植生学会誌
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18 巻, 2 号
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原著論文
  • 上條 隆志, 星野 義延, 袴田 伯領
    原稿種別: 本文
    2001 年 18 巻 2 号 p. 47-58
    発行日: 2001/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.火山島であり,成立年代の大きく異なる二火山(完新世火山の八丈富士と更新世火山の三原山)よりなる,伊豆諸島八丈島において,常緑広葉樹林を対象として植物社会学的方法による植生調査を行った.
      2.表操作による群落区分を行った結果,3群集,1群落,2下位単位が識別された.
      3.ユズリハ-ヤマグルマ群集は,オオキジノオ,ハチジョウウラボシ,ユズリハなど10種を識別種とする群落で,ハチジョウイヌツゲ下位単位とハチジョウスズタケ下位単位の2下位単位に区分される.
      4.ユズリハ-ヤマグルマ群集ハチジョウイヌツゲ下位単位は,ハチジョウイヌツゲ,ハチジョウアザミ,ハチジョウショウマなど11種を識別種とする群落で,八丈富士の標高430m以上に分布していた.
      5.ユズリハ-ヤマグルマ群集ハチジョウスズタケ下位単位は,ハチジョウスズタケ,ヤマグルマ,ミヤマシキミなど10種を識別種とする群落で,三原山の標高450m以上に分布していた.
      6.タブノキ-オオシマザクラ群落は,アスカイノデ,オオシマザクラ,タマシダなど9種を識別種とする群落で,主に萌芽再生林よりなり,八丈富士の標高550m以下に分布していた.
      7.オオシマカンスゲ-スダジイ群集はコハクサンボク,カツモウイノデ,ナギランなど10種を識別種とする群落で,主に萌芽再生林よりなり,三原山の標高540m以下に主に分布していた.
      8.マサキ-トベラ群集はトベラ,マサキ,ハチジョウススキなど8種を識別種とする群落で,海岸部に分布し,八丈富士と三原山の両方に分布していた.
      9.標高傾度でみると,八丈富士のタブノキ-オオシマザクラ群落および三原山のオオシマカンスゲ-スダジイ群集と,ユズリハ-ヤマグルマ群集との境界(標高500m)はWI=132となり,ユズリハ-ヤマグルマ群集の分布範囲は温量指数的にはシイ林域の上部から,カシ林域に相当していた.
      10.八丈富士と三原山という成立年代が異なる山体の相違を時間傾度に置き換えると,ハチジョウイヌツゲ下位単位とハチジョウスズタケ下位単位,タブノキ-オオシマザクラ群落とオオシマカンスゲ-スダジイ群集はそれぞれ遷移的関係として位置づけられると考えられた.
  • 鈴木 伸一
    原稿種別: 本文
    2001 年 18 巻 2 号 p. 61-74
    発行日: 2001/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.日本のコナラ林について植物社会学的な種組成および分布の検討を行った.各地域から報告された既発表文献と筆者らの報告した合計562の植生調査資料を用い,総合常在度表により広域的に比較した.その結果,日本のコナラ林群落を次の9群集にまとめ,イヌシデ-コナラ群団,コナラ-ミズナラオーダー,ブナクラスに位置付けた.1)オニシバリ-コナラ群集,2)ノグルミ-コナラ群集,3)アベマキ-コナラ群集,4)ケネザサ-コナラ群集,5)ケクロモジ-コナラ群集,6)クヌギ-コナラ群集,7)クリ-コナラ群集,8)カシワ-コナラ群集,9)オクチョウジザクラ-コナラ群集
      2.コナラ林は各群集の分布状況から,沿岸地域,西南日本地域,中部内陸地域,東北日本地域および日本海地域の5つの分布型にまとめられることを明らかにした.特に西南日本地域と東北日本地域はほぼフォッサ・マグナを境界とし,植物区系上の境界である牧野線に対応していた.
      3.垂直分布では,コナラ林は沿岸低地から海抜1350mまでみられ,2つの分布パタ-ンに大別される.1つはヤブツバキクラス域のみに分布する群集で,自然立地をもたない集約的管理によって形成されてきた二次林である.中国大陸の夏縁性ナラ林との類縁をもつと考えられる.他の1つはヤブツバキラス域から下部ブナクラス域まで分布する群集で,二次林だけでなく自然植生としても存在する.ブナクラスの種群が優勢で,二次林としては下部ブナクラスの夏縁広葉樹自然林に由来すると考えられる.
  • 久保 満佐子, 島野 光司, 大野 啓一, 崎尾 均
    原稿種別: 本文
    2001 年 18 巻 2 号 p. 75-85
    発行日: 2001/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.奥秩父の渓畔林で,種組成的に区分された植生単位が,高木性樹木のシオジ,サワグルミ,カツラの生育立地を指標しているかどうかを明らかにすることを試みた.
      2.本渓畔林は,植物社会学的にイワボタン-シオジ群集に位置づけられた.その下位単位には(1)オオイタヤメイゲツ亜群集,(2)ギンバイソウ亜群集が認識され,ギンバイソウ亜群集はさらにa)典型変群集とb)カンスゲ変群集に分けられた.オオイタヤメイゲツ亜群集は土石流堆積地に,ギンバイソウ亜群集典型変群集はV字谷の崖錐や谷底に,ギンバイソウ亜群集カンスゲ変群集はV字谷の支尾根や斜面に分布していた.
      3.高木性樹木の分布に関しては,シオジは全域で優占するものの土石流堆積地では特に優占し,サワグルミは扇状地や土石流堆積地の中でまとまって,カツラはV字谷に多く分布していた.このため,シオジの優占はオオイタヤメイゲツ亜群集とギンバイソウ亜群集域の両方で,サワグルミはオオイタヤメイゲツ亜群集誠に,カツラはギンバイソウ亜群集分布域でみられた.
      4.サワグルミやカツラなど優占樹種の分布は種特有の更新サイトを反映しており,そうした立地の特性を反映している植生単位は,優占樹木の更新サイトを指標する可能性がある.
  • 高岡 貞夫
    原稿種別: 本文
    2001 年 18 巻 2 号 p. 87-97
    発行日: 2001/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.亜高山帯の最下部に位置する長野県梓川上流域に点在するブナ林冠木の分布図を空中写真判読と現地調査から作成し,その特徴を地形・地質条件との関係から検討した.
      2.ブナは花崗岩地域と,中生界堆積岩地域のうち花崗岩に接する場所に分布し,また山腹斜面の遷急線より下方に位置する崩壊性斜面,崖錐,沖積錐に偏在していた.
      3.遷急線は後氷期開析前線であると推定され,本地域のブナの分布域は,後氷期における山地斜面の開析の進行にともなって拡大されてきたと考えられる.
      4.ブナが遷急線より下方に分布する原因として,そこで発生する崩壊や土石流が土壌条件や光環境を改善する方向に働く可能性を指摘した.崩壊の発生頻度は地質によって異なり,このことがブナの地質地域による分布の違いに現れていると考えられる.
  • 中西 弘樹
    原稿種別: 本文
    2001 年 18 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 2001/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.アカザ科マツナ属(Suaeda)のヒロハマツナについて,分布の現状および群落の生態,特に植生単位を決定すると共に,ヒロハマツナと比較するために,日本のマツナ属すべてが産する九州西部においてそれらの詳しい分有を明らかにした.
      2.ヒロハマツナの分布は,東海,近畿,中国,九州の11県から記録されているが,岡山県,福岡県,熊本県,鹿児島県ではすでに絶滅したか現状不明であり,愛知県では生育地が1ケ所,兵庫県,広島県,大分県では減少が著しく,絶滅が危惧される状況であった.現存する分布は南北に狭く,東西に広がっており,分布の東限は愛知県渥美町,西限は長崎県五島の若松町であった.
      3.九州西部において,マツナは北東部のみで,対馬上島に最も生育地が多く,ハママツナはマツナ属の中で最も産地が多く,九州西部全体に分布していた.シチメンソウは有明海沿岸の佐賀県、長崎県に限られ,分布域に入る対馬には発見されなかったが,ヒロハマツナは対馬の浅生湾沿岸部,上五島,長崎県本土中北部の佐世保市,有明海湾奥部に分布していた.
      4.ヒロハマツナは対馬と上五島のそれぞれ1ケ所においてハママツナと同じ塩湿地に,有明海湾奥部においてはしばしばシチメンソウと同じ塩湿地に生育していたが,混生することは少なく,すみ分けしていた.しかし,ハママツナとシチメンソウは同じ地点に分布していることはなかった.
      5.ヒロハマツナの優占する群落を新群集としてヒロハマツナ群集Suaedetum malacospermaeを命名した.
  • 並川 寛司, 奥山 妙子
    原稿種別: 本文
    2001 年 18 巻 2 号 p. 107-117
    発行日: 2001/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 石狩低地帯に残存するハンノキ,ヤチダモ,ハルニレが優占する湿生林に30の調査区を設定し,胸高直径5cm以上の樹木個体を対象に毎木調査,維管束植物について植物社会学的な調査を行なった.
      2. 30調査区から得た植生資料および文献から得た10の植生資料を用いて表操作を行った結果,ハルニレ-ハシドイ群落(3つの下位単位を含む)とヤチダモ-ミズバショウ群落(3つの下位単位を含む)に区分された.この2つの群落は,それぞれハルニレ群団のハシドイ-ヤチダモ群集およびミヤマベニシダ-ヤチダモ群集に対比可能であった.
      3. 調査区間の種組成の違いは,除歪対応分析から得た散布図上の1軸によく反映されていた.各調査区の1軸のスコアと気候環境(暖かさの指数,積雪50cm以上の年間日数,日本海指数)との間に相関が認められ,ヤチダモ-ミズバショウ群落からハルニレ-ハシドイ群落へ向かい,より寒冷・寡雪になる傾向が認められた.
      4. 2群落の種組成の違いは,気候環境の背腹性が優占するササ属植物の種を規定し,その生育を通じて間接的に他の植物の出現を支配した結果である可能性を考察した.
      5. 調査区間の均等度は1軸と相関を示し,ヤチダモ-ミズバショウ群落からハルニレ-ハシドイ群落へ向かい大きくなる傾向がみられた.
      6. 均等度で指標される2つの群落構造の違いは,気候環境の背腹性だけでなく,上譲条件にも支配されていた.
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