植生学会誌
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20 巻, 2 号
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原著論文
  • 浅見 和弘, 影山 奈美子, 伊藤 尚敬
    原稿種別: 本文
    2004 年 20 巻 2 号 p. 71-82
    発行日: 2004/02/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.常時満水位(EL.326.0m)以上を伐採せず試験湛水を迎えた福島県三春ダム貯水池湖岸の斜面において,試験湛水による群落組成の変化を追跡した.
      2.調査対象とした斜面は,クリ-コナラ林であり,低木層・草本層にはニッコウザサ,アズマネザサ,ニシキギ等が生育していた.
      3.冠水日数53日以上の斜面において,湛水終了の翌年から高木層で枯死する個体も見られ,植被率が低下した.冠水日数37日程度までの斜面ではクリ-コナラ林では高木への影響は少ないと考えられた.
      4.低木層・草本層に対する試験湛水の影響が明らかに及んだ範囲は,相観的にも種組成の変化が顕著な範囲,冠水日数が37日程度,EL.326.0-329.0m,常時満水位時の汀線より標高差で3m程度であった.
      5.群落組成の変化の主な要因は,試験湛水に伴う高木,低木,草本の枯死や,高木層の植被率の低下等,日照条件の変化が大きいと考えられた.
      6.試験湛水により冠水した標高差7mのうち,斜面上部に位置する4mの範囲(EL.329.0-333.0m),冠水日数37日程度までの斜面は,高木の枯死はなく,低木層・草本層の変化も少なく,樹林は維持された.
  • 斉藤 修, 星野 義延, 辻 誠治, 菅野 昭
    原稿種別: 本文
    2004 年 20 巻 2 号 p. 83-96
    発行日: 2004/02/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.関東地方のコナラ二次林を対象として,20-26年前に植物社会学的方法で植生調査を行った113プロットの追跡調査を行い,その残存状況,種多様性及び種組成の変化の実態把握と要因解析を行った.
      2.追跡調査で残存していたのは113プロット中75プロット(残存率66.4%)であり,コナラ-クヌギ群集39プロット(同60.0%),コナラ-クリ群集36プロット(同75.0%)であった.
      3.時間経過に伴う出現種数の変化は両群集とも認められなかったが,管理プロットでは平均出現種数が増加し,非管理プロットでは逆に減少する傾向がみられた.出現種数の変化の要因としては,人為管理の有無及びそれに関連するササ類や常緑木本被度の変化が重要であった.
      4.種組成変化の度合いを示す共通係数は,コナラ-クリ群集の方がコナラ-クヌギ群集よりも有意に高かった.また,管理プロットの方が非管理プロットよりも共通係数が高かった.種組成変化に影響する要因としては,コナラ-クヌギ群集ではプロットが位置する市町村の林野率の変化が,コナラ-クリ群集ではプロットの斜面傾斜角,リター被覆率,常緑木本被度の変化が重要であった.
      5.減少が顕著であった種群には風散布植物が,増加が顕著であった種群には動物散布植物がそれぞれ多く含まれていた.また,主に鳥散布によって周辺から新規加入してきたと考えられる緑化・園芸種が両群集とも有意に増加していた.これらはプロット周辺地域の人口密度の増加が著しいほど,その増加が顕著であった.
      6.コナラ二次林の管理にあたっては,地域スケールでの林の立地特性を考慮しつつ,種多様性と種組成変化の長期的なモニタリングを行なっていくことが重要である.
  • 寺岡 安理, 中須賀 常雄, 金子 隆之, 加藤 剛, 神崎 護, 渡辺 弘之
    原稿種別: 本文
    2004 年 20 巻 2 号 p. 97-110
    発行日: 2004/02/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.南西諸島にある沖縄島,石垣島,西表島,竹富島,黒島,小浜島の6島の踏査を行った結果,サキシマスオウノキの分布が確認できた島は,沖縄島,石垣島,西表島,竹富島であり,竹富島は植栽木のみが確認できた.この他,奄美大島,請島,宮古島,伊良部島,波照間島での分布が文献によって確認できた.
      2.南西諸島の各島におけるサキシマスオウノキの分布地は,踏査により確認した58ヶ所,既存資料だけで確認した11ヶ所の計69ヶ所であった.踏査により確認した分布地のうち既存資料にも記載され再度踏査によって確認された分布地は20ヶ所,新たに確認した分布地は38ヶ所,1926年から2001年までに消失した分布地は3ヶ所であった.
      3.踏査で確認したサキシマスオウノキの自生地は,河川下流域の氾濫原に29ヶ所,海岸に7ヶ所,崩壊地と渓流に6ヶ所であった.
      4.サキシマスオウノキの分布と微地形の対応を調べた結果,渓流型に分布するサキシマスオウノキは,明らかに潮汐の影響を受けない河川上流域の水路底や崩壊地に分布し,湧水が流下する岩礫堆積地という共通点をもっていた.河畔型においては後背湿地や自然堤防上に分布し,感潮河川水や丘陵斜面から湧出した地表流の影響を受けていた.しかし一部は,氾濫原や感潮河川と接する斜面の崖錐や水路にも分布した.これら生育地は,地中を浸透した湧水や渓流水及び感潮河川水のような,流水の影響下にある立地であった.
  • 池田 浩明, 原田 直國, 西村 誠一, 伊藤 一幸
    原稿種別: 本文
    2004 年 20 巻 2 号 p. 111-117
    発行日: 2004/02/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.茨城県つくば市周辺において,水田に隣接する湿性植生(休耕田・排水路)11調査地を対象として,2002年の代かき作業期に水田から流出する懸濁物質(SS)の調査を実施した.
      2.調査地の植生は,除歪対応分析(DCA)による序列化と優占種によってアシカキ群落,イヌスギナ群落,セリ群落,トダシバ-チゴザサ群落の4タイプに区分された.
      3.代かき水に含まれるSSは,重量割合で46-98%(平均で72%)が湿性植生によって捕捉された.
      4.SS捕捉率は,湿地の植被率・植生高・植生量(=植被率(%)×植生高(m))と正の相関を示し,相関係数は植生量で最も高かった.SS捕捉率は,植生量が大きくなるにつれて直線的に増加し,植生量が80以上では95%程度の捕捉率を示した.
      5.SS捕捉率は,高頻度で出現した7種のうち,セイタイカアワダチソウの被度と正の相関を示したが,アシカキ,アメリカセンダングサ,イヌスギナ,イボクサ,スズメノテッポウ,セリの被度とは無相関だった.また,調査地のDCA第1・第2軸スコアとも無相関であり,4植生タイプ間におけるSS捕捉率の差も検出されなかった.
      6.代かき水に含まれるSSは,粒径が10-30μmのものが最も多く,湿性植生は粒径が30μm以下の小さな土壌粒子をよく捕捉した.
      7.これらの結果から,湿性植生は水田から流出したSSを捕捉する機能を持ち,その機能は植生量が豊富な湿地で向上することが示唆された.
  • 松岡 淳, 佐野 淳之
    原稿種別: 本文
    2004 年 20 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2004/02/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.鳥取市域の千代川河川敷におけるエノキ・ムクノキ林の成立に河川氾濫による撹乱頻度が与える影響を明らかにするため,河口から10km付近に存在する河畔林と周囲の河川敷および沖積平野(590ha)における孤立木を調査した.
      2.河川の流量変化から導き出した河川氾濫による撹乱頻度が,エノキとムクノキの分布形態に与える影響を調べ,エノキ・ムクノキ林の成立と河川氾濫による撹乱頻度の関連を調べた.
      3.河川氾濫による冠水が認められる日が流量調査された16年分の平均で1.3回/年であった地帯に大径木を含むエノキ・ムクノキ林は成立していたのに対し,より撹乱頻度が高い13.8回/年であった川側の地帯では一斉林を形成するものの大径木まで生育するのは困難であると考えられた.また,河川氾濫による撹乱頻度が低い堤防の内側の沖積平野では,エノキとムクノキの大径木が生育するが遷移後期種の他の樹種も多く出現した.
      4.河川氾濫による撹乱頻度との関連から,鳥取市域を流れる千代川の河川敷はエノキ・ムクノキ林の成立条件にあてはまると考えられた.すなわち,エノキ・ムクノキ林は撹乱後に他の樹種に先駆けて侵入するが,その後大径木への成長を妨げず,かつ更新サイトを定期的に形成する中規模の撹乱体制に対応して維持されていると考えられた.
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