植生学会誌
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34 巻 , 1 号
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原著論文
  • 清水 理恵, 島野 光司
    2017 年 34 巻 1 号 p. 1-21
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

    トキの再野生化を目指す佐渡ヶ島では,トキの餌となる水生動物に影響が少ないように,農薬の成分回数(Σ各農薬成分×使用回数)を通常の50%以下にする特別栽培水田の稲作が推奨されてきた.こうしたことが水田に生育するイネ以外の植物にどのような影響を与えるかを調査した.調査は農薬を使用している慣行水田,特別栽培水田,農薬が使われていない放棄水田,さらに一部の畦で行い,ブラン-ブランケの手法で出現種とその被度・群度を記録し,それぞれの立地の特徴をみた.また,種の多様さの尺度として種の豊富さ(種数)とシャノンのH’を算出し,立地間で比べた.水田と畦を比べると,水田よりも畦のほうが種の豊富さ,多様性が高かった.また,放棄水田と慣行水田を比較すると,放棄水田の種の豊富さや多様性が慣行栽培水田より2倍から4倍高かった. また,特別栽培水田も,慣行栽培水田に比べ,種数や多様性が2倍から3倍高いものがあった.特別栽培水田は大佐渡山地と小佐渡山地の麓にあり,土壌は砂壌土であり,沖積平野にある慣行栽培水田の埴壌土に比べ水が抜けやすく,除草剤などの農薬も同時に抜けやすい.こうしたことが特別栽培水田で農薬の効果を低めた可能性がある.特別栽培水田では,放棄水田に次いで水生植物や湿地生植物の種数が多く,慣行水田の2倍から6倍程度で,被度も高かった.これは,中山間地の特別栽培水田では水路の多くがコンクリートのU字溝でなく,表面に植生を持つ土側溝で,水生植物や湿地生植物が多かったことに貢献している可能性が考えられた.こうしたことから,放棄水田や特別栽培水田がそうした植物種の生育の場としての役割を持っていることが考えられた.

  • 黒田 有寿茂, 鐵 慎太朗
    2017 年 34 巻 1 号 p. 23-37
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

    山陰地方東部の砂質海岸において,海浜植物群落の種組成と種多様性,海浜植生の群落組成と群落多様性,汀線-内陸傾度における群落配列と絶滅危惧海浜植物の出現位置を明らかにするためにベルトトランセクト調査を行った.計7ヶ所の砂質海岸を調査地として選定し,得られた計287の植生調査資料を主としてTWINSPANとDCAにより解析した.解析の結果,調査地の海浜植生は汀線から内陸側に向かってコウボウムギ群落,ハマゴウ群落,ハイネズ群落と移行する群落配列をもつことが示された.海浜植物の種多様性はハマゴウ群落で最も高かったが,内陸側の群落で明瞭に高かった内陸植物のそれと比較して群落間における差は顕著でなかった.絶滅危惧海浜植物の出現位置は種により異なり,スナビキソウはコウボウムギ群落,ハマウツボ,イソスミレはハマゴウ群落,トウテイラン,ナミキソウはハイネズ群落に偏って出現した.また,群落多様性は砂浜・砂丘の奥行および砂丘の高さと正の相関をもち,規模の大きい砂丘をもつ砂質海岸ほど高い傾向にあった.一方,群落組成も主として砂丘の高さに応じて異なり,全ての群落を保持する砂質海岸は少なかった.これらの結果から,山陰地方東部においてその海浜植物フロラを保全していくためには,砂浜・砂丘の開発を避け,個々の砂質海岸における群落多様性を維持すると共に,異なる群落組成をもつ砂質海岸をエリア全体で保護していくことが重要と考えられた.

  • 若松 伸彦, 石田 祐子, 深町 篤子, 比嘉 基紀, 吉田 圭一郎, 菊池 多賀夫
    2017 年 34 巻 1 号 p. 39-53
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

    1. 仙台平野の西縁に位置する青葉山丘陵の鈎取山国有林内で,発達したモミ-イヌブナ林の50年間の遷移を実証的に明らかにし,維持機構を考察した.

    2. 50年間で,調査区(20 m×150 m; 樹高2 m以上の個体をセンサス)の構成樹種の種構成に大きな変化は見られなかった.しかし,モミなどの常緑針葉樹種の個体数は増加していたが,イヌブナなどの林冠を構成する主要な落葉広葉樹9種は新規加入率が死亡率を下回っており個体数は減少していた.また,森林全体のBAは増加した.

    3. 調査区全体の樹木の直径階分布は,調査を行った3時期全てにおいて5 cm以下のクラスにピークを持つ逆J字型分布を示した.ただし,樹種毎に分布型は異なっており,モミは全時期において逆J字型の分布を示したのに対し,林冠を構成する主要な落葉広葉樹9種の直径階分布は,1961年の逆J字型分布から,2011年にはやや大きなサイズクラスにピークをもつ一山型へと変化した.

    4. モミは調査区全体に分布し,L関数の結果からすべての調査時期で明瞭な集中型分布を示した.主要な落葉広葉樹6種は,1961年に集中型分布を示していたが,徐々にランダム型分布へと変化した.

    5. 中間温帯林の下限付近に位置する鈎取山国有林のモミ-イヌブナ林では,モミは断続的に加入し,小規模な林冠ギャップに対応して更新してきたのに対し,落葉広葉樹種は過去の大規模攪乱により一斉更新したと推測される.このように森林を構成する各樹種がそれぞれ異なる更新過程を持っており,時間の経過とともに林分構造は変化しつつあるものの,構成樹種の種組成を長期間維持してきたと考えられた.

短報
  • 下田 路子
    2017 年 34 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー

    1. 湿生植物のサワトラノオは稀少種として知られ絶滅危惧種に選定されているが,生育地の植生や生育環境に関する情報は乏しいため,生育地の植生を調査するとともに,過去の調査結果と比較して植生変動の要因を検討した.

    2. 静岡県富士市の浮島ヶ原自然公園は放棄湿田を整備したもので,植生管理として冬季に湿地の草刈りを実施している.わが国で唯一の一般公開されているサワトラノオの自生地である当公園で,本種の生育地の植生調査を2014年5月から2016年5月にかけて実施し,調査結果を既存資料の約20年前の植生と比較した.

    3. 5月のサワトラノオの生育地ではヨシとスゲ類が繁茂した.カサスゲ群集,オニナルコスゲ群落,チゴザサ-アゼスゲ群集が認められ,チゴザサ-アゼスゲ群集が生育地の主要な群落であった.10-11月にはヨシの草高が伸び下層にスゲ類やタデ類などが繁茂する2層群落になり,サワトラノオの地上茎は枯死して新ロゼットがわずかながら確認された.

    4. 本研究の調査結果を1993-1994年の調査結果と比較すると,いずれの調査でもチゴザサ-アゼスゲ群集がサワトラノオの生育地の主要な群落であった.6地点において,サワトラノオが生育しない抽水植物群落がサワトラノオの生育するスゲ群落に変化していた.また既存資料でチゴザサ-アゼスゲ群集サワトラノオファシスとされた範囲において,植生変化とサワトラノオの消滅を確認した.

    5. スゲ群落の拡大と草刈りの継続によりサワトラノオの生育可能な範囲が拡大したと考えられる.チゴザサ-アゼスゲ群集サワトラノオファシスの範囲でサワトラノオが消滅したのは,野鳥の保全対策として刈り取りを停止したことが主因の可能性が高い.

    6. 開発による自生地の消失は各地でのサワトラノオの減少や消滅の主要な原因であったと思われるが,湿地の植物の利用と草刈りが廃れたために本種の生育地が消滅した事例もあったと推測される.

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