植生学会誌
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27 巻, 1 号
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原著論文
  • 中西 弘樹
    原稿種別: 本文
    2010 年 27 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2010/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 九州北部,すなわち長崎県を中心に大分県,福岡県,佐賀県,熊本県の島嶼の植物を調べ,本土側に比べ島嶼に多く分布する植物,すなわち島嶼偏在植物を確認するとともに,それらの分布と生態を調べた.
      2. 島嶼の環境として,島の面積と人口の関係を調べると共に,面積が1km^2以下の島において,気象データのある2島の1月の平均気温をそれぞれ同緯度の本土側の3地点と比較した.
      3. 島嶼偏在植物としてハカマカズラ,キノクニスゲ,ビロウ,ミヤコジマツヅラフジ,サツマサンキライの5種を認め,それらの分布図と島面積の階級クラス別の生育島嶼数を図に示した.
      4. 全体の生育島嶼数の中で,面積が1km^2未満の島に生育している割合を島嶼率とし,それらの植物の島嶼率を調べた結果,50-70%であった.
      5. 島嶼偏在植物は,キノクニスゲを除くと亜熱帯性の植物で,本地域は北限地帯である.また,ハカマカズラ,ミヤコジマツヅラフジ,サツマサンキライは大型のつる植物で,マント群落を形成する種である.
      6. 島嶼に偏って分布している理由として,島嶼は同緯度の本土側に比べて冬期に暖かいこと,人為の影響が少なく,自然度が比較的高いこと,台風の影響を受けやすく土壌が浅いことが主要な原因と考えられた.
  • 植村 滋, 高田 恵利, 中村 隆俊
    原稿種別: 本文
    2010 年 27 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2010/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 釧路湿原南東部の矮生ハンノキ群落において,桿の成長パタン,着葉動態,養分利用特性を調査し,立地環境や群落の構造との関係を考察した.群落高の異なる3地点:Lサイト,MサイトおよびHサイトにプロットを設置し,植物による吸収がピークとなる7月と,吸収量がほぼゼロと考えられる11月に土壌の養分環境を測定した.株(クローン)密度と株あたりの桿数および当年枝数を計測し,着葉数と積算開葉数,緑葉と落葉の窒素とリンの濃度,および葉の純一次生産量を測定し,養分利用パラメータを算出した.
      2. 単位面積あたりの株密度はLサイトで高いが,株あたりの桿数は逆にHサイトで高く,桿の密度もHサイトで有意に大きい値を示した.株ごとの最大桿長と最大桿直径,面積あたりの材積は群落高とともに増加したが,いずれのサイトでも樹高成長の頭打ち傾向が見られ,特にLサイトでは肥大成長,伸長成長ともに著しく小さかった.
      3. 土壌水中の溶存態リンの濃度はHサイトで有意に高かったが,溶存態窒素の濃度にはサイト間に差は見られなかった.当年枝あたりの積算開葉数にはサイト間で差がなかったが,個葉の平均寿命はHサイトがLサイトより長かった.窒素,リンとも養分生産性はLサイト,Mサイトで高く,逆にリンの滞留時間はHサイトで長かった.Mサイト,Lサイトでの高いリン生産性は,葉に保持される養分量が少ないわりに,生産量は低くなかったことに起因し,Hサイトの長いリンの滞留時間は,個葉の平均寿命の長さに起因すると考えられた.
      4. 緑葉の養分濃度は窒素,リンともにLサイトで最も低かったが,養分濃度と再吸収率には相関がみられなかった.窒素はいずれのサイトでもほとんど再吸収されていなかった.リンの再吸収率は各サイトとも非常に高く,約50%が脱落前の葉から引き戻されていた.リンの再吸収率は季節の進行とともに低下した.Lサイトでは7月のみリンの再吸収率が他のサイトよりも有意に高く,後続の葉を展開するための養分として先行葉から養分が過剰に再吸収されたと考えられた.
      5. 年間の積算開葉数がサイト間で差が見られなかったことから,ハンノキでは養分条件によって葉数を可塑的に変化させることができない遺伝的な制約の存在することが示唆され,リンの再吸収機能における高い可塑性が冠水耐性や強い萌芽再生力とともに株の形態や着葉様式を変異させて,養分供給の少ない湿原域でのハンノキ林の発達を可能にした要因のひとつと考えられた.
  • 島田 和則, 福嶋 司
    原稿種別: 本文
    2010 年 27 巻 1 号 p. 21-33
    発行日: 2010/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 自然林と都市林で異なった挙動を示す先駆性高木種イイギリについて,代表的な都市林で,現在は人為的管理が極力排されている東京都港区の国立科学博物館附属自然教育園において,1965年から長期モニタリング調査を行い,本種の動態を都市林の変遷と関連づけながら考察した.
      2. 自然教育園内全域で生育するイイギリ(胸高直径10cm以上)の個体数は,1965年から1983年の間は急増したが,以降は微増にとどまり,2002年から2007年の間は減少した.一方,胸高断面積合計は1965年から2007年まで増加し続けた.イイギリの胸高直径階別個体数分布は,1965年から1992年にかけては一山型,1997年以降は不明瞭なピークが複数現れていた.
      3. 優占型やイイギリの侵入形態が異なる6ヵ所に調査区を設置し,サイズ構造,樹冠の変化,一部の個体の樹齢の推定を行った.イイギリは侵入パターンによらず一度林冠に達すると枯死しにくく,周辺個体の枯死を機に樹冠を拡大させながら勢力を維持し続けたものと考えられる.
      4. 自然教育園に現在生育しているイイギリの多くは戦前(1917年)からあった母樹,戦後自然教育園となってから定着したもの,1964年の高速道路建設のころに定着したものが認められた.自然教育園は戦前の火薬庫としての利用がなくなった後は,放置あるいは保護されている期間と,大きな攪乱を受ける時期を繰り返していた.このことは,更新に大きな攪乱を必要とする一方で,定着した個体の損傷に対する耐性が低いため成長には安定した立地を必要とするイイギリにとって有利だったと考えられる.放置・保護による適度な安定期と時々人為による大きな攪乱が繰り返し起こったような歴史的経緯は他の都市林からも報告されていた.
      5. 攪乱により侵入の機会を得た先駆性高木種の中でイイギリは,アカメガシワのように最大樹高が低いといった不利な種特性や,ミズキやキハダのような一斉枯死もなく,都市林で徐々に個体数を増やしていったものと考えられる.
短報
  • 服部 保, 栃本 大介, 南山 典子, 橋本 佳延, 藤木 大介, 石田 弘明
    原稿種別: 本文
    2010 年 27 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2010/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 宮崎県東諸県郡綾町川中の照葉原生林において,シカの採食による顕著な被害が発生する以前の1988年当時の植生調査資料と激しい被害を受けている2009年現在の植生調査資料とを比較し,照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成へのシカの採食の影響を調査した.
      2. 階層構造についてはシカの採食によって,第2低木層と草本層の平均植被率がそれぞれ約1/2,1/5に大きく減少した.
      3. 階層別の種多様性については全階層と第2低木層において平均照葉樹林構成種数がそれぞれ約3/4,1/2に大きく減少した.
      4. 生活形別の種多様性については照葉高木,照葉低木,照葉つる植物,多年生草本において平均種数がそれぞれ2.4種,3.8種,1.2種,2.4種減少した.
      5. 減少種数は25種,消失種数は35種,増加種数は6種,新入種数は33種となり種組成は変化した.
      6. 他地域から報告されている不嗜好性植物と比較した結果,増加種のうちバリバリノキ,マンリョウ,マムシグサなどの12種が本調査地の不嗜好性植物と認められた.
      7. 本調査地の照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成はともにシカの採食によって大きな被害を受けており,照葉原生林の保全対策が望まれる.
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