植生学会誌
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26 巻 , 2 号
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原著論文
  • 下田 路子, 香川 尚徳
    原稿種別: 本文
    2009 年 26 巻 2 号 p. 65-78
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    ため池は稲作に必要な水利施設として築造された人工の水域である.瀬戸内海を取り囲む中国・四国・近畿地方は,全国で最もため池が密集している地域である.瀬戸内海沿岸地域に位置する旧北条市(現松山市,以下「北条」)において,ため池の水質と水草の調査を行い,ため池や農業について聞き取り調査も実施した.北条では傾斜地の多くが柑橘園(主にイヨカン)となっている.池の集水域に柑橘園が分布する池は富栄養であり,栄養塩類濃度が著しく高い池も存在した.一方,集水域が山林であるため池の栄養塩類濃度は低かった.北条の水草相の特徴は,沈水植物と浮遊植物が多いこと,ヒシ以外の浮葉植物が極端に少ないこと,水草の多くは水田雑草でもあることなどであった.ウキクサ科植物は極端に富栄養な水域にまで生育し,優占種となる池もあった.種が多様な池は,集水域に山林があり,栄養塩類濃渡が低く透明度の高い池であった.2か所の池では,堤防改修後に多様な水草相の回復と全リン濃度の低下を確認した.この事例は,柑橘園の拡大を含む土地利用の変化により,環境変化に耐性のない種が減少・消滅した可能性を示している.さらに,多様な水草の埋土種子集団が存在する池では,適切な環境改善により,多様な種の復元・保全が可能であることをも示している.数か所のため池が隣接して築造されている場合,距離的に近いため池であっても,水草相は互いに異なっていることが多いため,多様な水草を保全するには,できるだけ多くの多様な池を保全することが望ましい.
  • 松瀬 研也, 広木 詔三
    原稿種別: 本文
    2009 年 26 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    愛知県豊田市八草の丘陵において,アカマツとフモトミズナラが優占する二次林内に1.5haのコドラートを設け,侵入しつつあるアラカシ個体群の解析を行った.1.5haのコドラートを10m四方の150のサブコドラートに区分し,尾根(0.56ha),斜面(0.69ha),および谷(0.25ha)の地形区分を行い,確認されたアラカシの稚樹(実生も含む)1025個体のうち,963個体について樹高を,また384個体について樹齢を測定した.さらに,1999年7月から2001年4月にかけて,約2年間の樹高伸張の測定と枯死個体の確認を行った.アラカシ稚樹の密度は尾根で低く(3.3/100m^2),斜面と谷で比較的高かった(85/100m^2および10.3/100m^2).この尾根におけるアラカシ稚樹の密度の低さは,斜面と谷に比較してアラカシ稚樹の死亡率が尾根で高いことと対応していた.調査対象の二次林は,1960年代の燃料革命以降は伐採が行われておらず,およそ40年前からアラカシの侵入が始まったものと推測された.堅果の供給源は,およそ300m離れた場所に生育するアラカシ母樹か,あるいはおよそ3km離れた瀬戸市の海上の森に分布する母樹である可能性が考えられた.アラカシ堅果の散布者はネズミ類ではなく,カケスであると推測した.調査地域の二次林は,将来谷を中心にアラカシ林へと発達するものと予想した.
  • 別所 直樹, 上條 隆志, 小川 みふゆ, 津山 幾太郎
    原稿種別: 本文
    2009 年 26 巻 2 号 p. 89-102
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. ウラジロモミの更新様式を明らかにするため,本州中部の奥鬼怒地域において異なる立地に調査区を設置し,林分構造,ウラジロモミの実生,稚樹の個体密度と立地環境を調査した.
      2. 毎木調査の結果,ウラジロモミの個体密度が高く,連続的な胸高直径階分布を示す林分と,個体密度が低く不連続的な分布を示す林分が見られた.前者は河川攪乱後の遷移初期の林分や山腹の岩塊斜面,後者は比高の高い段丘面や山腹の緩斜面であった.
      3. 各調査区でウラジロモミの稚樹密度を調べた結果,連続的な胸高直径階分布を示した地点は稚樹密度が高かったのに対し,不連続的な分布を示した地点は稚樹密度が低く,ウラジロモミが定着しにくいと考えられる.
      4. 調査区を5×5mの方形区に区分し,ウラジロモミ稚樹密度と土壌深との関係を検討した結果,ササ類の被度が低く,土壌深が浅い方形区で稚樹密度が高い傾向が見られ,ササ類の被覆と土壌攪乱がウラジロモミの定着に関与していると考えられる.
      5. 氾濫原では洪水に伴い,急勾配の斜面では土壌の移動や根返りに伴い土壌攪乱が生じ,ササ類などの定着阻害要因が除去されることによってウラジロモミが定着できるのに対し,緩傾斜地のように土壌攪乱が生じにくい立地では,台風による倒木と根返りに伴い,ウラジロモミの定着サイトが生じると推察される.
      6. ウラジロモミは土壌攪乱に伴って定着し,長期間林冠で優占することから,"Long-lived seral species"に相当すると考えられる.一方,「岩塊斜面」のような立地において,本種は連続的に更新することから,岩塊地における土地的極相種としての性格も併せ持つ樹種であると考えられる.
短報
  • 松村 俊和, 澤田 佳宏
    原稿種別: 本文
    2009 年 26 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 兵庫県北部の朝来市で風倒被害を受けたスギに着生した大量のカヤランを対象に葉鞘数,結実数,過去の結実の有無を調査した.これらの結果から齢別期間生存率と齢別繁殖率を推定することで推移行列を作成し,その個体群統計を推定した.
      2. 調査したカヤランの個体数は1335,最大葉鞘数は53,結実個体数は70,結実経験個体の最小葉鞘数は10であった.結実個体での最大結実数は4,平均結実数は1.56であった.
      3. 1年当たり2.5枚展葉する,結実数と定着率に年変動がない,外部との種子の移出入による影響はない,複数年にわたる種子の休眠はないと仮定し,推定した生存率と齢別繁殖率をもとにして推移行列を作成した.
      4. 齢別期間生存率は,全ての葉鞘数に対する残差平方和が最小になる葉鞘数を区分点として,葉鞘数の少ない個体と多い個体とで生存率を分けて推定した.区分点の葉鞘数は8であり,葉鞘数8以下と8を超える個体の生存率はそれぞれ0.8161と0.9131であった.
      5. 齢別繁殖率は,個体あたりの当年の結実数と果実あたりの平均定着率との積を年2.5枚の展葉枚数で除して推定した.個体あたりの当年の結実数は,最少葉鞘数の結実個体である葉鞘数10以上の全個体で,葉鞘数を独立変数に結実数を従属変数にしたポアソン回帰によって求めた.その結果,回帰式F_L=exp(0.0484L-2.2043)(F_Lは葉鞘数Lでの結実数)を得て,これを葉鞘数10以上の個体での結実数とした.果実あたりの平均定着率は,定着個体数を結実数で除して求めた.結実数は109,推定した定着個体数は490であり,果実あたりの平均定着率は45であった.結実数と定着率との積を年25枚の展葉枚数で除したR_L=1.7994exp(0.0484L-2.2043)(R_Lは葉鞘数Lでの繁殖率)を葉鞘数10以上での葉鞘数ごとの繁殖率とした.
      6. 推移行列から得られた本個体群の1年あたりの期間自然増加率は1.0235であった.このことから,調査結果からは本個体群は増加傾向にあると推定した.
  • 石田 弘明, 黒田 有寿茂, 田村 和也, 岩切 康二, 武 素功, 岩槻 邦男, 武田 義明
    原稿種別: 本文
    2009 年 26 巻 2 号 p. 111-118
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 中国雲南省の南部に位置する菜陽河自然保護区にはカバノキ科カバノキ属の落葉広葉樹であるBetula alnoidesの優占する二次林(B.alnoides林)が数多く分布している.本研究では,当保護区のB.alnoidea林を対象に毎木調査を行い,その結果を発達程度の異なる複数の林分の間で比較することによって,B.alnoides林の構造と動態を明らかにすることを目的とした.
      2. Betula alnoides林の若齢林分(10-20年生)と壮齢林分(30-40年生)に合計10の調査区を設置し,胸高直径(DBH)が3cm以上の全生立木(幹)について毎木調査を行った.
      3. Betula alnoidesの最大DBH(B-最大DBH)と同種の幹数との間には強い負の有意な直線関係がみられたが,胸高断面積合計との間には強い正の有意な直線関係がみられた.「その他の種」の胸高断面積合計は調査林分間でよく似ており,B-最大DBHとの有意な直線関係はみられなかった.
      4. 若齢林分と壮齢林分の間でDBH階分布と樹高階分布を比較したところ,B.alnoidesと「その他の種」のサイズの差は時間の経過と共に拡大する傾向が認められた.
      5. Betula alnoidesの実生・幼樹(DBH 3cm未満の個体)はまったくみられなかった.また,壮齢林分のDBH階分布と樹高階分布はB.alnoidesの更新が不連続であることを示した.さらに,壮齢林分ではB.alnoidesのほとんどの幹は林冠木であった.これらのことから,B.alnoidesは耐陰性が非常に低く,閉鎖林冠下では個体群の更新ができないばかりか実生バンクの形成さえも不可能であることがわかった.
      6. Betula alnoidesの樹高は20年以内に25m,40年以内に40mに達することが示唆された.また,B.alnoidesの最大樹高と樹高成長速度は日本に分布するカバノキ属高木種のそれらよりもかなり大きいことがわかった.このような差の主な原因は気温条件の違いにあると考えられた.
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