社会学年報
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44 巻
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特集 「東日本大震災と社会経済的不平等」
  • 植田 今日子
    2015 年 44 巻 p. 1-4
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー
  • ――大船渡市民のパネル調査から――
    阿部 晃士
    2015 年 44 巻 p. 5-16
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市の住民を対象に郵送で実施した,2011年12月と2013年12月のパネル調査データ(有効回答439人)を分析した.地震・津波による被害については,住まいの被害は収入や職業と関連がない一方で,仕事という点ではもともと収入が低い層ほど継続が困難な状況にあったことを確認した.次に,2013年12月時点で自宅を再建できているのは震災前の世帯収入がかなり高い層であること,震災前からの世帯収入の変化には業種・職業による大きな違いがみられることを示した.最後に,意識の点では不安感と生活復興感を取りあげ,2年間に不安感は低下したが生活復興感は変化していないこと,居住形態の効果もあるが,性別や世帯収入の効果が強くなってきたことが明らかになった.また,復興感では,2013年の復興感に対する震災前の世帯収入の効果があった.

     これらの結果から,震災による住まいへの被害は格差との関連は小さかったが,その後,仕事の継続や住まいの再建といった復興過程に経済的要因による格差が存在したといえる.さらに,震災前の収入が震災2年9カ月後の時点での生活復興感に結びつていることから,震災前の格差が復興過程の格差に,さらに復興における意識の格差にもつながっていると考えられる.

  • ――仙台市における生活実態調査から――
    渡辺 寛人
    2015 年 44 巻 p. 17-24
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     東日本大震災以降,貧困問題への視点は薄れ,被災問題ばかりがクローズアップされている.しかしながら,被災者が抱える困難の性質は,被災によって一時的に生じた問題だけではない.むしろ,経済的困窮をはじめとする貧困問題としての性質が極めて強く現れている.こうした状況にもかかわらず,「最後のセーフティネット」である生活保護制度は,被災地においても十分に機能しているとは言えない.本稿は,筆者らが行なった仙台市の仮設住宅における生活実態調査をもとに,被災問題と貧困問題との重なりを明らかにしつつ,被災問題に限定されない普遍的な社会保障制度の構築が必要であるとの問題提起をしたものである.

  • ――「復興」に隠された被害の構図――
    加藤 正文
    2015 年 44 巻 p. 25-38
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     アスベスト(石綿)は他に類を見ない有用性から産業革命以降,各国で大量使用されてきた.その用途は3千種類に及んだ.しかし,髪の毛の5千分の1の微細な石綿繊維は,吸引すると長い潜伏期間をへて中皮腫や石綿肺などの病気を引き起こす.生産・流通・消費・廃棄の経済活動の全局面で被害を起こす「複合型ストック災害」(大阪市大名誉教授・宮本憲一)とされる.

     微細な死の棘が一気に拡散されるのが,大震災のときだ.激しい揺れで倒壊した建物からは,建材などに内在していた石綿が周囲に飛散する.1995年の阪神・淡路大震災では大量の建物が倒壊し,粉じんが舞いあがった.20年あまりが過ぎ,がれき処理に携わった労働者の間で発症が相次いでいる.震災で家族や自宅,工場などを失い,さらに時をへて石綿の病気にかかってしまう.この不条理こそが震災アスベストの特徴である.この教訓は2011年の東日本大震災の被災地できちんと生かされているのだろうか.宮城県石巻市や仙台市などでは飛散対策の不備やマスクの装着の不徹底など飛散・吸引のリスクを各所で感じた.

     アスベスト被害は使われた範囲が広い分,被害の形もまた多様である.有害と知りつつも「管理して使えば安全」として十分な規制を怠る.その結果,大勢の市民が犠牲となり,いまも危険にさらされ続ける.その姿は,東京電力福島第一原発事故を引き起こし,迷走したままの原子力政策とも重なる.

  • 佐藤 嘉倫
    2015 年 44 巻 p. 39-41
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー
  • 加藤 眞義
    2015 年 44 巻 p. 43-45
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー
論文
  • 池田 岳大
    2015 年 44 巻 p. 47-57
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     女性が各キャリア段階において形成した人的資本は,必ずしも再就職の際に有効に機能しないことが先行研究において示されてきた.しかし,いまだ未検証な人的資本の指標として職業資格があり,人的資本理論やシグナリング理論に基づいて考えると,その独自の効果が期待される.そこで本稿では,再就職移行に際して職業資格とその取得時期が他の人的資本の指標とは異なる独自の効果をもちうるのか検証した.

     データは2005年SSM調査を使用し,そのうち結婚・出産を機に離職した女性の再就職移行に関して,離散時間ハザードモデルを用いて推定を行った.主な結果として,(1)入職以前の人的資本の指標となる最終学歴は効果をもたないこと(2)入職後の人的資本の指標となる職業経験の効果は一貫したものではないこと(3)入職後に職業資格を取得した者は再就職に移行しやすく,そのほとんどが20年以内に再就職していること(4)入職後の職業資格の効果は,他の人的資本の指標となる変数を統制したうえでも独自の効果をもつことが示された.この結果,職業資格には女性の再就職移行において,特定の職業との結びつきを高める可能性や,採用側との情報の非対称性を埋め合わせる効果が期待される.

  • ――一元的社会観の否定と4つの「力の源泉」――
    上田 耕介
    2015 年 44 巻 p. 59-69
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     マイケル・マンの斬新な理論には,歴史研究・現代社会分析にとって,大きな可能性が秘められている.従来の社会学理論の主流は,全体社会を想定したうえで,その諸要素(次元,下位システム等)のいずれかに社会形成の要因を見いだす,というものであった(「要因論」的分析).マンは,明確に境界づけられた全体社会の存在を否定し,「境界を異にする多様なネットワーク群」から社会が構成される,と見る.その上で,支配的ネットワークの「間隙」から新ネットワークが成長し,社会変動を引きおこす,とする(「組織論」的分析).そうした新旧ネットワークのうち,大きな力を持つのが,「イデオロギー」「経済」「軍事」「政治」の4つの「力の源泉」である.この枠組には,従来の社会理論において軽視されてきた軍事と国家間関係が含まれており,マン理論は,社会学理論の発展にとっての重要な貢献となっている.

  • 下瀬川 陽
    2015 年 44 巻 p. 71-81
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     近年,日本における大学・短大中退者は増加し,中退への関心は高まっている.一方で,中退者の社会経済的地位達成に着目した研究はあまりなされていない.本稿の目的は,大学・短大を中退したことがその後のライフコースへ与える影響について,計量的アプローチを用いて明らかにすることである.「正規雇用に就くことができるか」「獲得可能な賃金」の2点を達成の指標に分析を行ったところ,大学・短大中退者は中長期的にも正社員就業しづらいこと,同じ正社員経験のない者であっても卒業者に比べ賃金が低くなることが明らかになった.正社員になることのできない大学・短大中退者は,大学・短大卒業者に比べて賃金の面では不利であり,より条件の良い仕事は卒業者に取られてしまうのである.

  • ――対数乗法層化モデルを用いた階層効果とトラッキングの世代間比較――
    濱本 真一
    2015 年 44 巻 p. 83-93
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     本論は,教育達成の階層差生成過程およびその世代変化を検証するものである.日本の学校教育は,戦後から拡大を続け,量的な飽和とともにその内部における質的な差異に関しても注目が集まるようになってきた.質的差異によって,同じ教育段階であっても「よい学校」へのアクセスに対して出身家庭背景の影響力があることが指摘されている.

     特に本論では中学校段階(国私立/公立)も含めた各教育段階の質的な差異に着目し,それぞれに出身家庭背景の影響力が存在しているのかを検討するとともに,前期の教育選抜の結果が後の教育段階に与える影響(トラッキング)の変化も同時に考察する.

     分析の結果,(1)中学校,高校,高等教育すべての段階に関して出身家庭背景による質的分化があること,(2)若年世代において高校に対する直接の階層効果は減少していること,(3)トラッキングの構造は一定ないしは強化されていること,(4)高等教育段階に関する直接の階層効果は増大していること,が確認された.これらより,若年世代において出身家庭背景は,中学校段階における分化の継承と,最終学歴段階による直接的な影響として教育達成過程に働きかけることが明らかとなった.

     中学校と高等教育段階の質的差異は今後も拡大することが予想され,個人の教育達成過程は今後もますます階層による影響を受けやすくなることが示唆される.

  • ――新農業人ネットワーク山形の活動を事例として――
    三須田 善暢
    2015 年 44 巻 p. 95-106
    発行日: 2015/07/16
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー

     本稿では,新規就農者たちによる助け合い・直売・ボランティア活動を中心とする団体(新農業人ネットワーク)を取りあげ,その展開過程を具体的な事例に即して見るなかから,彼らの活動の特徴とその含意を明らかにする.

     Iターンなどの新規就農者は,「自分自身の確固とした宇宙」をつくる傾向が強く,個性的な人間が多い.そうした彼らがこうした団体を結成し活動を続けてきたのは,販路を確保するという経済的理由にくわえ,地域と密に溶け込み難いゆえに同じ境遇である仲間の協力を必要としたからでもあった.この助け合いの精神と,自らの経営を単なる自己利害のためにとどめたくないとする志向があいまって,引きこもり・障碍者支援や高校生の就学援助,環境保全,震災ボランティア,独自の就農支援企画等の「公共性」の強い活動へと向かわせていった.別言すれば,ある意味で「社会運動」としての側面を強く持ったものへと進展していったのである.彼らの活動は,生活のためであると同時に遊びの要素と「夢」を含んだ側面が強く,それが公共的なものと結びつきあらわれている.しかし,彼らが述べ志向する公共性は,現時点では地元農村地域,特に集落との関わりが薄いものにとどまっている.

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