(1) わが国の芝草地では現在, シバツトガ:
Pediasia (Crambus) teterrellus Zincken: Bluegrass webworm, チガヤシロオカイガラムシ:
Antonina graminis Maskell: Rhodesgrass scale, シバオサゾウムシ:
Sphenophous venatus vestitus Chittenden: Hunting billbugの3種の侵入害虫が発見されている。これら3種の侵入害虫はいずれも, 米国の東南部のジョウジア州一帯に生息しているもので, 1964年同州のティフトン市からティフトン芝を輸入したとき, これに付着して侵入したことが考察される芝草害虫である。これらの芝草害虫はわが国の西南部の気候温暖な地方に適応性をもつもので, 暖地で芝草を管理する場合には留意する必要がある。とくにシバツトガは高温乾燥の年には爆発的に発生して, わが国の各地で惨害を起こしている。
(2) このシバツトガによると思われるわが国における最初の被害が, 1968年に三田CC (兵庫県三田市) で起こった。関西グリーン研究所 (1969) はこの害虫に対して従来からわが国に生息していたクランブス属のツトガと発表し, 1973年にはツトガ (
Anchylolomia japonica A spp) による被害としているが, これは誤りと思われる。
(3) この理由として, 著者らの調査・実験では次に示す事項が明確になっている。
1) 米国・ジョージア州・ティフトン市―羽田空港―千刈CC―浜松シーサイドCCというシバツトガの1本の侵入経路が明らかになった。2) ティフトン・ジャパン社系の芝で造成した大谷GCでツトガ類による異常発生が1974年に発生したが, これもシバツトガであった。3) わが国における最初の被害と思われる三田地区の場合もシバツトガによるものと推察される。4) わが国における2番目の被害である門司CCの場合もシバツトガであり, その移入もとはティフトン芝を栽培している芝草生産会社である。5) 1972年~1980年の間, シバツトガの発生予察が著者らによって行われている。6) 芝草地を黄変するような被害地から採集されるツトガ類の幼虫の飼育実験から羽化するものはシバツトガのみであって, ツトガは羽化していない。
(4) 宮崎フェニックスCCと宮崎CCアオシマコースは海岸の砂土地帯のマツの防風林中に造成されたゴルフ場で, 排水が良くコガネムシ類の幼虫の生息環境として好適な条件を備えている。場内の植生はクロマツと芝草の組み合せできわて単純である。このような環境下では, 芝草のみで増殖が可能な芝草のコガネムシ類の発生が中心であり, これにシバツトガ, スジキリヨトウによる芝草の被害が考えられる。土性が砂土であるので, チビサクラコガネ, ウスチャコガネの発生が考えられるが, コガネムシ類の調査をする必要があろう。
(5) 宮崎県総合運動公園の場合は, 運動場を中心とした芝草地と, 樹木を中心とした公園が1つの場所に集まっていて, コガネムシ類の増殖を助長する形になっている。すなわち, 前者では芝草地のみで増殖するコガネムシによる被害ばかりではなく, 成虫と幼虫の摂食する餌植物の異なるコガネムシの被害も大きくなるので, コガネムシ類の幼虫を採集してその種類を調査するとともに, 燈火に誘殺される成虫を調査して防除の基礎的資料を得る必要がある。
(6) シバツトガの防除については, 吉田・稲森・廿日出 (1978) , コガネムシ類の防除については山田・廿日出・吉田 (1980) の報文を参照されたい。
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