本研究は、日本語母語の中級 (CEFR B1) レベルのハンガリー語学習者が、垂直方向の複雑経路局面を含む移動事象をどのように表現するかを検討するものである。Talmy (1985, 1991, 2000) の移動表現の類型論では、ハンガリー語は日本語とは異なる類型に属するとされ、ハンガリー語では主に動詞接頭辞と格接辞といった動詞以外の要素によって経路が表現されるのに対し、日本語では主動詞によって表現される。
本研究では、映像を用いた口頭産出実験により、垂直方向の複雑経路局面を含むジャンプ場面(例:箱の中から椅子の上へ飛び上がる)を対象として、日本語母語のハンガリー語学習者の表現 (H-L2(j)) の特徴を分析した。その結果、H-L2(j)では、これらの場面では本来不要であるダイクシス動詞を様態動詞の代わりに主動詞として選択し、それを動詞接頭辞と組み合わせる傾向が明らかになった。このことは、学習者がハンガリー語の「動詞接頭辞+動詞」という構造を、日本語における経路動詞の代替表現として用いている可能性を示唆するものであり、このパターンは日本語の経路表現の影響を受けたものと考えられる。さらに、動詞接頭辞および格接辞の選択に関しても、H-L1との乖離が観察された。
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