都市地理学
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論説
  • 杉浦 芳夫
    2023 年 18 巻 p. 1-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    ウクライナ出身の移民経済学徒Peter Worobyは,カナダ・サスカチュワン州南西部における行政領域・公共サーヴィス供給圏再編に向けた勧告につながる中心地研究を,州議会が立ち上げた「農業と農村生活に関する王室委員会」からの委託研究として行なった.中心地理論の枠組を利用してまとめられた報告書の勧告は,その一部が州政府の施策に活かされた.Worobyは報告書ならびにそれを部分的に活用した自らの修士論文において,調査対象地域の中心地システムが5階層から成り立っていることを明らかにした.そして,供給原理によって立地が規定されている上位中心地の分布には変形の六角形構造が見出され,下位中心地は交通原理によって立地が規定されているとした.本稿では修士論文に記されている階層別中心地数をParr(1978)の一般階層モデルによってあらためて分析したところ,Worobyの説明とは逆の結果―上位中心地の立地は交通原理によって規定され,下位中心地の立地は供給原理によって規定されている―が得られた.Worobyと本稿の解釈の相違を論じるに当たっては,輸出用小麦栽培に特化した新大陸開拓地起源の中心地形成に関する歴史的考察が不可欠であることがわかった.
  • 中村 努
    2023 年 18 巻 p. 38-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    本稿は,在宅医療ニーズを検討するとともに,京都市における在宅医療チームの先行事例から,多職種連携による在宅医療体制の空間特性を検討したものである.都市部では,潜在的な連携先である診療所は多数存在するが,従来競合関係にあったことから,信頼関係の構築が連携の条件となる.そこで,医師会や在宅療養支援診療所が,信頼に基づく草の根的な診療ネットワークを形成することが多い.京都市西京区に立地する在宅療養支援診療所では,訪問看護師や介護福祉士,薬剤師,医療事務といった医師以外の職種が,医師とペアを組んで患者宅を訪問し,業務を分担している.京都府医師会が推奨する医療用ソーシャル・ネットワーキング・サービスの活用が,チーム内の多職種による問題の把握と対応を可能にしている.一方,コロナ禍では専門チームが別途組織され,地域基幹病院や入院医療コントロールセンターと連携することで,自宅療養中の高齢者の症状に応じた訪問診療体制を構築した.新たな組織内外の一時的な関係性は,市場原理とは異なる価値体系に基づいており,パンデミックによる突発的な需要にも有効であった.
  • 小地域統計に基づく都市比較分析
    上杉 昌也
    2023 年 18 巻 p. 47-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,2010~2020年のニューヨークと東京における大都市内部の近隣変化の特性について小地域統計を用いて比較する.近隣変化は,近隣地区の居住者の職業・教育・雇用状況で定義される社会経済的類型の変化で定義され,10年間での変化に基づく分析では,東京都区部よりもニューヨーク市の方が都市内部での相対的な近隣変化の割合は高く,変動が大きいことが明らかとなった.一方,両都市の共通点としては,職業構造の専門職化などによる全体的な近隣地区の社会経済的地位の上昇がみられたが,地位の高い地区類型と低い地区類型での変化率が低いことや,地位の低い地区類型の成長率がそれ以外の地区類型よりも低いなど分極化の兆候もみられた.変化の空間パターンの面では,両都市ともに社会経済的水準の上昇は都心に近い交通利便性の高い地域でクラスター化しており,都心周辺部でのジェントリフィケーションと関連付けられる.
  • 津島市・愛西市の植物調査をもとに
    竹中 克行, 長谷川 泰洋
    2023 年 18 巻 p. 59-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    本稿は,沖積低地の都市・村落におけるランドスケープの特質について,自然と人間の接点をなす緑に注目して考察したものである.かつての立田輪中が含まれる濃尾平野西部に研究対象地域を設定し,地形・水文的条件と密接に関わる植物の状態を知るための調査地として,津島市から天王川公園と下新田集落,愛西市から戸倉八幡社と石神社の計4箇所を選定した.植物調査で得られたデータを分析した結果,市街地と耕作地が大部分を占める沖積低地にあっては,人的介入の履歴が内在化した半自然というべき自然がたえず生産されていることに,ランドスケープの大きな特徴を見出すべきという考察が導かれた.そのうえで,もう一歩議論を一般化させ,自然の中に身を置き,生態系サービスを享受する人間の作法が世代を超えたローカル知となることが,ランドスケープの持続性にとって重要であるとの考えを試論的に提示して,締括りとした.
  • 藤塚 吉浩
    2023 年 18 巻 p. 73-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,ロンドン東部スピトルフィールズを研究対象地域として,インナーシティ問題とジェントリフィケーションの変化について,主に次の三点を明らかにした.  第一に,スピトルフィールズの失業率は33.1%(1991年)から8.1%(2021年)に低下し,インナーシティ問題は改善されてきたことを示した.1991年に空き家は多くみられたが,老朽化した家屋のうち,歴史的な保存建築物に指定されて修復されたものもあり,さらには,富裕層がその家屋を購入して移り住んできた.地区名はスピトルフィールズ・バングラタウンと改称され,バングラデシュ系住民のコミュニティとして知られるようになった.  第二に,スピトルフィールズにおけるジェントリフィケーションの状況が変わってきたことを明らかにした.2011年から2021年までのスピトルフィールズの就業者の職業別変化をみると,ブルーカラーの生産工程就業者が減少し,ホワイトカラーのうち専門職と技術職の就業者は減少したが,管理職の就業者は増加した.ジェントリフィケーションの影響から,ブリックレーンとその周辺の2017年の住宅価格は,ロンドン東部で最も高くなった.  第三に,スピトルフィールズでは,コマーシャルジェントリフィケーションとツーリズムジェントリフィケーションとが進行していることを示した.旧スピトルフィールズ市場の建物が改装され,衣料品や土産物,各種料理の屋台が並ぶとともに,旧トルーマン醸造所の場所で週末に開かれるマーケットには,ビンテージファッションやエスニック料理があり,若い人々や観光客が訪れている.その一方で,地域住民のためのスーパーマーケットが閉鎖されて,チェーンホテルが建設された.
  • 寺田 裕佳
    2023 年 18 巻 p. 87-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    南スーダン,エチオピア,ソマリアに隣接するケニアでは多くの難民を長年受け入れてきた.本稿ではケニアのカクマおよびカロベイエイ地域における難民支援に係る地域計画について検討し,主に次の四点について明らかにした.第一に,難民の受け入れによる一時的な経済効果を,地域全体の持続可能な経済活動につなげるためには,人道支援と開発援助との連携が重要となるが,開発援助との連携は不十分であることを明らかにした.第二に,本稿の研究対象地域では不利な自然環境のため,経済的には開発が進んでおらず,国際的な人道支援を中心に地域経済の活性化が行われてきた.研究対象地域において,難民と地域住民との間には支援格差があることと,人道支援は地域開発に活かされていないことを明らかにした.第三に,カクマ地域に比べ,地域開発計画と支援計画が調和したカロベイエイ地域のほうが,地理的に不利な条件を克服できうる可能性があることを示した.自治体が主導で行う参加型地域計画を用いることが,人道支援と開発援助の連携格差解消に対し有効である.第四に,自治体主導による参加型地域計画は,利害関係者が考えを共有できるため,関係者が抱える問題が計画段階で提起される.様々な援助機関間との調和が図りやすくなり,地理的に不利な条件を解消し,持続的に地域経済を維持できる可能性が高いことを明らかにした.
研究ノート
調査報告
  • 上海和服同好会の活動を中心に
    湯 天悦, 阿部 康久
    2023 年 18 巻 p. 133-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    上海における和服着用者の活動の動機・内容や活動空間のあり方を分析することで,中国において日本の民族衣装である和服が,どのように受容されているのかという点について検討した.研究方法として,和服同好会の会合等での活動記録の分析に加えて,同好会の活動に参加している会員らに対してインタビュー調査やアンケート調査を行った.同好会の活動内容をみると,和服や他の日本文化に関する活動の体験や交流活動が中心になっているが,実際の和服の着用方法や着用の際の作法等の学習会も多く行われている.その理由として,漢服のような中国の民族衣装では不明になっている,「真正」なデザインや着用方法・作法に関心を持つ人もいる点が挙げられる.活動空間の特徴をみると,調査時期には,中国と西側諸国の国際関係の悪化や新型コロナウイルスの感染拡大により,その活動内容や活動場所が制約される一方で,活動の商業化の傾向もみられた.同好会の会員たちには,日本において伝統的に存在してきた「真正性」のある和服を着用したいという意識がある一方で,中国では,和服を着用するにふさわしい場所の確保が難しいという側面もある.その中で,同好会では茶道や華道,弓道といった他の日本文化に関係する団体とも提携しながら活動空間を形成しようとしているが,同好会の会合は,都心部の一般的な商業施設にて開催される場合が多かった.また,ディズニーランドやクリスマス,ハロウィンといった,必ずしも日本の歴史的文化とはいえない空間や活動とも結びつきながら,その活動の場が形成されていた点も特徴的であるといえる.
フォーラム
  • 阿部 康久, 徐 楽
    2023 年 18 巻 p. 145-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー
    本稿では黄山市歙県の歴史観光資源の状況や評価について,観光客へのアンケート調査に基づいて分析した上で,地元住民の観光資源 や地名に対する意識についてインタビュー調査を通じて検討した.黄山市には,世界的に著名な自然観光資源である黄山風景区がある一 方で,「徽州文化」と呼ばれる歴史観光資源も有している.当地域の歴史観光資源は1987 年に市名が徽州から黄山に改名されて以降,知 名度が低下した.観光客へのアンケート調査の結果をみても,観光客の徽州文化への評価は黄山風景区への評価には及ばず,その背景と して現地政府の歴史観光資源に対する関心の低さと管理方法に課題があるとされる.これに対して,観光化の進展により住民の間では歴 史観光資源への関心が高まっている.観光業関係者以外でも歴史観光資源や市名の変更について知識や関心を持つ人が多くみられ,知名 度の向上のために市名を徽州に戻すべきという意見も多くみられた.その一方で,観光客の出身地や他の訪問地・訪問目的から判断すると, 黄山風景区があることで,歙県への観光客数が増加している可能性もある.これらの点も含めた,観光化や市名の変更をめぐる地域住民 の意識や発言をまとめると,歴史文化遺産の観光資源化による経済的利益の問題だけではなく,地域への愛着といったより心理的な要因 による影響も大きいと考えられる.
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