ことばの翻訳には、大きな壁が立ちはだかっている。それら三つの壁について、川端康成の『雪国』のSeidensticker訳を通じて考察した。第一は、日本語に特徴的であるIモード(interactional mode of cognition)的表現が多く含まれているテクストをDモード(displaced mode of cognitlon)的表現が主流のテクストに翻訳するときの壁である。この壁は、高くて、厚い壁であるが、翻訳するときには、二つのモードがあることを認識すべきである。第二は、翻訳とはたんなることばの翻訳ではなく、テクストの翻訳であるということを指摘した。テクストには、さまざまなテーマが複雑に織り込まれているので、訳者はそのテーマを認識し、それに基づいて訳すべきである。第三は、人称代名詞の問題である。日本語の人称代名詞は、アイデンティティと深く関わっていて、英語と比べてより複雑である。複雑な体系のものをより単純な体系のものに翻訳するときには、特別な工夫が必要である。