芝草研究
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40 巻, 1 号
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総説
研究論文
  • 山路 博之, 縣 和一, 武内 康博, 山口 雅篤, 宮島 郁夫
    2011 年 40 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス
    本報告では, ベントグラスの紫斑系統に含まれるアントシアニンの同定と簡易な定量法を確立した。
    1) 高速液体クロマトグラフィー (HPLC) による分析から, ベントグラスの葉で2種類のアントシアニンが同定された。それら色素は, シアニジン3-マロニルグルコシド, シアニジン3-グルコシドであった。
    2) ベントグラスの葉中アントシアニンを抽出する最適な溶媒は, 3%塩酸水溶液であった。
    3) ベントグラス葉中アントシアニンの簡易定量分析法を確立した。すなわち, 生葉0.2gを細断し, 20mlの3%塩酸水溶液を加えてホモジナイズしたのち, 冷暗所で24時間抽出した。抽出液をろ過したのち一定量に稀釈して530nmでの吸光度を測定した。
    4) 本研究で確立したアントシアニンの簡易定量分析法により, 紫斑系統と非紫斑系統グリーンにおけるアントシアニン量の季節変化を調査した。その結果, 紫斑系統のアントシアニン量は春から夏に向かって低下し, 晩秋から冬季に高まる季節変化を示した。非紫斑系統も同傾向の季節変化を示したが, 変動値は小さく, アントシアニン量は紫斑系統の春から初秋の含量水準に近いものであった。
  • 縣 和一, 武内 康博, 山路 博之, 青木 則明
    2011 年 40 巻 1 号 p. 18-25
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス
    1) 本報では, ベントグリーンのアントシアニン色素斑形成に関与する気象要因である低温, 可視光, 近紫外線の影響を明らかにするために, 冬季低温下で可視光, 近紫外線の透過率が異なる資材を用いた被覆試験を行った。その結果, アントシアニン色素は冬の低温下で生成されるが, 日中の近紫外線によって誘導されることが近紫外線強度とアントシアニン含量との一次相関から示された (Table 1, 2) 。同様の結果は, 近紫外線強度を4水準に変えたポット試験からも立証された (Table 3) 。
    2) 紫斑の色調程度を異にする芝生から採取した葉について光合成速度を測定し, 測定葉から抽出したアントシアニン含量と光合成速度との関係をみたところ, 両者間に負の有意な相関関係が認められた。このことはアントシアニン含量によって光合成速度が抑制されることを示している (Fig. 1) 。
    3) 光合成速度の低下は, アントシアニンが可視光をよく吸収することによっていることが測定葉から抽出したアントシアニン濃度と可視光透過率との相関解析から判明した (Fig. 2) 。
    4) アントシアニン抽出液の近紫外線吸収率は高く, アントシアニンが葉肉組織の紫外線障害防御の機能を果たしていることが推定された (Fig. 2) 。
    5) アントシアニン抽出液の太陽光照射による液温測定からアントシアニン濃度と液温上昇との間に正の相関関係が認められた (Fig. 2) 。この結果は, アントシアニン色素が葉温を高める効果のあることを示唆している。
    6) 紫斑葉と非紫斑葉から抽出したクロロフィル液, アントシアニン液の光吸収スペクトルを検討した結果 (Fig. 4), 前者のスペクトルは同一であったが, 後者では, 紫斑葉の抽出液の吸収スペクトルが全波長域で高く, 500nmに吸収極大がみられた。この結果は, アントシアニンが可視光をカットすること, 吸熱による昇温効果の大きいことと一致する。
    7) 以上の結果から, 冬の低温下で生成されるベントグラスのアントシアニン色素の増大は, 紫外線吸収による組織障害の防御, 可視光カットによる光合成の抑制 (光化学反応の抑制) と吸熱によるCO2還元反応の促進に寄与する生理的適応機構と推定できる。
短報
  • 岡崎 麻衣子, 阿部 拓也, 小笠原 勝
    2011 年 40 巻 1 号 p. 26-29
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス
    スズメノカタビラの多様な繁殖様式を解明することを目的に, 強い刈り取りストレスの加わるゴルフ場のパッティンググリーンおよび刈り取りストレスの加わらない果樹園由来のスズメノカタビラを用いて, 穂ばらみ期, 抽出始期, 開花期, 登熟期の4つの異なる生育ステージの花序とその止葉節からの植物体の発生を調べた。その結果, パッティンググリーン由来のスズメノカタビラでは, 個体発生率は開花期 (90%) および登熟期 (100%) の花序で高く, 穂ばらみ期 (2%) および抽出始期 (3%) の未熟な花序からも, 極く低い頻度で個体発生が観察された。果樹園由来のスズメノカタビラにおいても, 個体発生率は開花期 (78%) および登熟期 (77%) の花序で高かったが, 穂ばらみ期および抽出始期の花序からの個体発生は認められなかった。一方, 止葉節からの個体発生は, パッティンググリーン由来のスズメノカタビラの穂ばらみ期と抽出始期の花序で, それぞれ1個体 (根と茎葉) および3個体 (根だけ) が観察され, 果樹園由来のスズメノカタビラでは, 抽出始期の花序で7個体 (根だけ) が観察された。
    これらの結果から, パッティンググリーンおよび果樹園由来のスズメノカタビラともに, 1) 種子は早熟性で形成直後に休眠していないこと, 2) 止葉節から非常に低い頻度で根あるいは茎葉が発生すること, 3) パッティンググリーン由来のスズメノカタビラに特異的であるかどうかは不明であるが, 条件的な配偶体型アポミクシス (無胞子生殖による種子生産) である可能性が示唆された。
  • 宇城 正和, 宇野澤 孝次, 遠藤 慎, 佐藤 正樹, Cartwright Tim
    2011 年 40 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス
    日米のゴルフ場におけるグリーン土壌が同一の分析法によって測定され, それぞれの各要素平均値が比較された (日本サンプル総数: n=869, 2008〜2010年, 米国サンプル総数: n=6,493, 2006年) 。日本の置換性多量要素のPO4-Pの平均値113.8ppmは米国のそれより1.7倍高い値を示したが, その他のK, Ca, MgおよびSは米国のそれぞれ1.12, 0.54, 0.66および0.35倍にとどまった。さらに, 日本の可給態多量要素および微量要素 (P, K, Ca, Mg, S, FeおよびMn) は, 米国平均値の0.33〜0.67倍と低い値を示した。日本の置換性多量要素5種をSLAN (sufficiency level of available nutrients, 利用可能栄養素充足水準) による中程度充足範囲 (以下, SLAN範囲と略称) と比較したところ, Pは全データの約95%がSLAN範囲より過多であり, 他の多量要素K, Ca, MgおよびSでは各々全データの50〜80%はSLAN範囲より低かった。以上の結果から, 日本のゴルフ場グリーンでは, Pのみ過剰施肥の傾向にあるが, K, Ca, MgおよびSの施肥量については不足していること, また, 可給態要素は特に, 欠乏しやすいことが推察された。また, 多量および微量要素の同一要素における置換性–可給態要素の相関係数を算出すると, 最大値を示したCaでもr=+0.641であり, 多くは無相関 (0≦r<0.2, K, P, MnおよびFe) を含め中程度以下 (0.2≦r<0.6, Cu, S, MgおよびNa) の相関にあった。これらの結果は, 置換性要素量の多少が芝根にとって即吸収可能な可給態要素量の多少を表すものではないことを示唆している。
  • 八郷 隆太, 涌井 史郎, 飯島 健太郎
    2011 年 40 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス

    Many of urban people are spending architectural space about 80∼90% of the residence and starting work, and securing health of the space is an important theme. In this study, the effect of the stress relaxation in indoor space by mini pot plants was verified. The respondent to a survey was a participant, and it stayed in the classroom with the coexistence feeling. And the stress situations of each stage were compared by ① setting of the plant is not arranged, ② forward with plant arrangement, ③ plant arrangement by each tables. POMS was diagnosed as a psychology index. The saliva amylase was inspected as a physiology index. It did excellently to the impression of the space the existence of the plant, and a positive evaluation was obtained according to the SD investigation. The arrangement of the plant has eased the stress according to the POMS diagnosis. Especially, the psychological effect when the plant was put on the table was large, and the attachment feeling to the plant was admitted.

  • 水庭 千鶴子, 茂木 道教, 赤堀 勉, 近藤 三雄
    2011 年 40 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス

    To decontaminate the radioactive substance from the lawn, we measured the value of radiation dose of turfgrass and ground in a house yard at Fukushima city, Fukushima pref. The thatch especially showed high value of radiation dose, suggesting radioactive substance abundantly adsorbs to the thatch. On the other hand, soil under the thatch was at low dose level. By removing the thatch, surface contamination value drastically decreased to about 93%. After four weeks, the turf grew new shoots well and covered all area. At some contaminated playgrounds, turf grass was removed with surface soil for clean up, however, our method appeared useful for reducing radioactive substance and turf recovery.

  • 飯塚 隼弘, 近藤 三雄
    2011 年 40 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス
    原始・古代から近世にかけて広義ののり面緑化に使用されてきた植物について関連文献・資料から芝草等草地状植生, 竹・笹類, 草本性地被・野草類に大別して整理した。その結果, 芝草等については原始・古代といわれる時代の土葺住居の屋根部分に埋土種子の発芽による表層固定を狙ったとみられる措置が, そしてその後の古墳における墳丘についても, 同じく種子発芽による表層固定の可能性をうかがうことができた。また, 竹・笹類についても有史間もない時期に溜池の護岸への竹の人工植栽に始まり, 砂防竹林, 河川の護岸にマダケ, ハチク, 丈の短いものとして笹類, メダケ, クマザサなどが利用されていた。また, 城郭の礎である土塁におけるのり面についても傾斜を60度以上にする知恵として, 植栽による根張りを利用していた芝土居があった。この頃の芝とはノシバやコウライシバが利用されていた。そして草本性地被植物に関しては, 土塁の固定に利用されていた麦門冬がジャノヒゲであること, スズメノテッポウ, ジシバリなども河川の土の固定に利用されていた。また水路などにはマコモ, ガマ, ヨシ, スゲ, フトイ, ショウブ, ナキリスゲ, セキショウ, カキツバタなどが, より規模の大きい水路ではオギ, ヨシ, マコモ, ガマ, ショウブなどの水生植物が使われていたことがわかった。
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