植生学会誌
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34 巻 , 2 号
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原著論文
  • 鐵 慎太朗, 吉川 正人, 鮎川 恵理
    2017 年 34 巻 2 号 p. 65-85
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/16
    ジャーナル フリー

    1. 青森県八戸市から岩手県久慈市にかけての三陸海岸北部で,岩礁海岸に形成された25ヶ所の小規模湿地について,水質を含む立地環境,湿地に生育する植物種と植物群落の調査を行った.

    2. 海岸の小規模湿地には立地環境が異なる複数のタイプが存在し,その地形的・水文的特徴から,干潟型,停滞水域型,後背湿地型,斜面型,流水辺型の5タイプと,それらの複合型に分類できた.

    3. 小規模湿地は主に陸上から供給される淡水によって涵養されていたが,水源が表流水か湧水か,あるいは海水の混入があるかどうかで,pH,EC の値や,夏季の水温の変化が異なっていた.干潟型や停滞水域型では相対的に海水の影響が大きく,流水辺型では低温で貧栄養な湧水の影響が大きかった.

    4. 調査した小規模湿地では,蘚苔類を含め282種の植物と11の植物群落が記録され,海岸植生の構成種以外にも多くの植物種の生育場所となっていることがわかった.

    5. 地形的・水文的特徴から分類した湿地タイプには,それぞれ特徴的な植物種と植物群落が出現した.干潟型は塩沼地の植物,停滞水域型は汽水域の沈水植物や抽水植物,斜面型は二次草原や低層湿原の植物,流水辺型は岩上着生植物や貧栄養湿地の植物の生育場所となっていた.

    6. 岩礁海岸の小規模湿地は,海岸にありながら淡水の供給をはじめとした陸域の作用も強く受けて成立した立地であり,海岸植生の構成種とは異なる多様な植物に生育環境を提供していたことから,海岸エコトーンを特徴づける重要な生育環境であると結論づけた.

  • 黒田 有寿茂, 藤原 道郎, 澤田 佳宏, 服部 保
    2017 年 34 巻 2 号 p. 87-102
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/16
    ジャーナル フリー

    1. 海浜植物ウンランが絶滅危惧の状況にある地域の一つの瀬戸内海沿岸を調査地とし,本種の保全・再生の可能性を評価することを目的に,ベルトトランセクト調査,植栽試験,種子発芽試験を行った. これらの結果からウンランの生育立地特性や種子発芽の季節性について考察すると共に,瀬戸内海沿岸におけるウンランの保全・再生に向けた具体的方法について検討した.

    2. 兵庫県淡路島と愛媛県におけるベルトトランセクト調査の結果,ウンランはハマゴウの優占する矮低木帯に出現し,打ち上げ帯や矮低木帯より内陸側ではみられなかった.このような汀線-内陸傾度におけるウンランの出現位置は本種の地下部器官の構造や地上部器官の生育型に関連していると考えられた.また,現存するウンラン個体群の分布はいずれも点状で,高潮などの自然攪乱により立地ごと消失するリスクが高い状況にあった.

    3. 植栽試験において,秋季植栽では立地の違いに関わらず植栽したウンラン個体の大部分が翌年に地上茎を再生した一方,夏季植栽と春季植栽で地上茎を再生した個体は少なかった.このことから植栽の適期は秋季から冬季と考えられた.一方,秋季植栽でも翌々年以降は地上茎を再生した個体は認められなかった.持続的な個体群再生に向け,植栽個体の選定や植栽方法を改善していく必要があると考えられた.

    4. ウンラン種子は前処理なしの発芽試験ではほとんど発芽しなかった. 一方,冷湿処理後の発芽試験では複数の温度条件下で20%以上の最終発芽率を示し,うち25°C/10°C変温では80%以上に達した.これらの結果から,ウンラン種子は秋季に散布された直後は休眠状態にあり,冬季の低温湿潤によって休眠解除されること,非休眠種子は春季の温度上昇と変動に応じて発芽し,それまでは土壌中に季節的なシードバンクとして存在することが示唆された.

    5. 上記の種子発芽の季節性から,植栽に必要なウンランの実生苗は種子を秋季から冬季に播種し,低温湿潤を経験させることで翌春に得ることができると考えられた.また,光条件を変えた発芽試験の明暗交代条件と暗条件で最終発芽率に有意差が認められなかったことから,播種後の多少の覆土は発芽に支障を及ぼさないと考えられた.

    6. 保存期間 (採取年) を変えた発芽試験の結果,遮光アルミパックへの抜気封入処理と低温保管により,ウンランの種子は少なくとも8年間は発芽能力を保持することが確認され,種子保存は域外保全の一つの方法として有効であることが示された.

    7. 瀬戸内海沿岸におけるウンランの保全に向けては,現存個体群の保護,植栽による個体群再生の試みと並行して,栽培施設での育成や種子保存といった域外保全を補完的に進めていくことが重要と考えられた.

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