社会学年報
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39 巻
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特集「死と看取りの社会学――その問題圏」
  • 徳川 直人
    2010 年 39 巻 p. 1-4
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
  • ―在宅緩和ケアの現場から―
    岡部 健
    2010 年 39 巻 p. 5-14
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
     爽秋会岡部医院は1997年の開院以来,WHOの提唱する緩和ケアの理念を達成するべくチームケアのモデル開発を行なってきた.患者・家族の希望を満たしつつ,QOLサポートを進めるなかで,医療・介護・スピリチュアリティ等を支える多職種の専門職集団(医師,看護師,薬剤師,ソーシャル・ワーカー,介護士,作業療法士,鍼灸師,チャプレン・臨床心理士)を形成するに至っている.このチームで現在年間約300名のがん患者を自宅で看取っており,在宅における看取り率も8割を超えている.
     本稿では,在宅緩和ケア医としてのこれまでの私の経験をもとに,爽秋会で行ってきたモデル形成を紹介し,そのうえで,現在,在宅緩和ケアが直面している課題を提示することにしたい.結論としては,看取りの問題は医療の再構築だけでは解決することが困難であり,社会システム全般の再構築を必要としており,そのためには社会科学的な観点からの分析が必要不可欠であることを示す.
  • ―看取りの現場の経験談が示唆するもの―
    相澤 出
    2010 年 39 巻 p. 15-25
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
     病院での死亡率が世界的に見ても大変高い日本にあって,在宅ホスピスケアという選択肢は患者・家族にとって目新しいものである.そのため,選択の是非をめぐって患者・家族は問い直しを続ける.特にその問い直しが生じるのは,病状や家族をめぐる状況の変化が生じた時である.この時,自宅でのケアを継続するか中断するかをめぐる意思決定がなされる.この意思決定は患者,家族の意向だけでなく,様々な他者(患者と家族にとって重要な他者としてのきょうだい,親族,さらには友人知人)の意見にも左右される.加えて,決定の方針も不動のものではなく,状況の変化にあわせて動揺し続ける場合も多い.本稿では,社会学ではほとんど研究がされていない在宅ホスピスケアの現場について事例に即しながら紹介し,患者と家族が在宅での療養生活を選択するプロセス,迷い,決定について,現場では実際にどのような事態が生じているのかを記述する.
  • ―個の身体と生の贈与-
    原山 哲
    2010 年 39 巻 p. 27-39
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
     「看取り」(work with dying persons)の問題は,看取られる側の個の身体への,見取る側のまなざしだけでなく,看取られる側と看取る側との社会的連帯にかかわっている.このような視座から,本論文は,「看取り」について,次の5点を中心に考察する.第一に,M. フーコーの「臨床医学」のパラダイムから出発し,生・病・死のトラジェクトリーをめぐる個の身体のパラダイムについて考察する.第二に,シンボリック相互作用論の立場からA. ストラウスの研究があきらかにしたように,病者のトラジェクトリーと「苦悩」について考察する.さらに,第三に,日本の「看取り」における家族のプレグナンス(重要性)を問題にし,療養上の世話の担い手としての家族の位置づけについて歴史社会学的視座から言及する.第四に,診療の補助と療養上の世話との階層化の問題化としてのアーティキュレーション・ワークについて,フランスと日本において実施した看護師を対象とする比較調査の結果の分析に依拠して考察する.第五に,個の身体のパラダイムにたいする生の贈与のパラダイムが,家族に限定されない社会的ネットワークを基軸とすることに言及したい.
  • 庄司 知恵子
    2010 年 39 巻 p. 41-44
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
  • ―死と看取りの社会学の展望―
    山崎 浩司
    2010 年 39 巻 p. 45-49
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
論文
  • ―ポスト権限委譲におけるナショナルおよびサブナショナル・アイデンティティ―
    安達 智史
    2010 年 39 巻 p. 51-62
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
     グローバル化の進展は,これまで唯一有意な単位と認められてきたナショナルなものの正当性と有用性を掘り崩し,ローカルな単位のプレゼンスを高めている.ところが,他方で,脱中心化する世界において社会統合を生み出すため,1990年代以降,逆に規範枠組みとしてのナショナルなものの重要性が注目されている.本稿が対象とするイギリスは,近代以降,戦争と福祉を通じてブリティッシュネスの意識を構築してきた.だが,1970年代を契機とした国民国家の衰退がリージョナル・レベルのナショナリズム運動を促し,特に1999年の権限委譲以後,サブナショナル・アイデンティティの意識が高まっている.とりわけ,これまでイギリスと同一視されてきたイングリッシュネスという意識の突出・分出が,イギリスの社会統合をめぐる新たな課題として浮上してきている.それに対し,新労働党は,民主主義的な価値を表すブリティッシュネスという観念を再想像して対処しようとしている.だが,包括的なナショナル・アイデンティティの成立のためには,「契約と連帯のアンビバレンツ」と「普遍主義と特殊主義のジレンマ」という,ポスト国民国家特有の課題を克服する必要がある.新労働党による民主主義的価値を体現するブリティッシュネスとシティズンシップに関する政策は,その2つの困難な課題を乗り越えようとするものである.
  • 余田 翔平, 林 雄亮
    2010 年 39 巻 p. 63-74
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,義務教育修了時以前に父親が不在であること(早期父不在)によって,地位達成にどれほどの格差が生じ,その格差が時代とともにどのように変化してきたのかを明らかにすることである.従来の社会階層・移動研究では,地位達成過程の初期段階で父親がいなかった人々は欠損値として分析から除外されることが多かった.しかし近年,そういった人々の地位達成に着目する動きが見られる.
     「社会階層と社会移動調査」を用いて,早期父不在者の教育達成と初職達成を分析したところ,以下の点が明らかになった.(1) 早期父不在者が高学歴化の流れに取り残される形で,短大以上の高等教育機関への進学格差は拡大傾向にあった.(2) 安定成長期以降,早期父不在を経験した人はそうでない人々と比較して,ブルーカラー職として労働市場に参入する傾向が強まり,専門職や大企業ホワイトカラー職に初職で入職できる割合も低かった.(3) 早期父不在者の初職達成上の不利は低い教育達成によって引き起こされていた.
  • ―教育評価と〈学力保障〉のポリティクス―
    鳶島 修治
    2010 年 39 巻 p. 75-86
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
     本論文では,Basil Bernsteinの〈教育〉言説論を援用し,教育評価と〈学力保障〉のポリティクスという観点から,「全国学力テストの悉皆実施はいかにして正当化されたのか」という問題について検討した.わが国で2007年度に開始された全国学力テストの実施方法をめぐっては,個々の児童生徒のテスト結果を日常的な教育実践の改善に活用することを通じて〈学力保障〉を達成することを目的とし、その悉皆実施を主張する立場があったが,これに対して,中教審義務教育特別部会の場では,学校間の序列化や得られるデータの歪みといった悉皆実施の弊害が指摘されていた.他方で,後に設置された全国学力テストに関する専門家検討会議における議論を通して,全国学力テストには,PISA型の「活用」問題の導入に象徴されるように,教育課程実施状況調査をはじめとする既存の学力調査とは性格の異なる調査内容が設けられることとなった.一面において,それは前述した立場から主張された全国学力テストの悉皆実施を正当化するための方策として理解されうる.このことはまた,全国学力テスト悉皆実施の主張を支えている「教育評価を通じた〈学力保障〉」という理念が調査内容を規定するという関係の存在を示している.
  • ―自由記載からみた問題意識の相異―
    加藤 英一, 田村 京子
    2010 年 39 巻 p. 87-97
    発行日: 2010/07/16
    公開日: 2014/02/07
    ジャーナル フリー
     医療安全管理者は,看護師,医師,薬剤師といった複数の異なった医療資格者によって担われている.但し,この中でも医師と看護師の占める割合が特に大きい.本稿は医療安全管理者が,日常の業務の中で抱いている問題点の分析という観点から,異なった医療資格者間の中でも,医師と看護師における安全業務に対する問題意識の相異を調査を通して明らかにしている.
     結果として,同じ医療安全管理者でありながらも,異なった医師と看護師とでは異なった問題意識を抱いていることが明らかとなった.医師は医療安全業務に対して,その問題の本質は社会や国のレベルにあると捉えているがゆえに,「国レベルの問題」に対して関心を抱く傾向にあり,他方看護師は医療安全業務を身近な組織の問題として捉えているがゆえに,「病院組織内の問題」に対してよりその関心を抱く傾向にある.
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