植生学会誌
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24 巻, 2 号
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原著論文
  • 服部 保, 栃本 大介, 岩切 康二, 南山 典子, 橋本 佳延
    原稿種別: 本文
    2007 年 24 巻 2 号 p. 73-83
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

      1. 宮崎県綾町川中の照葉樹林において,照葉樹の樹幹・枝上に生育する植物(着生植物,つる植物,寄生植物)の調査を行い,着生植物の種多様性(種数)と照葉樹のサイズ,樹種との関係を考察した.
      2. イチイガシ,コジイ,タブノキ,イスノキなどの照葉樹24種,168個体に付着する植物を調査し,ノキシノブ,マメヅタ,フウラン,カタヒバなどの着生植物20種,テイカカズラ,ヒメイタビ,イタビカズラなどのつる植物11種,オオバヤドリギの寄生植物1種を確認した.
      3. 各々の照葉樹種に対する固有の着生植物の種組成は認められなかった.
      4. 着生植物種数(種多様性)とDBHあるいはH×胸高周囲とは有意な高い正の相関が認められ,出現種数とDBH(全樹種,イチイガシ,コジイ,タブノキ)との有意な回帰式(y=0.07x-1.45,y=0.08x-0.56,y=0.06x-1.96,y=0.06x-0.02)を得た.回帰式は宮崎県中部一帯の照葉自然林,照葉二次林には適用できなかった.
      5. 着生植物種数とDBHを両軸とする座標上に各調査木を配置し,その点上に着生植物の有無を種別に示した.着生植物の分布の傾向をもとに3つの種群を区分した.
      6. 照葉自然林および照葉二次林において着生植物の種多様性が低いのは,照葉自然林,照葉二次林では着生植物の供給源が失われているためと考えられた.
      7. 大径木の存在と着生植物の多様性は,照葉樹林の自然性を評価する指標として優れており,調査地の照葉樹林は,栗野岳,大森岳,竜良山,春日山の照葉樹林と同じく原生状態にあると推定された.
  • 持田 誠, 冨士田 裕子, 秦 寛
    原稿種別: 本文
    2007 年 24 巻 2 号 p. 85-102
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 北海道大学農学部附属牧場(現:北海道大学北方生物圏フィールド科学センター静内研究牧場)における林間放牧地の種組成について調査した.
      2. 林間放牧地の植生は,ミズナラ林6群落とヤチダモ林2群落で構成されていた.植物社会学的な検討の結果,ミズナラ林はサワシバ-ミズナラ群集,ヤチダモ林はハシドイ-ヤチダモ群集に該当した.
      3. 林床にミヤコザサ節が見られない非ササ型林床は,ミズナラ林とヤチダモ林の両方に見られた.ミズナラ林では元来ミヤコザサ節が林床に優占するが,放牧の影響でササが退行して非ササ型林床となり,種組成が変化している林分が存在した.ヤチダモ林はもともと林床にミヤコザサ節を持たない群落であると考えられた.
      4. 放牧の影響を受けている群落では,ミズヒキ,ノブキ,ミツバ,ダイコンソウが,更に放牧圧が強い林分ではキンミズヒキ,ケヤマウコギ,ハナタデ,オオバコが,ミズナラ林とヤチダモ林に共通して出現した.さらにミズナラ林の乾性系群落で放牧圧の最も強いと考えられる立地では,キツネノボタン,ヒメジョオン,エゾタチカタバミ,オトコエシが特徴的に出現した.
      5. 放牧馬が森林の内外を移動することで,カモガヤなどの牧草や林縁群落の構成種を林内へ持ち込み,種組成を複雑化していた.
      6. ミズナラ林ではミヤコザサ節の被度と出現種数放牧季節とミヤコザサ節の被度との間に関係が認められ,林間放牧によりミヤコザサ節が退行すると種数が増加し,特に夏放牧区でそれが顕著であった.ヤチダモ林では放牧季節による差は見られなかったが,不嗜好植物が優占するために放牧馬が採食可能植物を選択的に利用する結果,種数が減少傾向にあることが明らかとなった.
      7. 北海道和種馬の林間放牧は,森林植生を放牧地特有の種組成へ改変するという点で,地域の生態系へ影響を及ぼしていた.しかし,放牧の影響で衰退する種は,ミズナラ林においては少なく,森林植生の種類に応じた適切な家畜管理により,生物多様性保全と両立した畜産が可能であると考えられた.
  • 前迫 ゆり, 名波 哲, 神崎 護
    原稿種別: 本文
    2007 年 24 巻 2 号 p. 103-112
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    奈良市に位置する春日山原始林特別天然記念物指定域(34°41'N,135°51'E;298.6ha)に発達する照葉樹林は,奈良公園一帯に生息するニホンジカの局所個体群の増加を背景に,さまざまな影響を受けている.本研究は700年代に春日大社に献木されたのが起源とされる中国地方以南分布種である国内外来種ナギ(Podocarpus nagi)および1930年代に奈良公園に街路樹として植栽された中国原産の国外外来種ナンキンハゼ(Sapium sebiferum)が,春日山原始林の照葉樹林域に侵入していることから,これら2種の分布を定量的に把握し,外来種の空間分布を示すGIS図を作成することによって,照葉樹林への外来種の侵入を明らかにしたものである.現地調査は2002年7月から10月までの期間に,奈良公園側の春日山原始林域西端から東側に約45haの範囲で調査を行った.当年生実生を含む全個体または個体パッチの位置をGPSを用いて記録するとともに,高さ1.3m以上の個体の胸高直径(DBH)を測定し,両種の分布をサイズ別にGISマップに示した.両種が生育していた林冠タイプをギャップ,ギャップ辺縁,疎開林冠および閉鎖林冠に区分し,個体数比率を算出した結果,ナンキンハゼ(n=4543)はギャップ下において出現頻度が高く(54.4%),ナンキンハゼの侵入はギャップ形成に依存する傾向を示した.一方,ナギ(n=6300)は閉鎖林冠下で出現頻度が高く(57.9%),それぞれの種は異なる光環境の立地に侵入していた.両種をサイズクラスに分けて空間分布を把握した結果,ナギは照葉樹林の西端(天然記念物ナギ群落が成立している御蓋山の北側の調査地域に相当する)に多く分布し,調査地域内において西側から東側への密度勾配を示した.一方,ナンキンハゼは顕著な密度勾配はみられなかった.生態的特性の異なる2種の外来種は侵入時期が異なるものの,照葉樹林に侵入後,広域的に拡大していることが明らかになった.春日山照葉樹林は文化的景観によって世界文化遺産に登録されているが,外来種の拡大によって,今後,組成的にも景観的にも大きく変化する可能性が示唆された.
  • 小山 浩正, 今 博計, 紀藤 典夫
    原稿種別: 本文
    2007 年 24 巻 2 号 p. 113-121
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. ブナの稚樹の空間分布と林冠木の状態との対応を調べるために,北海道南西部のブナ天然林において設定した1haの方形区を5m×5mのグリッドに400分割し,各グリッドに出現したブナの稚樹を数えた.グリッドは上部の林冠の状態により,「ギャップ下」,「ブナ樹冠下」および「ブナ以外の樹冠下」の3タイプに区分した.
      2. 方形区内に存在した稚樹は,高さが10-50cmの稚樹で686本,50-100cmの稚樹で683本であったが,どちらもブナ以外の樹冠下に集中していた.
      3. 林冠木は,4月17日にはどの樹種も未開葉であったが,5月23日にはブナのみが展葉を完了し,他の樹種は開葉していなかった.7月10日にはすべての林冠木が展葉を完了していた.
      4. 林床の相対光量子束密度(rPPFD)は,林冠層のブナのみが開葉した5月23日には,ブナ樹冠下でギャップ下に比べて大きく減少していた.しかし,開葉が始まっていないブナ以外の樹冠下ではギャップ下と大きな違いはみられなかった.
      5. ブナの稚樹がブナの樹冠下で少なかったのは,ブナ林冠木の展葉が他の広葉樹よりも早いため,全天条件で生育した場合に比べて成長が抑制されるためと考えられた,一方,開葉の遅いブナ以外の広葉樹の樹冠下では,ブナの林冠木が開葉を完了させた時期においても,ブナの稚樹は被陰を受けないので成長が抑制される程度が少ないと考えられた.
      6. ブナ以外の樹冠下では生育期間の前半に閉鎖し,以降の林床は被陰下におかれるので強光を通年で要求する先駆種は生育できない.このため,ブナの稚樹が独占的に利用できる生育立地と考えられた.
  • 大橋 春香, 星野 義延, 大野 啓一
    原稿種別: 本文
    2007 年 24 巻 2 号 p. 123-151
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 1990年代以降ニホンジカの生息密度が急激に増加した東京都奥多摩地域において,ニホンジカが増加する前の1980-1985年に植生調査が行われた77スタンドにおいて,1999-2OO4年に追跡調査を行い,植物群落の階層構造,種組成,植物体サイズ型の変化を比較した.
      2. 調査地域の冷温帯上部から亜高山帯に成立するシラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計7タイプの植物群落を調査対象とした.
      3. 1980-1985年と1999-2004年における植物群落の各階層の高さおよび植被率を比較した結果,全ての植物群落で草本層の高さまたは植被率が減少していた.さらに,森林群落では低木層の植被率が減少する傾向がみられた.
      4. 1980-1985年と1999-2004年における総出現種数は471種から397種に減少し,奥多摩地域全体での植物種の多様性が低下していることが示唆された.
      5. 1980-1985年から1999-2004年の間に,調査を行った全ての植物群落で種組成の変化が認められた.種組成の入れ替わりはミヤコザサ-シモツケ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集の順に高く,シラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集では低かった.
      6. 各植物群落の構成種を植物体サイズによって類型化し,その増減傾向を比較した結果,中型・大型の草本種に減少種が多く,小型の草本種と大型の高木種には増減のない種が多い傾向が全ての植物群落に共通してみられた.
      7. スタンドあたりの出現種数はシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計5群落で減少していた.これらの群落では特に中型草本および大型草本のスタンドあたりの出現種数の減少が著しかった.また,森林群落のシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集ではスタンドあたりの低木の出現種数も減少していた.
      8. コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集ではスタンドあたりの出現種数に変化がみられなかった.これらの植物群落ではスズタケの優占度の減少量と調査スタンドに新たに加入した種数の間に相関がみられることから,摂食によって種数が減少する一方,スズタケの優占度の低下に伴って新たな種が加入することにより,種数の変化がなかったものと考えられた.
  • 原 正利, 関 剛, 小澤 洋一, 鈴木 まほろ, 菅野 洋
    原稿種別: 本文
    2007 年 24 巻 2 号 p. 153-170
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. イヌブナの分布北限域にあたる宮城県と岩手県,青森県東部を対象地域として,踏査データ(105地点),文献情報(112地点),標本データ(14点),岩手県自然環境統合時報(47地点)を情報源に,緯度経度情報を伴うイヌブナの分布データベース(278地点)を作成し,国土数値情報を用いて分布地点の気候,地質,地形の各情報を抽出し,GISを用いて分布との対応を解析した。
      2. 詳細な分布図を作成した結果,分布北限域におけるイヌブナの水平分布は,分布上のギャップを多く伴うパッチ状で特徴的なものであることが明らかとなった.
      3. 垂直分布については,奥羽山脈域では600m前後にある分布上限が,北上山地域では800m付近まで上昇していた.一方,分布下限の標高に地域差は無く,海抜数10m以下の低海抜地にも分布が見られた.
      4. 気候的には,60℃・月<WI≦95℃・月かつ寒候期最深積雪深120cm以下の領域がイヌブナの分布可能な領域であると考えられた.特に最深積雪深はイヌブナの分布域を強く制限し,水平的な西限および垂直的な上限を規定していると考えられた.また,WIと寒候期最深積雪深の相関関係の解析から,イヌブナの分布上限が,北上山地域で奥羽山脈域よりも上昇しているのは,イヌブナの分布が,積雪深によって規定されているためであることが示唆された.
      5. 地質的には,イヌブナの分布は,主に半固結-固結堆積物と固結火山性岩石の分布域に限られ,未固結堆積物,未固結火山性岩石,深成岩類,変成岩類の分布域にはあまり分布しないことが明らかとなった.
      6. 地形的には,イヌブナの分布は,主に山地と丘陵地に限られ,他の地形にはほとんど分布しなかった.また,奥羽山脈沿いのイヌブナの分布上のギャップには,砂礫台地および扇状地性低地が対応して分布し,寒候期最深積雪深120cm以上の地域との組み合わせによって,イヌブナが分布しない原因を説明できると考えられた.また,特に北上山地では,イヌブナの分布は急傾斜地に限られる傾向にあった.
      7. 植生改変などの人為的要因,および最終氷期におけるレフュジアの位置や後氷期における分布変遷などの歴史的要因がイヌブナの分布に影響している可能性についても考察した.
      8. 分布北限域においてイヌブナの分布が気温的に予測されるよりも南部に限定され,しかも断続的な分布を示しているのは,積雪に対する耐性が低く地質・地形的な立地選択性の幅も比較的,狭いというイヌブナの種特性と,本州北端部が最終氷期末以降,火山活動の影響を受けて地表面が大きく攪乱された上,現在も火山性堆積物が厚く堆積しているという地史的な要因に起因すると考えられた.
  • 井藤 宏香, 伊藤 哲, 松田 敦, 光田 靖, G. Peter BUCKLEY
    原稿種別: 本文
    2007 年 24 巻 2 号 p. 171-182
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    南九州の照葉樹二次林において微地形の変異を調査し,樹木のハビタット分割と多様性に及ぼす微地形の影響について解析した.ランダマイゼーション法で樹種ごとの地形的な分布の偏りを解析した結果,58種中20種が少なくとも一つの微地形(頂部斜面(SC),上部斜面(US),下部斜面(LS))に偏りを持つことが示された.検出された偏在微地形(preferred site)に基づき,出現種はSCグループ(9種),USグループ(2種),LSグループ(7種),普遍種(16種)および低頻度出現種(24種)の5つのグループに分類された.微地形間で各グループの出現種数の割合に有意な差はみられなかったが,個体数や胸高断面積合計(BA)の構成比率には差がみられ,特にLSグループの特殊化の度合いが高いことが示された.優占種のうち,ハナガガシは下部斜面に分布が偏っており,下部斜面の土壌水分に影響を受けていると考えられた.一方,その他の優占種であるイスノキおよびツブラジイは,上部斜面に分布が偏る傾向が確認された.微地形間で種数面積曲線を比較した結果,立木密度が高い頂部斜面および上部斜面では小面積で多種の共存が可能であることが示された.一方,下部斜面は絶滅危惧種ハナガガシを含む多くの低頻度出現種も包含できる可能性を有しており,地域の種多様性を維持する上で重要なハビタットを提供していることが示唆された.
  • 原稿種別: 文献目録等
    2007 年 24 巻 2 号 p. 188-
    発行日: 2007/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
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