社会学年報
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48 巻
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特集Ⅰ「差別の生成メカニズムに関する理論研究・質的研究・計量研究の対話」
  • 永吉 希久子
    2019 年 48 巻 p. 1-3
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー
  • 理論の拡張と体系化をめぐる試み
    内藤 準
    2019 年 48 巻 p. 5-18
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     社会科学的な差別研究が困難なものとなる理由の一つに,その対象となる社会現象の認識自体が,時代とともに変化していくことが挙げられるだろう.社会学の差別研究でも,以前は差別と呼ばれなかったり,差別と考える人と考えない人とが混在するような差別現象が新たに見出され,それらを分析するための理論的な試行錯誤が繰り返されてきた.社会学的な差別研究における重要な理論的拡張の一つに,分析の中心を「集団に向けた攻撃」から「マジョリティからの排除」にシフトさせたことがある.これにより社会学的な差別研究では,被差別者集団へ向けられた攻撃のようなものだけでなく,被差別者を意識せずになされる行為や,いじめのような個人の排除といった多様な現象が,差別として分析の射程に収められるようになった.また,こうした理論的拡張は,「差別の解決」を考え,理論の体系化を試みる際に,より精密な理論的分析を可能にするものでもある.

     本稿では,社会学的な差別研究を理論面から検討し,こうした一連の理論的拡張を跡づけることを試みる.そのうえで,理論社会学的な社会秩序問題の枠組みを応用し,相互主体的な相互行為の理論モデルを用いることで,さまざまな差別の要因とそれらの絡まり合いを体系的に把握する試みを提示する.

  • 安倍首相「こんな人たち」発言の分析から
    佐藤 裕
    2019 年 48 巻 p. 19-29
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     「差別をする」というのはどういうことだろうか.私の研究テーマは差別論であるが,私の関心は差別「されている」実態を明らかにすることではなく,差別を「する」こと,あるいは差別の方法・技術を描くことに向けられている.

     差別行為の記述は,差別に対抗するワクチンとしての意味を持つと私は考えている.本論では,具体的な事例の分析を通して,差別行為の記述がどのような意味を持つのかを明らかにしていきたい.

  • 「逆差別」意識に着目して
    内田 龍史
    2019 年 48 巻 p. 31-43
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     部落差別は,近世以前の身分制を出発点とするものの,自由と平等をその基本理念とする近代社会において,差別が告発される形で生成されてきたと言えよう.そうした告発は,部落差別を撤廃するための国策を求める運動へと展開され,同和対策審議会答申(1965年)によって「実態的差別」と「心理的差別」,さらにはその悪循環を断ち切ることが行政の責務とされた.そのうえで実施された同和対策事業は,事業対象を求めることとなり,「同和地区」「同和地区住民」などといったカテゴリーが生成された.

     こうしたカテゴリーは,ターゲット型政策の実施・運用にあたって必要不可欠であるが,他方で施策の対象となる人々へのマイナスイメージや「ねたみ」・「逆差別」意識を生み出した.そうした意識は,今日まで引き続く部落差別の一端をなしていると言えよう.

     現代社会において,差別が生成・維持されるメカニズムを考えるにあたり,部落解放運動などの社会運動による「告発」のインパクトと,その帰結として実施される政策,さらにはそれによって生じる否定的な反応といった,部落問題においては決して目新しくはない視点は,新しいレイシズム・新しいセクシズムなどのように,今日的な「差別の生成メカニズム」を論じるうえで,改めて欠かせないのではないかと考える.

  • 日本の排外主義を事例にして
    田辺 俊介
    2019 年 48 巻 p. 45-61
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿は「差別」という現象の計量分析について,排外主義に関する研究を事例として紹介しつつ,その可能性と限界を論じるものである.具体的には,まず差別と関連現象(偏見や排外主義など)の計量的研究の系譜について簡便に紹介する.続いて様々な差別に関わる現象の中でも,著者が主たる関心として分析している「排外主義」を対象とした計量的研究について,著者のグループが行った全国調査データの分析に基づく結果を例示する.その上で,計量分析による差別の解明可能性と問題点を論じる.

  • 海野 道郎
    2019 年 48 巻 p. 63-66
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー
  • 現代の差別の理解に向けて
    山本 崇記
    2019 年 48 巻 p. 67-69
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー
特集Ⅱ「社会関係資本研究における新領域の開拓」
  • 鈴木 伸生
    2019 年 48 巻 p. 71-75
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー
  • 稲葉 陽二
    2019 年 48 巻 p. 77-84
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     社会関係資本は学術研究の対象として認知されるようになり,社会関係資本をテーマにした論文は多数に上っている.だが,その概念に関する議論は収束をみていない.しかし,AIに象徴される技術進歩は,社会関係資本研究に新たな付加価値を与えている.エリノア・オストロムによってコモンズの運営にとって社会関係資本が不可欠であることが明らかにされたが,ジェレミー・リフキンは,技術進歩の過程で,技術開発と情報の共有の領域で,新たなコモンズが多数生まれていることを指摘している.換言すれば,今日のAI時代においては,コモンズの運営について不可欠である社会関係資本は,技術開発と情報の共有のコモンズの前提条件として新たな付加価値を生むことが期待されている.

  • ミクロ・メゾ・マクロレベルの相互連関に着目して
    佐藤 嘉倫
    2019 年 48 巻 p. 85-93
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,ソーシャル・キャピタルの生成メカニズムをミクロ・メゾ・マクロレベルの相互連関に着目して解明することである.ソーシャル・キャピタルをめぐっては,(1)ソーシャル・キャピタルの定義・概念化,(2)ソーシャル・キャピタルの生成過程の解明,(3)ソーシャル・キャピタルの効果の分析という大きく3つの問題群がある(Portes 1998).(1)と(3)については多くの研究が蓄積されてきたが,(2)の研究は(1)と(3)に関する研究ほど進んでいない.それは,Coleman(1988=2006)が指摘するように,ソーシャル・キャピタルが副産物であるという特性によるものである.本稿ではこのことを踏まえて,下位レベルのソーシャル・キャピタルを促進する上位レベルの仕組みを分析するとともに,下位レベルのソーシャル・キャピタルが上位レベルのソーシャル・キャピタルを促進する過程も同時に分析する.そして,すべてのレベルでソーシャル・キャピタルが高まる好循環過程とすべてのレベルでソーシャル・キャピタルが低下する悪循環過程があることを示すとともに,下位レベルのソーシャル・キャピタル向上のために上位レベルの仕組みが介入することの問題点も指摘する.

  • 潜在クラス分析をもちいたアプローチ
    金澤 悠介
    2019 年 48 巻 p. 95-113
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     社会関係資本研究における重要性にもかかわらず,従来の一般的信頼の測定方法は大きな問題をはらんでいた.多くの経験的研究で使用されている測定法(一般的信頼性推定質問)において,「たいていの人」が誰を意味するのかが不明瞭なため,相矛盾する経験的知見が併存する状況となっていた.そこで,本研究は回答者によって一般的信頼性推定質問で想定する信頼のタイプが異なると考え,一般的信頼性推定質問の測定内容を検討した.『地域の絆と健康に関する調査』をもちいて,一般的信頼性推定質問・近隣住民への信頼・団体参加・協力行動を対象に潜在クラス分析を行ったところ,その意味内容が異なる4種類の信頼が抽出された.すなわち,(a)近隣住民を含む他者一般を信頼し,多様な他者とも関わるような団体参加・協力行動を促進する一般的信頼,(b)近隣住民のみを信頼し,居住地域に関わるような団体参加・協力行動を促進する地域主義的信頼,(c)社会的に望ましい回答をしたいという動機から一般的信頼性推定質問に肯定的に回答する非活動的信頼,(d)他者を信頼せず,団体参加・協力行動も活発ではない不信頼であり,社会的属性や居住地域によって回答者が想定する信頼のタイプが異なることも示された.そして,以上の分析結果をもとに,一般的信頼性推定質問の特性を議論するとともに,社会関係資本研究の知見の整理を試みた.

  • 鈴木 伸生
    2019 年 48 巻 p. 115-128
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,集団のネットワーク構造がLinの社会関係資本の形成に及ぼす影響について,Coleman,Burt,Putnamの理論に依拠したネットワークの閉鎖性/開放性を表す閉鎖的/開放的集団への参加効果に関する仮説を検証することである.日本の代表的な大規模調査JGSS 2012データを用いて,多変量解析(Heckit, ZINB)を行った結果,第1に,開放的集団への参加数が多い個人ほど,豊かな社会関係資本(一般的社会関係資本,拡張性,上方到達可能性,異質性)を形成していた.第2に,閉鎖的集団への参加数が多い個人ほど,アクセス可能な地位の総数(拡張性)を多く形成していた.以上の知見は,豊かな社会関係資本の形成に対するネットワークの開放性の重要性を示唆している.

自由投稿論文
  • 俣野 美咲
    2019 年 48 巻 p. 129-137
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,青少年層におけるパートナーとの避妊に関するコミュニケーションが実際の避妊行動に及ぼす影響について検証することにある.従来,青少年の避妊行動に関しては,本人が正しい知識を身につけているかどうかと避妊の実行の関連が重要視されてきた.しかし,避妊の実行は個人の意思のみで決定されるものではなく,パートナーとの交渉に基づき決定されるものである.したがって,一方の要因に注目するだけでは不十分であり,パートナーとの間で避妊の実行について十分に意思疎通が図れているかという点にも注目する必要がある.そこで本稿では,「青少年の性行動全国調査」の第7回調査(2011年)データを用いて,高校生・大学生男女において,パートナーとのコミュニケーションの円滑さと頻度が避妊の徹底にどのような影響を及ぼすかについて分析をおこなった.その結果,男子ではパートナーとのコミュニケーションの円滑さと頻度は避妊行動に影響を及ぼさない一方で,女子では避妊に関するコミュニケーションの頻度が高いほど避妊を徹底している確率が高いことが示された.今後,青少年の適切な避妊の実行を周知・徹底していくためには,正確な知識の伝達に加えて,パートナーとの間で避妊についての十分な意思疎通を図ることの重要性を教授するなどの包括的な性教育が求められるだろう.

  • 職業科トラックのセーフティネット機能の検討
    池田 岳大, 濱本 真一
    2019 年 48 巻 p. 139-149
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,無業リスクに関する高校学歴格差とその趨勢について検討する.先行研究では,高い職業的地位への到達可能性において職業科トラックは普通科トラックよりも下位に位置付けられる一方で,職業科トラックが無業リスクを軽減するセーフティネットとしての機能を果たす可能性も指摘されている.この機能は,人的資本論的な教育効果として説明されるのか,それとも「日本的高卒就職システム」のマッチングシステムとして個人の教育年数のみでは捉えきれない質的差異により説明されるのか,検討の余地が残る.以上を踏まえ,調査データを用いて無業リスクに関する普通科,職業科の違いとその趨勢を検討した.分析の結果から,①初職入職時の間断リスクにおいては普通科に比して職業科の優位性がみられるものの,一度職業に就いた後の無業移行リスクに両者の違いはみられない,②工業科からの進学など一部の職業科では,中等後教育への進学はむしろ無業リスクを高める,③これらの構造は,高卒無業者の増加した1990年代以降も状態は大きく変化していない,という3点が分かった.すなわち職業科トラックのセーフティネット機能は間断リスクの低さでみられ,また無業移行リスクの結果も鑑みると,この機能は人的資本論的なミクロレベルの説明よりも,「日本的高卒就職システム」のマッチングシステムというメゾレベルの説明がより妥当であると結論づけられる.

  • 秋田県羽後町の社会福祉士と退職した保健師による二つの取組
    板倉 有紀, 伊藤 和恵, 佐藤 美智子, 佐藤 はま子, 大田 秀隆
    2019 年 48 巻 p. 151-161
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では認知症高齢者等にやさしい地域づくりが目指されている.本稿では,認知症啓発・予防および認知症当事者支援が行われる秋田県羽後町の事例を取り挙げる.「若竹元気くらぶ」と「うごまちキャラバンメイト・認知症サポーター協会」という二つのグループの認知症に関する活動が成立する背景要因を検討する.特に「認知症予防」という考え方が,どのように働いているかに焦点化する.認知症予防の取り組みは認知症当事者を結果的に排除するという議論がなされてきたためである.「若竹元気くらぶ」は,認知症予防のための活動として始まったが認知症当事者支援の場にもなっている.「うごまちキャラバンメイト・認知症サポーター協会」は「若竹元気くらぶ」から独立して結成され,当事者支援のための活動として始まったが認知症予防に関心のある会員を取り入れ活動を継続している.いずれの活動においても保健福祉に関する専門知識を持つ行政職員や住民が活動に深く関与している.地域社会において認知症予防という考え方は,認知症の当事者の参加の機会にもなりうる.当事者の参加のためには専門職の関わりかたが重要である.

  • インドネシア首都郊外工業団地周辺集落部アパート群調査より
    大井 慈郎
    2019 年 48 巻 p. 163-174
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,東南アジア首都圏の拡大メカニズムの分析に際し,郊外ニュータウン区画外の居住地区に焦点を当て,工場労働者の向都市移動と就業機会の現状を明らかする.具体的には,事例研究としてインドネシア首都ジャカルタ郊外のKarawang県における土地利用データとニュータウン区画外アパート住人135名に対する質問紙調査および8名に対するインタビュー調査を実施した.従来,東南アジア首都圏の拡大を論じる際,欧米の研究が援用され,郊外ニュータウンの分析が行われてきた.対して本稿は,工業団地,ニュータウンと集落地区がモザイク状に分布するアジア都市の現状を指摘し,ニュータウン区画外に工場労働者のための居住地区が形成されていることを提示する.また,近年の非正規雇用の普及によりリクルート会社や学校の紹介といった「フォーマルな方法」が整備されるなか,向都市移動に際し途上国研究で指摘される「人的つながり」である親族・同郷者ネットワークの重要性は低下している.代わりに,短期雇用を繰り返す現在の非正規雇用制度のもと,工場労働者同士情報交換のための人的つながりが重要な役割を担っていることを,本稿は指摘する.

  • 配偶者の従業先規模の影響に着目して
    田中 茜
    2019 年 48 巻 p. 175-183
    発行日: 2019/08/30
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,女性の離職行動に配偶者が及ぼす影響を捉えることを通じて,1960年代以降の女性の就業選択のメカニズムを明らかにすることである.離職が生じやすいタイミングの一つである結婚に着目し,妻の結婚離職に結婚時の夫の従業先規模が及ぼす影響を検討した.1995年,2005年,2015年のSSM調査を用いて分析を行った結果,大企業に勤務する男性と結婚した女性の結婚離職が促されるという関連が示された.またその関連は1960年代から1980年代結婚コーホートまで確認されるものの,1990年代以降では確認されなかった.この結果から,結婚時における妻の就業選択が夫の従業先規模に依存するという状況は1990年代を境に消失したと結論づけることができる.1990年代は人々の女性就業に対する意識が徐々に変化し始めた時期であり,それに伴い女性の就業に関する意思決定が変化したと考えられる.

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