Tropics
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8 巻, 4 号
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  • Anong TEJAJATI, 藤原 一絵, Thawachai WONGPRASERT, Vacharee RACHSAISORADEJ
    1999 年 8 巻 4 号 p. 329-356
    発行日: 1999年
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Braun-Blanquet法による植物社会学的研究が,タイ国バンコク郊外の現存植生を対象として行われた。その結果,研究対象地域の植物群落は以下の5つのカテゴリーに区分された:1)水生植物群落(5群落);2)禾本科草本雑草群落(9群落);3)半自然性森林群落(4群落);4)二次林およびマント群落(2群落);5)果樹園放棄地雑草群落(1群落)。 これらの植物群落には,68科147属191種を含んでいる。バンコック郊外の低地を代表する,現在きわめて稀な植物群落はDipterocarpus alatus群落, Salix tetrasperma群落,Erythrina fusca群落とSyzygium cumini-Elaeocarpus hygrophilus群落でまとめられる半自然林である。Salix tetrasperma群落が,バンコック郊外に生育していることは,特に熱帯地方では知られていない。本報告はバンコク郊外における現存植生の初めての記載である。残存自然植生はきわめて少なく,郊外に広がる急速な都市化による人為的影響により景観も変化している。例えば,農業地域は住宅地域と工業地に換えられ,湿地と沼沢林がゴルフコースや一般的な都市基盤整備のために埋め立てられている。
  • 米田 健, 甲山 隆司, 堀田 満
    1999 年 8 巻 4 号 p. 357-375
    発行日: 1999年
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    インドネシア,西スマトラ州の亜山地性多雨林域において,12年間のモニタリング調査から得た皆伐跡地二次林の林分構造と一次生産力の経年変化にもとづき,湿潤熱帯下での二次林の遷移過程を解析した.
    二次林の構成種数は1000 m2程度の小面積で胸高直径が5cm上を対象とした場合,30-40種程度と成熟林分の半分以下で,また数種の明瞭な優占種が存在した.それらの種は,いずれも伐採後種子から生長した二次林種であった.生体量の回復速度は土壌条件により大きく異なり,湿潤で肥沃な場所では,伐採後9年で地上部現存量が300ton ha-1以上の回復を示した.しかし,その後急速に優占種が多数枯れ,萌芽更新型の種群や成熟林構成型種群の優占度が相対的に高まった.萌芽更新型の種では,株サイズが更新初期の生長速度と高い正の相関を示したことから,強度の伐採圧はこの種群に有利に働くことが示唆された.
    二次林構成種は成熟林の構成種に比べ全体的に幹材の物理的硬度が低く,また二次林構成種間において柔らかい樹木ほど肥大生長速度が高いことが判明した.この硬度と生長速度との関係を用い,モデル計算により同一サイズで堅さの異なる樹木間での生長量を比較したところ,乾物生産量ではほとんど差がなかった.このことから,個体レベルでの潜在的生産能力には種間で大差なく,生存戦略に対応した部位に光合成産物を転流していることが示唆された.
    一次生産力は植生回復の初期段階で最大値を取り,その後一定値を保つ傾向を示した.安定期の値は,隣接する成熟林と有意な差が無く,地下部を考慮するとする26~30ton ha-1 y-12であった.再生段階のごく初期に生産力が最大値を示す理由は,肥大成長率(RGRD)がとくに初期段階で高いことによる.このRGRDと胸高直径の関係における経年変化が,種の入れ替えなしで生じた場合と種間の入れ替えが主な原因として生じた場合の2ケースについて,幹の堅さを考慮した一次生産力の遷移過程を数学モデルを用いて考察した.
  • Herwint SIMBOLON
    1999 年 8 巻 4 号 p. 377-395
    発行日: 1999年
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    インドネシアフローレス島の自然休養公園の森林について,現在の状態を正確に把握するため,その構造,種の分布,種多様性,垂直分布についての生態学的研究を行った。Lempang Paji, Ulwae, Mano,PonggeokとMocokの5調査地を選び,それぞれの調査地で高度差100 m毎にライントランセクトを設置し,その20m毎に調査点をとり,そのまわりの四つの扇状方形区毎に調査点との最短距離にある樹木(DBHが10 cm以上のもの)について調査した。
    休養公園の森林帯は大まかに3森林帯に分けることができる。最も低い520mにあるMocokでは, Artocarpus elasticusとCanarium asperumが優占する熱帯低地林である。800 mから高いところでは, Celtis tetrandra-ltea macrophylla林, Villebrunea sylvatica-Talauma sumbawensis林, Elaeocarpus sphaericus-Mallotus philippinensis林, Palaquium obovatum-Cryptocarya densiflora林, Platea excelsa-Elaeocarpus floribundus, Pagiantha sphaerocarpa-Acer niveum林, Pittosporum moluccanum-Palaquiumobovatum林, Chionanthus ramiflorus-Litsea resinosa林が認められたが,上記の森林に共通して出現する種もかなりの数に上った。1500-2100mの山地林としては, UlwaeとPonggeokでPlanchonella nitida-Platea excelsa林が, ManoではAcer niveum-Chionanthus ramiflorus林が認められた。低地の多くの森林型は高度が増すにつれていくつかの森林型に収斂する傾向を示している。
    総基底面積は標高1700mで最も大きく,調査面積の1%に達した。個体当たりの平均基底面積は密度が高い林分では小さく,密度の減少と共に大きくなる。人工的に植林され,その後放置されている林分では個体の平均基底面積は小さかった。調査地域内の人工林の一例は,Eucalyptus urophylla林であった。公園の目的に副うように,引続き人工林化を促進することなく,自然の状態を保全することが望まれる。
  • 松田 正彦, 縄田 英治
    1999 年 8 巻 4 号 p. 397-407
    発行日: 1999年
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    中国,台湾,琉球諸島および日本本土において収集したサトイモColocasia esculenta (L.) Schott 120系統のアイソザイム変異を調査した。PGM, SkDH, AATおよびADHについて得られたアイソザイム表現型にもとついて,各系統は12のグループに分けられた。さらに,それぞれのアイソザイム表現型の間でユークリッド距離を算出しクラスター分析をおこなったところ,日本の3倍体系統は4つに分類され,これまでの他の手法による分類結果と一致した。また,同一のグループに属する3倍体系統が中国と日本本土に,あるいは台湾と琉球諸島,日本本土に共通して分布していたことから,3倍体サトイモの日本への伝播に2つの異なる経路の関与が示唆された。ひとつは台湾および南西諸島を経由した経路で,もうひとつは中国からの経路である。さらに,日本の3倍体品種群のうち土垂群とえぐ芋群は前者の経路で,赤芽群は後者の経路で日本にもたらされた可能性が示された。
  • Woro A. NOERDJITO, 中村 浩二
    1999 年 8 巻 4 号 p. 409-425
    発行日: 1999年
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    インドネシア共和国東ジャワ州にあるプルウォダディ植物園内(7°47’S,112°41’E,海抜300m)において,木本性のコダチアサガオIpomoea carnea(ヒルガオ科)を食草とする大型のジンガサハムシAspidomorpha miliaris (AM)とA.sanctaecnicis (AS)の個体群動態を調査した.
    プルウォダディでは,5-7ヶ月に及ぶ強い乾季(5,6月から10,11月)があり,年間雨量は約2600ミリである.調査期間のうち1993年は乾季が弱く,雨期にも小雨であった.反対に1994年の乾季は特に強く7ヶ月(うち4ヶ月は降雨ゼロ)続いた.
    1993年3月に園内の三カ所(A,B,Cサイトと呼ぶ)に食草10本ずつを挿し木して調査地とした.1993年6月末から1996年3月まで7-10日間隔で連続センサスした.毎回新しく発見した全成虫の性別,鞘翅の色彩(3段階.日齢を反映する)を記録したのち,ラッカーで個体識別マークを付け元の食草に放逐した.サイトあたり食草の総葉数を月1回記録した. 全体として,食草の葉数は,雨期に増加し,乾季に減少した.葉数の増減は,プロットの日当たり,水源の有無,食草の齢,乾季の強さなどに左右された.日陰にあり水源のあるBの葉数は,乾雨季の交代に関係なくほぼ一定であったが,日当たりのよいAとCでは,食草量が乾雨季の交代につれて増減した.
    調査期間中に出現した成虫総数は,ASがAMの約3倍であった.両種とも日陰で食草の発育の悪かったBに最も多数出現し,葉あたり密度もBが最高であった.AMはBに集中し,ASはBのほかAも利用できた.Cは両種にとり乾燥しすぎであった. AM, ASとも成虫数は,雨期に増加し,乾季には減少しやがて消失し,次の雨季に再出現した.雨期には,産卵により羽化数が増加し,乾季には産卵が停止するので,成虫数が減少した.成虫の食草上での滞在日数は,平均10日以下に過ぎず,乾季と雨季で差がなかった.最高値は,AMで68日, ASで144日であった.日陰であるBでの滞在日数がA,Cよりも有意に長かった.
    1993/94雨期の成虫数に比べ,1994P5雨期,1995D6雨期の成虫数がずっと少なかったことは,食草の好適度の加齢による減少を示すのかもしれない.
    成虫個体数の変動は,ピークと谷が等間隔で「鋸歯状」にならんでいた.日当たり産卵数,幼虫,サナギ,新羽数の変動も鋸歯状であり,成虫数変動と対応していた.このことは,各ピークが1世代を示し,世代交代が不連続(discrete)に次々と生じている(successive)ことを示す.
    性比は,AMでは1:1, ASではメスに大きく偏した.
    強い乾季のある本調査地における両種の繁殖戦略を論じるとともに,非季節的多雨熱帯であるスマトラ島のパダンやジャワ島のボゴールの個体群の動態特性と比較した.
  • 山根 正気, 橋本 佳明
    1999 年 8 巻 4 号 p. 427-432
    発行日: 1999年
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    ボルネオ島マレーシア領のサラワク州からえられたヒメサスライアリ属(Aenictus)の1新種を記載した。本種の働きアリには,頭幅がせまく両側がほぼ平行で,触角と脚が非常に短く,前伸腹節は正常である小型働きアリと,頭部がより丸く,触角と脚が長く,前伸腹節が異常に肥大し内部に赤い液体をもつ大型働きアリの2型が存在する。働きアリカストの多型と,肥大し赤色の液体をもつ前伸腹節はこれまで本属ではまったぐ知られていなかった。両型とも体長には相当の変異があり一部でオーバーラップするが,頭長と触角柄節の相関をみると,頭長0.55-0.56mm付近で傾きとy切片が明瞭に異なる2つの曲線がえられる。コロニーあたりの小形働きアリの比率は低く,コロニー組織における役割は未知である。大型働きアリがもつ赤色の液体の機能は不明であるが,他種のアリの巣を襲ったときに反撃するアリをなだめるために用いられている可能性がある。
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