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―博物画との比較による検証―
安部 泰
2025 年57 巻1 号 p.
1-8
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究では,筆者が製作した「魚を正面から描いたイラストレーション」について,博物画との比較を交えて考察した。既存の博物画には想像を経た再構成が含まれることを確認し,筆者の作品が博物学的な観察と先人の博物画から得られた知見に基づいて再構成されたものであり,博物画と共通の背景を有するイラストレーションであることを示した。次に魚の正面顔を描くという独自性に触れ,形質と彩色という観点から筆者の制作状況を捉え返し,前述の内容を踏まえて考察している。制作された作品の評価は,水族館において22年間で20,000枚以上が販売されたポストカードの実績として示した。本研究で得られた知見は,対象に強い興味を持って直接的な観察を行うことや,文献から得られる知識や情報,先人の理解や解釈による博物画の鑑賞が対象を観察することの質を高め,イラストレーションの完成度を高めることを示唆していると考えられる。
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―昭和56年度検定済高等学校芸術科美術教科書第1学年の比較分析を通して―
池田 育美
2025 年57 巻1 号 p.
9-16
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究は,昭和56(1981)年に現代美術社が発行した高校芸術科美術教科書『美術・その精神と表現1』の特徴を把握するものである。『美術・その精神と表現1』の分析に加え,同時期に発行された他者教科書との量的及び質的観点からの比較分析を行なった。筆者が以前に取り組んだ,昭和56(1981)年発行の中学美術科教科書の分析結果から,現代美術社の教科書は他者教科書と比べて,文章が多い異質な構成であることが分かった。しかし,今回行なった高校芸術科美術教科書の分析から明らかにできたことは,いずれの教科書も個性的な編集内容だったことである。中でも,『美術・その精神と表現1』は独自性が強く,その特徴を5点にまとめることができた。最大の特徴は,題材一つあたりの文字数が多く,美術や制作に関する理念や技術を読み手に分かりやすく伝えるため,文体に工夫を施していることであった。
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―大学教育における専門性と社会性を養う学びについて―
磯﨑 えり奈
2025 年57 巻1 号 p.
17-24
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
静岡県静岡市にある「駿府の工房 匠宿」と,常葉大学造形学部のアート領域と環境テザイン領域の研究室が連携し,学生が体験やリサーチしたことをもとに企画・イベント,商品開発などを考え提案するという授業を行っている。匠宿は,静岡の伝統工芸が体験できる総合施設である。匠宿の役割は地域の伝統工芸の振興と継承にある。大学教育は,専門性の学びと,社会性を養う学びがあると考える。近代の工芸の背景や,工芸に対する学生の印象を視覚化し,また,静岡県内の大学の地域連携活動の先行研究を行った。実践した授業の内容,振り返りを整理することで,この授業が学生にとってどの様な学びがあるのか考察した。結果として,立体表現の領域を専門とする学生にとって社会性を養う良い経験となった。しかし,学んだことを自分たちの専門性と繋げることができるようさらに検討が必要であることもわかった。
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―「形をとる」段階のつまずき要因の検討―
伊東 一誉, 赤羽 尚美, 田代 琴美
2025 年57 巻1 号 p.
25-32
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本稿は,モチーフ・デッサンにおいて描画姿勢の変動が正確な形の描写にどのような影響を与えるかについて実技調査から検討を行った。デッサンの基礎的スキルを有した美術系学生7名を対象とし,学校現場を想定した道具環境で1時間のモチーフ・デッサンを実施した。デッサンの様子をビデオカメラで記録したデータのうち,「形をとる」段階にあたる最初の10分間を抽出して細分化し,①完成したデッサン作品の評価,②描画姿勢の傾きと変化の数値化,③トレース作業による姿勢変化の質的観察を行った。その結果,参加者の描画姿勢と作品評価との関連が見出された。特に,「形をとる」段階の技能を示す「全体形状表現スキル」項目が描画姿勢と関連し,姿勢の傾きから空間認識の歪みが生じることが正確な形をとらえることを阻害している可能性が示唆された。また空間認識の歪みには描画環境と描画者の調整活動が関連する可能性が示された。
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―用語の分析と分類―
江藤 望
2025 年57 巻1 号 p.
33-40
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究の目的は,彫刻における造形要素を分析しその造形価値を再考するものである。本稿では造形要素の量について検証しその用語分析と分類を行った。まず,我が国の彫刻家の言説から〈ヴォリュームとしての量〉と〈マッスとしての量〉に分けてそれぞれの用語の認識を分析した。結果,前者には立体の容積と量感の2つの認識があり,量感には重量感,遠心的量感,求心的量感の3つの認識が存在した。後者には,塊の用語として使われる立体の容積とその総体,さらに求心的量感の2つの認識が存在した。次に,ハーバート・リードとロジャー・フライの論考に基づいて,ヴォリュームとマッスの語義の違いを明確にした。最後に,ロダンがvolumeとmasseをいかに捉えているか文献調査を行ったところ,量感の語義が含まれていないことが判った。以上の検証に基づき,彫刻における量の用語をその性質に基づいて分類した。
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―2012/2024年における教育実践の比較分析と美術教育との関連から―
大泉 義一
2025 年57 巻1 号 p.
41-48
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本論では,STEAM教育に先進的に取り組んでいる韓国における2012年と2024年の教育実践を比較分析することを通じて,STEAM教育の方法論として援用されているデザイン思考の実践的意味について検討し,以下のことを明らかにしている。第一に,STEAM教育に関わる教科としての「美術」の捉えには,美術表現という「手段」としての捉えと教科固有の「見方や考え方」という本質的な捉えという相違が認められたこと,第二に,STEAM教育実践において子どもが探究的に学習を進めていくためには,学習プロセスを往還的・一体的に踏まえた授業設計が必要なこと,第三は,デザイン思考はその各ステップに役割があるというよりも,子どもの探究プロセスを促進する原動力としての役割を持っていること,そして第四には,そうしたデザイン思考の役割において子どもが発揮する創造性には,問題解決から問題提起への移行が見られ,そこに「美術」の教科固有性が位置付いていることである。
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太田 智己
2025 年57 巻1 号 p.
49-56
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
1970年代以降,学習指導要領の美術教育の記述では,「個性」の語が消滅して不在となる。しかし他方で学習指導要領の外部では,あたかも学習指導要領でのそうした事実はないかのように,「個性」を美術教育の枢要な理念ととらえる言説がみられるようになった。本論文の目的は,1970年代以降の学習指導要領における「個性」不在の展開過程と,その背景を明らかにすることである。そのために,2で「個性」不在の展開過程を論じ,その背景として,3で「個性」の使用回避,4で「個性」の外部移植が,同時に進行したことを論じる。以上から明らかになった本論文の結論は次のとおりである。1970年代以降の学習指導要領における「個性」の不在は,小学校は約40年間,中学校は約20年間,高等学校は約30年間にわたり展開した過程があり,その背景には,「個性」の使用回避と外部移植が,同時に進行したことがあった。
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―渡辺省亭・鈴木華邨・横山大観・菱田春草―
小野 文子
2025 年57 巻1 号 p.
57-64
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
近代における日本美術作品の海外への流出,明治の輸出工芸品,博覧会への参加についてこれまで多くの研究がなされてきた。こうした研究は,19世紀後半から20世紀初頭にかけて欧米でおこったジャポニスムの流行という受け入れがあった,ということが前提とされてきた。しかし,日本の美術や工芸品がどれくらいの価格で取引されていたのかについては,いまだに研究が及んでいない。19世紀後半のロンドンでは,産業革命を世界に先駆けて成功させ,交通,通信,金融などの拡大により,多くの人々が物質的な豊かさを享受し,大英帝国の植民地文化を反映するかのように世界各地からさまざまな品物が集められて,急速にアートマーケットが拡大していた。本稿では,ロンドンの商業画廊で展示,販売された,渡辺省亭,鈴木華邨,横山大観,菱田春草による日本画作品とその価格について明らかにした。
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―山崎朝雲「桂の影」,米原雲海「清宵」,平櫛田中「無矣無矣」に着目して―
柿原 岳史
2025 年57 巻1 号 p.
65-72
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究の目的は,近代具象木彫作品の内,山崎朝雲「桂の影」,米原雲海「清宵」,平櫛田中「無矣無矣」の3点を実地調査し,それらについて3Dモデルによる数値解析を行うことで,特に彫刻芸術にとって重要な造形要素である動勢の視点から,より客観的な検証,評価を試みることである。3Dモデルの作成にあたっては,これまで用いられてこなかった,BlenderとSMPLモデルを使用し,その妥当性も検討した。調査の結果,データの信頼性に基づく作品の解析が可能であることが確かめられた。そして視覚的な印象とは異なる,均等な数値分布が明らかとなり,当時の彫刻家らが,躯体に着衣や表情等の表現を重ね,動勢の印象を与えていることが分かった。今後同様に,他の作品についてもデータ収集,蓄積を行うことで,近代具象木彫の特質について,客観的なデータに基づく,新たな視点からの作品評価や価値の位置づけに努めたい。
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―平成10年改定学習指導要領と西野範夫の思想―
金子 一夫
2025 年57 巻1 号 p.
73-80
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
西野範夫の思想と平成10年改定学習指導要領との関連を検討した。西野は教科調査官になって以来,一貫して美術教育における外的基準を子どもの内発的基準に変換する主張をした。上越教育大学教授になると,それを現代思想で補強した学校教育論へと拡大した。同時に文体の難解さも増した。西野は平成10年度改定学習指導要領の編成会合で主査として議論を主導した。板良敷教科調査官に運営を任せたが,「解説」編集では協力員に西野の理念を確認させている。西野の学校と生活を一体化させる意思は,学校や教育目標・内容・方法の外部性を否定して,公教育での権力の自己限定の原則に逆行する懸念もある。西野の思想的基底には霜田静志とニイル,思想的根源として浄土真宗的感性があることを指摘した。ただその児童絶対の姿勢は,浄土真宗本来の他力ではなく自力思想に逆転する懸念があることも指摘した。
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―創造的な「問い」を生むインサイト型ストーリー―
川原﨑 知洋
2025 年57 巻1 号 p.
81-88
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究は,細田高広の開発したインサイト型ストーリーのフレームワークを活用した実践研究で得られた結果の分析を基に,問題発見力を育成するための手立てとして有効に機能したのかについて考察した。まず,問題発見力について,デザイン思考のダブルダイヤモンド・モデルとの関連性と先行研究などを基に考察し,デザイン教育において問題発見力を育成する意義について明らかにした。次に,細田のインサイト型ストーリーの構造について概観し,課題を定義するまでのデザインプロセスの重要性について整理した。実践研究は,フィールドでのデザインリサーチを通し,インサイト型ストーリーのフレームワークを活用してコンセプト立案を行った。その結果,インサイト型ストーリーのフレームワークは創造的な「問い」を生むための有効な手立てであることが展望された。
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―「なって/みる」ことの検討に向けて―
郡司 明子
2025 年57 巻1 号 p.
89-96
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本稿は,美術教育における「なって/みる」ことの検討に向け,パフォーマンスの学びについて考察するものである。「なってみる(パフォーマンス)」学びに関する先行実践の検討を経て,美術(アート)の文脈におけるパフォーマンスの始まりからその後裔にあたるSEA:ソーシャリー・エンゲイジド・アートまでを概観した。パフォーマンスの特性としては,特定の場所における身体の介入を前提としながら,一,既存の価値観(芸術)への抵抗,二,「なる」ことの理論から二項対立を超え,参加者が共に変容すること,三,SEAに至っては社会的な課題への積極的な関与による変容,といった側面が見えた。これらの特性をさらに検討し,美術教育に接続し得る内容としては,①身体の介入,②試行性,③参加者相互の変容,④芸術の全体化,⑤社会的課題といった観点として整理するに至った。
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―シンガポール美術の展開と美術作家の創作活動を通して―
佐々木 宰
2025 年57 巻1 号 p.
97-104
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
アジア諸国や諸地域では,自分たちの美術の独自性をどのように創出してきたか。そこに美術を通した創造性は,どのように関与してきたか。シンガポールでは,南洋の風景や風物をモチーフにした絵画形式をもつ南洋スタイルが,華僑・華人系の先駆的作家たちによって創出された。戦前からの南洋美術の理想が南洋スタイルに発展した背景には,南洋美術専科学校の社会的・集合的創造性が関与していた。1980年代末から美術活動を始めたリム・ポーテックは現代的な文脈の中で,アジア人としてのルーツを基に制作を続けてきた。リムは,アジア的なモチーフを用いずに,南洋美術を絵画形式ではなく理想や精神として受け継ぎ,現代社会に生きる人間の生活を表現した。そこには,地域社会や生活を通して発揮される社会的・集合的な創造性の認識や,多文化社会における文化的アイデンティティと美術表現との強い関わりが確認された。
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―Cクリエイティブ・アートラボにおける小学生男児の事例―
佐藤 牧子
2025 年57 巻1 号 p.
105-112
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
子どもたちの〈つくる〉活動は美術教育において中心的位置を占めているが,プログラミング学習でも注目されているティンカリングや理科教育におけるものづくりとも共通するところがある。本研究の目的は大学内に設けられたCクリエイティブ・アートラボに参加している小学生男児を事例にして,子どもの〈つくる〉活動のプロセスを使用された素材に焦点を当て検討することである。2年以上にわたる人類学的エスノグフィーの方法論による参与観察とインタビューの結果,〈つくる〉活動にはアイデアを実現するために素材を探して用いる場合と素材からアイデアが生まれる場合があることと素材の扱い方にはアートにつながる側面と科学につながる側面があることが明らかになった。そして,このエスノグラフィーから子どもたちの〈つくる〉活動における集中する時間と継続する時間の重要性が示唆された。
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―浜松市美術館「ひっぱりだこ展」の実践事例から―
島口 直弥
2025 年57 巻1 号 p.
113-120
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
美術館の教育普及事業は,企画展・特別展の内容に応じてプログラムが考案されることが多い。教育普及担当職員を専属配置する美術館は僅かで,企画展・特別展担当の学芸員が展覧会準備に附随する形で教育普及事業を担わざるを得ない。企画展・特別展の教育普及プログラムは,その展覧会終了後の継続実施,内容の研鑽・向上は難しい。こうした現状から本研究では,館蔵品を活用した教育普及プログラムを前提に展覧会を企画した。館蔵品の中から対話型鑑賞で作品の意味や価値を創造できる作品,図画工作・美術科を含む教科等横断的な視点から鑑賞可能な作品を選び,子供たちの鑑賞活動を前提とした展覧会づくりを工夫した。館蔵品を活用した教育普及プログラムを前提とした展覧会の可能性を,実践をもとに明らかにした。
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関口 喜美子
2025 年57 巻1 号 p.
121-128
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究では,膠水に活性炭,骨炭,木炭,竹炭を添加し,それぞれの炭が膠液の透明度や吸着現象に与える影響を検討した。その結果,膠水の白濁物質は,製造工程中に混入した不純物ではなく,ゾル化できない高分子量の膠タンパクである可能性が高いと推測された。また,木炭と竹炭を添加した膠水は,他の炭に比べて透明度が向上し,膠液の清澄化に効果的であることが確認された。特に竹炭は,特有の導管構造と残存する官能基により,膠水中の白濁物質を効果的に吸着する優れた能力を示した。一方,活性炭や骨炭を添加した膠水では,透明度が著しく低下し,遠心分離機を用いた処理なしでは透明度の改善が難しいことが明らかになった。本研究により,膠水の清澄化における炭の選択と特性が極めて重要であることが明らかとなり,日本画制作における膠液の改良に向けた新たな知見が得られた。
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宣 昌大
2025 年57 巻1 号 p.
129-136
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本論は,中学校美術科での授業における感受が,主題生成へ及ぼす影響を生徒の造形行為から考察するものである。そのため,生徒が学校内で風の流れから感じ取ったことを,陶芸用粘土を用いた風鈴制作で表現する授業を実施し,生徒の姿をアンケートの回答及び授業での活動を撮影した動画などから,分析,考察を行った。分析方法は,量的,質的データを収集・分析する混合研究法を用いた。結果として,感受した風や観察対象の様子や印象から主題を生成した【直接的・印象】生徒は,感覚的に作品制作に向かう傾向がある。一方,感受した風を自身の記憶や概念と結びつけて主題を生成した【間接的・概念】生徒は,概念的に作品制作に向かう傾向があることが明らかになった。両群ともに,主題を生成し,繰り返し形を作りかえる傾向はあるが,【直接的・印象】はイメージの模索,【間接的・概念】はイメージの実現に拠ることが考えられた。
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瀧澤 悠
2025 年57 巻1 号 p.
137-144
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
昨今ICTの発展は著しく,美術教育分野でもその利便性が発揮されている。コロナ禍を経て,その個別具体の可能性が種々模索される中,本研究では平面領域におけるペンタブレットの導入と活用に焦点を当てた。本稿は,これらを用いた基礎的な描画活動について,その様相を精査した2段階の実験から,得られた知見を省察するものである。実験1の質問紙調査からは,ペンタブレットを用いたデジタル描画へ抱く描画者らの印象や感覚が明らかになり,操作の非直観性や複雑性に否定的な心象が現れた。実験2では描画者の視線を計測し可視化した。描画者の習熟度によって視線の特徴が異なり,視覚的な演練や暗黙知の体得が,活用能力を向上させている可能性が示された。いずれの実験結果からも,ペンタブレットの使途が活動目的に準じているかの精査や描画者の適応能力の想定,指導者による教示,演練の機会の確保が重要であると示された。
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―構成や組み合わせの彫刻とその教育―
武内 優記
2025 年57 巻1 号 p.
145-152
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本論では,本来の目的が美術制作におかれていない「モノ」を用いた美術表現を,「転用された素材による美術」と定義した。まず,この美術表現を開拓したといえる芸術家(パブロ・ピカソ,ウラジーミル・タトリン,マルセル・デュシャン)の作品について概観する。いずれも,1910年代にそれまで続けていた絵画に加えて,彫刻にも取り組んだ芸術家である。彼らの実験的な試みは,美術における素材の考え方の転換を模索する行為でもあった。そこで,彼らが彫刻に取り組む動機や,社会背景,同時期の芸術運動を比較して論じ,「転用された素材による美術」が有する,多層的な構造の読み解きを試みた。後半では,同題材による授業を振り返り,その教育的意義について検討を行う。このことから,同テーマを現代で取り扱う妥当性を整理するとともに,学生に生じた素材観の変化と,創作に影響する素材のポテンシャルについて考察した。
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―語用論を援用した事例分析に基づいて―
武田 信吾
2025 年57 巻1 号 p.
153-160
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究は,他者と共に協力して行われる造形活動を「共同で行う造形活動」と位置付け,こども間の直接的な相互作用があるものとして,同一の対象物に対して複数名が手を加えていく活動内容を扱ったものである。当該活動において,こどもの各行動は相手の存在をどのようにふまえているのかを考える方法として,それらの行動に協調の要素が含まれているかを検討した。その際に,語用論における会話分析の枠組みを援用することを試みた。具体的には,語用論の研究上のスタンスと系譜を概括した上で主だった理論的枠組みを整理し,それらを援用する形で,ペア児童が共同で行う造形活動の事例を分析した。協調とは意見の相違を調整しながら相手との調和を図り,力を合わせていくことと考えるならば,事例における児童2人の行動は,まさに協調的と見なされるものであることが確認された。
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―ビジュアル言語の教育活用に関する論考―
谷川 潤
2025 年57 巻1 号 p.
161-168
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
文字情報と図やイラストなどのグラフィック情報を組み合わせて思考や情報を伝達するものとされる「ビジュアル言語」。その形式を提起している人々の中では,「描くこと」を体系的なものとして捉え,言語と同じように「語彙」や「文法」を学べるものとされている。筆者は,そうした「ビジュアル言語」の中で語られる「描画を体系的に学ぶために提案されている学習構造」について先行事例を調査し,図画工作/美術科教育における副次的な学習支援・指導教材として「ビジュアル言語ドリル」を作成した。本稿では,この「ビジュアル言語ドリル」を作成するに至るまでの背景を整理し,筆者が図画工作科非常勤講師として勤務している埼玉大学教育学部附属小学校での実践をはじめとした実践例を紹介して,それに伴って実施した児童・保護者対象の質問紙調査から「ビジュアル言語ドリル」が内包する教育効果について検討することを目的とする。
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―1925年金沢・1929年金沢・1930年高岡での開催を中心に―
中川 三千代
2025 年57 巻1 号 p.
169-176
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
1925年から1930年の間,日仏芸術社が主催もしくは関与して日本各地でフランス絵画・彫刻・工芸品の展覧会が開催された。日仏芸術社は,「一般美的趣味の普及向上」を目的の一つとして掲げて幅広い活動を展開した。地方での展覧会開催もその一つで10か所以上の都市で20回以上の展覧会が開かれた。北陸地方においては1925年に金沢で,また1929年から30年にかけては金沢,高岡,富山へと巡回する展覧会が開かれた。本稿では,北陸地方から,金沢と高岡の2都市を取り上げ,その概要,展示内容,付帯活動などについて明らかにした。さらに地元有力者による開催招致,裸体作品に対する検閲,新聞報道にみる展覧会の様子など,各展覧会の特徴的な事項についてまとめた。それらをもとに各展覧会,および富山での展覧会を比較検討し,工芸品を含んだ展示構成など,各展覧会の共通点や特徴的な点について整理,考察した。
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―こども園における美術作品鑑賞活動を通して―
長友 紀子
2025 年57 巻1 号 p.
177-184
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
幼児期にどのような支援を行うことで,子どもが主体的であり続けることができるかという問題意識をもとに,幼児の主体性の表出を促す環境と支援のあり方を,こども園における美術作品鑑賞活動の動画記録の観察から分析・考察した。幼児たちの発話や反応は,保育教諭との関係の中で活発化し,他児たちの発話に触発されて広がりを見せた。このことから,保育教諭が幼児たちの発話や行動,表情などを,個別だけでなく,他児との関係性で見とることが必要であると考えられた。また,幼児が主体性を表出しやすい環境とは,幼児と保育教諭,幼児と幼児が互いを肯定しながら関わる場であることがわかった。
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―教員養成系大学における“感覚をひらく”ことを目的とした芸術系カリキュラムの試みから―
根本 淳子, 手塚 千尋, 岩永 啓司, 吉川 暢子
2025 年57 巻1 号 p.
185-192
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
本研究では,「学びの成果を展示する展覧会をつくる」ことを共通のゴールに設定し,大学間交流の枠組みを用いたプロジェクト型アートカリキュラムを試行した。本論文では,展覧会づくりを中心とした活動は参加者にはどのように捉えられているのか,そして,参加者それぞれが得られたものは何であるのかを,参加者の経験の語りから確認した。プロジェクト参加者の振り返りインタビュー結果を,質的データ分析法のSCATを用いて分析し,ストーリー・ラインと理論記述を作成した。分析結果から,仲間との対話や作品を中心としたやり取りを重ね,それぞれが真摯に自己と向き合う様子が確認された。省察を促す取り組みの過程は,プロジェクト内容のほか,その人が持つ経験や価値観に影響を受けることも示唆され,アートを介した探究的な学習環境デザインを検討する上での重要な視点であることが確認された。
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―小学校高学年の小型ロボットを用いた造形活動の事例分析を通して―
橋本 忠和
2025 年57 巻1 号 p.
193-200
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
フリー
自身の先行研究の小型ロボットを用いた題材開発の事例分析から造形活動を組み込んだ方が自己調整学習をより活性化できることを見いだすことができた。ただ,どのような図画工作の指導モデルを行うと自己効力感や創造的なプログラミング的思考を高めることできるのか明確にする必要性も明らかとなった。そのためOECD教育研究センターが「創造性と批判的思考」を育成する教育モデルとして紹介している「スタジオ思考」の枠組み(スタジオ構造,心のスタジオ習慣)に着目した。そして,「スタジオ構造」を組み込んだロボットを用いた造形遊びを小学校高学年で行い,その教育的効果を「自己効力感及び創造性の評価モデル」と「心のスタジオ習慣」との接点を整理した観点で分析・考察した。すると,批評の学習プロセスを充実させることで自己調整学習と創造的なプログラミング的思考を活性化ができることが分かった。
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蜂谷 昌之
2025 年57 巻1 号 p.
201-208
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
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本研究の目的は,高岡市の小学校に残された卒業記念画に手本として多く使われたとみられる荒木十畝に注目し,大正期毛筆画教育の実践の一端を明らかにすることである。方法として,荒木十畝に関する文献調査及び荒木の図画教科書の分析を行う。また,卒業記念画制作において,荒木のどの教科書や作品をどのように児童が使ったか,把握する。調査の結果,荒木が複数の中等図画教科書の発行や地方への学校視察,教員への講話を行うなど,精力的に毛筆画教育を推し進め,図画教育に貢献していたことを確認することができた。荒木の教科書は毛筆を主体とし,図案や写生参考図などを含むもので,荒木の得意とする花鳥画が目立つ内容であった。また,児童の臨画作品には,正確な模写や工夫した表現を確認することができた。こうしたことから,荒木十畝が大正期の小学校毛筆画教育の実践に一定の影響を与えていたことが浮かび上がった。
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林 牧子
2025 年57 巻1 号 p.
209-216
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
ジャーナル
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本研究の目的は,幼児の集団活動に対する保育者の関わりと活動の変容過程の分析を通して,保育者の機能を明らかにすることである。本研究では,幼児4名によるグループフィンガーペインティング活動の観察を通し,活動の内容及び方向性に影響を与えた保育者の関わりの内容について検討を行った。TEMによる分析と,保育者への聞き取りによる調査を実施した結果,活動内容に影響を与えた関わりの内容として,①意図的かつ明示的,②意図的だが暗示的,③偶発的で無意図的の3種類が確認された。また,保育者は,活動に参加しつつ自身の対応を変化させており,省察しながら保育を行うという実相が明らかにされた。一方で,保育者の関わりは,幼児の活動内容に必ずしも影響を与えているわけではなく,その時点で幼児が行っている活動内容や意図に即した関わりが適時適切に機能することが,活動の活性化を促す一要因であることが示唆された。
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―保育者と保護者の意識の変容に着眼して―
藤田 知里
2025 年57 巻1 号 p.
217-224
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本研究では,S幼稚園における造形展の課題であった(1)保育の「場」としての位置づけの見直し(2)作品つくりが中心の活動に対する罪悪感(3)保護者の評価に対する疑問や不安(4)保育者の負担,に対する改善点を提案し,改善前後における保育者と保護者の意識の変容について分析を行い,その効果を明らかにすることを目的とした。研究方法は,調査1で,保育者Aに対するインタビューを実施し,テキストマイニングで分析を行った。調査2では,造形展に参加した保護者を対象として記述式のアンケートを実施し,分析を行った。その結果,改善後は,造形展が日常の保育の一部として位置付けられ,子どもの自由な造形活動への広がりにつながり,保育者及び子ども共に負担が減少し,保護者も造形展の変化を受け入れてきていることが明らかとなった。以上により,造形展改善の効果があったと考えられる。
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―コミュニティとアートの共進化,場所の内側性の視座からのエピソードの考察―
古家 美和, 家﨑 萌
2025 年57 巻1 号 p.
225-232
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本稿では,学級における生活のなかで子どもたちが言及する「図工」することの意味について,学級担任の視点から記述した5つのエピソードを通して考察した。エピソードの考察にあたっては,コミュニティとアートの共進化,場所の内側性の理論を視座とした。エピソードの検討を通して,個々の「私」の自由な相互交流や探求を保障する材料と時間空間を備えるコモンの領域形成,ダイナミックな参加の段階が創出され思いがけない物語や主題を生み出す契機となる図画工作や学級活動での造形活動の特性が見出された。子どもたちによる「図工」への言及は,このようなコモンの領域形成への信頼や学級の探求の主題を創発するような参加の出来事への期待として捉えられる。「図工」することが単なる教科活動を超えて,学級コミュニティの形成や子どもたちの生活経験の探求に深く関わっていることがエピソードの考察から示唆された。
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―『学びの扇』を活用した授業分析の方法について―
松浦 藍, 清田 哲男, 大橋 功, 藤田 雅也
2025 年57 巻1 号 p.
233-240
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本論は,中学校美術科における生徒の「主体的に学習に取り組む態度」(以下,「主体的学習態度」と表記)を可視化した分析する方法を検証し,提案するものである。具体的には,筆者らがこれまでの研究で示してきた自ら決定する学習である「Play」と教師や教科書等から習得する学習である「Direct Instruction」の関係を表した『学びの扇』による授業分析を行い,生徒の実態との関係性を考察する。調査は①『学びの扇』を用いたアンケートによる調査と,②生徒の撮影動画記録に基づく分析を行った。本論の成果は,三つある。一つ目は,本調査において『学びの扇』による分析結果と生徒の姿には共通点が確認できたことと,二つ目は,制作を通して取り組みたいことを考える傾向を強めたこと,三つ目は,自己決定して知識や技能を獲得する生徒は積極的に表現活動に向かう傾向があるということである。
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―鑑賞と構想場面での知識構成型ジグソー法の活用を通して―
馬淵 哲
2025 年57 巻1 号 p.
241-248
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本研究は,デザイン学習の鑑賞と構想の場面での「知識構成型ジグソー法」の活用によって,学生の創造的探究を促進させることを目的とする。そのために,「知識構成型ジグソー法」の「エキスパート活動」で習得した専門知識を,多様な視座で意見を交換する「ジグソー活動」に活用する協働構想によって創造的探究が促進されると考えた。これらの授業実践における学生の創造的探究と「知識構成型ジグソー法」の関連性を,学生の「感性・理性評価,ワークシート・アンケート記述,行動記録,成果物」の質的分析を用いて考察した。その結果,「エキスパート活動」で専門的知識を習得した学生は,「ジグソー活動」においても専門的知識を活用して,創造的探究を進めていることが分かった。このように,「知識構成型ジグソー法」を用いたデザイン学習は,学生の創造的探究心を促進させる上で,有効であることが明らかになった。
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丸山 松彦
2025 年57 巻1 号 p.
249-256
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本稿は保育者養成における造形分野の科目で,筆者が実践したアクティブ・ラーニングに関する研究である。2012年8月の中央教育審議会答申が示すとおり,現在の学士課程教育では学生の主体的な学修が求められており,その実現のために大学では様々なアクティブ・ラーニングの取り組みがなされている。芸術・造形系分野の科目,とりわけ演習・実習におけるアクティブ・ラーニングの取り組みについても多数の先行研究が存在する。しかしグループ・ディスカッション,ディベートといった「話す活動」に焦点を当てた先行研究は少ないようである。これは芸術・造形分野の科目において,運用しやすい「話す活動」をともなうアクティブ・ラーニングが存在しないことが原因ではないだろうか。本研究は筆者が担当する「造形表現」の科目において,「話す活動」をともなうアクティブ・ラーニングを実践し,その取り組みについて考察するものである。
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溝上 怜海
2025 年57 巻1 号 p.
257-264
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本論は,美術の授業において,教員から与えられた工業規格の支持体を用いる描画活動と,表現者となる生徒自身が形状を決めた支持体での描画活動との,それぞれの活動の傾向を明らかにすることが目的である。中学校の授業で,画用紙を配ってから描画する活動と,ロール画用紙を生徒が任意の形に切り取ってから描画する活動とを行い,質的に分析した結果,(1)与えられた工業規格(長方形)の支持体を使用する生徒は,予備知識や既知の技法を使って表現したいことをまとめ上げようとする傾向,(2)自己決定した支持体を使用する生徒は,主題を画面中央に構成する傾向が見られた。特に長方形以外に形状変更した生徒は,新しい表現技法を試す傾向も見られた。生徒に培いたい資質・能力に合わせて支持体への関与を変えさせることで,主題表現の位置や内容等を教員が理解した上での生徒の表現活動への伴走に効果がある可能性が示唆された。
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―社会に開かれた美術教育の実現に向けて―
山口 秋音
2025 年57 巻1 号 p.
265-272
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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複雑化した社会の中でアートによる社会関与がこれまでになく求められており,アートの文脈ではすでに活発に実践が行われているにも関わらず,「社会に開かれた教育課程」が目指される図画工作・美術科においては社会との関わりが十分になされていない状況にある。よって本論は,社会に開かれた美術教育の必要性が高まっていることを踏まえ,美術教育とアートを架橋するにあたり前提となるアートの本質について再検討することを目的とする。本論では,美術教育の基礎理論構築を目指した動向の考察を通して,現実の人間の生や社会と連動するというアートの本質をこそ,前提となる重要な核として示した。また,日本におけるアートのねじれを整理することによって,その本質をはらむ文脈を提示した。さらに,アートの変化をめぐる議論を参照し,美術教育の社会的教育的価値,教育課題に果たす役割の増大についても捉えた。
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―学習環境および社会的価値が表現に及ぼす影響についての一考察―
山﨑 麻友
2025 年57 巻1 号 p.
273-280
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本研究では,乳児期から青年期にかけて,粘土を用いた表現活動に見られる発達段階をまとめることを目的としている。第三次研究にあたる本稿では,表出する表現の傾向が子どもの発達に起因するか,それとも学習環境や社会的価値に起因するか考察を行う。視覚からの情報を遮断した状態で粘土を用いて表現する実践を,表現の受け手を意識する発達の時期にいる児童・生徒に行った。その結果,触って感じ取る活動を行わず,テーマを委ねて表現活動に取り組ませた場合,自己のこれまでの経験をもとに形を再現する傾向が見られた。しかし,触って感じ取る活動および目には見えない触り心地をテーマに表現活動に取り組ませた場合,小学5年生と中学3年生ともに写実表現に向かう児童・生徒は見られなかった。これらの2つの実践から,学習環境や自己と周りにいる人と共有される表現の価値の内容によって表現物が変化することが分かった。
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―ICTを活用したブックカバー制作の授業実践から―
山田 唯仁, 山本 政幸
2025 年57 巻1 号 p.
281-288
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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中学校美術科では魅力的な表現活動をうむICTの活用が進められている。学校現場でも生徒がタブレット端末で自在に文字書体のひとそろいの形のデザインである「フォント」を選び,表したいイメージに合わせて配置する授業が可能となりつつある。この背景から,本研究ではフォントを用いた表現についての題材・教材を開発するとともに,その活動の特徴や指導方法を示すことを目的とした。実践では「タブレット端末による文字組版」の活動に重点を置き,文字と装画によるブックカバーを制作する授業を行い,その記録を分析した。授業では,生徒は特に本のイメージが伝わるフォントや色の効果に着目して表現をしていた。またフォントを扱うという活動を初めて行うことや,色や形を変えたり試したりできることに面白さを感じていた。さらにレイヤーやスペーシングといった機能の段階的な習得が必要であることも判明した。
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―牛乳パックピースを用いた遊びにおける年長児の模倣行為に着目して―
山中 慶子
2025 年57 巻1 号 p.
289-296
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本稿の目的は,幼児が初めての材料と出会う場における保育者の行為が,幼児の行為の決定や,その後の遊びの展開に与える影響について明らかにすることである。調査の材料として牛乳パックピースを用い,材料経験があるクラスと,初めて材料に出会うクラスで,保育者が「積んで遊ぶ」行為を行った際の年長児の行為を比較した。その結果,牛乳パックピースは,前者では「自由な関わり方から面白さを模索する材料」として捉えられ,後者では「保育者の行為の模倣から,新たな面白さを見いだす材料」として捉えられたことが推察された。また,幼児の模倣には,「憧れ」に因るものと,「自らのより良いものを追求する」という要因があり,幼児が価値ある目的に向かって自らの可能性を追求しようとするとき,他者の行為を模倣することによって新たな学びに向かうことが考察された。
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―東京高等師範学校と東京美術学校を中心に―
楊 世偉
2025 年57 巻1 号 p.
297-304
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本研究は,20世紀初期の日本における中等図画教員養成の展開と特徴を明らかにすることを目的とし,東京高等師範学校と東京美術学校に焦点を当てて分析を行った。両校のカリキュラム,教員構成,教育内容を詳細に検討し,比較分析を通じて当時の図画教員養成の特徴を解明した。その結果,専門性の重視,実践的教育の重視,総合的な教育の実施,日本と西洋の図画教育の融合,教育目的に応じた差異化という5つの特徴が明らかになった。東京高等師範学校では図画と手工のバランスを重視し,より実用的な教育を目指していたのに対し,東京美術学校ではより専門的な図画教育に重点を置いていた。これらの特徴は,当時の日本の教育政策や社会的要請を反映したものであり,明治期の急速な近代化と西洋文化の導入という背景の中で,日本独自の図画教育のあり方を模索した結果であると考えられる。
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―あなたのものでも私のものでもない「第3」の活動―
横溝 賢, 須永 剛司, 岡本 誠
2025 年57 巻1 号 p.
305-311
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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デザイン学生と市民活動家が共同する活動のなかに見出した共創のうまれかたについて考察する。学生が地域の活動家の活動の場に出向き,活動に招かれ,小さな共同からはじまるアクティブな学びを事例に,学生と活動家がお互いを受け入れ,共同しながら活動をつくっていく体験に着目する。その中で学生たちと活動家たちとの対話と協働が積み上がっていくと,依頼引受関係ではない相互性と信頼がうまれる。それを原動力に,学びと市民活動がそれぞれの現実の営みの再設定をはじめる。この流れを「共創のうまれかた」のモデルとして示しその理論枠組みを考察する。相互性(cooperativity)とは,お互いがかかわり合うことに責任をもち,学び,成長する関わりを意味する。
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―初等教育教員養成コースの学部生を対象として―
劉 錡洋, 池田 吏志
2025 年57 巻1 号 p.
313-320
発行日: 2025年
公開日: 2025/04/18
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本稿では,障害理解教育を実践できる教員養成のさらなる推進を目指し,教員志望の大学生と障害者の間の直接的かつ深い交流を促進する施策として,初等教育教員養成コースの学部生を対象に,ろう者がファシリテーターを務めるVisual Vernacular(VV)を活用した美術鑑賞交流プログラムを開発・実施した。その結果,学部生のろう者に対する意識がプログラム実施後にポジティブに転換され,その影響が持続することが確認された。今後の課題として,プログラムの再開発および実施に際し,ジェスチャーの基礎やろう芸術・ろう文化に関する要素を導入することで,効果を強化する必要があると考えられた。
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