本稿では,ロンドン東部スピトルフィールズを研究対象地域として,インナーシティ問題とジェントリフィケーションの変化について,主に次の三点を明らかにした.
第一に,スピトルフィールズの失業率は33.1%(1991年)から8.1%(2021年)に低下し,インナーシティ問題は改善されてきたことを示した.1991年に空き家は多くみられたが,老朽化した家屋のうち,歴史的な保存建築物に指定されて修復されたものもあり,さらには,富裕層がその家屋を購入して移り住んできた.地区名はスピトルフィールズ・バングラタウンと改称され,バングラデシュ系住民のコミュニティとして知られるようになった.
第二に,スピトルフィールズにおけるジェントリフィケーションの状況が変わってきたことを明らかにした.2011年から2021年までのスピトルフィールズの就業者の職業別変化をみると,ブルーカラーの生産工程就業者が減少し,ホワイトカラーのうち専門職と技術職の就業者は減少したが,管理職の就業者は増加した.ジェントリフィケーションの影響から,ブリックレーンとその周辺の2017年の住宅価格は,ロンドン東部で最も高くなった.
第三に,スピトルフィールズでは,コマーシャルジェントリフィケーションとツーリズムジェントリフィケーションとが進行していることを示した.旧スピトルフィールズ市場の建物が改装され,衣料品や土産物,各種料理の屋台が並ぶとともに,旧トルーマン醸造所の場所で週末に開かれるマーケットには,ビンテージファッションやエスニック料理があり,若い人々や観光客が訪れている.その一方で,地域住民のためのスーパーマーケットが閉鎖されて,チェーンホテルが建設された.
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