植生学会誌
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16 巻, 2 号
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原著論文
  • 水野 貴司, 藤井 範次, 神崎 護, 山倉 拓夫
    原稿種別: 本文
    1999 年 16 巻 2 号 p. 103-113
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1991年に奈良県春日山照葉樹林で14haの森林調査区を設置し,胸高幹周囲60cm以上の林冠木55種,4059個体について毎木調査を行い,樹木分布図を作成した.この分布図データにフラクタル幾何学で用いられる3次元ボックスカウント法を適用し,樹木の空間分布のフラクタル次元を推定した.次元の推定に際し,サイズの小さい側でボックス数の飽和を許容するモデルを開発した.調査区に出現する個体数が50以上の樹木16種について算出したフラクタル次元は,1.17から1.73の範囲にあった.また,調査区内の谷線と尾根線のフラクタル次元は,それぞれ1.47と1.43となった.パッチ状の分布特性を特つ種は谷線および尾根線のフラクタル次元より小さい値を示し,中程度のフラクタル次元を持つ種は谷もしくは尾根によく依存した分布特性を示した.フラクタル次元の大きな種は調査区内に広く分布し,そのハビタットに地形依存性が認められない種であった.樹木個体の空間分布パターの解析にフラククルの考え方を持ち込むことにより,ミクロな環境の空間分布特性と樹木の空間分布特性を数値によって比較することが可能となった.
  • 大野 啓一
    原稿種別: 本文
    1999 年 16 巻 2 号 p. 115-129
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.一属一種の日本固有の草本であるオサバグサ Pteridophyllum racemosum Sieb. et Zucc. (ケシ科)の分布と生育環境を現地調査と文献によって調べたところ,落葉広葉樹林に生育する集団(D型)と,常緑針葉樹林に生育する集団(C型)の二型に分けられた.
      2.D型は,奥羽山脈以西の青森,秋田,山形,宮城,福島,新潟県などの日本海側から記録され,標高280-1400mに分布していた.各地域での生育場所の数や広がりは小さく,その多くは小谷沿いの急斜面であった.
      3.C型は,岩手県,および関東・中部地方(栃木,東京,埼玉,山梨,長野,新潟,静岡,岐阜の各県)から記録され,多くは内陸から太平洋側に分布していた.1040-2565mの標高域でみられ,平坦地から緩斜面に生じ,各地域での生育場所の数や広がりは太きかった.
      4.C型とD型の分布域は,積雪量の多少とは対応せず,それぞれ,欝閉した亜高山帯針葉樹林が現在成立している地域(C型)としていない地域(D型),チョウセンゴヨウ,ヒメバラモミ,アカエゾマツなど最終氷期に繁栄した針葉樹が遺存する地域(C型)としない地域(D型),および最終氷期の針葉樹林が後氷期にも存続した地域(C型)と衰退した地域(D型)とに対応していた.
      5.これらのことから,オサバグサは,最終氷期には本州中部以北で地域の別なく針葉樹林に生じていた(C型)が,東北地方日本海側などでは後氷期の多雪化と温暖化による針葉樹林の後退とともに衰退・消滅し,辛うじて一部が沢筋斜面の落葉樹林下などに遺存した(D型)のではないかと考え,その結果,現在の分布態様が生じたと推論した.
  • 齋藤 信夫
    原稿種別: 本文
    1999 年 16 巻 2 号 p. 131-140
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.青森県西津軽郡に発達するミズナラ林の種組成と分布について調査した結果,ミズナラ-ホツツジ群集とミズナラ-オオバクロモジ群集が確認できた.
      2.各群集の分布と気候,地形との対応関係を検討した結果,ミズナラ-ホツツジ群集は主として年平均降水量1800-2000mm,年合計降雪量400-600cmの多雪・多雨で,隆起・削剥・解体が激しく母岩が露出するような内陸部の山地帯に分布することが明らかになった.
      3.ミズナラ-オオバクロモジ群集は年平均降水量1600-2000mm,年合計降雪量200-700cmの,海成段丘群や岩木山裾野などに分布していた.
      4.ミズナラ-オオバクロモジ群集は気候要因よりも,地形的な要因によって分布が決められており,傾斜角が緩やかで,土壌層の厚い比較的安定した立地に発達する傾向を示した.
  • 中村 徹, 建元 喜寿, 上條 隆志
    原稿種別: 本文
    1999 年 16 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.本研究は,雪面硬化剤としてゲレンデに散布される硫安(硫酸アンモニウム)が植生に影響を及ぼし,その影響はゲレンデ造成時の人為のちがいによって異なることを明らかにしようとしたものである.
      2.植生調査は硫安散布個所と散布量の把握ができた長野県野沢温泉スキー場の二つのコースで行った.硫安散布区と非散布区とに,それぞれ10個所の方形枠(1m^2)を5m間隔で設置し,この方形枠内のすべての出現種,全体の植被率,出現種ごとの被度,高さ,地上部現存量を測定した.
      3.その結果,ゲレンデ造成時の人為の違いに関わらず,硫安散布区では葉の色が顕著に濃くなり,また,地上部現存量も大きく,非散布区では小さかった.
      4.硫安散市区と非散布区とで出現種類を比較したところ,植生の反応はスキー場造成時の地形改変(土壌移動)の大きさに応じ,二つのパターンに分かれた.まずスキー場造成時の地形改変が大きかったところでは,硫安散布区と非散布区とで出現種類に大きな変化は見られなかった.
      5.造成時にほとんど土壌削剥がなされなかったところでは,植生の回復が著しく,ここでは硫安散布区の出現種類が非散布区より有意に少なかった.これは優占種であるオオヨモギなどの一部の高茎草本に硫安の施肥効果が集中し,地表付近に生育するコナスビやニガナなどの小型種の出現頻度が著しく小さくなることによる.
  • 前迫 ゆり
    原稿種別: 本文
    1999 年 16 巻 2 号 p. 149-158
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    土中営巣性海鳥オオミズナギドリと植生との相互作用を検討するため,太平洋側のオオミズナギドリ繁殖地,高知県蒲葵島(32°44'N)において植生および巣穴構造を調査し,植物社会学的な群落分類と主成分分析による序列づけの両手法により植生調査資料を検討した.蒲葵島では標高に応じて1)風衝草本群落(ヒゲスゲ-ハチジョウススキ群落), 2)風衝常緑低木群落(ヤブツバキ群落,ハマヒサカキ群落およびモクタチバナ群落)および3)照葉樹林(タブノキ-ムサシアブミ群集)が分布していたが,植生型1)-3)のオオミズナギドリ巣穴密度はそれぞれ0.3±0.5m^<-2>, 0.2±0.3m^<-2>および0.5±0.1m^<-2>で,植生型による有意差は認められなかった.オオミズナギドリの巣穴は,草本群落ではハチジョウススキやヒゲスゲの株の下に,森林群落では樹木の根や幹付近にそれぞれ掘られる傾向にあった.巣穴を含むヒゲスゲ-ハチジョウススキ群落の平均種数は,他島嶼のヒゲスゲやハチジョウススキ優占群落と比較して低い値を示すことから,オオミズナギドリの営巣活動によって,ヒゲスゲおよびハチジョウススキは繁殖拡大する一方,他の植物種が消失し,草本群落の種組成が単純化しているものと推察された.タブノキ-ムサシアブミ群集においては上級単位構成種の減少やアカメガシワなどの陽生植物侵入などの組成的特徴がみられたが,現在のところ照葉樹林としてよく維持されており,オオミズナギドリ繁殖地として安定した立地を提供していると考えられた.
  • 島田 和則
    原稿種別: 本文
    1999 年 16 巻 2 号 p. 159-167
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.1992年9月に神津島天上山の低木林で発生した林野火災跡地において,5年間の群落動態を継続調査し,その特性,特に地表攪乱の影響について考察した.
      2.被災地域の植被率は5年を経過しても平均40%ほどで,平均90%を超える無被害地と比べて低い状態にとどまっていた.被災後萌芽再生した木本個体は,その後の枯死率は低く5年間順調に生育を続けていた.萌芽再生した前生個体の間には十分裸地空間があったが,実生や地下部からの徒長による木本の新規加入は少なく,毎年少数の個体が侵入・定着するにとどまった.
      3.天上山の地表は,多孔質流紋岩が厚く一様に風化した砂状の表層基質に被われており,植被を失った被災地において,この砂状の表土の侵食が顕著であることが観察された.侵食による表土の移動は,実生の定着に影響していると予想されたので,実生を想定した2種類のサイズの木製ピンを設置して2年間追跡調査を行った.その結果,叢生株・露岩等の有無,ピンのサイズの大小により被害に差が認められた.これらより,実生の定着初期段階で,表土の移動による攪乱圧が強く働いていることが予測され,上方に何かシェルターになるものがあるか,または個体サイズが大きければ表土の移動による死亡率が低いことが示唆された.
      4.もともと表土が侵食を受けやすく,しかも台風の常襲地帯である本調査地においては,一度植被を失うと表土の安定を失い植生の回復が困難になると思われる.被災により裸地化した空間への木本種の定着は細々と進行するにとどまり,回復には長期間を要すると考えられる.
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