日本にとって1990 年代前半期は少子高齢化や東京一極集中現象が激しくなり,その後の大変動(経済の
停滞,非正規雇用者の増加など)の開始時期であった.筆者はNishihara(2022)にてこの時期を対象に,政府
の基幹統計である就業構造基本調査の66 万人分の全就業者標本データ(非集計レベル)を,同基本調査と同じ方
法で日本全体の就業者6,400 万人分データに復元し,個人と地域の格差形成の視点から,独自に就業者所得格差
の集計と分析を行った.本稿は,筆者自身のこの旧稿に新しい視点・手法を加えて改稿したものであり,以下の
結果を得た.(1) 個人の社会属性の枠組みによる構造的な個人格差が明瞭で,特に男性で顕著である.パス解析を
援用して整理した所得格差形成のメカニズムには男女の違いがある.結婚が女性のキャリアパスの旋回軸となり,
所得の多寡に強く影響している.(2) 女性に比較して男性には,地帯(中心−周辺構造)/都市システム(都市階
層)という2段階の地域の枠組みによる明瞭な地域格差がある.主要80 都市を対象にした都市システム内での都
市単位の分析では,男性で3大都市圏でも大阪大都市圏諸都市の低位が,地方圏でも国土の縁辺部の県域中心都
市の低位が明瞭であった.極言すると日本での所得の地域格差とは男性の地域格差によって形成されている.所
得の地域格差は,就業者の不均等分布による地域での社会属性の異なった就業者の構成状態(構成効果)と,同
じ社会属性の就業者での所得の違いなどの地域の階層的特性(階層効果)という2つの形成要因に整理されるが,
産業分野を例として分析すると階層効果がより大きい.特に男性の3大都市圏と地方圏の所得において,階層効
果はそれぞれ全国平均値から12% 程度押し上げる,低下させる作用があった.(3) 地理的階層分散分析によると
就業者全体の格差に対する地域格差(地帯/都市システム)の割合は非常に小さく,個人格差の割合が90% 超を
占めた.(4) 就業者を単位に所得を目的変数とする実験的な回帰モデル分析では,地帯/都市システムや個人の社
会属性からなる変数で説明できる割合(固定効果)は30% 程度で,モデルで捉えきれない個人的事情による部分(ラ
ンダム効果)が大きい.特に女性でその部分がより大きい.
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