スマトラ島のパダン近郊にある熱帯多雨林の継続調査区で,革質の葉と1種子性の核果を持つCalophyllum cf. soulattri (オトギリソウ科)の更新過程を調査した。その結果,次のような性質を持つことが分った。
1. 成熟林分が多い1haの調査区(Pinang-pinang) では,樹高27-38 m の母樹4 本と9m 未満の実生・幼木2,722 本があった。種別の胸高断面積合計では7 番目に位置するに過ぎないが,実生・幼木密度はもっとも高い。大きな幼木が母樹から離れた所に多かったが,全体として実生・幼木は母樹の周囲に集中分布し,極相林に適応した種と考えられる。
2. 母樹周辺の実生と幼木の平均成長速度は2-2.5 cm / 年と推定された。現存する母樹が仮に100 年前から果実生産を開始したとすれば,成長の早い幼木で9cm /年の速度で成長したとしても, 9m 未満の実生幼木は現存する母樹の子孫と考えることができる。また実生・幼木の分布が,現在の母樹の近くほど多いことも,それらの子孫であると推定させる。
3. 1981-1989 年の調査期間中に1 度しか結実を観察できなかったので,まれにしか結実しないが,結実後の実生発生数は多い。また果実は動物散布で, 100 m 程度の遠距離までは運ばれると考えられる。
4. ギャップの多い0.86ha の調査区(Gajabuih) では, Pinang-pinang と異なり,実生と母樹がなくて0.7-17m の若木だけが31 本あった。
このように極相種でありながら,ギャップ依存種に類似したサイズ分布を持ち,不連続に更新しているようにみえる樹種の更新機構を説明するために,次のような性質を持つ植物を想定した。
1. 老齢個体だけが繁殖でき,広範囲に種子散布を行う。
2. 散布された種子は母樹のそばでも定着成長できる。
3. 繁殖開始後の母樹の寿命は短く,次世代が繁殖を開始する以前に死亡する。
この植物は,種子散布域程度の面積ごとに,母樹と幼木がある林分と,中間の若木だけの林分とが成立することになる。したがって,その林分の中でサイズ構成を調べると,不連続に更新しているようにみえる。しかし,この植物は不連続に繁殖するが,同じ林分に連続して生存する点でギャップ依存種とは異なる。
まだ寿命・繁殖年齢などの資料が不足しているが,Calophyllum cf. soulattriがこのような性質を持った種であると考えると,得られた結果を最もよく説明できる。従来の更新機構に関する議論やモデルでは繁殖期間を考慮することがほとんどなかったが,繁殖期間が更新様式に大きく影響する可能性がある。
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