植生学会誌
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31 巻, 1 号
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原著論文
  • 楠瀬 雄三, 石川 愼吾
    原稿種別: 本文
    2014 年 31 巻 1 号 p. 1-17
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1.離岸堤によって再生した海浜における海浜植物の分布特性を明らかにするために,鳥取県米子市において,離岸堤海浜とこれに隣接する自然海浜に生育する海浜植物の出現頻度や微地形条件に対する分布を調べた.
    2.設置されてから12年以上が経過した16地区の離岸堤海浜と7地区の自然海浜において生育する植物を記録した.また,3地区の離岸堤海浜と1地区の自然海浜において,汀線から陸側へ向けて5×5mのコドラートを連続的に設置するベルトトランセクト法を用いて出現種を記録するとともに,水準測量から得られた横断地形をもとに,海浜の地形を6つの微地形に区分し,各微地形に対する海浜植物の選好性を調べた.
    3.海浜植物の出現頻度を離岸堤海浜と自然海浜とで比較した結果,ツルナとオカヒジキは離岸堤海浜で有意に高く,ハマハタザオ,アナマスレミ,オニシバ,ケカモノハシの4種は,いずれも,自然海浜で有意に高かった.また,ロジスティック回帰分析の結果,小面積の離岸堤海浜で欠落する傾向を示したのはコウボウシバ,ハマボウフウ,タイトゴメ,ハマゴウ,ウンランの5種であった.
    4.ケカモノハシを除く上記の10種について,選好する微地形をもとに考察した結果,このような分布傾向が生じるのは,波の影響により生育に適した立地が減少するためと考えられた.また,ケカモノハシについては,種子供給源の少なさが影響していると考えられた.
    5.自然海浜に分布していた20種の海浜植物のうち17種が離岸堤海浜で確認されほか,自然海浜では確認されなかった7種の海浜植物が離岸堤海浜で確認された.これらのことから,離岸堤海浜は海浜植物の生育地として機能すると考えられた.ただし,小面積の離岸堤海浜では欠落する種群が認められたことから,離岸堤海浜による海浜植物の保全には十分な海浜面積を確保する必要がある.
  • 森定 伸, 山崎 道敬, 能美 洋介, 波田 善夫
    原稿種別: 本文
    2014 年 31 巻 1 号 p. 19-35
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.性状の異なる地質が上下に重なり合う場所において,斜面上側の地質が下側の地質の植生分布に及ぼす影響を明らかにするために,基盤の花崗岩上を堆積層が階層上に分布して,最上位を讃岐岩質安山岩がキャップロックとして覆う,開析溶岩台地の分布する香川県土庄町豊島を対象に調査を行った.
      2.豊島の地質・地形は島の東西で異なり,讃岐岩質安山岩域の分布しない西側(W区)では風化の進行した花崗岩に広く覆われて,尾根・谷のはっきりした,集水面積指数が小さな場所が密に分布するが,讃岐岩質安山岩域の分布する東側(E区)は花崗岩の上に土庄層群・讃岐層群が水平に重なり,尾根・谷のはっきりしない崖錐斜面が形成されて,集水面積指数の大きな場所が広く分布していた.また,両区域の花崗岩のみについて比較しても,W区がE区よりも集水面積指数が小さい場所が多く,傾斜角度の緩やかな場所が多かった.
      3.植物群落の分布はW区とE区で異なり,W区ではネズ-アカマツ群落が最も多く,コナラ群落は少ないが,E区では逆にネズ-アカマツ群落が少なく,コナラ群落が最も多かった.花崗岩域のみで比較しても,W区ではネズ-アカマツ群落が多く,コナラ群落が少なかった.
      4.1982年にアカマツ群落であった箇所について2002年の植生型を調べたところ,アカマツ群落(ネズ-アカマツ群落含む)が残存していた箇所はW区が約76%と多く,E区では約44%であり,コナラ群落に変わった箇所は,W区が約7%と少なく,E区では約36%と多かった.花崗岩域のみで比較すると,W区ではE区に比べてアカマツ群落の残存箇所が多く,コナラ群落に変わった箇所が少なかった.
      5.主な二次林の群落型と地形属性と土壌との対応についてみたところ,ネズ-アカマツ群落,アカマツ群落,コナラ群落・クスノキ群落の順で後者ほど集水面積の広い場所に分布し,ネズ-アカマツ群落・コナラ群落,アカマツ群落,クスノキ群落の順で後者ほど緩傾斜地に分布し,ネズ-アカマツ群落,アカマツ群落,コナラ群落,クスノキ群落の順で後者ほど表層土壌中に細粒分が富む場所に分布する傾向が認められた.
      6.表層土壌の粒径は花崗岩域で大きく讃岐岩質安山岩域,塩基性凝灰角礫岩域,土庄層群域では小さかった.同じ花崗岩域であってもE区においてはW区よりも表層土壌中に細粒分が多く,また,讃岐岩質安山岩を含む斜面上側の地質の風化物が混入していた.
      7.これらのことから,豊島においては島の西側のW区と東側のE区で植生構成が異なるのは,まず,西側では花崗岩のみからなり,粗粒の表層土壌が卓越するのに対して,東側では花崗岩に加えて讃岐岩質安山岩域などの細粒の表層土壌を生成する地質域が広く分布すること,次に,東側では硬質の讃岐岩質安山岩がキャップロックとして山体全体を覆うことにより山体下部の開析が進まず,西側に比べて集水域の広い地形が卓越すること,さらに,東側では集水域の斜面上部から細粒の風化物が移動して花崗岩域の表層土壌に付加されたこと,などによって,西側では東側に比してより乾性な立地が広い範囲を占め,これにより乾性立地と結びついたネズ-アカマツ群落の分布がより広くなったためだと解釈された.
      8.性状の異なる地質が立体的に配置している際,個々の地質はその地質域の立地条件に影響するだけでなく,侵食・開析の受けやすさ,土壌粒子の移動などを通じて下方に隣接する別の地質域の立地条件にも影響を及ぼし,そこに成立する植生の種別を規定することがわかった.
  • 若松 伸彦, 篠塚 幸子, 内藤 佳弘, 安達 勝一, 武生 雅明, 中村 幸人
    原稿種別: 本文
    2014 年 31 巻 1 号 p. 37-49
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1.多摩川中流域において過去40年間で最大規模の台風による増水によって,植生がどのように変化したかを検討した.
    2.台風後はヨシクラスを除くほとんどの植生が占有面積を減少させた一方で,自然裸地や開放水域の占有割合が増加した.
    3.ヨシクラスの植生のうち,オギ-ヨシ群団は占有面積が減少したが,セリ-クサヨシ群団は占有面積が増加した.
    4.台風前後で群落が維持された面積の割合は,タウコギクラスの植生で約6.3%,シロザクラスの植生で約45.4%と少なかった一方で,これら植生は新たに陸地化した領域や元々自然裸地であった場所に,新たな分布がみられた.
    5.台風後に植生変化がみられた場所は流水辺に限定的であり,新旧流路から離れた場所の植生変化は少なかった.
    6.カワラノギクやカワラハハコなどの礫河原特有の絶滅危惧植物群落を含むカワラハハコ-ヨモギ群団の分布域拡大はほとんどみられず,現在の多摩川における大規模な増水の発生は,これら植生の拡大を促す要因となる可能性は低いと考えられる.
  • 石田 弘明, 高比良 響, 服部 保, 武田 義明
    原稿種別: 本文
    2014 年 31 巻 1 号 p. 51-69
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1.ブナ林の断片化に伴う面積の縮小がブナ林の種多様性(species richness)と種組成に与える影響を明らかにするために,中国山地の東部に位置する扇ノ山において,断片化したブナ林(20箇所)の植物相と立地環境を調査し,樹林全体の種数および種組成と面積の関係について検討を行った.
    2.面積と海抜の比高および微地形単位数との間には強い正の有意な相関があり,立地環境の多様性が小面積化によって低下する傾向が認められた.
    3.GleasonモデルとArrheniusモデルを適用し,ブナ林構成種の種数と面積の関係を解析したところ,様々な分類群(全種,高木,低木,地生草本,地生シダ,絶滅危惧種,分布密度の低い種,好適湿性種)の種数が面積によって強く規定されていることが明らかとなった.
    4.小面積化による欠落傾向を示す種が数多くみられたことや,DCAの1軸スコアと面積の間に有意な直線関係が認められたこと,小面積化によって欠落しやすい種ほどDCAの1軸スコアが増大する傾向が認められたことから,小面積化は多くの種の欠落を引き起こし,樹林全体の種組成を著しく単純化させることがわかった.
    5.絶滅危惧種,分布密度の低い種,好適湿性種は小面積化によって欠落しやすい傾向が認められた.このことから,小面積化による種の欠落には3つの要因,すなわち1)出現確率の低下,2)個体数の減少に起因する絶滅確率の増大,3)適湿地の消失が関係していると考えられた.
    6.ブナ林構成種の合計種数は195種であったが,最大面積(85.63ha)の樹林にはこのうちの172種(88.2%)しか出現しなかった.このことから,調査地域のブナ林植物相を1箇所の樹林で維持するために必要な面積は86ha程度でも不十分であることがわかった.
短報
  • 島田 和則, 勝木 俊雄, 岩本 宏二郎, 大中 みちる
    原稿種別: 本文
    2014 年 31 巻 1 号 p. 71-84
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1.都市近郊林における植物相の現状や変遷を明らかにするために,多摩森林科学園(旧浅川実験林)において,過去に公表されたフロラリスト(草下・小林1953,林ほか1965),と現在のフロラリスト(勝木ほか2010)を比較し,50年間の変遷について分析した.
    2.その結果,過去にのみ記録された分類群は164,現在のみは141,両方で記録された分類群は626と,2割弱の分類群は入れ替わったが総出現分類群数は大きくは変わらなかった.
    3.過去にのみ記録された種は現在にのみ記録された種より希少種の割合が高く,現在のみの種は過去のみの種より外来種の割合が高く,質的に変化したことがわかった.生活型からみると,高木の増加,多年草の減少,散布型からみると,被食散布型の増加,水散布型の減少が特徴的であった.
  • 冨士田 裕子
    原稿種別: 本文
    2014 年 31 巻 1 号 p. 85-94
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1.北海道札幌市北区篠路町福移に残存する退行遷移の進行した泥炭地湿原で,分解の進んだ表層泥炭の除去(地盤掘り下げ)による植生再生が可能かどうかを試験した.2000年秋にササ群落とヌマガヤ群落内に試験区(2m×6m)を設け,それぞれ3等分し,地剥ぎ(刈り払い),地表から20cm,地表から30cmの泥炭を排除した後,2001年から2008年まで毎年夏季に植生調査を行った.
    2.地剥ぎ区は地下部から植物が再生し,処理翌年から植被率が高かったが,ヌマガヤ区,ササ区ともに周辺で見られないオオイヌノハナヒゲ,ミタケスゲなど湿性の種も出現した.
    3.掘り下げ区ではいずれもチマキザサは出現せず,現植生とは異なる群落が成立した.ヌマガヤ20cm掘り下げ区では,オオイヌノハナヒゲ,ムジナスゲの発芽・成長にともない,植被率が上昇した.ササ20cm掘り下げ区では,経年とともにアブラガヤ,オオイヌノハナヒゲ,ミタケスゲ,ヤチヤナギの被度が上昇した.30cm掘り下げ処理区は,冠水状態の年が多く,出現種数は少なく,植被率は2003年まで1%未満であった.ヌマガヤ30cm掘り下げ区では,2006年からムジナスゲの被度が上昇し,2007年には植被率が40%になった.ササ30cm掘り下げ区では,2004,2005年にタヌキモが繁茂したが,2006年以降激減し,2002年に発芽したホタルイや2006年に発芽したフトイ,ヨシなどの被度が高くなった.
    4.試験区では1998年の篠路湿地の植物相調査で確認できなかった種や,試験区を設置した元の群落には出現していない種が見られた.これらの出現種の多くは埋土種子から発芽したと考えられた.
    5.試験結果から,劣化した泥炭地湿原で導水が見込めない場合,20cm程度の泥炭の排除によってササなどの根茎を取り除き,相対的に地下水位を高めることが,現植生より湿性の群落の成立に有効と考えられた.ただし,出現する種は限られており,高層湿原植生の復元は困難であった.
  • 鈴木 晴美, 吉川 正人, 星野 義延
    原稿種別: 本文
    2014 年 31 巻 1 号 p. 95-103
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1.多摩川扇状地の農業水路における水生植物の分布の現状を知るため,多摩川水系から取水している12水系で調査をおこない,分布図を作成した.
    2.調査の結果,外来種3種を含む15種の水生植物が記録された.うち9種は,国または都のレッドリストに掲載された保全上重要な種であった.
    3.那須扇状地と同程度の種数が生育していたことから,都市化が進んだ多摩川扇状地においても,農業水路は地域の水生植物相の維持に大きく寄与していると考えられた.
    4.分布パターンは種によって異なり,その違いには,栄養繁殖様式の違い,水系間の散布制限,湧水への依存度などが関係していると考えられた.
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