植生学会誌
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35 巻, 2 号
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原著論文
  • 後藤 智史, 島野 光司
    2018 年 35 巻 2 号 p. 49-65
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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     信濃川水系,梓川,信濃川におけるニセアカシア(ハリエンジュ,Robinia pseudoacacia)の侵入が河畔植生に与える影響について調べた.種組成を見ると,ニセアカシア高木林は他の群落で見られない山地のアカマツ林に生育する木本などが見られ,クラスター分析では他の河畔植生とは異なる一つのグループを形成した.群落をNMDSで序列化しラウンケアの生活型との対応を見ると,一年草は草本群落方向にベクトルが伸び,これはニセアカシア林とは反対の方向だった.一方でN,Mなどの木本のベクトルは,ニセアカシア林に向かっていた.また湿生植物は,ニセアカシアのないヤナギ群落方向にベクトルが向いていた.環境要因ベクトルとの対応では,ヤナギ高木林は礫が小さい方向にあるのに対し,ニセアカシア高木林は礫の大小の影響を受けない方向に位置していた.これには,ニセアカシアが礫地でも根粒菌が共生することで窒素分を吸収できたり,根萌芽で栄養繁殖できることなどが理由として考えられた.階層構造を見ると,ヤナギ高木林の林冠下にはニセアカシアの低木や稚樹が見られた一方,ニセアカシア高木林の林冠下にはヤナギ類は見られなかった.ラウンケアの生活型を用いた遷移度指数のベクトルも,NMDS上でニセアカシア高木林方向に向かっており,ニセアカシアの侵入した渓畔林はニセアカシア高木林へ遷移していくことが考えられ,従来の河畔林とは異なる植生になっていくことが考えられた.

  • 阿部 聖哉
    2018 年 35 巻 2 号 p. 67-88
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    1. 多数のレッドリスト掲載種を対象に生育可能な植生区分を効率的に把握するため,第6-7回自然環境保全基礎調査の植生調査データを用いて,情報が公開されている準絶滅危惧種を対象とする植物社会学的な群落区分にもとづく生育環境の類型化を行い,群落体系の上級単位や文献のキーワードから抽出した生育環境特性との対応関係を検討した.

    2. 出現地点数が5点以上の準絶滅危惧種69種を対象に,それらの出現する植生調査資料1129点を解析し,129の群落を区分して種組成より群落体系上の位置づけを推定した.

    3. 129の群落はさらに準絶滅危惧種69種の出現状況をもとに,サブグループを含む31の生育環境区分にまとめた.これらの区分は,群団・オーダーレベルの群落単位との対応が認められ,キーワードから抽出した生育環境特性ともある程度の関連性が認められた.

    4. 本研究における69種の分析結果からは,森林性の種の生育環境は植生の相観的な特徴ではなく気候帯の違いを反映した群落単位で整理することができた.また,草原や海岸,湿地性の種の生育環境と同じ立地に生育するクラスを超えた複数の群落単位をまとめて整理することができる可能性が示唆された.

    5. 本研究により,既存の植生調査データを補完的に活用することで,図鑑の記載情報よりも詳細な生育環境区分に関する情報が得られることが示唆された.このような詳細な生育環境の情報を事前に整理することによって,環境アセスメントにおいて膨大な既存資料を活用して行う計画段階での影響評価や現地調査の計画立案を,効率的に実施することが期待される.

  • 小泉 武栄, 竹内 真冴也
    2018 年 35 巻 2 号 p. 89-107
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    1. 八ヶ岳の硫黄岳と横岳の鞍部を中心とする一帯には,コマクサが広範囲に生育している.その理由を探るために,コマクサ分布図を作成し,コマクサの生育する砂礫地に6つの測線と1調査地点を設置し,砂礫地の成因を火山地質学的な視点から検討した.

    2. 砂礫地は主に赤や黒,黄のスコリアでできており,そこにコマクサが生育している.スコリアの粒径が小さいほど,コマクサは多く,粒径が大きい場所ではコマクサは生育しない.ごく一部に安山岩の溶岩が砕けてできた砂礫地があり,そこではコマクサは生育するが,数は少ない.スコリアは新鮮なものと,古いものに分けられ,前者は台座の頭のように新期の小噴火でもたらされたものである.しかし古いスコリアは,成層火山の時代の古い噴出物が,上に載っていた溶岩などの層が浸食によって取り去られたために,地表に露出したものである.

    3. 硫黄岳-横岳稜線には10数万年前のスコリアが固まった,80 m もの厚さをもつ凝灰角礫岩や凝灰岩の層が広く露出しており,それが冬季の厳しい気候条件の下で風化し,分解してスコリアの粒子になり,コマクサの生育に適した砂礫地をつくり出した.これがこの地域の広大なコマクサの分布を支える最大の条件である.ただし凝灰角礫岩や凝灰岩の層が厚い場合は,斜面の途中で崖を形成し,そこは無植生になっている.

    4. 凝灰角礫岩や凝灰岩が崩れてできた崖錐には,コマクサ以外の植物も多数生育している.これは崖錐堆積物中に安山岩の礫が含まれ,表層物質の動きを抑制しているためであると考える.その影響を受けてコマクサの株数は少なくなっている.

    5. 稜線部や斜面上に溶岩層がある場合は,崖や岩塊地を作りやすい.しかし溶岩層が薄い場合は,凍結破砕作用によって破壊され,礫からなる立地をつくりだしている.そこに密度は低いが,コマクサが生育している.

短報
  • 藤村 善安, 仲宗根 忠樹, 徳江 義宏, 城野 裕介
    2018 年 35 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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    1. 近年の調査報告が少ない沖縄県与那国島の湿地植生を記載するとともに,過去の記録と比較して,どのような変化が生じたかを明らかにした.

    2. 調査の結果,過去に記録された7群落に加え,新たに5群落を記録した.これら新たに認められた群落の多くは,かつて水田であったが,現在牧場となっている場所,あるいは放棄水田に成立している群落が主であった.

    3. 外来種について,過去の記録にないものとしてパラグラスとホウキギクを認めた.また,キシュウスズメノヒエとツルノゲイトウは以前から記録のある種であるが,以前よりも増加している可能性が考えられた.

    4. 1976年と2014年の土地利用を比較すると,水田面積が68%減少し,かつて水田であった場所の一部に湿地植生が成立していた.このような二次的な湿地が島内の湿地面積に占める割合は大きく,これら二次的な湿地は湿地性の外来種の生育地となるとともに,湿地性の絶滅危惧種にとっての貴重な生育地にもなっていると考えられる.

  • 黒田 有寿茂, 藤原 道郎, 澤田 佳宏, 服部 保
    2018 年 35 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    1. 絶滅危惧の状況にある海浜植物の海流散布能力を把握していくことは,その生物地理・系統地理についての理解だけでなく,保全上の留意点の把握に向けても重要と考えられる.本研究では,関東南部以西の太平洋沿岸や瀬戸内海沿岸で減少・絶滅が進行している海浜植物ウンランの海流散布の可能性を評価するために,NaCl水溶液を用いて種子の浮遊能力と接触後の発芽・出芽能力を調べた.

    2. 浮遊能力試験では90%以上の種子が1ヶ月以上NaCl水溶液に浮かび続けた.また,室内発芽試験においてNaCl水溶液へ30日間接触させた種子の最終発芽率は接触0日間のそれと比較して低かったものの40%以上を示したほか,野外での播種試験では60日間接触させた種子の最終出芽率と接触0日間のそれとで差は認められなかった.これらの結果から,ウンラン種子は海水への浮遊能力と海水接触後の発芽・出芽能力を備えており,本種は長期間の海流散布が可能な種と考えられた.

    3. 対馬海流と黒潮の流れを考慮すると,ウンランが連続的に分布している日本海沿岸や北海道・東北地方の太平洋沿岸,またさらに北方域から,絶滅危惧の状況にある関東南部以西の太平洋沿岸や瀬戸内海沿岸へ種子が漂着する可能性はほとんどないと考えられる.これに対し,近畿地方の太平洋沿岸から中部・関東地方の太平洋沿岸へ,また瀬戸内海沿岸の海岸間で種子が漂着する可能性はより高いと考えられる.このことから,ウンランが絶滅危惧の状況にある関東南部以西の太平洋沿岸や瀬戸内海沿岸で本種の保全・再生を図っていくためには,種子供給源となりうる既存の個体群をそれぞれの地域で維持していくことが重要といえる.

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