インドネシア共和国東ジャワ州にあるプルウォダディ植物園内(7°47’S,112°41’E,海抜300m)において,木本性のコダチアサガオIpomoea carnea(ヒルガオ科)を食草とする大型のジンガサハムシAspidomorpha miliaris (AM)とA.sanctaecnicis (AS)の個体群動態を調査した.
プルウォダディでは,5-7ヶ月に及ぶ強い乾季(5,6月から10,11月)があり,年間雨量は約2600ミリである.調査期間のうち1993年は乾季が弱く,雨期にも小雨であった.反対に1994年の乾季は特に強く7ヶ月(うち4ヶ月は降雨ゼロ)続いた.
1993年3月に園内の三カ所(A,B,Cサイトと呼ぶ)に食草10本ずつを挿し木して調査地とした.1993年6月末から1996年3月まで7-10日間隔で連続センサスした.毎回新しく発見した全成虫の性別,鞘翅の色彩(3段階.日齢を反映する)を記録したのち,ラッカーで個体識別マークを付け元の食草に放逐した.サイトあたり食草の総葉数を月1回記録した. 全体として,食草の葉数は,雨期に増加し,乾季に減少した.葉数の増減は,プロットの日当たり,水源の有無,食草の齢,乾季の強さなどに左右された.日陰にあり水源のあるBの葉数は,乾雨季の交代に関係なくほぼ一定であったが,日当たりのよいAとCでは,食草量が乾雨季の交代につれて増減した.
調査期間中に出現した成虫総数は,ASがAMの約3倍であった.両種とも日陰で食草の発育の悪かったBに最も多数出現し,葉あたり密度もBが最高であった.AMはBに集中し,ASはBのほかAも利用できた.Cは両種にとり乾燥しすぎであった. AM, ASとも成虫数は,雨期に増加し,乾季には減少しやがて消失し,次の雨季に再出現した.雨期には,産卵により羽化数が増加し,乾季には産卵が停止するので,成虫数が減少した.成虫の食草上での滞在日数は,平均10日以下に過ぎず,乾季と雨季で差がなかった.最高値は,AMで68日, ASで144日であった.日陰であるBでの滞在日数がA,Cよりも有意に長かった.
1993/94雨期の成虫数に比べ,1994P5雨期,1995D6雨期の成虫数がずっと少なかったことは,食草の好適度の加齢による減少を示すのかもしれない.
成虫個体数の変動は,ピークと谷が等間隔で「鋸歯状」にならんでいた.日当たり産卵数,幼虫,サナギ,新羽数の変動も鋸歯状であり,成虫数変動と対応していた.このことは,各ピークが1世代を示し,世代交代が不連続(discrete)に次々と生じている(successive)ことを示す.
性比は,AMでは1:1, ASではメスに大きく偏した.
強い乾季のある本調査地における両種の繁殖戦略を論じるとともに,非季節的多雨熱帯であるスマトラ島のパダンやジャワ島のボゴールの個体群の動態特性と比較した.
抄録全体を表示