植生学会誌
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31 巻 , 2 号
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原著論文
  • 深町 篤子, 星野 義延, 大橋 春香, 中尾 勝洋
    2014 年 31 巻 2 号 p. 107-
    発行日: 2014/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

      1. 渡良瀬川上流域におけるネコノメソウ属の種の分布パターンを明らかにするため23 の支流でネコノメソウ属の種の分布を記録し,ハナネコノメ,コガネネコノメソウ,イワネコノメソウ,イワボタン,チシマネコノメソウ,ネコノメソウ,ツルネコノメソウの7 種の分布を確認した.

      2. チシマネコノメソウとネコノメソウの分布地点は少なく,それぞれ高標高域と低標高域に偏って分布し,そのほかの5 種は調査地域に広く分布した.

      3. 生育立地の特徴を表す指標(分布地点の標高,傾斜角度,分布地点から最近接の谷底地点(最近接谷底)よりも上流の集水域に含まれる各地質の面積割合,最近接谷底における渓床勾配,分布地点から最近接谷底までの距離,最近接谷底より上流域の河川長の総和を集水面積で除した谷密度)にはハナネコノメ,コガネネコノメソウ,イワネコノメソウ,イワボタン,ツルネコノメソウの5 種の間に大きな違いはなかった.

      4. Sørensen の共通係数を用いたネコノメソウ属の種の分布の重なりは,チシマネコノメソウとネコノメソウで小さく,それ以外の5 種では支流,2 次集水域の両スケールにおいて大きいことがわかった.

      5. 渡良瀬川上流域において,ある集水域でみられたネコノメソウ属5 種の分布の重なりは他の集水域でも確認することができ,渡良瀬川上流域において普遍性の高い現象であることが示唆された.既往研究から,これは2 次集水域の内側により小さいスケールで複数種が共存できる環境が存在するためと考えられ,ネコノメソウ属の複数種が共存できる最小単位の検討が今後の課題として考えられた.

  • 横山 雄一, 島野 光司
    2014 年 31 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

    1. 梓川下流域の河畔林を対象に,ケショウヤナギを中心とする河畔林構成種の定着立地の違いとその後の遷移について検討した.

    2. ケショウヤナギ,ハリエンジュは比較的比高の高い立地で優占し,水際付近で優占するコゴメヤナギやオノエヤナギと生育地を違えていた.比較的比高の低い立地においては,これら3 種のヤナギ類は混生することが確認された.

    3. ケショウヤナギ林の群落構造を解析した結果,ハリエンジュが侵入した場合はいずれハリエンジュ林に遷移することが示された.しかしハリエンジュが侵入しない場合には,現在林床に生育するエゾエノキやアカマツの優占する林に遷移すると考えられた.コゴメヤナギ-オノエヤナギ林については河川による攪乱頻度が高いことから遷移が進まず維持されると思われた.

    4. 既存のケショウヤナギ林の多くはハリエンジュ林へ遷移するため,河畔林全体では今後ケショウヤナギが減少してハリエンジュがさらに増加する可能性がある.

  • 石田 祐子, 武生 雅明, 中村 幸人
    2014 年 31 巻 2 号 p. 129-142
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

    1. 山梨県南アルプス市に位置する北岳の東側斜面および小太郎尾根において,ダケカンバ林の種組成と構造および,その立地を調査し,その結果に基づきダケカンバ林の植生学的位置づけを検討した.

    2. ダケカンバ林はネコシデ-ダケカンバ群集,ハイマツ-ダケカンバ群落,ミヤマハンノキ-ダケカンバ群落,タカネノガリヤス-ダケカンバ群集の4 つに区分された.

    3. 気候的極相とされる針葉樹林は尾根型斜面に成立しており,稜線直下では針葉樹林の発達は悪かった.ダケカンバ林を含む広葉樹林は凹型斜面,急傾斜地,稜線直下,沢沿いに見られた.

    4. ミヤマハンノキ-ダケカンバ群落のダケカンバの直径階分布は一山型を示し,その他の植生タイプでは逆J 字型を示した.ネコシデ-ダケカンバ群集,ハイマツ-ダケカンバ群落の風衝側では針葉樹の混交率が高かった.ダケカンバの根曲がりはミヤマハンノキ-ダケカンバ群落,タカネノガリヤス-ダケカンバ群集,ハイマツ-ダケカンバ群落,ネコシデ-ダケカンバ群集の順に大きかった.針葉樹の損傷はミヤマハンノキ-ダケカンバ群落とハイマツ-ダケカンバ群落で確認された.

    5. 北岳に成立しているダケカンバ林は,地表攪乱に伴い成立した林分(ミヤマハンノキ-ダケカンバ群落)と,積雪や乾燥などのストレスがかかる立地に成立した林分(タカネノガリヤス-ダケカンバ群集とハイマツ-ダケカンバ群落),台風などによる小規模ギャップに成立した遷移途中相の林分(ネコシデ-ダケカンバ群集)であると考えられた.

    6. 本州中部山岳の亜高山帯のように,より低標高域の植生帯に比べて相対的に種の多様性が低い条件下では,ダケカンバのような様々な環境に適応しうる種特性を持った種が様々な立地に優占林を形成することが示唆された.

  • 渡邉祐喜 , 島野 光司
    2014 年 31 巻 2 号 p. 143-163
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

    1. 本研究は,長野県安曇野市光城山と長峰山で,草原,アカマツ植林,夏緑二次林で植生型や人為的な管理の違いがチョウやガの出現種にどのような影響を与えるかを調べ,チョウ・ガにとっての好ましい環境を明らかにすることを試みた.

    2. 調査の結果,チョウ・ガの個体数と種数は,地表面が明るく,開花している植物の多い調査区で多かった.

    3. こうした調査区は,低木を含む下草刈りや,間伐,除伐といった樹木の伐採が高い頻度で行われているところであった.

    4. アカマツ植林や夏緑二次林といった森林の違いによって開花植物種数や被度は大きく変化しなかったのに対し,草原では開花植物種数や被度が高くなっていた.

    5. 各調査区に出現していた植物種とその植物種を食草とするチョウの成虫が必ずしも同じ調査区で見られるとは限らなかった.このことは,成虫のチョウは幼虫時に食草として利用していた植物種の周りばかりで生活をするのではなく,成虫期には吸蜜できる開花植物を求めて移動していることを示唆した.

  • 石田 弘明
    2014 年 31 巻 2 号 p. 165-178
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

    1. ニホンジカ(以下,シカ)の生息密度が高い兵庫県朝来市では,中国原産の落葉高木であるニワウルシが夏緑二次林とスギ人工林の伐採跡地に逸出し優占群落を形成している.本研究では,このようなニワウルシ群落の種組成,構造,主な成因を明らかにすると共に,ニワウルシ群落の今後の動態を予測することを目的とした.

    2. ニワウルシは伐採跡地に数多く逸出し,夏緑二次林伐採跡地とスギ人工林伐採跡地のそれぞれで1000 m2 以上の優占群落を形成していたが,その隣接地に分布する夏緑二次林とスギ人工林の林内では樹高1.5 m 以上のニワウルシはまったくみられなかった.

    3. ニワウルシ群落には在来の先駆性木本種や夏緑二次林の主要構成種がわずかしか生育していなかった.この主な要因はシカによるこれらの種の採食であると考えられた.一方,ニワウルシについてはシカの採食はまったく認められなかった.このことは,ニワウルシがシカの不嗜好性植物であることを示している.

    4. ニワウルシ群落の主な成因は,1)夏緑二次林とスギ人工林の皆伐によってまとまった面積の陽地が形成されたこと,2)ニワウルシの競合種の定着と成長がニホンジカの採食によって阻害されたことであると考えられた.

    5. ニワウルシ群落の上層(高さ1.5 m 以上)を構成するニワウルシのサイズ構造は一山型であった.また,年輪解析の対象としたニワウルシ(胸高直径1.6-15.0 cm)はいずれも2002-2005 年に侵入したものであり,夏緑二次林の伐採跡地に分布するニワウルシ群落では2006-2013 年に侵入したニワウルシの上層への加入がほとんど起こっていないことが示唆された.これらのことから,種子由来のニワウルシがニワウルシ群落の内部で持続的に成長・更新することは不可能であると考えられた.

    6. 夏緑二次林の伐採跡地に分布するニワウルシ群落の内部には幼個体が数多く生育していた.これらの幼個体の発生由来を調査した結果,その大半は根萌芽由来であることが示唆された.このようなニワウルシのラメットバンクはニワウルシ群落の更新にある程度寄与しうると考えられた.

    7. 調査地でみられたニワウルシの最大樹高は15.0m であったが,樹高成長の頭打ちは認められなかった.ニワウルシの最大樹高は20-30 m と報告されているので,調査地に生育するニワウルシの林冠木は今後も樹高成長を続け,いずれは林冠高が20-30 m に達するような高木林を形成する可能性が高いと考えられた.

  • 蛭間 啓, 福嶋 司
    2014 年 31 巻 2 号 p. 179-192
    発行日: 2014年
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

    In cool temperate forest zones in eastern Japan, certain forb species like Cimicifuga simplex in light-snow regions grow on slopes of beech forests, while in heavy-snow regions its habitat is rather limited to valleys adjacent to beech forests. This research study reveals reasons for this difference in forb species habitats. As key factors, the study focuses on differences in the lighting environment during the leafing season as well as the state of tree leaf litter sedimentation on the forest floors in both light-snow and heavy-snow environments. Regardless of the amount of snow, the volume of tree leaf litter sedimentation on the forest floor was large on slopes of beech forest and small in valleys. In heavy-snow beech forests, the number of layers of litter sedimentation as well as the density of litter compaction within a certain thickness of sedimentation were larger compared to light-snow regions. In terms of the lighting environment during the summer season, no difference was observed on slopes of beech forest between light-snow and heavy-snow environments. However, over the spring season in light-snow regions, the lighting environment of the forest floors was good during the leafing seasons, because foliation begins with the herbaceous layer and leaf expansion of canopy trees comes later. On the other hand, in heavy-snow regions, the lighting environment of the herbaceous layer was poor during the leafing season, since foliation starts from canopy trees as snow covering the floor remains longer. In valleys, foliation of herbaceous layer preceded that of shrubs even in heavy-snow regions. This phenomenon was attributed to the fact that lingering snow in the valley floor covers the shrubs alongside the valley, which in turn delays foliation of the shrubs. Two factors are considered reasons restraining the growth of forb species in beech forests in heavy-snow regions: 1) the large number of layers and the high density of litter sedimentation at the forest floor constrict the establishment and germination of forb species, and 2) the poor lighting environment from spring to early summer (which are supposed to be productive seasons) is due to lingering snow that makes the crown canopy of beech forests foliate before forb species. However, the study found that forb species are able to grow in valleys in heavy-snow regions, because the volume of litter sedimentation is small and herbaceous layer begins and completes foliation before shrubs do.

総説
  • 松村 俊和, 内田 圭, 澤田 佳宏
    2014 年 31 巻 2 号 p. 193-218
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/07/03
    ジャーナル フリー
    1. 世界的に生物の生息空間として重要な農地の辺縁部は,土地利用の変化によって急速に生物多様性が減少しつつある.日本の水田畦畔に成立する半自然草原は草原生植物を多く含むが,圃場整備や耕作放棄によって植生は大きく変化しつつある.
    2. 本論文は日本の水田畦畔植生に関する知見を生物多様性保全の観点から整理し,生物多様性に影響を与える要因とその保全策および研究の方向性を示すことを目的とする.
    3. 1990 年以前,畦畔草原は植生の研究対象としては注目されなかったが,1990 年代に非整備地の畦畔草原の重要性や,圃場整備および耕作放棄の影響が報告された.2000 年以降は保全方法の提案,裾刈り地の種多様性,同一地域内での比較,埋土種子の調査など多様かつ数多くの研究が行われている.
    4. 伝統的な景観を維持する棚田やその畦畔は,生物多様性の保全機能,生態的防除機能,環境保全機能を有し,また文化的価値や景観的価値が高い.
    5. 水田畦畔での種多様性の維持に関する仮説は,時間的・空間的に大規模な要因から小規模な要因まであり,長期的な歴史など大規模な要因はほとんど検討されていない.
    6. 畦畔草原は歴史的に関連の深い周辺の草原から強く影響を受けてきたと考えられ,その植物相の成立の検証には,歴史学の史料,水田景観,花粉,プラントオパール,微粒炭,遺跡の植物遺体などが参考になる.また,全国的な植生調査および生物地理学や集団遺伝学的な手法によって畦畔草原の種組成の成立機構を明らかにできる可能性がある.
    7. 畦畔には多様な環境条件や管理方法があるが,これらと植生との対応は未解明な部分が多い.管理との関連では,草刈り頻度や時期についての研究が多くあるものの,草刈り高さなどの草刈り方法と植生との対応はあまり研究されていない.
    8. 耕作放棄によって水田の面積は減少し,畦畔草原における種多様性の減少と種組成の変化が急速に起こっている.放棄対策には希少種を多く含む場所(ホットスポット)の抽出,草刈り機械や方法の効率化,外部支援,放牧などがある.
    9. 圃場整備によって,畦畔草原では種多様性の低下や外来種の増加など,植生は大きく変化する.この対策として圃場整備の工事段階では表土の再利用,種子供給源の配置,農業土木的方法の改善が,圃場整備後の段階では播種,刈り草の撒き出し,外来種の除去,保全の場としての整備地の活用などがある.
    10. 調査・解析方法の課題として,種多様性の比較方法や草原生植物のリストの作成がある.
    11. 畦畔草原は現状把握や保全が急務であるため,具体的な調査手法や保全手法の確立に向けた提案を示した.さらに,畦畔草原を含む半自然草原全体の保全の必要性を指摘した.
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