美術教育学研究
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  • ―見方や感じ方の深まりを目指したルーブリックの活用―
    阿部 郁美, 五十嵐 史帆
    2026 年58 巻1 号 p. 1-8
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学校図画工作科における対話による鑑賞活動を対象に,児童の見方や感じ方の深まりを可視化することを目的とした。先行研究では,鑑賞の継続的実施やファシリテーションの重要性が指摘される一方,成果をどのように評価するかが課題とされてきた。そこで本研究では,児童の実態に合わせて作成した「朝の鑑賞ルーブリック」を用い,週1回,計10回の「朝の鑑賞タイム」で児童の発話を分析した。その結果,鑑賞を重ねるごとに到達度の高い発話が増加し,見方や感じ方の変容が確認された。また,教師の根拠や理由を問う声かけ,友人の発話との相互作用が児童の学びを深める要因となることが示唆された。本研究で用いたルーブリックは発話を抽出することに多くの時間を要するが,授業実践における到達度の把握に有効であり,今後の改良により汎用性が高まる可能性がある。

  • ―日本とアメリカの大学院生の協働学習の事例考察―
    家﨑 萌, リョウ クリスティン
    2026 年58 巻1 号 p. 9-16
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本稿は,2023~2025年に実施した日米大学院生による教科横断型カリキュラム開発の協働学習を検討する。文化に応答的な教育の枠組みを踏まえたプロジェクトで,学生たちはグループごとの異文化コミュニケーションを通じて,文化の表面的理解を避けつつトピックを多面的に捉え,芸術を統合したカリキュラム開発を行った。1年目には翻訳ツールを介した有意義な交流や居心地のよい環境から踏み出す経験,多文化尊重の重要性を学んだ。2年目には文化的ステレオタイプを批判的に検討し,歴史的・社会的文脈や感情的側面を取り入れた授業設計に自信を得た。学生たちの省察記述を基にした検証から,プロジェクト全体として,協働学習は適応力や異文化感受性,指導スキルの向上を促進したこと,芸術統合の教育において地域の芸術文化を扱う際に文化的文脈を批判的に考察する必要性が示唆された。

  • ―モチーフ・デッサンの実技調査における熟達者と非熟達者の比較―
    伊東 一誉, 田代 琴美
    2026 年58 巻1 号 p. 17-24
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本調査は,描画の学習場面におけるつまずき(形を捉えることができないこと)について,「描画姿勢の傾きが空間認識の歪みにつながっている」と仮説を立て,熟達者と非熟達者の比較から検証を試みた。1時間のモチーフ・デッサンを①作品評価と平均値の算出,②時間見本法によるデッサン過程の分割,③マニュアル・トレース法による姿勢変動の視覚化によって分析したところ,以下の結果が得られた。第一に,非熟達者のデッサン作品は「形状や比率を正確に捉える」「三次元的に空間を把握する」項目において特に数値が低かった。第二に,熟達者は1時間のデッサンのうち「見る」行為に多くの時間を割く一方,非熟達者は「描く」時間の割合が多かった。第三に,非熟達者の描画姿勢は常に下向きの傾向にあり,モチーフから目が離れやすく首に負荷がかかる等の特徴が得られ,描画姿勢の傾きが空間認識の歪みにつながっていることが示唆された。

  • ―パリ市Henri IV中学校の授業実践とEAC/PEACの接続―
    小笠原 文
    2026 年58 巻1 号 p. 25-32
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    包括的で持続可能な社会の構築が求められる今日,多くの国において芸術教育への期待は高まっている。しかし,教室における質的展開は停滞している現状がある。日本においても美術科の授業は「癒しの時間」として受け止められやすく,知的探究としての基盤が脆弱である。他方,フランス前期中等教育における教科「造形芸術」は,制作・鑑賞・批評を往還させる課題設計と評価が中核をなし,制度と授業が一体化している。特にEAC/PEACによって校外活動や文化施設との連携を制度的に保障し,成果をポートフォリオや口頭試験を通して可視化する。本稿ではパリ市Henri Ⅳ中学校の授業実践を手がかりに,教室内の語彙・分析枠組みが校外活動へと拡張され,逆に校外経験が次の制作・鑑賞へ還流する循環構造を明らかにする。これを踏まえ,日本における課題設計の精緻化,評価の可視化,校外資源の組込みを提起する。

  • ―近代木彫の動勢分析に向けた試論 米原雲海の作品を通して―
    柿原 岳史
    2026 年58 巻1 号 p. 33-40
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,米原雲海の基準作における動勢を数値解析で再検討し,その近代性への示唆と近代木彫の動勢分析に向けた試論を提示することを目的とした。作品を「初期」「中期」「後期」に分類し比較分析した結果,初期の作品に見られる強い正面性を保持しながら,中期には古典題材に複雑な動きが付加され,正面性と共に奥行きや左右への造形連携という動勢の特徴が確認された。さらに後期の《竹取翁》では,特定の身体動作を導入しながらも,初期と同様に各軸間の低い相関が確認され,正面性を維持しつつ独自の動勢表現を確立していることが示された。これにより,米原雲海が時代・思想背景に応じ動勢を形成し,独自の彫刻観を確立したと考えられる。本研究は,近代具象木彫の動勢研究における数値データ収集・蓄積の試みとして,その一端を担うものであり,今後の動勢研究の深化に貢献する知見を提供するものである。

  • ―アメリカ児童画展の衝撃と水彩絵具製造―
    金子 一夫
    2026 年58 巻1 号 p. 41-48
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    1947年に銀座三越の「アメリカ児童画展」に展示された米国児童作品の不透明水彩の強い色彩と奔放な筆致は日本の美術教育関係者に衝撃を与えた。この展覧会はCIEのヘファナンが関与した日本教育改革運動の一環であった。日本の美術教育界はそれまで使わせていた透明水彩から不透明水彩へ官民挙げて転換する。絵具製造会社は1949年に指絵具を,1950年から学童用不透明水彩絵具を研究開発して販売する。文部省は1951年,1961年の学習指導要領で低学年から不透明水彩を使うと規定した。こうして日本の水彩絵具は不透明水彩中心になった。ただ現実に絵具製造会社が製造販売したのは半透明水彩絵具であった。重色の透明水彩と混色一回塗りの不透明水彩の基本技法の違いが意識されなくなり,教育現場で混乱は今でも続いている。不透明水彩を指導した教員として松本キミ子と堀典子を紹介した。

  • ―表現における違和感や不満足感に着目して―
    川人 武
    2026 年58 巻1 号 p. 49-56
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    問題解決をテーマとしたデザイン題材では,作品やプレゼンテーション等による具体的な提案がなされる。しかし,困難な課題は必ずしも解決に至らず,未解決のままとなる場合も多い。本研究は,デザイン題材におけるネガティブ・ケイパビリティ(不確実性を受容し問い続ける力)に注目し,その意義の検証を目的とする。高等学校美術科の授業において高校2年生44名を対象にデザイン思考に基づく探究題材を実践し,生徒の学習過程を検証した。授業後のアンケートの分析や生徒のコメントから,生徒がデザインの制作および提案において違和感や不満足感を抱きながらも,「制作の継続」「完成の留保」といった場面でネガティブ・ケイパビリティを発揮していた状況が示された。さらに,完成後に生じる違和感や不満足感が,学習上の失敗ではなく,次の創造的探究を促す内的原動力となる可能性が示唆された。

  • ―こども園における実践事例を通して―
    栗川 直子, 森 みゆき, 坂本 健
    2026 年58 巻1 号 p. 57-64
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    近年,幼児向けの美術鑑賞教育への関心が高まっている。美術鑑賞は,感性や表現力を養う活動であるが,保育現場での実践には課題が残っている。先行研究より,多くの教師・学生が幼児期の鑑賞教育の重要性を認識する一方,効果的な指導法がわからず自信を持てないと感じていることが明らかになった。そこで本研究では,幼児にふさわしい模倣遊びを中心とする美術鑑賞教育プログラムをこども園で実践し,幼児の動きや発言を分析することによりプログラムの妥当性・有効性を検討した。幼児は,提示された美術作品を模倣し,身体的な動きや発話を通じて作品の理解を深めた。幼児の表現には作中人物になりきった発話があり,模倣によって人物の内面を共感的に理解する様子がみられた。また,感じたことをすぐに言葉や身体の動きで表現することができ,他児との相互作用もみられるなど,保育室で実践する利点も確認できた。

  • ―名刺レイアウトにおける嗜好性と規範的信念の構造的分析―
    桑原 一哲
    2026 年58 巻1 号 p. 65-72
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,名刺デザインを対象に,大学生の嗜好性と規範的信念の構造を分析し,それらがレイアウト原則の理解や評価とどう関連するかを明らかにした。58名への質問紙調査の因子分析により,嗜好性は「抑制的装飾志向」「個性調和志向」「機能美志向」「個人印象付け志向」,規範的信念は「情報信頼性志向」「受け手配慮志向」「組織役割志向」が抽出された。両者には正の相関があり,情報の正確性や秩序を重視する態度は受け手配慮や機能美の評価と結びついていた。レイアウト評価では,原則を正しく実装したデザインを選べた群ほど嗜好性と規範的信念の得点が高く,理解が価値観の成熟と関連することが示された。参加者は,個性表出より信頼性や社会的適切性を優先し,教育的には,原則理解を媒介とした省察や段階的指導が,表現と配慮のバランス育成に有効であると結論づけた。

  • ―物語の身体化による絵本再構成に基づく学びの過程―
    小室 明久
    2026 年58 巻1 号 p. 73-80
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,保育者養成課程における総合表現を対象とし,学生が絵本の再構成や舞台発表を通じていかに専門性を形成するかを,物語の身体化の視点から検討したものである。短期大学部2年生を対象に自由記述調査を実施し,質的コーディングによって分析した。その結果,初期では絵本の忠実な再現や素材・技術への関心が中心となり,中期では協働や役割意識といった集団的視点が強まった。終期には観客の視点を取り入れ,他者との関係を通じた意味生成へと移行していた。これらの過程は,身体的経験に基盤を置く相互作用の中で表現が「再現」から「伝える/ともに生み出す」営みへと展開することを示している。総合表現は技能獲得にとどまらず,他者と共に意味を創出する実践的な学習環境として,保育実践に接続可能な専門性形成を支える意義をもつことが明らかとなった。

  • ―美術教育による創造性育成の解釈を通して―
    佐々木 宰
    2026 年58 巻1 号 p. 81-88
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    マレーシアの学校教育における現行の視覚芸術カリキュラムは,2017年に改訂された小学校標準カリキュラム(KSSR)と中学校標準カリキュラム(KSSM)である。これらの改訂は,教育省による「マレーシア教育ブループリント2013−2025」の方針を受けている。グローバル社会における経済発展と人材開発を背景に,これらのカリキュラムでは強い規準性の下で視覚芸術のリテラシーの獲得が目指されていた。他方,教育省は包括的な教育による人格形成を主眼とした「学校カリキュラム2027」の策定に着手している。この教育方針の転換のもとで,美術教育を通した創造性育成がどのように捉えられているかを調査したところ,現代的な文脈における創造性だけでなく,生徒の日常生活に広汎に作用する属性やポジティブな態度としても意識されていた。また,創造性を本来的に人間に内在する属性と捉える視点も提示され,美術教育への有益な示唆が得られた。

  • ―素材・道具・人・時間の交錯から立ち現れた〈生成のリズム〉の試論―
    佐藤 牧子
    2026 年58 巻1 号 p. 89-96
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,Cクリエイティブ・アートラボとA工作アトリエにおける参与観察(2022年–2025年)を基に,5名の子どもの〈つくる〉活動をエスノグラフィーとして記述し,「素材」「道具」「人」「時間」の4視点から分析的に解釈した。その結果,同一素材を長期に探究する,暫定的完成を重ね拡張する,モチーフを持続的に変奏する,物語世界を立ち上げる,過去作品を修復・更新するなど,多様な諸相が確認された。これらは発達段階論や完成度評価では捉えきれない生成過程を示しており,本研究ではそれらを暫定的に〈生成のリズム〉と呼び,その意義と可能性を試論的に論じた。〈生成のリズム〉とは,〈つくる〉営みを,段階的に高度化していくという直線的発達ではなく,素材・道具・他者・時間との応答のなかで断続・再開・変奏を重ねながら更新されていく生成的な動きとして捉える視座である。この視座は,子どもの〈つくる〉活動の多様性を理解し,子どもの世界を捉える上で有効な手がかりとなりうる。

  • ―東洋陶磁展における「アラ不思議!?飛び出せ魔法の壺!」の実践と初任者研修―
    島口 直弥
    2026 年58 巻1 号 p. 97-104
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    館蔵品の調査研究・活用は美術館の一義的な使命である。しかし,筆者の勤務する浜松市美術館では,館蔵品展の動員は特別展や企画展に比して伸び悩むのが現状で,館蔵品を主とした展覧会の開催や附随する教育普及プログラムの開発・実践の機会は少なかった。本研究では陶磁器の展覧会に合わせ,陶磁器を活用した教育普及プログラムを考案・実践した。その上で,陶磁器とその教育的有用性を学校(教員)に周知する教員研修(初任者研修)を実施した。初任者研修では,参加者が美術館が開発した教育普及プログラムを実際に体験する。そして,美術館が事前に実践した同教育普及プログラムで子供たちに育まれた資質・能力を子供の姿で確認する流れとした。陶磁器を活用した教育普及プログラム,初任者研修の成果を確認し,館蔵品を活用した教育普及プログラムと教員研修の連続化・一体化1)という美術館の教育的利用の新しい在り方を提案した。

  • ―哲学対話とポリフォニックの視点から考える対話のデザイン―
    辻 和希, 佐部利 典彦
    2026 年58 巻1 号 p. 105-112
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,現代アートを題材とした新たな「対話による鑑賞」の手法を開発することである。「対話による鑑賞」は,鑑賞教育の一環として学校や美術館で広く普及してきたが,従来の枠組みでは現代アートの特性に十分対応できないという課題が指摘されてきた。現代アートは,抽象性や多義性を有し,作品の中に問いを含むという特性をもつ。それゆえ,多様な視点の交流を前提とする対話との親和性が高いと考えられる。新しい手法の開発にあたっては,鑑賞者それぞれの考えや解釈を尊重し,多角的な視点から語り合える「ポリフォニー」の視点から対話をデザインした。本研究では,まず先行研究をもとに現代アートと対話の親和性を検討する。つぎに,新たな手法の基本的な設計を紹介する。最後に,本手法を基に実施したワークショップについて確認し,参加者に実施したアンケートの結果を質的に分析し,本手法の有効性を検討する。

  • ―2005年と2021年の全国調査から―
    直江 俊雄
    2026 年58 巻1 号 p. 113-120
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,2005年と2021年に実施した全国調査の自由記述回答を分析し,高等学校教員によるアートライティング教育に対する見解の傾向を明らかにするものである。自由記述は「賛同意欲」「反対疑問」「実施困難」「要望その他」の四類型に整理でき,16年間で大きな変動は見られなかったが,時間的制約を理由とする「実施困難」の割合は減少した。一方,賛同や批判の記述内容には,教育的意義の普遍性や美術教育の本質的課題に関する考察がより深まる傾向が認められた。2021年調査では,エッセイコンテスト参加群において賛同意欲の表明が著しく高く,制作と文章表現を不可分のものと捉える姿勢がうかがえた。ただし,見解がコンテスト参加経験に収斂する傾向は本調査の限界であり,今後は多様なアートライティング教育の可能性を視野に入れた研究とともに,本調査に見られた高等学校教員の意識の高まりを活かす方途が求められる。

  • ―別府市教育会「芸術講座」を契機に―
    中川 三千代
    2026 年58 巻1 号 p. 121-128
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    1920年代は,それまで日本人西洋画家の育成を中心に進められてきた西洋美術受容に対して,日本への西洋美術作品の流入が本格化した時期である。フランス人美術商エルマン・デルスニスと黒田鵬心は1922年から約10年間,東京・大阪を中心にフランス現代美術の大規模展覧会をほぼ毎年開催し,更に1925–30年には15都市で23回の地方巡回展を実施した。本稿は,そのうち1926年1月および8月に別府で開催された展覧会を取り上げ,開催経緯,新聞報道,出品作家・作品などについて述べる。それらの展覧会において,19世紀の物故作家から当時の新進作家まで幅広い作家の作品が持ち込まれたこと,展示品の売約があったことなどを明らかにする。更に,当時の記録としても盛況を呈したこと,教育色の強い展覧会であったことを示す。また,なぜ別府で開催されたかについて,いくつかの要因を挙げ,その複合による開催経緯についても考察する。

  • ―生徒が保持するプランニングを中心とした学習方略に着目して―
    長友 紀子
    2026 年58 巻1 号 p. 129-136
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本論は,美術科授業における自己調整学習方略に注目し,生徒が保持している自己調整学習方略の知識の傾向と特徴を明らかにすることを目的とした。アンケート調査および授業観察に基づく分析の結果,「目標設定とプランニング」方略の知識を有している生徒が多いことが明らかになった。また,学習方略の知識を単独で保持している生徒は少なく,多くの生徒が2つ以上の学習方略の知識を有していた。これらの結果をもとに,保持知識の傾向に応じて「自己評価・プランニング群」「教材再設計・プランニング群」「情報収集・プランニング群」「環境構成・プランニング群」の4群を設定した。各群においては,生徒が置かれた環境や他者との関係性を背景に,主題を捉え直したり,表現方法や制作手順を見直したりするなど,異なる学習活動の傾向を見とることができた。

  • ―大正14年における北海タイムス社の取り組み―
    根山 梓
    2026 年58 巻1 号 p. 137-144
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本論文は,現在の北海道新聞社の前身である北海タイムス社が発行した『北海タイムス』に掲載された記事に基づき,大正14年(1925)における同社による自由画教育に関する取り組みを明らかにするものである。同社で美術部員であった澤枝重雄は,大正10年から紙上で小学生の自由画を募り講評の言葉を添えて掲載した。大正12年までその作品数は多くはなかったが,大正13年には道内各地の小学生による約40点の作品,大正14年には約50点の作品が掲載された。7月,全道規模の初の美術団体である北海道美術協会が発足すると,同社は同協会に自由画展覧会を引き継ぎ,同協会主催による「全道児童自由画展」の後援者となった。主に小学校教員に向けて自由画とは何であるのかを伝えるために澤枝が中心となり始まった同社の取り組みは,道内で子どもの表現活動に対する関心が高まる中で,道内の美術分野の振興を目指す動きに近づいていった。

  • ―版画表現による異文化間交流授業開発に向けた基盤的調査として―
    海 日罕, 家﨑 萌
    2026 年58 巻1 号 p. 145-152
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    近代木版画運動以来,中日版画は交流・相互影響を続け,両国の美術教育で重要な地位を占める。本研究で両国の小中学校美術教科書と指導方針を対比したところ,中国は版画教育で技法の規範性・授業実施可能性を重視し,伝統文化や情意教育と結びつけるのに対し,日本は材料探究・主体的表現を重んじ,制作過程の材料体験と生活との関連を重視することが明らかになった。両国はいずれも版画学習を段階的に配置し,実践と審美能力育成を強調している。この結果を踏まえ,今後の研究では両国の長所を融合し,文化的内包と創造的技法探究を兼ね備えた異文化交流型版画カリキュラムの開発構想を提案し,児童生徒の芸術的素養と異文化理解能力向上を目指す。

  • 畑中 朋子
    2026 年58 巻1 号 p. 153-160
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    近年,ミュージアムにおけるソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)が重要な課題となっている。本稿では,米国のニューヨークの映像博物館とミネアポリスのウォーカー・アート・センターという2つのミュージアムの映像メディアに関する実践と,またDEAIへの配慮においての先進的な取り組みについて紹介する。DEAI(多様性,公平性,アクセシビリティ,インクルージョン)は,広範囲な作り手・スタッフ・来館者などの多様性を扱う概念であるが,本稿では両館における「来館者」へのアプローチに関するケーススタディを通して考察する。主に歴史的経緯や展示の特徴,教育プログラムに着目し,地域の民族的背景の推移状況やニューロダイバーシティをめぐる考え方,映像メディアの役割や変化を加味しつつ,他の関連事例も比較することにより,インクルーシブな文化空間を構築する上での可能性と継続的な課題について論じたい。

  • ―『中等日本臨画帖』及び『女子高等画帖』を中心として―
    蜂谷 昌之
    2026 年58 巻1 号 p. 161-168
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,高岡市の小学校に所蔵される大正期尋常科児童の卒業記念画に,手本として多く使われたとみられる毛筆画教科書『中等日本臨画帖』及び『女子高等画帖』の内容を分析するとともに,教科書の図版を手本に描いた作品を分析し,児童の臨画表現の実態を明らかにしたものである。研究方法として,文献及び先行研究の調査,教科書の分析を行ったうえで,卒業記念画制作において使われた図版の特定や児童の臨画表現の特徴を分析した。調査の結果,『中等日本臨画帖』,『女子高等画帖』には類似性が認められ,改訂版を含め題材の共通化が図られており,花や鳥,器物,風景が多く掲載されていた。児童の臨画作品は幅広いテーマが選択されており,手本の模写のほか,モノクロの絵に彩色を施した作品,原画の一部を変更した作品などがあり,臨画表現のいくつかの型を確認することができた。

  • ―布のインスタレーション作品における発話の比較―
    樋口 健介
    2026 年58 巻1 号 p. 169-176
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,視覚障害のあるアーティストがファシリテーターを務めた対話鑑賞セッション(Bグループ)と,視覚障害のない教員が補助的に進行したセッション(Aグループ)において,参加者の発話の特徴を比較した。布のインスタレーション作品を題材に二つの対話を逐語化し,作品の意味づけに関わる5つのカテゴリー(感覚表現,記憶,構造・素材,比喩・象徴表現,ファシリテーターの問いかけ)でコーディングした。Bグループでは「構造・素材」への言及が39.8%と高く,Aグループの15.0%よりも多く,詳細な観察から個人的記憶や象徴的解釈へ展開する発話が多くみられた。Aグループは第一印象の短い共有が中心で,意味づけの広がりは限定的であった。Bグループでは色・材質・配置などを確かめる問いが繰り返され,視覚障害のあるファシリテーターの進行様式が観察の精緻化と解釈の深まりを促していた可能性が示唆された。

  • ―ホスピタルアート展の実践とアンケート調査を通して―
    一鍬田 徹
    2026 年58 巻1 号 p. 177-184
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    2018年に広島大学病院に開館したYHRP美術館は,「全国でも珍しい」病院内の美術館である。筆者は,このYHRP美術館を会場に,美術を学ぶ学生の作品を展示する「私たちのホスピタルアート展 広島大学の学生によるマケット(模型)作品展示」を独自に企画し,2025年3月に約1ヶ月間,開催した。展示作品は,主に「彫刻表現演習」(学部2年生)の受講生による,実際のモニュメント「FOUR SEASONS TREE」を踏まえた授業課題の成果物であった。また同展ではアンケート調査を実施し,展示された作品の中から特に印象に残ったものとその理由,ホスピタルアート全般に対する経験や印象,アートに求める要素や必要性等に関する質問を行い,37名からの回答を得た。本論では,このアンケート結果及び考察に基づき,病院における彫刻・立体造形作品の可能性や課題についてまとめた。

  • ―アーティストによる授業実践の分析から―
    平井 里奈
    2026 年58 巻1 号 p. 185-192
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,デザインの専門学校におけるアーティストの授業実践を通して,学生が受けた触発を「inspire by」と「inspire to」の2つから質的に分析したものである。学生の記述の分析からは,作品の技術・独創性に関する因子と,人柄や姿勢に関する因子の両方が複数同時に生起していることが明らかとなった。また,3名の学生の事例をインタビューから検討した結果,「アーティストの思考と自身の関心との比較」,「アーティストや作品との積極的な関与」,「アーティストの制作意図への深い思考」が「inspire by」と「inspire to」の関係に影響したことが確認できた。さらに,清田の「創造性が社会と出会う美術教育」モデルの4つの育み「自己の深まり」,「共感性」,「深く見つめる」,「社会への広まり」と対応させて考察したところ,触発は未来の経験へ主体的に向かう姿勢を育む契機となることが示唆された。

  • ―負の感情と面を媒介とした実践研究―
    平岡 美由紀
    2026 年58 巻1 号 p. 193-200
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    現代の企業制度的日常では,効率性や合理性を優先する構造の中で,組織的役割に収まりきらない内面的欲求に基づく「私」の在り方は見えにくい。本研究は,芸術実践がこの制度的日常において「私」の生成をいかに可能にするかを探究した。少人数型ワークショップを新たに設計し,「負の感情」や「面」を媒介として実施し,ポスト質的研究の視座から言語的・非言語的生成プロセスを多層的に分析した。その結果,深層的価値観への到達や他者の語り,3類型の問いによる触発が生成の契機となり,さらに制度的日常へ戻った後にも,「私」の表出による他者との新たな関係性構築や,自己表現の許容が確認された。以上から,芸術実践は,企業におけるダイバーシティやウェルビーイングを単なる理念に留めず,制度的日常で「私」を生きることを可能にする技法として,持続的かつ多様性を尊重する企業組織の実現に寄与しうることを示した。

  • ―ムナーリとレステッリの触覚のワークショップ比較を通じて―
    藤田 寿伸
    2026 年58 巻1 号 p. 201-208
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は20世紀イタリアの芸術家ブルーノ・ムナーリと彼の教育活動の協力者ベバ・レステッリの活動に注目し,特に触覚に注目した子どものためのワークショップに関するムナーリとレステッリの著書の比較とレステッリ本人への聞き取り調査をもとに,ムナーリからレステッリに受け継がれた教育の発展について整理を試みる。両者の著書内容の比較から,ムナーリによる感覚と表現を通じた教育のアイデアを,レステッリが子どもの発達段階に鑑みた具体的なワークショップ・プログラムとして実践することでムナーリの教育が発展したことが確認された。その記述内容からはレステッリが実践的なプログラムの設計を通して師ムナーリのメソッドを読み解いていったプロセスを読み取ることができる。創造性を育むムナーリの教育理念と手法の再評価は,不確実な未来を生きる今日の子どものためにも重要なテーマと考えられる。

  • ―「実感を伴う学び」においての直接的・疑似的な経験の位置付け―
    堀田 英子
    2026 年58 巻1 号 p. 209-216
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,美術科教育における触覚的経験の教育的価値に着目し,「実感を伴う学び」の実現に向けて,直接的な経験と疑似的な経験について検討することにより,授業設計におけるそれらの経験の効果的な位置付けを明らかにすることを目的とする。美術科教育の表現活動では,触覚を働かせる経験が不可欠であるため,まず触覚の特性について関連分野である発達心理学・教育学・哲学からの知見を参照し,理論的枠組みを概観する。次に,触覚に働きかける技術の進展を背景として,工学の視座による先行研究および先行実験結果を援用し,触感における記憶の役割を整理するとともに,触覚技術であるハプティクスがもたらす利点と課題を明らかにする。これらの分析を踏まえ,触感における記憶の観点から,経験論的視点に立って,図画工作科における直接的・疑似的な経験の授業設計上の効果的な位置付けを明らかにする。

  • 本田 悟郎
    2026 年58 巻1 号 p. 217-224
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本稿では岸田劉生による『図画教育論』(1921)について,その芸術観である「内なる美」を軸に再考し,当時の美術教育のあり方を検証する。岸田劉生は日本近代を代表する画家のひとりで「麗子像」で知られているが,大正期には娘麗子の成長を見つめながら,美術教育に関する自身の見解を『図画教育論』の執筆を通しまとめている。大正期に山本鼎による「自由画教育」の理念とその教授法が教育現場に広がり隆盛した中で,『図画教育論』は「内なる美」を基にした教授法を示し,美術教育のあり方を独自に捉え直そうとするものであった。本稿では,本書で論じられた模倣から発展する創造性や鑑賞の価値に焦点を当て,大正期の美術教育における本書の意義を明らかにするとともに,今日の美術教育にもたらす視座を探ることとする。

  • ―ESDとPBLを架橋する美術教育の可能性―
    松井 素子
    2026 年58 巻1 号 p. 225-232
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    2024年1月の能登半島地震で顕在化した避難所における役割分担の不平等を題材に,教員・保育士養成課程の学生3名が寓話形式の防災絵本『ぽかぽかべんとう』(全16頁)を共同制作し,制作過程を重視した学内発表を同養成課程を含む大学1~3年生に対して行った。本研究は,実際に活動した制作者側の意識の変化と,被災者側の想い等の背景を踏まえた制作過程を聴講した学生126名の質問調査紙の自由記述を対象に,質的多重ラベリングと量的頻度・共起・対応分析を組み合わせた混合研究法でそれぞれが受けた影響を分析した。その結果,聴講者にはESD的価値観(公正・互助・心の復興)の内面化が促され,制作・発表者にはPBLサイクル(制作→発表→省察)による行動転移意図が醸成された。さらに,美術教育における絵本制作が,ESDとPBLを往還的に媒介し,学習者に深い学びと行動意図を同時に促す学習メカニズムであることが明らかになった。

  • ―鑑賞と構想場面での知識構成型ジグソー法の活用を通して―
    馬淵 哲
    2026 年58 巻1 号 p. 233-240
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,プロジェクト型デザイン学習(PBDL)の鑑賞と構想の場面での「知識構成型ジグソー法」の活用によって,学生の創造的探究を促進させることを目的とする。そのために,「知識構成型ジグソー法」の「エキスパート活動」で習得した専門知識を,多様な視座で意見を交換する「ジグソー活動」に活用する協働構想によって創造的探究が促進されると考えた。これらの授業実践における学生の創造的探究と「知識構成型ジグソー法」の関連性を,学生の「感性・理性評価,ワークシート・アンケート記述,行動記録,成果物」の質的分析を用いて考察した。その結果,「エキスパート活動」で専門的知識を習得した学生は,「ジグソー活動」においても専門的知識を活用して,創造的探究を進めていることが分かった。このように,「知識構成型ジグソー法」を用いたPBDLは,学生の創造的探究を促進させる上で,有効であることが明らかになった。

  • ―小学校中学年から高学年にかけての粘土による抽象表現の移り変わり―
    山﨑 麻友
    2026 年58 巻1 号 p. 241-248
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究では,乳児期から青年期にかけて,粘土を用いた表現活動に見られる発達の特性をまとめることを目的としている。第四次研究にあたる本稿では,小学校第4学年と第6学年の児童を対象に実践し,小学校中学年から高学年にかけての粘土表現について発達の特性の検討を行う。本調査では,目には見えない気持ちをテーマに紙粘土を用いた表現活動を3~4人班で行い,その後鑑賞活動を行った。その結果,小学校第4学年の時期から自己の経験における気持ちと結びつくことで抽象表現に向かうことが分かった。また,小学校第6学年では互いに表現の影響を受けながらも独自の表現に向かうことや,複数個の表現物の羅列による表現から単体による表現へと移り1つの作品に2つ以上の気持ちを表現する等,発達の質的な変化を確認することができた。これらの結果を踏まえ,10歳から12歳にかけての抽象表現における特徴について加筆を行った。

  • ―小学1年生「造形遊び」の見取りの観点から―
    山中 慶子
    2026 年58 巻1 号 p. 249-256
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本稿は,保育者と教師の子どもの見取りの傾向を比較分析することで視点の違いを明らかにし,両者が1人の子どもを見取る意義を見いだすことを目的とする。そのため,子ども達が自分の学びをつくり出すという点で,幼児期の「遊び」と類似性のある「造形遊び」を題材として調査を実施した。結果,教師は主に授業の目的が達成されているかに着目し,子どもが自らの力で考え表現する態度を重視する傾向が見て取れた。一方,保育者は子どもを主体として観察し,環境との関わりの中でいかに発達しているのかを活動全体から見取ろうとする傾向が示唆された。このように両者の見取りには違いがあったが,子どもを主体として一人ひとりの発達を見取ろうとする保育者のかかわりの意識と,活動の全体の流れから一人ひとりの学びを把握しようとする教師の視点の違いこそが,子どもの発達や学びの過程で必要不可欠であることが考えられた。

  • ―「ストーンアート」と詩による往還を通したマルチモーダルな学びの生成―
    和久井 智洋
    2026 年58 巻1 号 p. 257-264
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究では,図画工作科における芸術に基づく探究による実践を「造形遊び」の視点を踏まえた材料や場所との身体的な関わり,材料や場,作品がもつ文脈性や自己との関係性といった概念的な関わり,柔軟にイメージを広げて表すことができる授業展開といった観点から「ストーンアート」と詩の表現による授業を構成し質的に分析した。結果として,石の形や色から発想を広げ,何かに見立てる,並べる,重ねる,組み合わせるといった表現行為を通して生成された作品の造形的な特徴を,作品と詩の往還によって描写しつつ,そこに作者の経験や複雑な感情,さらには新たな意味や関係性を詩的な言葉を用いて物語的に概念化,相対化しながら主題をマルチモーダルに省察する活動となることがわかった。本研究によって芸術に基づく探究と省察の往還による価値生成の具体的な学習プロセスを示した。

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