカの一種Chaoborus (Edwardsops) magη析cus が新月の夜から大量に羽化を開始することを直接的に証明した。
    ブラジル南東部のRio Doce 湖沼群の一つ, Dom Helvécio湖(19°47&rsqu;S, 42°35&rsqup;W; 最大水深33m,面積6.9 km2)で調査を行なった。本湖は乾期, 7 月から8 月にかけて一度だけ循環する貧栄養湖に属する熱帯湖で,底生動物では4 種のフサカ幼虫のみが深底帯に分布する。湖心部に2 基のエマーゼンストラップ70 cm &time; 70 cm) を水表面下1m に1987 年7 月10 日から7 月31 日まで設置し,ほぼ毎日羽化成虫を採集した。調査期間中では一種(C. magnificus) のみが多く(981個体のうち95%) 採集され,その羽化は7 月26 日をピークに突然開始された(Fig. 1)。この日の羽化の99.7% は明け方の3:00 から6:00 の間に起きた。羽化の多かった4 日間に調査期間全体の95% が採集された。調査期間中の表層水温の変化はわずか0.4°Cであり,日長の変化も12 分であった。またこの羽化の前後で気象条件の顕著な変化はなかった。この様な安定した環境条件下で特に顕著な点は7 月26 日が新月であったことである。羽化の開始時に雄が多く,続いて雌が羽化してくる(Fig.2) 典型的な双題目昆虫の羽化パターンを示すことより,この羽化は, Gliwicz (1986) が報告したような新月に魚類の補食圧が弱まることによる見かけ上の羽化個体数の増加現象と見ることは出来ない。アフリカ熱帯において報告されているライトトラップによる結果などから新月(0 時の月齢は0.3日)に本種が羽化を開始したものと推定した(Fig. 2)。プランクトンネットで採集した幼虫の令構成も新月に近付くにつれて4 令の割合が高くなり,月周による成長の向調と新月羽化の可能性を示唆する(Fig. 3)。材重の幼虫は表層への日垂直移動を行い,月光を同調因子として利用出来る可能性がある。
    熱帯湖のような年間の温度較差が極めて少なく,日長の変化も小さな安定した環境下においては,ある種の動物の生活史に月周期が同調している可能性を指摘した。また,同調性羽化の適応的意義についても考察した。
  • Oddy A. MANUS, Eddy MANTJORO, 陣内 義人, 重見 之雄
    1992 年 2 巻 1 号 p. 35-48
    発行日: 1992年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    インドネシアの遠隔地に位置する漁家の経済を理解するために,北スラウェシ州のケマティガという漁村の実態調査を行ない,その結果を分析した。ケマテイガの経済は海洋漁業に依存しており,主な漁法は釣り,刺網,まき網漁法であった。生産物は生産者から仲買人または行商人に売られたり,自家消費にまわされたりする伝統的な流通様式がここでは見られるが,加工は原始的な薫製生産に限られていた。
    動力船や新技術の導入等によって近年は漁獲努力が増大しているが,それにもかかわらず資源枯渇問題や漁民間の漁業紛争はなく,村民は水産資源管理よりも水産業の進行により多くの関心をもっていた。
    漁家は,船主所帯と雇われ所帯とに分けられた。船主所帯は,釣り漁業,刺網漁業,まき網漁業に従事する所帯に分けられ,雇われ所帯は,村の以前からの住民である隣人所帯と他所からやってきた移民所帯に分けられた。雇われ所帯と船主所帯との間には固定的な血縁関係はみられず,雇われ所帯はいつでも自由に雇用主を変えることが出来る。しかし,雇用関係の安定さは,血縁関係をもつ家族は固定労働者として最優先され,次いで血縁関係をもたない隣人が,最後に移民所帯が位置していた。
    収入の配分については,総収入を船主と乗組員で等分し,乗組員分を船長あるいは漁撈長が2,漁撈長補が1.5,その他の乗組員が1 の割合で分配するのが一般的であった。
    漁業活動を拡大していくために必要な資本蓄積は,自作,種々の貯金,および他からの借金によっていた。
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